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歪んでいく蔵嗚


 廃倉庫に復讐対象である花宮と真瀬を拘束した蔵嗚であったがまだ彼女たちに制裁は加えない。何故なら彼の目的はクラスメイト全員の復讐であり、それを達成するためには最短日時でケリをつけなければならない。余りモタモタすれば警察など面倒な相手が出張って復讐の機会を没収されかねない。

 だから彼は他にも標的をおびき寄せて今回は2人以上の人間を始末するつまりだ。


 「さて…それじゃあ呼び出しますか」


 蔵嗚の手に握られているのはスマホ。だがこのスマホは彼の物ではなく倉庫で捕えている真瀬の物だ。


 別に下調べをしている訳ではないが真瀬は同じクラスの男子、五十里成田(いがりせいた)と交際関係にある事は掴んでいる。この事実は彼だけでなくクラスの全員も既に知っている。

 あの五十里にも蔵嗚はかなりの憎しみを募らせている。


 思い返すのはクラス内で幾度もぶつけられた嘲笑の言葉。


 ――『好きな相手にストーカーや脅迫、お前は男どころか人間として終わっているな』


 謂れのない中傷で傷ついている自分にヤツは何度も追い打ちを掛けて来た。そして聞いてもいない恋人自慢や自分が彼氏としていかに正しいかを話して来た。

 

 ――『俺は自分の彼女である真瀬にお前の様な下衆な事は死んでもしない。お前は一度死んで生まれ変わったら来世では女性に紳士に向き合う事を学習しな』


 「はん…何が女性に紳士に向き合うだ……」


 あの時のヤツの吐いた言葉を一言一句思い出しながら蔵嗚は笑い捨てる。

 あんな臭いセリフを真剣な顔で口にした事も確かに笑えるが、それ以上に蔵嗚にはこの男に対して知っている秘密があった。


 「楽しみだぜ五十里。お前の言う恋人には紳士にと言う定義が嘘偽りであると真瀬に知られた時の事が。そして、真実を知った真瀬がどんな顔をするのかもな……」


 そして蔵嗚はスマホの中に登録されている五十里の番号へと連絡を入れるのだった。




 ◆◆◆




 もう静寂の包む夜の道を五十里は全力で駆けていた。

 先程に彼のスマホに恋人から連絡があったのだ。発信源が真瀬であったことから特に疑念も抱かず電話に出た。しかしその電話口に居たのはあの蔵嗚だったのだ。

 どうして恋人のスマホからお前が電話を掛けていると訊いた彼であったが、その答えを聞いて一気に青ざめた。


 ――『お前の大事な大事な恋人を預かっている。今から指定された場所にお前が来なきゃ真瀬は可哀そうな目に遭うだろうなぁ。もちろん誰にも言わず独りで来いよ』


 そうやって言いたいことだけを言うと蔵嗚からの連絡は途絶える。その後に何度掛け直して再び蔵嗚が電話に出る事は無かった。


 もちろん彼は恋人を見捨てるつもりなど無く言われた通りに指定された場所を目指し全力で走っていた。


 「はあ…はあ…確かこの辺りだったはずだ……」


 指定されていた工場地帯へとたどり着いた彼は息を整えて蔵嗚を捜そうと周囲を見渡す。中々に大きな場所なので見つけるのは難儀かと思ったがその不安は杞憂に終わる。


 彼が視線を向ける先では工場の照明の光に照らされてゆっくりとこちらに向かって歩いて来る蔵嗚が居た。しかも彼の手には鉄パイプが握られており五十里の顔が険しさを増す。


 「思ったよりも早く来たな。よっぽど真瀬の事が大事だと見える」


 「お前…自分が何をしているのか理解しているのか? 今すぐに真瀬を解放すれば許してやる」


 彼のやっている事は立派な誘拐であり、このことが明るみに出ればタダでは済まない。そう言う意味を込めて恋人さえ無事に返せばこの件は口に出さないでやると伝える。すると蔵嗚はゲラゲラと今まで聞いた事もない醜悪な笑い声を周囲に響かせる。

 あまりにもいつもとはかけ離れている彼の雰囲気に圧倒されて唾を呑み緊張から体が硬直仕掛ける。


 ひとしきり笑い終わった後に彼は手に持っている鉄パイプを五十里の近くまで投げ捨てながら口を開く。


 「そんなに恋人を解放して欲しいなら力づくで助け出せよナイト様。ほら、その鉄パイプはお前の為にわざわざ用意してやったんだぜ」


 「ぐ……ふざけるなぁ!!」


 完全に馬鹿にされている態度に怒りが頂点を超えた彼は足元近くに放られた鉄パイプを拾うとそのまま蔵嗚へと一気に向かって行く。

 目の前の男がどれだけの怪我を負おうが関係ない。その気構えで彼は脳天目掛けて鉄パイプを振り下ろす。

 全力で打ち込んで来たこの凶器がもしも脳天に直撃すれば間違いなく大怪我だろう。


 だが蔵嗚はその攻撃を敢えて避けずに腕でガードして見せたのだ。


 「うぉ、さすがに少し痺れるな」


 「な、なにィ!?」


 普通の人間ならば鉄パイプなんで鈍器を腕で受け止めるなんてしないだろう。下手をすれば骨が折れたりヒビが入る可能性だって十分ある。しかし目の前の男は渾身の力で打ち込んだ鉄パイプを腕で受け止めてなお余裕な顔をしているのだ。

 

 やっぱり今の俺は完全に常人の壁を変えてしまっている。こんな重量ある物を腕で受けても多少痛い程度で済んでいるんだからな。


 自分が改めて心だけでなく体も怪物と化している事を実感していると2撃目の攻撃が繰り出される。

 今度は横薙ぎに鉄パイプを振るって来たが今度はそれを後ろに跳んで回避する。自分の耐久力がもう分かった以上はこれ以上は目の前のバカの攻撃を素直に当たってやる筋合いもない。

 

 「くそッ、いいから真瀬を返せ!」


 そう言いながら加減無しでもう一度脳天を狙って鉄パイプを振り上げる五十里であるが、そんな大振りの攻撃など転生戦士である蔵嗚には止まって見える。


 「そら武器は没収だ」


 「うわ!?」


 彼が上段に振りかぶった瞬間を狙って五十里の手元を蹴って鉄パイプを捨てさせる。

 武器を失って同様している隙に右手を伸ばしそのまま五十里の左目を指で突き刺してやった。


 「うがああああああ!?」


 片方の眼球が潰され彼は左目を押さえながら絶叫を上げる。

 だがこの程度で蔵嗚の攻撃は止まらない。彼は悲鳴を上げてのたうち回る彼を放置すると先程蹴り飛ばした鉄パイプを拾い上げた。


 ガッチリと鉄パイプを握ると未だに転げまわる五十里の前まで歩いて行く。

 左目の痛みが絶大すぎて蔵嗚の方を見る余裕も無く、彼が片目の損失で喚いている隙に左の太もも目掛けて鉄パイプを〝突き刺した〟。


 先端が尖ってもいない鉄パイプが太ももを貫通すると彼はもう泣きじゃくるしか出来なかった。


 自分の足元で涙を流して痛みを訴える五十里を見て蔵嗚は――うっとりとした顔で酔い痴れていた。


 ああ…ああ…嗚呼これだぁ……。この感覚、今まで自分を苦しめていた相手をいたぶって思い知らせるこの快楽はもうやめられない。もっと目の前で泣いている男を徹底的に壊してやりたい。


 自らの中の残虐な欲求に従い今度は腕の方をへし折ろうかと思った蔵嗚であるが直前で我に返る。


 「おっと危ない危ない。ここで殺したらコイツを呼び出した意味がなくなる」

 

 心配しなくてもどうせ後から殺すのだ。それなら今この瞬間我慢する程度なら問題ない。

 未だに痛みを絶叫として口から垂れ流している五十里の頭部を蹴り込み意識を刈り取った。


 こうして今夜の復讐すべき役者は全て出揃ったのだった。




 ◆◆◆




 目的の人物を連れて廃倉庫に戻ると言いつけ通りに桃香は二人を見張っていた。どうやら二人はもう意識が戻っていたようで目の前で助けようとしてくれない桃香に戸惑っていた。


 「ねえお願いだからコレ外してよモモっち! 何で助けてくれないの!!」


 「ごめんね…」


 「いや謝るよりも先にさぁ!!」


 どれだけ助けを懇願しても一向に座ったまま何もしてくれようとはしない桃香に焦りながらも苛立っていく真瀬。そんな叫び続ける彼女とは対極で花宮は今の状況を冷静に分析しようと努めていた。


 いつの間にか一翔が居なくなっているが何処に行ったの? それに桃香も頑なに私たちを解放しようとしてくれない。私たちを拘束しているのは間違いなく一翔の指示だろうけど…。という事は桃香はあの屑に何か弱みでも握られているの?


 二人がそれぞれ推測を働かせたり騒いでいると倉庫に誰かが入って来た。


 「おーおー随分と騒がしいなぁ。おい真瀬、お前に土産だ」


 「ア、アンタやっと帰って来た…な……?」


 蔵嗚が戻って来た事ですぐに噛み付いて行く真瀬であったがその声は徐々に小さくすぼんでいく。

 何故なら彼女の視線の先では太ももから血を流している自分の恋人が担がれているのだから。


 「成田!! ねえしっかりして成田!!」


 「おおデケー声。そら、もっと近くから呼びかけてみろよ」


 そう言うと担いでいる五十里を真瀬の近くまでゴミの様に放り捨ててやった。

 自分の目の前で仰向けで倒れ込む彼を見て真瀬が小さく悲鳴を出す。何しろ彼の片目は完全に潰されているのだから。


 「うそ…いや、いやあぁァァァァァァァァァァ!?」


 「ひ、ひどい…」


 半ば錯乱状態になりながら彼女は縛られている体をよじり激しくもがいていた。今すぐにでも彼を病院に連れて行きたいがそれすらできない。体を起こして手当てする事も許されない彼女は涙だけでなく鼻水まで垂らしている。

 その隣では無残なクラスメイトの姿を見て花宮が固まっていた。しかしすぐに彼女は恐れを抱きつつも蔵嗚へと質問を投げかける。


 「……アンタがやったの?」


 「それ、わざわざ答える必要があるか?」


 この状況では誰が五十里をここまで痛めつけたかは明白だ。しかしもうこの怪我は高校生の喧嘩で済ませて良い範疇を超えている。完全な傷害事件としか言いようがない。

 そしてもう一つ、今からこの男は自分と真瀬をどうするつもりなのかと考えると不安がドンドンと大きくなる。


 「私たちを…ど、どうする気なの?」


 息が少しずつ荒くなっていく中でようやく絞り出したその質問に対して蔵嗚は歪んだ笑みと共にその答えを告げる。


 「決まってるだろ。お前たちは今日が命日、ここで死ぬんだよ」


 まるで子供に言い聞かせる様な穏やかな口調で彼は残酷な死刑宣告を告げるのだった。



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