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我が身の為に友を売る選択


 「ああ…少し我を忘れ過ぎていたな」


 そう言いながら蔵嗚は足元ですでに冷たくなって無残に転がっている新城を見下ろしながらそう呟く。その遺体は顔面の損傷が余りにも激しすぎる。顔のパーツは全て陥没していて判別もつかず、実の親でも彼の顔を見ても我が子かどうか疑うレベルだ。

 もうすでに人を殺しているからだろうか。同じクラスの人間を殺した事に対して罪悪感など一切湧いては来ない。いや、それどころか新城を殺したときの快感、あれは思わず病みつきになりそうだ。


 「はぁ…はぁ…また殺したい。人を手に掛ける事、この手で残虐に制裁を加える事がこんなにも愉しい事だったなんて…」


 今まで苦しめられてきたがゆえに大きな力を得て人を簡単に殺せる立場に立たされた彼はハッキリ言って完全に壊れていた。

 

 早く次の標的を殺してあの快感を味わいたい。この手で憎らしい連中の肉を叩き、骨をへし折り、血の香りを嗅ぎたい!!


 しばし恍惚な表情を浮かべながらそんな事を考えていた蔵嗚。

 ようやく熱が冷めて来ると足元で肉片を飛び散らせている汚い死体に手を触れて分解する。これでもう誰もこの新城健斗と言う人間を見つける事は出来ない。


 「とは言えゲダツに殺される訳でもないから人が消えた事実は隠せない。俺のクラスの人間が消えれば親はもちろんだが他の生徒、教師も異常事態だと判断する。挙句には警察なんかも首を突っ込んで来るだろうな…」


 そう考えるとあまり悠長にしている暇もないだろう。それにクラスで孤立している自分の立場を考えると疑いを掛けられる可能性が一番高いのは自分だろう。

 自分の目的はあくまで復讐を完遂する事だ。その後ならどうなろうと構わない。だが復讐を終える前に捕まるのだけは御免だ。


 「とにかく最速で復讐を完了させるべきだな。よし…今日は他にも何人か殺そう」


 とても人を殺そうとしている人間の態度ではない。まるで簡単な仕事をこなすかの様なテンションのまま彼はスマホで自分の傀儡と化している人物に連絡する。


 「もしもし…お前に仕事を頼みたいんだ桃香」


 『……ハイ』


 スマホ越しから聴こえて来る桃香の声は諦めの色が色濃く出ていた。

 ここで拒否すれば自分がどうなるかなど嫌と言う程に知っている彼女には従う他の選択肢がなかった。例え親や警察に駆け込んでも転生戦士の事なんて誰も信じない。生き残る為には彼の傀儡となり忠実に働くしか彼女にはないのだ。


 蔵嗚からの連絡内容は今すぐ自分と仲の良い友人を呼び出すようにと言うものであった。まだ学校が終了してからそこまで遅い時間帯ではない。お前が招集すれば何人かは来るだろうと言う目論見らしい。


 つまり…自分が呼び寄せる友人が殺されると言う事だ。


 その要求に対して桃香はしばし間を開けた後に『……はい』とだけ呟いた。




 ◆◆◆




 蔵嗚からの指示によって桃香はクラス内で仲の良い友人である二人の少女、花宮蕾(はなみやつぼみ)真瀬慧(まなせけい)へと連絡を入れた。

 二人は桃香の誘いに対して何の疑念も抱かずに招集に即答で頷いた。まさか親友と言っても差し支えない桃香が自分たちを死に誘っているとは露ほども思わないだろう。


 二人が呼び寄せられたのは最上が死に、そして桃香が殺人に手を染めたあの倉庫であった。最初は人目に付く場所に待ち合わせをしていた桃香と合流すると彼女が二人をこの場所まで誘導したのだ。それが蔵嗚からの命令だったから……。


 「ちょっと桃香、こんな場所でしたい話って何なの?」

 

 大事な話があると言われて呼ばれた花宮は首を傾げて彼女になぜこんな場所まで移動する必要があったのか尋ねる。

 この倉庫に来た時にはさすがにこんな場所に連れて来るなんて少しおかしいと思った花宮であるが、だが彼女が深刻そうな顔をしているなら力を貸したいと言う一心でここまで着いて来た。無論それは彼女の隣に居る真瀬だってそうだ。


 「こんな場所まで来るなんて、もしかしてヤバい話なのモモっち?」


 花宮とは違って少し軽い空気を漂わせながらあだ名を呼ぶ真瀬。


 そんな自分を心配してくれている二人の友人に対して桃香の胸が張り裂ける程に痛みを伴う。

 こんなにも純粋に心配してくれている二人を自分は我が身可愛さにこれから悪魔へと献上するのだ。


 気が付けば自分の所業の重さを今頃理解した桃香は涙を零していた。


 「ちょ、マジでどうしたのモモっち!」


 「桃香…そんなに申告な問題なの?」


 突然涙を零す友人の姿に二人は動揺と共に心配そうな眼差しを向ける。こんな人気の無い場所に呼び嗚咽を漏らすなんて普通ではない。

 とにかくまずは彼女を宥めて上げようと考えていた二人だが、そんな彼女たちの動きは背後から聞こえて来た一人の少年によって止められる。


 「どうやら言いつけ通りに出来ている様だな。感心感心」


 突如として聴こえて来たその声に二人が振り返るとそこには同じクラスメイトの蔵嗚が立っていた。不敵な笑みを顔面に貼りつけながらいつの間にか背後に現れていた彼に二人が驚く。

  

 「な、何でアンタがここに居るのよ?」

 

 「……」


 真瀬が指を差しながら蔵嗚の事を威嚇し、そして花宮は無言で睨みつける。

 一方でそんな敵意の籠っている二人の視線など意にも返さず蔵嗚は震えて泣いている桃香に声を掛ける。


 「何を泣いているんだよ桃香? そんなに今から起きる悲劇が悲しいのか?」


 蔵嗚のセリフに対して桃香は俯きながら肩を震わせるだけしか出来なかった。


 二人の会話の内容がいまいち理解は出来ないが、少なくともこの男が自分たちの親友を傷つけている事だけは理解できる。

 当然大切な友人を悲しませられて黙っている二人ではない。しかも二人の認識では蔵嗚は桃香に対してストーカー行為を働いて苦しめていると言う認識なのだ。


 怒りに満ちた瞳を向けながら花宮がズンズンと蔵嗚の目の前まで歩いて行く。


 「一体どれだけ桃香の事を苦しめれば気が済むの? どうせまたアンタがあの娘の事を何かしらの理由で苦しめているんでしょう? 一体彼女に何をしたの?」


 絶対零度の視線で目の前の友人を苦しませる憎き敵を射抜く。

 まるで刃物の様に研ぎ澄まされている目線を間近でぶつけられながらも彼は相変わらず余裕を保ったままであり、そして二人に真実を話し始める事にした。


 「お前もそこに居る真瀬も大きな勘違いをしているよ」


 「勘違い? ハッ、私たちが何を勘違いしているの是非とも教えて欲しいわね」


 腰に両手を当てながら小馬鹿にするかのような笑みを浮かべる花宮。


 「お前たちの勘違い…それは俺が桃香のストーカーだって言う点だ」


 「はあ? アンタがモモっちのストーカーだって事が勘違い? んなわけないじゃん」


 蔵嗚の口から出て来た言葉は到底二人には信じられるものではない。そりゃそうだろう。この二人にとっては黒井桃香と言う人間はとても真面目で友達想い。花宮も真瀬も困りごとがあれば相談にだって乗ってもらった。

 彼女たちが蔵嗚ではなく桃香の方を信頼するのも無理はないだろう。そうなるように桃香は常に仮面をつけて生きて来た。蔵嗚以外の前では善人の仮面をつけ続け周りを欺いて来た。現に交際してからも長い期間騙され続けた蔵嗚が正にいい例だ。


 まあ蔵嗚にとっては目の前の二人が自分を信じようが信じまいが別段どうでも良い。この二人に下すべき制裁はもう決まっているのだから。


 「ははは…黒井桃香は自分たちの親友だ…か…? ならそんな人物に我が身可愛さに売られたと知った時のお前たちの顔が楽しみだ」


 「何を訳の分からない事を……ぐあっ!?」


 何を言っているのかまるで理解できずに苛立ち気味に突っかかていた花宮であるが腹部に重い衝撃が走る。視線を下に向けてみると蔵嗚の拳が深々とめり込んでおり、そのまま意識が闇に沈む。


 「な、何やってんだよアンタは!」


 目の前で友人が殴られた事に怒りを表す真瀬であるが次の瞬間に後頭部に衝撃が走る。


 「え…何で……?」


 いきなり激痛と衝撃を頭部に加えられた彼女はゆっくりと振り返る。するとそこには手に石を握って泣きそうな顔で立っている桃香が居た。

 自分が彼女の握っている石で殴られたと理解し終わるとそのまま彼女も意識を闇に沈めてしまう。


 「ごめんなさい…ごめんなさい……」


 殴りつけた際に血の付着した石をギュっと握りしめながら謝り続ける桃香。

 嗚咽と共に自らの行いを悔いている彼女を放置して蔵嗚は事前に用意しておいたロープで二人を拘束して行く。そして柱に縛り付けると未だに泣きじゃくる桃香へ声を掛ける。


 「おい桃香。お前は……」


 「ぐす…うう…うぅ……」


 「いつまでも泣いてんじゃねぇ!!」


 「うぎゃあ!?」


 一向に泣き止まない彼女の姿が心底癪に障り彼は彼女の腹部に前蹴りを入れてやった。

 一般人とは一線を画す身体能力の蹴りだ。当然普通の女子高生に踏ん張れる訳もなく悲鳴と共に背中から倒れ込む。しかも追い打ちを掛けるように蔵嗚は横倒れしている彼女の腹部を爪先で蹴りつけてやった。

 

 「げほっ…う、ぐ……」


 「お前が泣いていいのは俺に制裁を加えられている時だけだ。友達の事で嘆くなんて許されると思うな」


 そう言うと彼はしゃがみ込んで咳き込む彼女の口内に指を突っ込む。そして奥歯の1本を摘まむと彼女の血の気が一気に引く。


 「また奥歯を引っこ抜かれたいか?」


 4本の内の1本の奥歯は目の前の蔵嗚によって強引に引き抜かれて空洞だ。あの時の想像を絶する痛みは今でも鮮明に記憶にあり、もうあんな苦しみを味わいたくない彼女は指を口に入れられたまま首を横に振り続ける事しか出来なかった。



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