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復讐の快感は少年を溺れさせる

復讐物語第二章です。


 旋利津市にあるありふれた高等学校の象御学園の生徒である一翔蔵嗚は自身のクラスでいつも通りの日常を過ごしていた。

 彼にとってのいつも通りの日常、だがそれは決して普通の一般生徒の送る日常とは大分かけ離れていた。


 彼の机の上には落書きや切り傷が付けられ、更にクラスに居る全ての人間が彼に対して嫌悪感を抱き敵意を向けている。

 幼馴染の二人組に悪人に仕立て上げられた彼の高校生活は地獄そのものであった。もはや生きている事が苦痛、何度身投げを考えた事か。


 だがそれは少し前までの自分の価値観だ。今の蔵嗚はこの上なく清々しい気分に浸っていた。


 「アイツ何をニヤニヤしてんだ?」


 「さあ…ついにイカれたんじゃないの?」


 クラス全体から敵と認識されていながら蔵嗚はいつもの沈んだ顔を一切見せてはいなかった。当然クラス連中はそんな彼の変化を訝しんでいる。どうしてこんな環境下でそんな晴れ晴れとした顔をしている? お前の味方なんて何処にも居ないんだぞ? そんな視線を四方八方から向けられていた。


 いつもならば彼に理不尽に因縁を付けるクラスの皆もどこか不気味に感じたのか遠巻きに様子を窺っている。だがそれよりもクラスの皆には他にも気になる事があった。


 「それにしても最上のヤツ全然登校してこないな」


 「ああ、もうすぐ先生来ちまうぞ」


 まず一つ目は最上春雄がもう間もなく朝のホームルームが始まる時間帯だと言うのに未だクラスに登校していないのだ。それにもう一つ、いつも彼と一緒に登校している黒井桃香の様子もおかしいのだ。

 

 「ねえどうしたの黒井さん? 何だか顔色悪いけど…」


 「べ、別に何でもないから…」


 クラスメイトの女子が心配そうに桃井に声を掛ける。

 誰がどう見ても彼女の顔色は悪く明らかに何かに怯えているように見える。


 「……もしかしてあの変態に何かされた?」

 

 そう言いながらクラスの女子、雨衣留美(あまいるみ)は視線を蔵嗚の方に向ける。

 

 彼女が蔵嗚の事を話題に上げた瞬間――桃井は全力で否定をし始めた。


 「違う違う違う違う!! 彼は一切合切関係ない!!」


 まるで鬼が宿ったかのような必死に形相で蔵嗚は無関係であると言い張る。だがその反応は逆に彼が桃井の怯える原因と関係があると口にしている様なものであった。

 桃井の反応を見て雨衣だけでなくいつも一番蔵嗚に乱暴を働いている男子の新城健斗(あらぎけんと)が噛み付いて行く。


 「おいテメェ、まだ黒井にちょっかい出してんのか? ああん?」


 「言い掛かりはやめてくれ。俺は何もしてないよ」


 いつもであればビクビクとしながら答える彼が今日はどこか余裕ぶっていたのが癇に障ったのだろう。新城は近くの席に置いてある教科書を手に取るとそれを渾身の力で蔵嗚の頭に叩き下ろした。


 「なにすかした顔したんだボケ!!」


 バシィンッと大きな音と共に蔵嗚の頭が上下に揺れる。

 その光景を周りで見ているクラスメイトはいい気味だと思って笑い出す。だがその中で桃井は更に倍近く顔色を青く染める。


 「へっ、さっさとこの学園から出て行けよこのストーカークソ野郎が…ペッ!」


 暴言の最後に新城はペッと蔵嗚の頬に唾を飛ばした。


 この瞬間――蔵嗚の次の殺害ターゲットが決まった。




 ◆◆◆




 「たく……どうなってんだよ?」


 一日の学園生活の終わりを告げるチャイムが鳴ると新城はすぐにクラスを出て帰路についていた。だが学園を出てから彼はずっと苛立ちを表情に曝け出し続けていた。

 彼が怒りを感じているのは他でもない蔵嗚が原因であった。いつもは泣きそうな顔をしているアイツがどう言う事か今日は始終余裕を貼り付けていたのだ。それに黒井はずっと怯えており、そして最上に至っては学園にすら結局来なかった。と言うよりも昨日から自宅にすら帰っていないらしい。


 「……アイツが何かしやがったのか?」


 彼の言うアイツと言うのは勿論だが蔵嗚である。

 いつもとは明らかに雰囲気の異なるアイツが何か最上と黒井の二人に対して行動を起こしたのだろうか? だが立場的に不利なのは蔵嗚の筈だ。脅そうとしても逆に不利になって自身の首を絞める事になりかねない筈だ。


 訳の分からない苛立ちを抱えたまま歩いていると不意に前方に人影が見えた。とは言え登下校中に誰かとすれ違う事は別に不思議じゃない。だがその相手が自分が今考えていた人物であるなら話は別だ。


 「やあ新城君。今から予定はあるかな?」


 「……てめぇ何で?」


 クラスを出るときにまだコイツは教室に残っていた筈だ。一体いつの間に自分よりも先回りして眼前に現れた? 

 突如の蔵嗚の登場には些かばかり驚いた新城であったが丁度いい。この胸の中の苛立ちを発散するにおいて目の前のコイツほどうってつけの相手も居ないだろう。


 「よお、ちょっとツラ貸せよ」


 そう言いながら新城は彼の目の前まで歩み寄るとそのまま胸倉を掴んで人気の無い所まで彼を引っ張って行く。


 新城に胸ぐらを掴まれながら強引に連行されている蔵嗚の表情は――信じられない程に醜く嬉しそうに歪んでいた。その悪魔の様な顔をしている彼に新城は最後まで気付かなかった。




 ◆◆◆




 「よーし…ここなら誰も来ないな」


 新城が蔵嗚を連れ込んだのは寂し気な路地裏であった。ここならば人の目も無ければ蔵嗚が騒いでも助けも来ない。

 

 「おい、まずはいつも見たく情けない顔をして見せろよ」


 そう言いながらニヤニヤと笑って新城はゆっくりと距離を詰めていく。だがいつもならば少し威圧するだけで震えるはずの蔵嗚がどう言う訳か相変わらず薄ら笑いを浮かべたままだ。

 自分を前にして余裕を貫き続ける彼の態度が癇に障りまずは痛みを持って教育してやろうと新城が無言で殴りかかった。


 喧嘩慣れしている彼の拳はクラス内でも上位の強さを誇るが――その拳を蔵嗚はアッサリと受け止めた。


 「なっ!?」


 まさか自分のパンチを止めるなんて思いもしなかった彼は間抜けに驚愕を表す。しかも腕を引こうとしても蔵嗚はガッシリと拳を掴んだままなので拳を引く事すらできない。


 「テメェ放せや! 汚ねぇ手でいつまでも掴んでんじゃねぇ!!」


 もう片方の手で拳を形どり殴ろうとする新城だが、彼のもう一つの拳が放たれるよりも先に蔵嗚が掴んでいる彼の拳を握りつぶす。神力で極限までに強化を施している蔵嗚の手は掴んでいる新城の拳をぐしゃぐしゃにしてしまう。

 

 「あぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 自分の右拳が握りつぶされ新城の喉からは凄まじい悲鳴が裏路地に轟いた。

 

 「はは…いい声で叫ぶなお前」


 今までの強者を気取っていた目の前の間抜けの苦悶の顔は蔵嗚に信じられない程の快感を与えてくれる。これまで目の前の男には殴られ、蹴られ、金をとられ、唾を吐かれた。そんな心の中では千回殺している憎き相手が痛みに悶える姿は最高に気持ちいい。


 歪に変形した新城の拳を解放してやると彼は汚い地面の上を転げまわる。

 

 「いてぇ…いでぇよぉ……」


 彼の右拳は爪が全て剥がれており、指も全てそれぞれ明後日の方向を向いている。しかも小指からは骨が少し剥き出てまでいる。


 「ちょっと強く握りつぶし過ぎたか?」


 少し遊んでからいたぶろうと考えていたが思った以上に自分は目の前の新城と言う人間を恨んでいたようだ。そのせいで力加減をミスして拳を一瞬で破壊してしまった。

 まあ別にいいだろう。まだたかだか拳を一つ砕いただけだ。人間の体には他にもいくつも壊せる部分があるのだから……。


 未だに騒いでいる新城の傍まで歩み寄るが彼は痛みが激し過ぎて自分の方を見る余裕がないらしい。それが何だか無視されているようで不快なので取り合えず逃げられない様に右脚を渾身の力で真上から叩き折ってやった。


 真上から新城の右脚の脛辺りを踏んづけてやるとバギッと言う心地よい感触が足の裏に伝わった。


 「があああああああああ!?」


 今度は右脚が歪な方向に変形してしまい更に激しく転げまわろうとする新城だが、変形した右脚のせいでのたうち回る事も出来ずに体を左右に振り続ける。

 目の前で芋虫の様な動きをする新城の姿が本当に愉しく蔵嗚はいつの間にか顔のニヤニヤが止められないでいた。


 「これかぁ…これがお前が今まで俺を痛めつけて味わっていた感覚なのか?」


 これまで目の前の新城にはずっと肉体的にも精神的にも苦しめ続けられた。自分が被害者である時はどんな神経で人を苦しめれるのかと思っていた。だが今は自分を苦しめていた時の新城の心が良く分かる。


 自分の手で他者を痛めつける事がこんなにも気持ちの良い事だったなんて……。


 最上や桃香の時はまだ憎しみが前に出過ぎて気が付かなかった。だがあれから時間が経って落ち着いてからの報復は凄まじい快楽で蔵嗚の心を潤す。

 

 「なあ新城…もっともっと見せてくれよ。お前の苦悶の顔を…!」


 そう言うと蔵嗚は泣き喚いている新城の顔面を思いっきり踏みつぶす。

 柔らかくも硬い骨を踏んでいる不思議な感触。今まで人の顔面を踏んだ経験のない彼にとってはこの踏んづけだけでも凄まじい愉悦を感じられる。

 新城の顔面から足をどかすと彼は口から血の霧を吹き出し、そして歯も何本か折れ鼻も曲がっている。


 「はは…アハハハハハハ!!」


 自分を虐げて続けた男が抵抗する事も出来ず足元で死に体となっている。その姿が滑稽でそして愉快だ。そこからタガが外れた彼は何度も顔面を踏み続けた。

 踏みつけている間、新城の口からは『助けてくれ』、『勘弁してくれ』なんて聴こえるがその懇願の声も蔵嗚を更に興奮させるだけだった。


 「ゆ…ゆるじでくだざい……」


 まるで子供の様に泣きながら命乞いをする彼の顔を見て蔵嗚は涎を零しながら笑う。そして…今までで一番の力で思いっきり顔面を踏み砕いてやった。


 ――グジャ……。


 神力を籠めた踏みつけは完全に新城の顔面を踏み砕き、彼の割れた頭部からは赤い汁が地面に広がって行った。


 「これが…復讐かぁ……」


 そんなクラスメイトの死体を踏みつけにしたまま蔵嗚は恍惚な表情を浮かべ続けていた。


 残り復讐者の人数――25人。



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