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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十二章 氷蓮過去決別編
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独りぼっち同士の少女は家族となった


 「それじゃあ失礼させてもらうぜ」


 「た、助け…助けて……!」


 失禁して大号泣している金城を行李組の人間達が連行して行く。

 髪の毛を引っ張られながら引きずられて行く金城はあろうことか氷蓮や余羽に対して必死に命乞いをしている。その他の周辺で倒れている部下共も立派な掟破りと言う事で担がれている。彼等は未だ目覚めていないので目が覚めた時は間違いなく地獄を見る事となるだろう。転生戦士の男も未だ気を失いあっさりと回収されている。

 その中で1人だけ行李組の人間とは違う人間が運ばれていた。


 「………」


 氷蓮がその人間を無言で眺めている。

 仁義知らずの組員と共に連行されているのは俤治であった。確かに彼は行李組の人間ではない。しかし今回の一件のある種では黒幕と言っても過言ではない。そもそも彼が金城に自分の親類を売り渡そうと言い始めたのだから。

 俤治を連行して行っているのは裏の世界の住人である極道達。このまま連れていかれれば間違いなくタダでは済まないだろう。下手をすれば金城たちと同レベルの制裁が加えられる可能性だって十分ある。


 「……いいのね?」


 運ばれて行く俤治をただ無言で見つめ続けている氷蓮に仁乃が確認を取るかのように横目で見て来た。

 彼女のいいのね? がどう言う意味なのかはおおよそ見当はつく。このまま彼等に連れていかれるのを見送って本当に良いのかどうかと言う意味だろう。

 

 仁乃の言葉に対して氷蓮は吐き捨てるかのように言った。


 「構わねぇよ。もう…アイツは俺にとって親類でも何でもねぇよ…」


 改めて自分の記憶を掘り起こしてもあの男を助けようと思う部分が見当たらない。あの男だって我が身にのしかかっている借金の為に自分を売り飛ばそうとしていたんだ。それならば自分だってあの男が地獄の底に叩き落とされると分かっていても蜘蛛の糸を垂らすようなマネはしない。


 「じゃあ兄ちゃん、それに姉ちゃんたちウチのモンが本当に迷惑掛けちまったな。コイツ等にはしっかりとケジメを取らせる」


 「ああ、ぜひ頼むよ。そこで泡拭いている俺の叔父も容赦なくアンタ等流の裁きを与えてやって来れ」


 氷蓮の言葉に金城達を回収に来た行李組の人間は無言で頷くとそのまま廃倉庫を後にする。


 取り残された氷蓮たちはしばし無言であったが、ここで氷蓮が余羽に話し掛ける。


 「なあ余羽、少し話がある…」


 「……ん、分かった」


 何やら神妙な面持ちで余羽に話し掛ける氷蓮に頷き返すと二人は廃倉庫の外へと出ようとする。

 どうやら自分たちには聞かれたくない話しである事を察して加江須と仁乃は二人に別れの挨拶を告げてその場を立ち去る事にする。


 「俺たちはもうここでお暇させてもらうよ。仁乃もそれでいいよな?」


 「構わないわよ。じゃあまたね氷蓮、それから余羽さん」


 最低限の別れの挨拶を終えると二人はそのまま二人を置いて歩いて行ってしまう。

 仮にも売り物にされそうになった恋人を友人の任せて立ち去る姿は少々薄情にも見えるだろう。だが加江須と仁乃の二人は氷蓮が余羽と何を話したいのか大体は察しており空気を読んで立ち去ると言う選択を選んだのだ。


 シャッターの壊れている廃れた倉庫入り口にポツンと残される二人の少女。


 「余羽…本当にすまなかった……!」


 静寂に包まれている空間の中で最初に声を発したのは氷蓮。

 自分の骨の髄まで腐りきっている叔父のせいで彼女を危険な目に遭わせてしまった。いや、そもそも自分が彼女のマンションに居座っていたから起きたとも言える。そう考えるとどれだけ頭を下げ続けても足りないくらいだ。

 決して賢くない不出来な頭しか持ち合わせていない氷蓮はありふれた謝罪を口にするだけで他に出来る事など何も無かった。それでも彼女は頭を下げ続ける。


 まるで罪人の様に深々と頭を下げ続けるその姿は余羽の胸をきりきりと痛める。

 

 どうしてこの娘は今こんなにも悲痛な顔をして謝っているのだろうか? だって彼女は何も悪くなどないではないか。誰の眼から見ても罪を犯した人物は彼女の叔父であり氷蓮だって被害者の一人のはずだ。

 だがこの考え方が出来るのは自分が俤治とは何の繋がりもない立場だからだろう。きっと今の氷蓮の心の葛藤を理解する事は自分には出来ない。それならばせめて……。


 「もう頭を上げてちょうだいよ氷蓮」


 せめて彼女の苦しみを少しでも取り除いてあげよう。それぐらいしか自分には出来る事が無いのは悔しいが……。


 「私はあんたに微塵も怒りなんて感じていない。だからもう私に謝らないで」


 「……そうはいかねぇよ。俺がお前の傍にいたから今回の様な出来事にお前は巻き込まれてしまった。いや…俺が巻き込んでしまった…」


 やはり安っぽい言葉程度では氷蓮の中にへばり付いている罪悪感は拭いきれない。今の彼女にはいつもの強気な態度を取るゆとりはないと見た。それならいいだろう、自分だって彼女に弱々しい部分を見せてやろうではないか。


 「ねえ氷蓮、先に言うけどこのまま私のマンションから出て行くなんて馬鹿な事は言いっこなしね」


 「な…何で…?」


 やはり彼女は自分との同居生活を終わらせて独りになろうとしていたみたいだ。だがそうは問屋が卸さない。そんな悲しいお別れなんて私は絶対に認めなければ許しもしない。


 余羽はゆっくりと真正面から氷蓮の事を抱きしめてあげる。互いの体温が伝わり心臓の鼓動が聴こえる。その心地の良い氷蓮の温もりをしっかりと感じながら彼女は嘘偽りのない本心を至近距離でぶつけてやった。


 「私はこんな悲しい形のサヨナラなんて御免被るわ。氷蓮だってこんな形で私との生活を失くしたくないくせに……」


 「そりゃそうに決まってんだろ。でもよ…」


 「でも何? でも自分が居ればまた迷惑掛けるかもしれない?」


 抱きしめてくれている友人の問いに対して彼女は無言になるしかなかった。まさに今のセリフを口にしようとしていたからだ。

 だが余羽はその程度の事ではめげない程に意外と図太いのだ。


 「あんたは加江須君に独りで背負うなとか言っていたけど自分は相手の言葉も聞かずに居なくなるんだ?」


 「ぐっ…そ、それは……」


 氷蓮にとってはかなり痛い話を持ち出されてしまいもう呻くしか出来なくなる。人には周りを頼れと言っておきながら自分は独りで背負って消えようなんて確かに虫の良い話だ。

 何も言い返せなくなり口ごもってしまう彼女に思わず余羽は吹き出してしまう。


 「な、何だよ…?」


 何だか馬鹿にされている様な気がして口を尖らせながら何を笑っているのかと少しキツイ眼で睨む。その僅かに怒りが滲んでいる彼女に対して余羽は語り出す。


 「私も随分と変わったよね。昔はどこか自信を持てない自分を情けなく思っていた。でも今は氷蓮の様な身勝手な事を言う相手にも臆せずに言いたいことを言えるんだから」


 「何の話をしてるんだよお前は…?」


 「あんたのお陰で私は変わる切っ掛けを貰った。あんたは…私に沢山のものをくれているんだよ?」


 そう言うと今までは優しく抱きしめていた氷蓮の体をぎゅーっと抱きしめる。

 二人の体は更に密着し、互いの熱がより強く深く伝わってくる。その温もりは互いの心をとても優しく温めてくれる。


 「あんたが来てから独りぼっちの生活がガラッと変わった。家に帰れば自分と同い年の女の子が帰りを待ってくれている。それがどれだけ私にとって嬉しい事か知ってる?」


 とある事情からまだ高校生でありながら余羽は独り暮らしをしている。


 普通の家庭では家に帰れば食事を作ってくれている母親、そして遅れて仕事から帰って来る父親、もしかしたら兄弟だっているかもしれない。そして家族で今日一日の出来事を話し合って笑い合う、そんな光景が日常的に行われている事だろう。でも自分は違う、無駄に広いマンションでずっと独りで過ごしている。


 「毎日毎日退屈な日々だったよ。ただいまを言う相手も居ない、お帰りと言ってくれる相手も居ない、それがどれだけ寂しい生き方か分かる?」


 あのマンションで独りで生活をしていた時はふとした瞬間に寂しさが込み上げる事も多々あった。そんな空虚さを誤魔化す為にゲームセンターなどで時間を潰していた。だが氷蓮が来てからはその虚しさが去来する事が無くなった。


 「家に帰ればあんたが今日のご飯は何だって訊いてくれた。アルバイト先での自分の腹の立つ先輩の話をしてくれた。寂しさを紛らわせるために買ったゲームを一緒にプレイしてくれた。本当に…私の無機質な生活は氷蓮のお陰で変わった」


 力強く抱きしめていた体を離すと余羽は苦笑しながら目の前で今にも泣きそうな親友に、家族に対して自分の願いを伝える。


 「私はまだまだあんたと一緒に暮らしたい。これは私の我儘よ。ねえ氷蓮、私の我儘を聞いてくれますか?」


 自分の存在を迷惑だと思わずむしろ必要としてくれる親友の、血は繋がらずとも親類以上の絆を持つ家族がそう言うと氷蓮は少し前に倒れ込み余羽の胸に顔をぽすっと埋めた。


 「たくっ…またピンチになっても知らねぇぞ。俺を住まわせるなら今までと同じく結構我儘言うぜ? 加江須との惚気話だってお前がうんざりするほど自慢するぜ?」


 「そんなの今更でしょ。それに…家族にそんな確認する必要ないでしょ」


 その言葉に対して氷蓮の返事は言葉ではなくお返しの強烈なハグであった。


 まだ中学生と言う若さから家族を失い、唯一の親類からは散々苦しめられ続けて来た。そんな苦しみから逃れようと家を出て遺産を捨てででも独りで生きる道を選んだ。でも違った、それは違ったのだ。自分が一番欲しかったのは――家族だったのだ。


 気が付けば彼女は大声で泣き叫んでいた。


 その雫は喜びから溢れ出る氷蓮の心からの感涙であった。

 この日、一度家族を失った少女はまた家族が出来た。決して血のつながりはない、だが二人の間の絆は決して偽物ではなく本物の家族と遜色ない程に太く強靭な糸であった。



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