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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十二章 氷蓮過去決別編
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姿の見えぬ敵 2


 「くそ…一体どこに居るんだよ余羽?」


 もう日が沈んだ暗闇の道を氷蓮は当ても無くひたすら駆け回っていた。

 先程にある人物達と連絡を取ったその後、彼女はひたすらに町中を飛び回っていた。もう時刻は夜の七時になろうとしている。こんな時間まで一切の連絡が無いのは絶対におかしい。そして遂にただマンションでのほほんと待っているだけでは我慢できずに外へと捜索に出かけたのだ。


 「くそ…しかし外に出ても探す当てがなきゃどうしたもんか…!」


 息巻いて家屋や電柱などの上をビュンビュンと跳んで行っているが何一つ手掛かりがない。現に今だって余羽の捜索方法は彼女の神力をこちらから感知しようとヤマ勘で探し続けると言う力技のようなものなのだ。だが大まかな場所すら分からないのであれば完全に手探り状態である。こうして広範囲に飛び回っていつかは彼女の神力を探知できるのではないかと言う浅はかな方法しか取れない。


 だが外に出てから30分近く経過した時だ、彼女に思わぬ人物から余羽の居場所が知らされる事となった。


 「え…スマホ…?」


 必死に捜索を続けている最中にポケットから陽気な着信音が鳴り響いたのだ。慌ててポケットをまさぐるとそこには探し人である余羽からの連絡が来ていた。

 まさかの本人からの連絡に一瞬だけ緊張が解けかける。だがよくよく考えれば彼女本人ならば何故着信拒否していたと言う事になる。となればこの電話の向こう側に居るのは……。


 「……もしもし?」

 

 意を決して鳴り続けるスマホに出た氷蓮。


 そしてスマホ越しに聴こえて来た声はこの地球上で自分がもっとも嫌悪している男の声だった。


 『よお氷蓮、出るのが遅いぞ』


 ――ビキッ……。


 最低最悪の声が鼓膜に届いた瞬間に彼女の手の中の力が無意識に強まりスマホにヒビを入れる。顔は一切見えないがこの声の調子から間違いなくこのスマホの向こうではお茶らけた顔をしている事だろう。かつて自分が同居していた時だって調子に乗っていた時はこんな風な不快な口調だったのだから。


 「クソ叔父…何でテメェが余羽のスマホから連絡掛けてんだよ?」


 『おいおい相変わらず口の悪い奴だな。見た目は美人でも中身は男勝りだな。くけけけ』


 ああ…もう限界だ……。


 今までの思い出を振り返ってもコイツには悪意しか抱けなかった。でもこれはもう完全に嫌悪感を抱くだけで済むレベルを超えてしまっている。コイツは俺だけでなくとうとう余羽にまで手を出してしまっているんだから……。


 「今すぐにお前の居場所を教えろ。そうでなきゃマジで地の果てまで追ってテメェを殺してやる」


 『そう急かすなよ、と言いたいところだが俺もお前に用がある。元々今から指示する場所までお前には来てもらう予定だったからな』


 それなら好都合だ。向こうから居場所を知らせてくれるのなら最速最短で向かってやる。


 『いいか、俺たちが今居る場所は……うおっ!?』


 居場所を告げようとしていた俤治の声が途中で困惑と共に途切れ、代わりに別の男の声が聴こえて来た。


 『よおお嬢さん。アンタが俤治の言っていた氷蓮ちゃんか?』


 「……誰だよアンタ?」


 スマホから聴こえて来た声は俤治とは違い余裕を感じさせる渋い男の声だった。

 相手の男はご丁寧に自分の名前だけでなく何者なのかを名乗って来た。


 『俺は行李組の幹部を務めている金城ってモンでねぇ。実はここに居る俤治から君の話は聞かせてもらったよ』


 話を聞くに俤治は電話越しに居る行李組の傘下の闇金から多大な借金をしており、返済する為に自分を電話越しに居る金城ってヤツに売り渡すつもりだったらしい。ハッキリ言って俤治が自分を売り渡す事については驚きはしない。それだけ彼が腐った人間である事はもう分かりきっていた。だが自分の事以上にこの話を聞いて氷蓮には怒り以上に不安が募っていた。


 「おい…もし余羽に何かしたらマジで殺すぞお前……」


 余羽のスマホから連絡をしている以上は彼女はこの連中に捕らえられている事は明白、彼女の安否が気掛かりで仕方がなかった。

 言葉の節に焦りを滲ませている事を相手は察したのか嫌らしい声色で金城がこう言って来た。


 『だったらお嬢ちゃんは今すぐ俺たちの前に来てくれるか? 元々はお嬢ちゃんに用があったんだからなぁ。こっちに来てくれるならこっちで寝ているお嬢さんは解放するよ』




 ◆◆◆




 スマホ越しに居る俤治は自分たちが今居る場所を知らせるとそのまま通話を切ってしまう。

 指定された廃倉庫の場所は幸いにも今氷蓮が居る場所からそこまで離れてはいない。全力で急げばものの五分程度で到着するだろう。


 俤治のヤロウが暴力団と一緒に居るという事は理解できた。だがそれにしても余羽は実戦経験もある転生戦士だ。そんな彼女がみすみすスマホを奪われるなんて少し考えればおかしな話だ。いくら相手が暴力団の人間でも余羽に勝てるかどうかと考えると勝率は贔屓目に見ても余羽の方が遥かに上だと思える。


 「……恐らく廃倉庫には居るんだろうな。俺や余羽と同じ転生戦士が」


 だとすれば気を引き締め直さなければならない。相手が腐れ叔父だけなら一瞬で無力化できるが転生戦士もセットであるなら最悪命の危険だってある。


 「(おっと…その前にあの二人にも連絡入れて置かねぇと…)」


 俤治から指定された場所へと向かう道中で彼女はひび割れたスマホを取り出すとある二人に連絡を入れた。


 「もしもし…ああ、行李組とか言っていた。そっちの方は任せても良いか? ああ…ありがとな……」


 電話越しに居る男性に言うべきことを言って了承してくれると半ば一方的に通話を切って目的地へと急ぐ。


 全速力で向かっていたお陰か当初予想していた五分よりも更に早く目的の廃倉庫へと到着した。


 「……いくか」


 一言そう呟くと彼女は閉まっているシャッターを真正面から堂々と蹴破って見せる。

 神力が籠められているその蹴りは錆びかけている薄っぺらいシャッターなど簡単にひしゃげさせて吹き飛ばす。


 入り口が完全に破壊された倉庫の中に堂々と入って行くと中には大勢の人間が居た。だがそのほとんどの人間が余羽にやられて意識を失って倒れている者達だ。その中で意識のある二人の男性がやって来た氷蓮を見て笑う。


 「随分とお早い到着だな氷蓮。電話してからものの五分で来るとは…流石はこの女と同じ人間擬きの〝化け物〟だな」


 最初に口を開いたのは俤治であった。どうやら彼は氷蓮が人知を超えた超人である事を既に知っているようで足元で倒れている余羽を軽く爪先で小突きながらそう言った。

 俤治の足元で倒れている余羽はボロボロで打撲痕も確認できた。その青あざの付いている親友の顔を見て一気に頭に血が上る。だがすんでのところで氷蓮は飛び出して行くのを堪える。


 自分の親友を足で転がしている俤治に過去一番の怒りが芽生えて殺意と言う名の花が咲くが何とか踏みとどまる。


 「(落ち着け…落ち着け俺…。ここで何も考え無しに俤治のヤロウに突撃したら自分の身が危ねぇ……)」


 転生戦士である余羽が完全にやられている事から考えてこの倉庫内の誰かにやられた事は間違いないだろう。だが俤治はもちろんの事、あそこで余裕ぶっている暴力団の男、恐らくは先程電話していた金城って男なのだろうがアイツにやられたとも思えない。つまり…この倉庫内にはまだ他にも誰か潜んでいるという事だ。間抜けな事に叔父の馬鹿は自分を化け物と嘲笑していたのだ。つまりその化け物である転生戦士である余羽を倒せる存在が彼等の傍に控えていると口にしている様なもの。そうでなければあの小物中の小物である俤治があそこまで余裕ぶっていられるとも思えない。

 だが倉庫内には神力やゲダツの気配も感じない。もう少しあそこで息巻いている馬鹿叔父から情報を引き出そうと考えていた時だった。


 「――ッ!?」


 背後に強烈な殺意を感じ取った氷蓮は咄嗟に自分の背後に氷壁を作りだした。

 氷の壁が作りだされた直後、背後の氷の壁に凄まじい打撃音が響き渡りヒビが入った。


 氷蓮が転生戦士である事は既に知っていた俤治であったがいきなりの分厚い氷の壁が出現した事で今までの余裕顔が消え、小さな悲鳴を上げて慌てて金城の後ろへと逃げ隠れた。

 その逆に金城は驚きこそしていたがそれよりもむしろ興味心の方が色濃く顔に出ていた。


 「ほお…あれがあの娘の力か。本当にすげぇな…」


 「だ、大丈夫なんですか? もしもお宅の転生戦士とやらがやられたら俺たち不味いんじゃ…」


 俤治が余裕ぶっていたのはこちらにも転生戦士が居るからだ。だがいざ氷蓮の力を目の当たりにすると本当に彼女を倒せるのか不安になって来た。

 だがそんな俤治とは違い金城は余裕そうに笑って言った。


 「大丈夫だ。アイツはこれまで俺の下で大勢の敵対組織の人間を殺戮してきたプロだぞ。いくら超人的な能力を持っていても所詮は青臭い小娘。問題ないさ…」


 俤治とは違い自分の部下に絶対の自信を持つ金城はそう言うとパイプ椅子に座り高みの見物を決め込み始める。


 落ち着いている金城とは真逆にその一方で氷蓮は一気に闘気を高めて迎撃を開始する。


 「やっぱりもう一人居やがったな!」


 どうやら気配を完全に遮断した状態で攻撃をして来たようだが戦いの中で培ってきて野生のカンが働いた事で攻撃が自分の身に当たる直前に背後に氷壁を張って謎の攻撃を防ぐことに成功。攻撃された壁の方を見てみると氷の壁はまるで拳で穴を開けられたような痕跡が残っていた。

 背後の氷壁が攻撃された直後に氷蓮は蜂の巣にしてやろうと大量の氷柱を展開した。しかし視線を向けた先にはやはり誰も居ない。


 透明人間の類か…? いや、だが相手が転生戦士にしろゲダツにしろ一切の力の痕跡がねぇのは妙だ。という事は単純に姿を消すだけでなく別の能力もあるってこと……がッ!?


 この場に居るであろう姿の見えない敵について考察をしていると今度は腹部に重たい衝撃が加えられた。そのまま氷蓮は破壊された入り口を通り抜けて外へと吹き飛んでいく。

 

 「ぐっ…な、めんなぁ!!」


 事前に全身を神力で強化していたお陰で致命傷には至らずに済んだ氷蓮は吹き飛びながらも空中で一回転して着地。そしてすかさず両手に氷で造形した双剣を持つと構えを取る。


 姿の見えない転生戦士との戦いが光が沈んだ闇の世界で開戦される。


 

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