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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十二章 氷蓮過去決別編
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姿の見えぬ敵


 凄まじい爆発力でまずは俤治よりも奥で控えている男達の方へと向かって行く余羽。

 俤治なんてその気になればいつでも片を付けられる。それよりも今は厄介そうなあの堅気と思えない連中達の方から戦闘不能にしておくべきと判断、加減無しで男達へと飛び込んでいく。


 「この餓鬼!」


 「暴れんじゃねぇぞ!」


 中央で控えていた男の傍に居た部下と思しき男達が隠し持っていた木刀など鈍器を取り出して襲い掛かってくる。

 自分へと振るわれる多くの凶刃に対して余羽は信じられない程に冷静であった。


 「(遅い…これなら余裕で対応できる)」


 これまでの異形との戦闘で何度も窮地を経験している彼女は既に立派な戦士であった。そんな人物にとってこの程度の暴力などまるで脅威にならない。

 

 まず一番近くに居た男が脚目掛けて下段気味に横払いに木刀を振るう。だが彼女からすればそれはスローすぎる。軽くジャンプして木刀による横薙ぎを回避、そのまま空中で体制を整えて目の前の男の顔面に蹴りを入れてやった。

 手加減無しの余羽の蹴りは男の口元に叩きつけられる。その際に前歯が全部砕けていた。


 「このアマ!」


 「押さえつけろ!」


 仲間の一人が無残な顔面にされた事で他にも襲い掛かって来ていた仲間も大激怒する。

 彼等は顔を怒りで真っ赤に染め上げて手に持っている獲物を振り回してくる。だが余羽は軽快なステップでその攻撃を飄々と回避、その際にカウンター気味に腹部や顔面に拳や蹴りを叩きこんでやる。

 

 離れた位置から女子高生が屈強な男達を次々と殲滅していく光景がにわかに信じられない俤治は狼狽えていた。

 ついさっきまで自分に逆らえなかった少女の真の力に恐れてその場に立ち尽くす事しか出来ない。


 だが恐怖に囚われている彼とは違い、目の前で部下が次々と撃破されている光景を冷静に眺めているボスと思しき男はパイプ椅子に座ったまま表情を変化させていない。

 

 「(…アイツは何であんなに冷静なの?)」

 

 背後から抱き着いて動きを止めようとしてくる男を肘内で返り討ちにしながら余羽は未だにパイプ椅子から腰を下ろしたままの男を見て疑問を感じていた。普通は自分の部下がこうまで一方的にやられていれば少しは動揺してもおかしくはないはずだ。

 

 こうして倉庫内に居るボスと思しき男と俤治以外の部下共を黙らせた余羽。そして彼女は最後に残ったボスにゆっくりと歩み寄りながら話し掛けた。


 「随分と余裕ぶっているわね。それともアンタは腕っぷしに自信でも持っているの?」


 「ふふ、確かに俺も組の幹部として随分やんちゃしてきたがお嬢さんには勝てねぇなぁ…」


 目の前の男の口から出て来た組と言うワードに反応する余羽。やはりこの連中が極道関連の人間であった予想は正解だったようだ。だが今更その程度の相手にビクつくつもりはない。

 

 彼女は自らを幹部と名乗った男の目の前で立ち止まるとありったけの眼力で睨みを向ける。


 「アンタがあそこにいる俤治とか言うクズとどういう繋がりかは知らないけど……私をどうする気だったの?」


 「ああ、実は本来はあんたじゃなくて別の娘が此処に来る予定だったんだよ。そうだよな俤治ぃ?」


 倉庫の入り口付近に居る俤治へと幹部の男は話題を振る。だが俤治はどうやら余羽の圧倒的強さに完全に委縮してしまっているのか狼狽えるだけで口ごもる。そんな彼の代わりに詳しく話を聞き出そうと余羽が質問をぶつけた。


 「別の娘がここに来る予定だったって……一応訊くけどそれってもしかしてあそこのクズの親類である氷蓮のこと?」


 「ああ。実はあそこにいる俤治はウチの傘下の闇金から金を借りていてねぇ、だが利息が膨らみに膨らんでいて返す当てもなく最悪臓器売買しかもう返金方法が無かったんだよ。でもそしたらアイツがこんな提案をして来たんだよ」


 ――『そ、それなら俺の親類の女をアンタらにくれてやる! 確かもう高校生ぐらいの年齢だから中年男の俺とは違って色々と使い道があるはずだ!!』


 「そう言って氷蓮って女を差し出すって約束してくれたんだよ。若い女子高生は中々に人気が高い商品になるからな」


 怒りで頭の血管が全て千切れそうであった。もうこれ以上はコイツ等と同じ空間で息すらしたくない。これ以上は何も話す事は無いと彼女は目の前で未だに不敵に笑っている男の顔面に向けて拳を振りかぶった。


 だが自分の拳が目の前の悪党をぶちのめすよりも早く男の口から完全に予想外の言葉が飛び出して来た。


 「しかし俺の部下共を一瞬でぶちのめすとは。流石は〝転生戦士〟様だなぁ」


 「ッ!?」


 まさかの言葉に思わず余羽の拳が男の顔面手前で急停止した。


 何故目の前の男が自分たちの正体について知っている? 


 「おお、ようやく驚いた顔をしてくれたね」


 「ぐっ、な、何でアンタが転生戦士の事を…!?」


 いくら目の前の男が裏社会の人間だとしても転生戦士の事を知っているのは絶対におかしい。その事を知っているという事はつまり……。


 「ガ八ッ!?」


 次の瞬間に余羽の真横から凄まじい衝撃が走った。

 横っ腹に何かがめり込む感覚とともにそのまま一気に吹き飛んでいく余羽。そのまま倉庫の壁面に思いっきり全身を強打する。


 「ぐ…な、何が起きたの…?」


 衝撃がピンポイントで走った脇腹を押さえながらヨロヨロと立ち上がる余羽。

 

 苦痛に顔を歪める彼女をパイプ椅子に座りながら幹部の男はニヤニヤと笑って見ている。そして入り口付近では何が起きているのかまるで理解できず混乱している俤治。


 「(なんだ…さっきから何がどうなってんだよ?)」


 俤治はこの中で唯一この場で起きている現象に付いて行けずにアタフタとしている。さっきまで幹部である男の目の前に居たはずの余羽がいきなり真横に吹っ飛んでいった。まさかあの極道が実は超能力者だったとでも言うのか?

 そんな事を考えていると幹部の男が俤治の方を見て自分の方へと手招きして来た。


 「おい俤治、お前もこっちに来た方が良いぞ。化け物同士の戦いに巻き込まれてしまうぞ」


 「え、は、はい!」


 今の状況はまるで理解できないが自分と違い何が起きているのか現状を把握できているであろう彼の言う事に素直に従い彼の傍まで避難する。

 

 一方で立ち上がった余羽は倉庫内をキョロキョロと見渡して謎の攻撃の正体を掴もうとしていた。


 「こほっ…くっ…脇腹のあの衝撃、明らかに殴られたかのような衝撃だったわよ」


 脇腹に走った痛みは完全に拳による殴打の様な感じだった。だが攻撃したのはどう考えてもあの極道ではないだろう。もちろんあそこで混乱している俤治の仕業でもないだろう。十中八九もう1人この空間内には誰かが居るのだろう。

 あの極道の口ぶりから察するにこの場に居るのはあの極道の協力者であり転生戦士の類だろう。


 「(間違いなくこの倉庫内には誰か居る…。でも姿も見えなければ神力すら感じられないなんて……)」


 全意識を集中させて倉庫内の気配を感じ取ろうと必死になっていると背後から寒気が走る。その直感を信じて前方へと飛ぶと同時に彼女の立っていた場所の倉庫の床に深々と穴が空く。その床の穴の大きさは拳一つ分の大きさであり、そして陥没した床から人間の腕がスーッと現れて来た。そしてそのままその場には倉庫の床に拳を突き刺している人間が姿を現した。

 男はフード付きの服で顔にも布製のマスクを着けておりほとんど顔が見えなかった。


 「中々に勘の鋭い女だ。間一髪で攻撃を避けるとはな…」


 「ぐっ…やっぱりもう一人居たわね…」


 やはり倉庫内にはもう一人の敵側の人間が居た。そしてここに来て目の前の男がようやく転生戦士である事を確信した。何故なら目の前の男から今までは何も感じられなかった神力をハッキリと感知できるからだ。どう言うカラクリかは分からないが姿を消している時には神力を上手く消す事も出来るのかもしれない。でなければあの男が隠形を解除するまで一切神力を感知できなかったのはおかしい。

 

 だがこうして自分の目の前に堂々と姿を現した事に対して少々疑問が残る。


 「何でわざわざ姿を現したのかしら? そのまま姿を消したまま攻撃をし続ければ優勢に戦いを進められたんじゃないの? それに不意打ち特化の能力で素手で攻撃するのも少し不思議ね」


 確かに2撃目を自分は回避したがそれはあくまで直感的なものに過ぎない。少なくともあの段階ではまだ目の前の男が姿や気配を消す能力を身に着けている事まで考えが至らなかったのだ。それに攻撃手段が拳や蹴りである事も疑問だ。折角姿形を消すと言うアドバンテージがあるのだから刃物でも使った方が有効打になるはずだ。現に自分に対する初撃が刃物による攻撃であれば致命傷を与えていた筈だ。

 彼女の疑問に対してマスク越しに男がこんな答えを返して来た。


 「これは俺なりの弱者に対しての配慮だ。俺は姿や気配を完全に絶つ能力を持った転生戦士。俺の神力も能力発動中は感知できない。あまりにも強力な力を持っている為に少し気が引けてな…それで戦う相手にはこの五体だけを使用すると言う制約を掛けているのだ」


 「は…くっだらない制約だね。花の女子高生を売り物にしようとしている連中にいい様に扱われているだけじゃん。何、そこの幹部さんに従えばお小遣い沢山貰えるの?」


 完全に相手を小馬鹿にする感じで話し掛けて来た余羽に対して表情はよくわからないが身に纏うオーラが不機嫌になった事だけは分かった。


 「いつもは不意打ちの一撃で終わるところだが流石は俺と同じ転生戦士だな。倉庫の壁面に叩きつけられてもまだ減らず口を叩けるんだからな」


 そう言うと目の前の男はまたどこぞの拳法家の様な構えを見せる。そしてクイクイと手招きをして来た。


 「上等だよ…!」


 そう言うと余羽はイザナミから教わった構えを取り再び目の前の外道転生戦士へと突っ込んで行くのだった。



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