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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十二章 氷蓮過去決別編
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汚点でしかない叔父


 氷蓮の中にある我慢のメーターが完全に振り切ってしまい、彼女は鉄拳を深々と俤治の顔面に突き刺していた。

 いくら神力を籠めていないとは言え転生戦士の肉体は超人化している。たかが十代の女性とは言えその拳の威力は絶大だ。ただ威勢だけが取り柄の中年では抗いきれず小太り気味の俤治は無様に転がって行く。

 

 「て、てめぇ何しやがる!!」


 「………」


 まさか自分が殴られるとは思いもしなかった彼は起き上がるとそのまま氷蓮の前まで歩いて行くと胸ぐらを掴んで来た。

 薄ら汚い手で衣服を掴まれ顔を歪める氷蓮。

 

 「まさかこの俺に手を出すとはな。偉くなったな小娘」


 「そう言うテメェは更に落ちぶれたな。元々性根の腐った男だったがそれ以上に腐っていたとはな…逆に感心するぜ……」


 そう言うと自分の胸蔵を掴んでいる俤治の腕を掴んで自分の胸倉から力づくで手を離させる。

 

 「(な、何だコイツのこの力は…!?)」


 自分の目の前から遺産を受け渡して消える直前までの彼女は非力な小娘に過ぎなかった。だから遺産だって脅して丸々手に入れる事も出来た。だが今自分の腕を掴んでいるこの女はまるで別人の様な力で自分を強引に引き剥がしている。


 本当であればこんな汚物同然の価値しかない男の腕など触れたくも無いが、そんなドクズに胸ぐらを掴まれている方が不快だ。

 力づくで薄汚い手から解放されると氷蓮はまだ訊いておきたい事があるので更に質問をぶつける。


 「俺の後を付けていたが何で逃げたりした? お前は俺を捜していたんだろ。そんな俺に気付かれてどうして逃げたりした?」


 目の前のクズは自分を捜していたらしいが、ではどうしてさっきは逃げたりしたのか? その部分がどうにも腑に落ちず問い正してみると俤治は更に身勝手な事をほざき始める。


 「本当はお前の今の住処を突き止めてから顔合わせする予定だったんだよ。道中で声なんて掛けたら逃げられると思ったからよ…」


 ばつの悪そうな顔をしながら最低極まりない事をほざく叔父に対して今度は神力を籠めたパンチをぶつけてやりたくなる衝動に駆られるが何とか踏みとどまる。もしも自分があのままこの男の存在に気付かずノコノコと余羽のマンションまで戻っていたら今頃彼女まで巻き込んでいた可能性がある。そう考えるとここでコイツの存在に気付いた事は幸運だったと言えるだろう。

 

 こちらの訊きたい事は全て訊き終わった氷蓮はもうこれ以上は話す事は無いとその場を後にしようとする。もう一分一秒もこの場に居たくなかった。


 「今のテメェがどんな境遇に陥っているかなんてどうでも良い。もう生涯俺には関わろうとするな。でなきゃ次はその小憎たらしい鼻骨を砕いて鼻を整形してやる」


 そう言いながら彼女はそのまま歩き去って行こうとする。

 だが俤治はそんな事を認める訳もなく尚も彼女を引き留めようとしてくる。流石にうっとおしすぎるので軽く気絶でもさせようかと思っていたその時だ。


 「あれ氷蓮じゃん。まだ帰ってなかったの?」


 「なっ、余羽!?」


 自分の名前を呼ぶ声が前方から聴こえて来たので顔を向けるとなんとそこには余羽が立っていた。もうとっくにマンションに戻っているとばかり思っていた氷蓮としてはこんな場所で彼女に遭遇した事に大層驚いていた。

 

 ま、不味いぞ。何でよりにもよってこんなタイミングでお前と遭遇するんだよ……。


 氷蓮と鉢合わせした余羽は当然の様に彼女の元まで寄ってくる。そして当然彼女の傍に縋ろうとしている俤治の姿も視界に入るので首を傾げる。

 

 「えっと…ねえ氷蓮、そのおじさん誰? それに鼻血出てるけどその人…」


 余羽としてはてっきりアルバイト先の先輩か何かだと思ったが出血している姿を見て少し慌てる。だが逆に氷蓮としては即刻この場から立ち去って欲しいと願い先に帰って欲しいと何とか目で訴える。だが残念ながらそんな願いは通じず彼女は二人の元まで歩み寄ってくる。

 

 自分たちへと近付いてきた余羽を見ると俤治は一気に醜悪な眼を彼女に向けた。


 「何だソイツ…お前のお友達か氷蓮?」


 「ぐっ、うるせぇよテメェは喋んなコラァッ!!」


 自分の最低な叔父の存在を知られたくなくて氷蓮は口を開こうとする俤治を黙らせようとするが余羽としては叔父がどのような人物かまだ知らないので普通に会話を始めてしまった。


 「あの…氷蓮のお知合いですか?」


 「ああそうだよ。俺はコイツの叔父なんだよ」


 「ええ、叔父さん!?」


 まさかの親族の登場に余羽は思わず口に手を当ててオーバー気味に驚いた。


 「え、マジなの氷蓮! その人マジであんたの叔父さんなの?」


 「いや、その…!」


 頼むからこの場から立ち去って欲しいと願う彼女の心情を残念ながら察せれない余羽は独りで騒いでしまう。

 そして今まで冷淡な態度を貫いていた氷蓮が余羽の登場で一気に慌てふためく様子を見て自分の存在を彼女に知られたくない事を瞬時に理解した俤治は口元を歪める。そして自分自身が腐りきった下衆である事を最大限に利用しようと目論んだ。


 「いやぁ久しぶりの再会だったけど思春期だったのかな? まさか少しからかった程度で殴られるとはね。ところで君は氷蓮のお友達かな? どこの学校の生徒さんかな?」


 「え、私ですか。私は近くの新在間学園の生徒です。氷蓮とは……」


 いきなりにこやかに話し掛けられた彼女は反射的に素直に質問に答えようとしてしまう。いきなり在学している学園を訊かれるなんて少し違和感を感じはしたが人当たりのよさそうな顔をして話し掛けられたので思わず素直に答えてしまった。

 どこか仲良さげに会話を始めてしまった二人を見て危機感を覚える氷蓮。

 

 「なっ、テメェマジで黙れ!!」


 「ゴハッ!?」


 これ以上は余計な口出しをしてほしくない彼女は俤治の腹部を足蹴りして突き放してやった。だが未だに状況を察する事の出来ない余羽はその光景にオタオタする。

 

 「ちょ、何やってるの氷蓮!」


 「ッ、良いから行くぞ!」


 地面に尻もちを付いて転がって行く叔父を放置して余羽の手を掴むと急いでこの場から立ち去って行く二人。

 未だに事態を把握しきれていない余羽は腕を引かれながら氷蓮と俤治の二人を交互に見ながら右往左往するしか出来なかった。


 そのまま地面に倒れている俤治を放置してそのまま立ち去って行く二人。そんな彼女たちを俤治は特に追い掛けようともせず遠ざかって行く後ろ姿をただ黙って見つめ続けるだけ。


 「新在間学園…かぁ……」


 口元まで垂れて来た鼻血をベロリと舐めとりながら余羽の口からポロッと漏らしていた学園名を呟いていた。

 氷蓮には逃げられてしまったがそれよりも重要な情報を手に入れる事が出来た俤治は誰もが不快感、嫌悪感を沸き立たせる程に歪な笑みを浮かべていた。




 ◆◆◆




 氷蓮に半ば強引にマンションまで連れてこられた余羽は部屋の中へと入ってからようやく事情を聞く事が出来た。

 最初は叔父に対してあんな態度は失礼だと思っていたが話を聞けば聞くほどに余羽の表情が怒りに染まって行った。その顔は氷蓮の過去話を聞いた加江須やイザナミにも匹敵するほどに嫌悪感に包まれていた。


 「信じられないね。まさかあの人ってそこまでのクズだったなんて…」


 「強引に連れ出して悪かったな。でもあまりアイツと関わらせたくなかったんだよ」


 「別に謝る必要はないって。それにしても大の大人がなっさけない…」


 まだあの男の本性を知らなかった時は人となりがよさそうな笑顔を向けていたので悪い人ではないかな~と思っていたが、氷蓮から真実を知って吐き捨てるように俤治の悪口をグチグチと言い始める。

 普通は親類である叔父の事を悪く言われてしまえば気分が悪くなるものだがむしろ氷蓮は胸がすく思いであった。


 「でも氷蓮大丈夫なの? これからもアイツがあんたに付きまとったりして来たら面倒なんじゃない?」


 氷蓮の話を纏めるとあの俤治と言う叔父は金目当てで氷蓮の前に現れた事になる。となれば今後もしつこく付きまとってくる可能性は十分にあり得るだろう。

 ある意味ではゲダツよりも遥かに質が悪いと言える手合いだろう。ゲダツが相手ならば戦って討伐すれば解決だが今回はそうもいかない。相手が自分たちの裏世界の事情に携わっていないのならば転生戦士の持つ武力で解決できる問題とも思えない。


 「たくっ…あれだけの遺産を受け取っておきながらのうのうと俺の前に顔を出して来るとは思いもしなかったぜ」


 そう言いながら彼女は頭に手を当てて長いながーい溜息を吐きだす。


 「もしも今度俺の前に顔を出して来た時は多少痛い目に遭わせた方が良いのかもな…」


 まだ無力な中学時代ならばどうしようもなかったが今の自分なら軽く捻ってポイだ。

 

 「す、少しはお手柔らかにしてあげなね…」


 瞳に怒りの炎を燃え上がらせながら危ない笑みを浮かべる氷蓮に少し引き攣った笑みを浮かべながら手心を加えてやるように言っておく余羽。

 一応は言っておくが彼女が俤治に対して手心を加えるように言ったのは決してあの腐れ叔父を庇っているからではない。そうでも言っておかなければ彼女が一応は親類の男を殺してしまう恐れがあるからだ。流石に同居人を親類殺しにはしたくはない。


 「たくっ…最悪の一日だぜ…」


 そう言いながら氷蓮はその場で仰向けになって顔をしかめていた。

 もう二度と再会したくはなかった憎い叔父の顔、今日再会した事でまたあの顔が脳裏に強く焼き付き直されてしまい吐き気すら覚える。


 だが彼女の叔父に対しての怒りはこの時がマックスではなかったのだ。この後にあの忌々しい俤治に対して氷蓮は底知れない殺意を抱く事になった。


 

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― 新着の感想 ―
[一言] 他人に平気で迷惑掛ける人がいますが、他人に迷惑を掛けられるのは、その迷惑を掛けられている他人が理不尽な我慢をしてくれているからなんですよね 周囲の人たちがムカついたら即座に暴力で訴えてくる…
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