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通り雨からの仁乃家の招待

 

 加江須の奇策によって相手の心の内を読み取るゲダツを無事に倒すことが出来た三人。

 上空で氷蓮の放った大量の氷柱に貫かれ光の粒となり消えて行ったゲダツを加江須が見送っていると、離れていた仁乃と氷蓮の二人も合流して来た。


 「上手く言ったわね加江須。少し不安だったけど退治出来てホッとしたわ」


 手を振りながら近づいてくる仁乃と、頭の後ろで手を組んでいる氷蓮が傍までやって来る。

 確かにゲダツは討伐できたが、その途中で一度体を振り回された事について文句を言う加江須。


 「に~の~。最初は順調だったけど途中で一回空中でブン回されたぞ」


 「あ、ごめん。最初にも行ったけど人を操った事なんてアレが初めてだからさ……」


 そう言って謝る仁乃であったが、その隣で話を聞いていた氷蓮が半笑い気味でそうなった原因をより詳しく説明した。


 「こいつさぁ、お前が自分の身を全て任せてくれていると思って気が緩んだんだよ」


 「そこッ、誤解が招く発言はしない!!」


 顔を赤くしながらブンブン指を差しながら腕を上下に振るう仁乃。

 氷蓮の発言の意味が深くは分からず加江須は首を傾げている。


 「まっ、なんにせよコレでこの付近を縄張りにしていたあの狼ヤローはぶちのめせた訳だ」


 一度逃した相手を今度は仕留められて上機嫌そうに笑う氷蓮。逆に仁乃は少し不満を抱えているような表情を浮かべている。


 「なんか最後においしい所を持って行った気もするけど……」


 「そんな疑り深そうな眼で見るなよ。心配しなくても当初言っていた通り願いを叶える順番はローテーションにするからよ」


 こうして氷蓮とチームを組んでの初のゲダツ討伐が終了した。




 ◆◆◆




 ゲダツと戦った木々の密集エリアから出た三人は現在、自然公園の入り口付近へとやって来ていた。

 

 「…けっこう時間経ったんだな」


 腕に備え付けてある時計を見ながら今の時刻を確認する加江須。

 ファミレスで食事をとってから戦いが終わった今まで体感的にはそこまで時間が経過したとは思っていなかったが、実際は随分と経っていた。ここから家へと戻るとそれなりに良い時間帯となるだろう。


 「じゃあ…解散するか?」


 加江須が時計から目を離さずに仁乃と氷蓮にどうするかを尋ねる。

 解散するかどうかと尋ねられ、氷蓮は特に反対はしなかったが仁乃の方は口には出さないが不満そうな顔をしていた。


 「(うぅ~…本当は今日一日、できる限りこいつと二人きりになりたかったのに~…)」


 少し瞳を潤ませながら仁乃は加江須の方を見ていると、隣に居た氷蓮はそんな露骨な反応を見せている乙女にため息を吐いた。


 「(わっかりやすぅ~…。素直じゃない性格だとしてもこうまで露骨な顔見せりゃモロバレだろーが。だけどまあ…)」


 勘のいい人間ならば今の仁乃の表情を見れば加江須にどのような感情を抱いているか見抜けるものだ。しかし残念ながら当の本人がその事に気づいておらず同情してしまう。


 「(まっ、その変の事情はこいつら二人の問題だ)お前ら、解散するならその前に連絡先教えてくれよ」


 氷蓮が自分のポケットをまさぐりそこからスマホを取り出した。


 「チームを組むってんなら連絡手段は確保しておきたいだろ」


 氷蓮がそう言うと、一理あると思い加江須もスマホを取り出す。今にして思えば仁乃ともこうして互いの番号を交換しておくべきであったと思う。


 互いに番号を交換し合う加江須と氷蓮、その光景を見ていた仁乃にもスマホを出すように促す加江須。


 「仁乃、お前もスマホがあるなら出してくれ。番号交換は今後の為にしておこうぜ」


 「え、あ、うん」


 加江須に言われ少し慌てたように遅れてスマホを出し、加江須と連絡先を交換する仁乃。

 自分の好きな相手と番号交換が出来た事に内心では喜びと戸惑いを感じつつも、自分のスマホの中に確かに記録されている加江須の番号をマジマジと見つめる。 

 スマホとにらめっこしている仁乃が気になりどうしたのかと尋ねる加江須。


 「どうしたんだ仁乃? 上手く番号が登録されなかったのか?」


 「え、いやいやしっかりと交換されてるわよ!」


 「そ、そうか」


 慌て気味に答える仁乃に押される加江須。

 そんな彼女に呆れつつ、氷蓮がスマホを近づけて来て仁乃とも番号交換を促す。


 「おい、俺とも一応交換しようぜ。別にカップルの番号交換してるわけじゃねぇからよ」


 「カ、カカカップルなんかじゃ…!?」


 「はいはい、分かったからスマホ出せよ」


 イチイチ取ってくるこの分かりやすい反応、相手にしていると疲れると思い始める氷蓮。そして同時にこれだけ近くで露骨な態度を取られても意識されている事を自覚していない加江須の愚鈍さにも呆れてしまう。


 「(まぁ、そのうちいつかは勝手に結ばれるだろう。俺にゃああんまりかんけーねーこった)」


 そう思いながら仁乃とも無事に番号交換をする氷蓮であった。




 ◆◆◆




 三人がそれぞれの連絡先を交換した後、連絡手段を確保できたとの事でその場から氷蓮は先に離脱し今は加江須と仁乃の二人きりであった。

 二人も既に自然公園を出ており、今はもう仁乃の自宅へと続く道をのんびりと並んで歩いていた。

 

 「しかし中々濃い休日だったな。ゲダツとの戦いはともかく俺たち以外の転生者とも出会うなんてな」


 「うん、まあね…」


 加江須の言葉にどこか上の空の様な感じで返事をする仁乃。

 彼女としてはもう少し二人っきりの時間が欲しかったというのが本音であるが、それでも加江須と連絡先を交換出来ただけでも一歩前進したと思う事にした。


 「ん…なんか空模様が……」


 「え? あ、やだ…」


 加江須の漏らした言葉を拾い一緒に空を見上げる仁乃。

 上空を見ると、今までは晴れていた空が雲に覆われており、二人も大きな影にすっぽりと包まれていた。


 「何か嫌な予感がするな…」


 加江須がそう言った直後の事であった。


 ――ポト…ポト…。


 上を向いていた加江須の鼻先に冷たい雫が数滴落ちてきて、その数が徐々に増えながら加江須と仁乃の体に降り注いでくる。

 

 「冷た! ちょっとやだぁ…」


 「多分通り雨だと思うけど…もうすぐお前の家だ。走るぞ」


 そう言うと加江須は仁乃の手を取り小走りで彼女の家へと向かう。

 さり気なく手を取られて仁乃の頬が赤く染まり、加江須の体温が伝わってくる。


 「(も、もう。急に手を握るのは勘弁してよ。は、恥ずかしいんだから…)」


 心の内でいくら言っても無駄であるが、その言葉とは裏腹に仁乃の表情はどこか嬉しそうであった。




 ◆◆◆ 




 小雨に打たれつつも無事の仁乃の家へと到着した二人。

 びしょ濡れとまではいかないが、それなりに濡れてしまった服を見て仁乃が不満を漏らしていた。


 「あとちょっとで家だったのに雨なんてついてないわね」


 「そう文句言うなよ。もう玄関の屋根の下だ。このまま家の中に入れるだろ。俺なんてここから自分の家まで帰らないといけないんだからな」


 ブツブツと文句を言う仁乃に対して自分よりはマシである事を告げる。

 

 「そりゃそうだけど…えっちょっと待って」


 何気なく返答した仁乃であったが、今の加江須のセリフを聞いて思わず彼に尋ねる。


 「まさかこの雨の中帰るの?」


 「まあな。心配しなくても俺は火を操れるんだぞ。体が濡れてもすぐ乾かせるさ」


 「バカ、こんな街中で人体発火しながら帰宅するつもり…。傘くらい貸すわよ」


 そう言うと玄関を開けて入り口付近に立てかけている傘を手渡そうとする仁乃であったが、いつも玄関に置いてある傘が無く周囲を確認して傘を探す。


 「あれ、何でないの?」


 玄関を閉じて傘を探していると、部屋から妹の日乃が出てきて玄関でウロウロしている姉の奇行に目を細める。


 「お帰りお姉。何してんの…?」


 「ああただいま。それより日乃、玄関に置いてあった傘知らない? 一本もないんだけど…」


 「ああ~それ…」


 仁乃が傘の所在を尋ねると、日乃は気まずそうに眼をそらしながら置いてあった傘の行方を話し始めた。


 「今さ、お母さんとお父さんは買い物と仕事の同僚に呼び出されて傘さして出て行ったのよ。それで傘がなくなっててさ…」


 「それでも私とあんたの二人分の傘が残っている筈でしょ? それはどこ?」


 「私の傘はえ~っと…コンビニ…いやゲーセンだったかな? どこかに置いてそれっきり…たはは…」


 「……失くしたのね。じゃあ私の傘は?」


 家に置いてある傘の数は一人一本とちゃんと備えている。どうやら両親はそれぞれ用事のために傘を持って家を出ており、妹はどこぞで紛失したようだが何故だか自分の分の傘もないのだ。少なくとも仁乃自身、妹の様にどこかに置いてきてしまった記憶はない。

 すると日乃は力なく笑いながら仁乃の傘の現在地を教える。


 「お姉の傘は今学校に置いてあってさ…私が置きっぱにしてるせいで…」


 「あんたねぇ…」


 拳を握ってブルブルと震わせる仁乃。

 いくら家族とはいえ無断で人の物を拝借し、しかもそれをちゃんと持ち帰らない妹のズボラさにほとほと呆れと怒りを覚えるが、今はソレは置いておくことにする。


 「どうしよう。玄関で雨が止むまで待っていてもらうのも…」

 

 そう呟きながら玄関越しで待機している加江須の方を向く仁乃。

 てっきり雷が落とされると思っていた日乃は大して強く怒られもしなかったのでほっと胸をなでおろす。


 それに今、姉の言った言葉が日乃はとても気になっていた。

 

 「待っていてもらうって…外に誰かいるの?」


 「え…い、居ない居ない! 誰も居ないわよ!!」


 妹の質問に対して一瞬普通に答えそうになる仁乃であったが、ここでもし加江須を待たせてる事を知られればまた今朝の様にからかわれると思い必死に誤魔化そうとする。

 だが長い間、同じ屋根の下で姉の反応を見て来た日乃だ。彼女が噓をついている事は一瞬で見抜いた。


 「もしかして今日デートしていた彼氏さんがその扉の向こうに……」


 「だ、だから誰も居ないって言っているでしょ!? しかもデートじゃないし!!」


 「ふ~ん…そう…」


 ドアに日乃が近づこうとすると仁乃が行く手を阻んで通せんぼするが、そんな彼女に対して日乃は意地の悪い顔をしながらわざとらしく声を大きくして言った。


 「あ~あ、こんな雨の中外でずっと待たされたりしたら風邪ひくかもねぇ~。まっ、そのドアの向こうに誰も居ないなら関係ないけどぉ~」


 「う、うう…」


 「寒い寒い外で雨に晒され待ち続けるって結構悲痛な姿だと思わないお姉? まあ、外に誰も居ないなら別だけどねぇ~」


 「うぐ……ああもうっ!」


 とうとう観念した仁乃は勢いよくドアを開け、外で待っていた加江須にこう言った。


 「加江須、いつまでも雨の中で外に居たら風邪ひくでしょ! 一旦ウチの中に入りなさい!!」


 そう言うと返事も待たずに仁乃は加江須の事を家の中へと引きずり込んでいった。




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