報いを受けるとき
目が覚めると蔵嗚はいつの間にか学園の通学路に突っ立っていた。
一瞬さっきまでの事は全部夢だったのかと思うがすぐにスマホを取り出して確認する。その際に取り出したスマホの画面がひび割れていた。
顔を見上げてみるともう太陽も沈みつつ夕方の風景となっていた。
「この画面のひびって確か初めてクラスのクズ共にリンチされた時の…」
このスマホの悲惨な状態を見れば時間が巻き戻っている事が確認できた。そしてダメ押しにスマホの電源を点けて日付を確認すると自分が生き返って時間が巻き戻っている事が理解できた。
「………」
スマホの電源を消した後に足元に落ちている石を握りしめる。そして力を籠めると手の中の石ころは粉々に砕け散った。それを見て一瞬だけ驚いた顔をする蔵嗚であったがすぐに彼は口元を大きく三日月の様に歪める。
「はは、すげぇ。本当に凄い力を得て復活したみたいだ。それじゃあ能力の方は……」
自分の力が凄まじく強化されている事を自覚した彼は今度は手に入れた能力を使ってみる。するとヘルから貰った能力も無事に使用出来る事が確認できた。
「なるほどな。まるで魔法みたいな力もちゃんと備わっているみたいだな」
完全に自分が人知を超えた存在へとなっている事が確認できた蔵嗚は不気味な笑い声を零す。
「さて…それじゃあ復讐を始めようか……」
◆◆◆
「ねえ春雄君、今日は私の両親は明日の朝まで帰って来ないから今日はお泊り決定ね♪」
「はは、それじゃあこのまま桃香の家まで直行だな」
学園の帰り道で腕を組みながら誰が見てもいい感じの雰囲気を漂わせるカップル。その道中ですれ違う人達は仲睦まじいと微笑ましく思っている。だがこの二人は長い交友のある幼馴染を裏切り、挙句の果てには玩具にしている腐りきったクズ共である事に気付いていない。
「ああ、そう言えば今日放課後の教室でアイツ泣いていたよね」
彼女がケラケラと笑いながら口にするアイツ、それはこの二人の共謀によってクラス中からイジメを受けるように仕向けられた蔵嗚の事だ。今日の放課後にはクラスの数人が蔵嗚の事を教室内で痛めつけており、その光景を教室の外からこの二人は嘲りの表情と共に観賞していたのだ。
あの時に惨めに亀のように縮こまって涙ぐんでいた彼の醜態を思い返して二人は楽しそうに笑った。
「ホント、私と春雄君の関係に勘付かなければもっと私と楽しめたのにねー」
「まあでも俺としてもいくら遊びとは言え愛する君があんなゴミに触れられていた事を思い返すと胸糞が悪いからね。まあ彼の今の状況は自業自得だね」
それは完全に蔵嗚の事を人間ではなく玩具としてしか見ていない者達の発言。
それからも聞くに堪えない二人の蔵嗚に対して悪口雑言を並べ続け、そしてそのまま桃香の家へと到着した。
「お邪魔しまーす」
「はーい♪」
玄関を開けると二人はそのままいちゃいちゃとしつつ桃香の部屋まで向かっていく。そして部屋の前まで来るとここで最上が人の気配を感じた。
最上とは違い部屋の扉越しに居る人物の気配に気付いていない桃香がキョトンとした顔で彼を見つめる。
「どうしたの春雄君?」
「いや…なんか部屋の中に違和感が……」
そう言いながら最上はドアのノブに手を掛けるとそのままゆっくりとドアを開く。
そしてドアを半開きまですると途中で勢いよくドアを開いた。そして桃香の部屋に居る人物を見て目を疑った。
「な、何でお前が居るんだ一翔!?」
「よおお帰りお二人さん」
桃香の部屋には下校中に散々となじっていた蔵嗚が居たのだ。彼はベッドの上に座り込んで小さく笑みを浮かべて目を丸めている二人を見ている。
何故この男がこの場所に居るのか、そう疑問が頭の中をグルグルと駆け巡っていたが部屋の窓が割れている事からすぐにそこが侵入経路だと判明。そして驚きの次に二人は怒りをぶつけて来た。
「どうしてお前が桃香の部屋に居るんだ!!」
「いや、本当に最低。女の子の部屋に窓割って入って来るなんて救いようのないクズね!」
不法侵入して来た事も許せないが相手があの蔵嗚であると分かると醜く顔を歪めてくる。
聞くに堪えない暴言の数々を蔵嗚は欠伸交じりに聞き流す。その自分たちをまるで無視する態度に最上の怒りはピークとなりそのまま何やら喚きながら掴みかかりに来た。だがそのスピードは今の超人と化している蔵嗚には遅すぎて余裕で回避、そしてそのまま彼はガッシリと彼の片腕を掴むと何食わぬ顔でそのまま逆方向に腕をへし折ってやった。
「いがっ……な、何を!?」
片腕を逆方向に曲げられて痛み以上に何が起きたのか理解できないと言った顔をする。そして彼が呆然としている間にもう片方の腕も逆方向に捻じ曲げてやった。一瞬で両腕の骨を破壊されてしばし狼狽えていた最上であったがすぐに絶叫する。
「いでぇよ! うで、俺の腕があああああああ!?」
「え…何…?」
自分の彼氏が両腕を変な方向にへし折られてのたうち回る光景に後ずさる桃香。
「おいおい大の高校生が泣きじゃくるなよ。みっともねぇな」
そう言うと蔵嗚はそのまま転げまわっている彼の頭部を力強く踏みつけて気絶させた。
「あ、あ、あ……だ、誰か助けて」
最上がビクビクと痙攣しながら倒れている様子に桃香は腰を抜かしてしまう。本来であれば最上の方が力も上なので蔵嗚が一方的に制裁されるとばかり思っていたので目の前で起きた現実が信じられなかった。
ゆっくり…ゆっくりと桃香へと近付いて行く蔵嗚。
「どうしたそんな泣きそうな顔をして? 以前俺を騙していた時のネタバレのように人を嘲笑する顔を浮かべてみろよ?」
そう言いながらゆっくりと腰を降ろしてへたれ込んでいる彼女と目線を合わせる。
至近距離で光を失っている瞳を向けられて歯をカチカチと鳴らしながら大きく震える。
「ち、違うの…違うのよ…」
「ん、何が違うんだ?」
壊れたラジオの様に何度も『違う』と繰り返す彼女に苛立った蔵嗚は無言で彼女の左手を掴み、そして真顔のままで彼女の小指をへし折ってやる。
「いぎゃああああああああああ!?」
「五月蠅いんだよクソ女」
五月蠅いノイズに顔を不快そうに歪めながら彼女の口の中に手を突っ込んで叫べない様にする。更にそのまま奥歯を1本摘まむとそのまま強引に力づくで引き抜いた。
口内に手を突っ込まれてまともに叫べない彼女は大量の涙を流しながらくぐもった声で喚く。
「あー…うざい」
そう呟くと彼女の腹部に思いっきり拳を捻じ込んでやった。そうして彼女の意識も完全に闇に沈んで部屋の中は静寂に包まれる。
「さて…それじゃあ連れて行くか…」
そう言うと彼は倒れ込んでいる二人の脚を掴むとそのまま引きずって行った。
◆◆◆
桃香の家を出た後、蔵嗚は完全に意識を失っている二人を担ぐとそのまま近くの人気の無い見るからに使われていない倉庫まで身柄を運んでいた。人間二人を運んで移動するのは普通の人間ならば骨だろうが転生戦士となった彼にはさほど難しい事ではなかった。人間を二人運ぶ程度訳もなく人目を避けるように移動も容易かった。
どれだけ目の前の二人が騒いでも問題が無いと判断した無人の倉庫に二人を連れ込むと彼はそのまま柱に縛り付ける。そしてそのまま軽い蹴りを二人の腹部におみまいしてやった。すると二人はカエルの様な汚らしい声と共に咳き込んで目を覚ます。
「よお、おはようさん二人とも」
二人は目の前で邪悪に微笑んでいる蔵嗚を見て慌てて逃げ出そうとする。だが体を柱で縛られている以上は逃げようもない。しかも最上に至っては両腕がへし折れているので縄を解くなど無理だろう。
しばらく恐怖に引き攣って芋虫のようにモゾモゾと動く二人を笑いながら見ていた。
「おーいもういいか? 俺もそろそろお前たちと会話したいしさぁ」
蔵嗚が妙に優しい声色でそう言うと二人はビクッと肩を震わせた後に恐る恐ると言った感じにようやく顔を向けて来た。
「ど、どうしてこんな事をするんだ一翔?」
「はあ?」
へし折られてしまった両腕の痛みも気にはなるがそれ以上に目の前の幼馴染が恐ろしすぎて涙目になりながら何故こんな事をするのか最上が尋ねて来た。
「俺の腕をへし折って、しかも見た感じ桃香も口から血を流しているじゃないか。いくら何でも幼馴染に対してこんな非道な行い……ぎぃぎゃああぁぁぁぁぁ!?」
この期に及んでも聞くに堪えない戯言をほざくので腹いせにへし折れている腕に思いっきり蹴りを入れる。その際に更に彼の腕の骨が砕ける感触が脚に伝わる。
「あのさぁ、お前たちは俺を玩具として弄んでいたよな。そんなお前たちがいざ自分が傷つけられる番となれば勘弁してくれ、許してくれだぁ?」
「そ、それは……」
蔵嗚が心底呆れた様な馬鹿にする目を向ける。そんな彼のゴミを見るかのような目を見て自分が許されない可能性が高いと察した彼は絶望の余り涙を零す。そんな間抜けな元親友の表情はもはや笑う気すら起きない程に哀れであった。
やれやれ、どうしてこの状況で自分が助かる可能性があるんじゃないかと思ったのやら……。
隣で縛られている桃香の方に視線を傾けると彼女はこれから自分に訪れる悲惨な未来を予想できたのかずっと震え続けている。そしてよく耳を傾けてみれば小声で同じセリフを繰り返していた。
「死にたくない死にたくない死にたくない」
この期に及んでも自分の命欲しさの言葉を延々と吐き出し続けている桃香。だが今のコイツ等の恐怖に染まった表情は中々におつなものだ。
こうして誰の助けも期待できない倉庫内でまずは最大の裏切り者二人の粛清が始まるのだった。
「さーて、じゃあ本格的に遊ぼうか♪」




