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あなたには復讐の権利がある♪


 いきなり訳の分からない理由で死亡し、そして更には訳の分からない場所にいつの間にか寝かされ、挙句には目の前には訳の分からない女性が立っていた。未だに自分に置かれている状況に混乱して整理すら出来ていない蔵嗚だが一つだけハッキリと分かっている事がある。


 それは目の前の人物に逆らえば自分は一瞬で殺されると言う事だ。彼女の声や表情がそれを深く物語っていた。


 「お、俺をどうしようと言うんだ?」


 「あら、随分と怯えているわね。ねえ、そんなに私が怖い? ねえねえねえ?」

 

 目の前で怖れを隠しきれておらず体を震わせる彼を見てとても滑稽だったのだろう。彼女はニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべながらにじり寄って来たのだ。

 目の前の圧倒的な強者に至近距離まで近づかれてただの少年は冷や汗が止まらない。だがそれと同時に目の前の美女が露出の高い姿で身体を押し当てて来て恐怖とは別にドキドキとする。それに彼女は出るところが出て絞まるところは絞まっているグラマラスな体系のせいで少し恥ずかしくなってくる。


 「あ、やらしい顔しているわね♪ へーんーたーいー」


 そう言いながら至近距離まで顔を近づけてなじってくる。正直に言えば顔も美人なので思わず目を逸らしていると……。


 「死ぬ前までも言われていたのよね。変態ってさぁ……あー可哀そうにぃ」


 「ッ!?」


 彼の赤面していた表情は一気に真っ青になった。あの裏切り幼馴染やクラスメイトから幾度もぶつけられて来たその言葉は彼にとって完全にトラウマを蘇らせるには十分過ぎた。一気に吐き気が込み上げて来て思わずその場で嘔吐しそうになった。


 「あらら…ゲロ吐きそうになるほどに生前は追い詰められていたのね♪」


 「す、すいません」


 目の前でこんな不快な態度を見せられてもヘルと呼ばれる女性は一切の嫌悪感を見せてはいなかった。いやそれどころか彼の苦しむ姿を見てかなり上機嫌となっている。


 な、何なんだこの女は。それに生前ってどう言う意味だよ……?


 明らかにまともではない女にも疑問だがそれ以上に彼女の口から出て来た生前と言う言葉が気になった。その言い方ではまるで自分は死んでいるみたい……いや、確かに自分が死ぬ直前の事は憶えている。じゃあこの殺風景な場所はあの世だとでも言うのか? 


 「どうやら状況を把握できていないみたいね。まあいきなりこんなつまんない空間にほっぽり出されれば当たり前だよね」


 そう言うと彼女は改めて自己紹介と共に伝えるべき事を口にする。


 「では改めて自己紹介から。私はあなた達人間がいう所の神様、名前はヘラよ。そしてあなたは運よく私たち神々の力を扱う才能に恵まれていたのでこの場に呼び寄せました♪」


 そうしてヘルから自分の身に何が起こったのかを詳しく説明され始めた。


 自分はゲダツと言う普通の人間には認識の出来ない怪物に殺されたらしい。だが死んだ人間の中には神力と呼ばれる力を扱える特殊な人間も居るらしい。そしてそう言う人間はもう一度生き返らせられて転生戦士と呼ばれる超人にされるらしい。だが転生戦士として生き返らせられるのは自分を殺したそのゲダツと言う異形を討伐する為らしい。つまりは大きな戦いの苦労を背負う事で代わりにもう一度人生をやり直してもいいと言う事らしい。


 「じゃあ俺は転生戦士とかになって生き返れるのか?」

 

 「その通り。どう、あんな理不尽にイジメられてそのまま人生ゲームオーバーなんて死んでも死にきれないんじゃないかな? このまま成仏なんてホントに良いの?」


 ヘルの言う事に対して無言ではあったが内心ではそんなわけがないと呟いていた。それにまだ彼の中の怒りは完全に消え失せていない。彼を苦しめていた幼馴染二人は訳も分からないうちに死に、更にはクラスメイト達全員を恨んでいた。つまりは復讐できていない人間がまだまだ居るのだ。ただ幼馴染に関してはもう死んでしまっているので復讐する事も出来ないが。

 そんな闇よりも暗い怨恨が頭の中を占めているとヘルが彼にこんなことを言った。


 「生き返ればもっとも憎い幼馴染二人組にあなたの手で復讐できるわよ? それだけでも生き返る価値は十分にあるんじゃないの?」


 ヘルが何処か含みのある笑みと共に囁いてきたその言葉は彼の興味を引くには十分過ぎた。


 どうやら生き返る際にその人物はある程度時間が巻き戻るらしい。そしてその世界には憎きあの幼馴染二人も健在だと言うのだ。


 「なあ…ひとつだけ確認して良いか?」


 「ん、どーぞ」


 「俺が転生戦士とかになればゲダツさえ倒せばあとは何をしても良いのか?」


 そう言う彼の瞳はいつの間にかまるで別人の様になっていた。ずっとヘルに怯えていた彼の目はまるで猛獣の様に鋭くなっていた。その変化にヘルは嬉しそうに笑う。


 「いいねその貌♪ もちろん転生戦士としての仕事さえするなら何をしても良いのよ。犯罪を犯そうが、憎い人物に対して復讐を実行しても。そして――人を殺しても♪」


 そう言いながらまたしてもヘルは耳元まで顔を寄せると囁いて来た。

 

 「……いいぞ。なら転生戦士に成ってやる」


 「いいねいいねその眼。ねえ一応聞きたいんだけど生き返ったらどうするの?」


 彼女はわくわくとした気分を顔に出しながら彼の続きの言葉を待ちわびる。


 「決まっているだろ――あいつ等全員ぶち殺してやる!! その為なら転生戦士にでも何でもなってやる!! 化け物と戦える力が手に入るならよろこんで第二の人生を歩んでやる!! その力でアイツ等全員殺す!!!」


 生前では全く言葉に出来なかった本音を赤裸々に吐き出し始める蔵嗚。

 これまでは数の暴力でただサンドバックの様にいたぶられていた彼がついに本音をぶちまける。積もりに積もった敵意は湯水のように溢れる。その汚水は止めどなく溢れ続け喉が壊れる程に叫び続ける。


 「くそ、クソ野郎どもが!! あの腐れ幼馴染二人は確実にこの手でぶち殺してやる!! そんな二人に唆されて人の話もろくすっぽ聞かずに面白半分で痛めつけたクラスメイト共も必ず殺す!! 殺す殺す殺す殺す!!!!!!」


 怒髪天を衝くほどの強大な憎しみに血の涙を流しながら絶叫を迸らせる。

 その恨み言を隣で聞いているヘルはとても面白そうにニヤニヤと笑い続ける。これほどまでに怒りと絶望を振りまく彼をとても面白そうに眺め続ける。


 「よっぽど恨み辛みを溜めこんで死んだのね……可哀そうに」


 「アイツら全員殺…んんっ!?」


 唾を飛ばしながら喚く彼に対してなんとヘラは口づけをして来たのだ。


 「な、何を……」


 「ふふ、まあ落ち着いてちょうだいね。その殺意はあなたをそこまで苦しめたクズ共にぶつけないと」


 「…そうだよな。俺をここまで追い込んだアイツ等にこの怒りを向けないとな」


 「そうそう♪ あなたを追い込んだその虫けら共をその手で殺してあげないとね♪」


 とてもじゃないが神様の口から出て来る言葉とは思えない発言だ。だが勘違いしてはいけない。神と言う存在は必ずしも慈愛を持っているとは限らないのだ。中には悪神や邪神とも呼ばれる神だって存在する。そしてこのヘルもまたイザナミやヒノカミの様なタイプとは根本が違う。人の不幸は蜜の味だと思える部類の神なのだ。


 「ふふ…あなたは散々理不尽に心も体も苦しめられて来た。そんなあなたが復讐するのは当然の事よ。遠慮せずに皆殺しにしてあげなさい♪」


 そう言うともう一度彼女は蔵嗚に対してキスをする。ただし今度は唇だけでなく頬ではあったが。


 「それじゃあ…復讐しようか♪」


 「ああ、今すぐ生き返らせてくれ」


 そう言いながらどす黒い炎を瞳に浮かべながら復讐を決意した彼を見てヘルは心底愉しそうに笑う。そして彼の言葉に対して彼女は最後にこんな言葉を送る。


 「頑張れ蔵嗚君。あなたの復讐を心から応援してあげる」


 そう言いながら彼女は彼の頭をよしよしと撫でて上げる。復讐心に駆られて大勢の同級生を殺害しようとする行為に対して咎めもしない。完全に異質な発言をしているこんな悪神に対してこの時に蔵嗚は後押しをされている様に感じる。


 「ああ…ありがとう。あんたのお陰で俺も自分の為すべき事が明白になったよ」


 そう言いながら彼は生き返った後に自分が制裁を加える光景を想像すると顔が緩む。だがその表情は信じられない程に歪んでおり、もしも彼を騙していた幼馴染二人が今の彼を見れば驚く事だろう。


 そんな醜く歪んだ復讐の鬼の姿にヘルはうっとりとした顔をするのであった。




 ◆◆◆




 全ての説明を終えて無事に転生戦士として再び下界へと戻って行った蔵嗚。

 ただ一人この転生の間に取り残されたヘルは蔵嗚が消えてからしばらく無言だったが、やがて堪え切れなくなったのか腹を抱えて盛大に笑い出す。


 「アッハハハハハハ!! あー面白い! 人が復讐に囚われ歪む姿はいつ見ても最高ね♪」


 初対面時には自分にビクビクと怯えて如何にも小心者にしか見えなかったあの少年は途中から悪鬼の様な変わりようを見せた。人が怒りや恨み、辛みや妬み、そんな薄汚い心を持って腐って行く様は本当に愉快で見てて飽きない。


 「あー…残念なのは彼が復讐を働く現場を見れない事かしら。でも愉しかった♪」


 これまでこの女神に唆されて間違った道を歩ませるように誘導されたのは一人や二人ではない。彼女にとっては人間は感情豊かな玩具に過ぎない。この考えは蔵嗚を苦しめて裏切ったあの屑な幼馴染二人とは大差がない。いや、むしろそれ以上にこの神は悪辣とも言えるだろう。


 「ふふ…早くまた判断に迷っている玩具が転がり込んでこないかなぁ。正しい道を示してあげれるのに」


 彼女はそう言いながら恍惚な表情を浮かべてあの少年がどこまで堕ちて行くのかが楽しみで仕方がなかった。

 

 「ふふ…目を盗んではあの少年に会いに行ってみようかしら?」


 そう言うと彼女はどこまでも身を汚した蔵嗚の姿を想像して涎を垂れ流していた。



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