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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その2
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長い戦いの終わり


 残る全ての力と生命をつぎ込んだ最終攻撃の火中へと飛び込み拳を振るった加江須。

 ラスボが全てをつぎ込んだよう、加江須も全ての神力をつぎ込んだその右拳はラスボの最後の巨大な火炎玉を真っ向から打ち砕いた。だが拳によって形が崩れた火の玉は波となり彼の全身を包み込んでしまう。


 恋人達は火の中へと呑み込まれていく加江須の姿に思わず息をのんでしまった。


 「か、加江須!!」


 仁乃が彼の名前を全力で叫ぶがその声は炎の向こう側に居る彼に届いているかは分からない。少なくとも返事が返って来ないのだ。

 

 「ぐ…ガガガ……」


 自らの肉体が耐え切れない程の一撃を放ったラスボの体は徐々に崩壊しつつあった。とても柔らかそうな9本の尻尾は根元から千切れ落ち、肉体はボロボロと土くれの様に少しずつ散って行く。もはや自我すら残っているのか定かではないがラスボの中にはまだ最後にたったひとつだけ思考する力が残っていた。


 俺の…最期の攻撃で…久利…加江須…は…死んだ……か……?


 これがもはや死にゆくだけのゲダツに残っていた最後の思考であった。

 久利加江須の腰巾着であった女共も確かに腹立たしい。だが最悪もっとも憎らしい久利加江須さえ殺せればこのまま自らの命と魂が朽ちても構わない。


 だがそんな彼の最後の望みは聞き入れられる事は決してない。


 オレンジ色の炎の海から人影が勢いよく飛び出して来た。


 「……よお」


 もう考える力が残っていないラスボの目の前には傷だらけになりながらも自分の2本の脚でしっかりと立ちはだかる転生戦士の少年が居る。


 「……じゃあな、ラスボ」


 そう言うと彼は今にも膝を付きたい衝動を歯を食いしばって必死に堪えながら拳を力なく振り下ろした。そのまるで軽くはたくかのように振り下ろされた拳はラスボの頭部をまるで土くれの様に砕き、そのままギリギリ原型を留めていたラスボの全身が一気に細かく砕けて散らばった。その数瞬後には粉々になったラスボの肉体は光の粒となりそのままビルの天井をすり抜け天へと召されて行った。


 「終わった……」


 ようやく…ようやくラスボを倒しきれた事を理解した彼は強張っていた表情が緩み、そしてそのまま一気に荒れ果てて小汚い床の上に仰向けのまま倒れてしまう。

 

 薄れゆく意識の中で複数の女性が必死に自分の名前を叫んでいる声が聴こえて来た気がした……。




 ◆◆◆




 「「はあ…はあ……」」


 加江須達一行とラスボがアジトで激突していたその頃、単独でラスボを狩りに動く戦闘狂の転生戦士狂華、そして転生戦士でありながら狩る側の存在であるラスボの下に付いていた形奈。

 

 両者はそれぞれ体の至る所を薄く切っており柔らかそうな肌からは赤い血を流している。


 ラスボの命によって形奈と彼女が率いる半ゲダツ達は狂華を抹殺する為に襲撃を掛けた。だが流石は単独で行動を起こすイカれた戦闘狂。その実力は折り紙付きで戦況は形奈の方が不利であった。部下である半ゲダツ達は皆死に絶えて残ったのは自分一人だけとなった。

 だがその一方でやはり狂華も決して無傷とはいかなかった。半ゲダツたちはまだしも形奈の実力はかなりのものだ。楽勝とは程遠い展開であった。


 「さて…そろそろお互い決着をつけましょうか?」


 狂華は自らの体から流れている血液を舐めながら怪しげに笑う。

 そんな彼女に全く引けを取らない程に狂気を孕んでいる笑みを形奈も向ける。


 だがそんな極限の緊張感に似合わない着信音が形奈のポケットから鳴り響いた。


 「……もしもし?」


 無視しようとも考えたがやはり放置はできないと思い少し遅れて携帯を開き通話を始める。

 どうやら狂華の方も空気を読んでくれているのか少し不満気な顔をしつつもナイフを握っている腕をだらんと垂れ下げる。


 「……そうか」


 流石に携帯の向こう側から電話をかけてきている人間の声までは聴きとれないが何やら彼女の表情が少し曇ったのを狂華は見逃さなかった。

 それからも『ああ』など『そうか』など短く返事をするとそのまま携帯を切った。そして水を差されて不満顔をしている狂華に自分の伝達された情報を共有してやった。


 「戦闘好きのお前には残念なお知らせかもしれないな。たった今ラスボの潜伏しているアジト付近で様子を窺っていた部下からの連絡だ。ラスボが…久利加江須に殺されたらしいぞ」


 「へえ……」


 自分にとってはボスにも当たる人物が殺された事を淡々と告げる形奈。

 そんなかなり大きな情報を耳にしても狂華の反応はそこまで大袈裟ではなくむしろ淡泊であった。てっきり戦闘狂の彼女の事だから自分が黒幕と戦えなかった事を嘆くと思っていた形奈からすれば意外な反応だと思った。


 確かに出来る事ならラスボと言う大物ゲダツは自分の手で殺したいと言う願望が無かったわけではない。だがそれ以上に久利加江須にラスボが殺されたと言う事実は嬉しかった。


 だって…自分が最も殺したくて愛おしい男が腑抜けではないと言う証明でもあるのだから。そうでなければ自分が初めて恋をした男ではない。そうでなければ自分が誰よりも殺したいと思う男ではない。


 それでこそ……自分が唯一恐怖を感じる男、久利加江須なのだから。


 「……帰るわ」


 「……は?」


 あまりにも当たり前の様にそう口にした狂華に思わず間抜けな言葉を漏らしてしまう。だがそんな呆気に取られてしまう彼女を捨て置いて狂華は時間停止、そして気付いた時にはもう彼女の姿はどこにも見当たらなかった。


 「………」


 ここまで盛り上げて起きながらアッサリと消えた彼女に思う事は……特に何もありはしなかった。


 「さて、ここからどうするか…」


 自分が力を貸し続けていたラスボはもう居ない。本音を言うのであればラスボがこの世から消失した事に関しては悲しいと言う感情は無い。だがここからどうすれば良いのかが分からないのだ。

 ラスボと言う指針を見失った隻眼の転生戦士は空を見上げるともうすでに空一面の暗闇が晴れていた。深夜から戦い始めて随分と時間が経過していたみたいだ。


 「いい天気だな…」


 そんな何一つ意味の無い下らない言葉をぼやくと彼女は当ても無く手探り状態のまま歩みを進めるのであった。




 ◆◆◆




 「………んん」


 ゆっくりと瞼を上げて加江須の視界に最初に入って来たのはひび割れが目立つ天井であった。


 「あれ…ここどこだ…?」


 眠りから覚めた彼が最初に口に出したセリフはそんなベタなものであった。だが次の瞬間には半ボケ状態の眠そうな彼の瞳が一気見開かれる。


 「この大馬鹿!!」


 「ごばッ!?」

 

 仰向けで手足を放り出して完全に力を抜いている弛緩状態の彼の腹部に少女の怒声と共に肘内が叩きこまれたのだ。

 完全に気を抜いている所に突如の痛みと衝撃にカエルの潰れた様な声が出て来る。そしてそのまま仰向けの上半身を勢いよくグイッと起こす。


 「ゴホッ、ゲホッ!? な、なんだぁ?」


 腹部に肘の刺さった部分を押さえながら片目をつぶって周囲をキョロキョロと見渡す。そして天井の次に目に入ったのは涙目になっている仁乃の姿であった。どうやら肘内をお見舞いして来たのはこのツインテールのようだ。


 「お、お前な。目覚めの一発に何晒しとんじゃ…ごほっ…」


 寝起きにいきなりのキツイ攻撃に苦言をぶつけようとする加江須だがすぐに息を詰まらせてしまう。

 

 両眼の端に涙を溜め潤んだ瞳を向けている仁乃は明らかに怒り心頭と言った具合であったからだ。


 「仁乃…それにみんなも…」


 よく周りを見てみると仁乃だけではなかった。氷蓮とイザナミの二人も今にも泣きだしそうな顔をしており、余羽と白も明らかに怒りを表情に滲ませていた。

 その中で最初に抑えきれなくなった仁乃が加江須の胸倉を掴んで吠える。


 「どうして…どうして一人で無茶するのよこの大バカ!!」


 彼の活躍で無事にラスボを倒す事ができたのは事実だ。だがそれでも仁乃は彼の取った行動を素直に褒める事は出来なかった。だって…結局彼は最後の最後で無茶をしたんだから……。


 「独りで突っ走らないでよ! 私が! 氷蓮が! イザナミさんが! 余羽さんが! 白さんが! どれだけ心配したのかちゃんと理解している!? あんな禍々しい炎の海に飛び込んで! それで死にそうになって倒れて! 残された私たちの気も知らないで満足しないでよ!!」


 そう言いながら仁乃は両手で掴んだ襟首をガクガクと揺らしながら怒鳴り散らす。だが彼女は怒りよりも悲しみの方が大きかった。


 「あんたが私たちを失いたくない様に私たちだってあんたを失いたくない! あんたを犠牲にして自分だけ生き残っても嬉しくもなんともない!! お願いだから……私たちを置いて行かないでよぉ……」


 そう言いながら仁乃は大粒の涙を零しながら加江須の胸に顔を押し付けて嗚咽を漏らす。それに釣られて我慢できなくなった氷蓮とイザナミもボロボロと涙を零して加江須へと縋り付く。そして小さく嗚咽を漏らす。


 俺は…なんて身勝手な事をしているんだ……。最低だよ俺……。


 またしても自分は最後の最後で自分の自己犠牲的な考えで動いていた事を心の底から悔いる。そして気が付けば加江須も自分に抱き着いて来ている3人を力強くギュッと抱きしめ返す。


 「ごめん。みんな…ごめんな…」


 気が付いたら加江須の瞳からも大粒の涙が落ち続ける。

 しばらくの間、4人は静かにすすり泣きながら互いを決して離すまいと抱きしめ合い続ける。


 その光景を少し離れて見ていた余羽も少し涙ぐんでおりそれを見られまいと後ろを向いている。そして白はようやく表情を柔らかくして4人を温かな目で見守り続けていた。



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