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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その2
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ラスボ対転生戦士 2


 目の前で不敵な笑みを浮かべているラスボを加江須は油断なく見据えていた。

 あの男が口にした『真面目に戦闘』……この言葉はまるでここまではお遊びで今まで本気を出していなかったとも聞こえる。だが実際にその通りなのだろうと加江須は本能で理解していた。


 「(アイツはここまでの戦闘でまるで焦る素振りも見せていない。それに特殊能力だってまだ一度も使って来ていない…)」


 これまでの戦闘を思い返してもとてもラスボが全力を出していたとは思えない。ずっとどこか気の抜けた眼をして戦い続けてもいた。

 しかし今は違う。ヤツの眼光はまるで砥石で研がれ凄まじい切れ味を持った刃物そのものであった。


 すげぇな……研磨されたこの威圧感。


 変身状態となり戦闘力を倍増させた状態である今の加江須ですらも目の前のゲダツの放つ威圧感には冷や汗が流れ焦燥感を感じた。握り締めている拳には手汗が滲み、額から一筋の汗が床へと零れ落ちた。


 「……行くぞ転生戦士」


 その言葉と共に加江須へと一気に跳躍して来る。その速度は下の階で見せていた時よりも速く一瞬で距離を詰められる。だが変身状態の加江須にはその動きが見えており突き出される貫き手を尻尾でガードする。まるで金属同士がぶつかったかのような金切り音に似た音が響く。

 

 「無駄だ! 今の俺ならお前の動きにも対応できる!!」


 繰り出された貫き手を尻尾で防いだ後に他の8本の尻尾で攻撃を加えようとする。相手の手は2本、だがこちらは2本の腕だけでなく9本の尻尾があるのだ。手数の多さならば自分は倍以上ある。2本の腕から繰り出される打撃を同じ数の2本の尻尾で対処し、残りの7本の尻尾でラスボを逆に貫いてやろうとする。


 だが次の瞬間、謎の重い衝撃が横から叩きつけられたのだ。


 「うぐぅおッ!?」


 何が起きたのか理解できずに食いしばっている口の端から血を吹き出しながら混乱する加江須。


 今何が起きた!? 確かに俺はアイツの拳から目を離していないんだぞ!? もちろん蹴りだってちゃんと対処できるように脚だって見ていた筈だ!


 大きく吹き飛ばされながらも加江須は空中で横回転して脚から着地をする。変身していたおかげで肉体的の耐久力も遥かに上昇しているのだ。この程度の攻撃で骨が折れたりなど致命的な負傷をするほど軟ではない。 

 謎の攻撃で殴られた横腹を擦りながらすぐにラスボに向き直る。そして自分の瞳の中に映り込んだラスボの姿を見て唖然とした。


 「お前……その姿は……」


 加江須が少し言葉を詰まらせながらラスボに向かって指を差した。


 目の前で腕組をして仁王立ちしているラスボは自分と同じく狐を連想させる耳、そして9本のボリュームある尻尾を揺らしていたのだ。その姿は完全に自分と同じ妖狐の姿をしていたのだ。顔立ちなどまでは流石に同じではないが耳や尻尾に関しては鏡写しのようだ。


 自分の姿に対して呆気にとられている事を表情から察したラスボは自分の能力について語り始める。


 「さっきまでの自信満々な顔はどうした? 随分と間抜けな顔になっているぞ?」


 「……お前の能力はまさか…」


 自分と瓜二つの変貌した容姿を見てみればラスボの能力が自分と同一なものであると思うのも無理は無い事だろう。だが加江須が何を言おうとしたのか理解したラスボは首を横に振りながら先に否定してくる。


 「生憎お前が今考えている『自分と同系統の能力』と言う考えは不正解だぞ」


 そのまま一度口を閉じ、そして挑発的な眼をすると改めて口を開こうとするラスボ。

 だが彼が再度口を開こうとすると同時、階下に居る仁乃たちが跳躍して穴の開いた天井を通り抜け加江須たちの居る階へとやって来た。


 「待たせたわね加江須。余羽さんのお陰でみんなダメージは回復した……!?」


 下の階でラスボから受けたダメージを余羽に回復改め修復してもらった仁乃たちが合流するとラスボの変貌した容姿を見てギョッとする。何しろ敵であるゲダツが加江須と同じ妖狐を連想させる姿になっているのだから。


 「おいおいあの姿…まさかアイツも加江須と同じタイプの能力を……」


 氷蓮がそう言い掛けたその時、ラスボは溜息と共に変身を解除して元の状態へと戻る。そしてそのまま彼は片腕を頭上に上げた。

 

 ラスボが頭上に腕を上げたと同時、彼の周辺の温度が一気に低下し周囲には大量の氷柱が展開されたのだ。


 「なっ、嘘だろ!?」


 真っ先に驚愕の声を口から漏らしたのは氷蓮であった。何しろ自分と同じ様に大量の氷柱を敵が展開しているのだ。そして声こそ出してはいないが加江須たちも表情に驚きが表れる。

 彼らがリアクションを取っている事などお構いなしにラスボが掲げている腕を加江須たちへと向けると、その腕の動きと連動して一気に氷柱の軍勢が突貫して来た。


 「ぐっ、舐めんじゃねぇよ猿真似野郎が!!」


 まるで自分の物真似でもされているようで気分を悪くしながら氷蓮は氷壁を展開して自分だけでなく加江須たちも一緒に守った。そのまま向かってくる氷柱は同じ氷で作りだされた壁によって阻まれた。だがラスボから放たれる氷柱はまったく途切れる事はなく後から後に絶え間なく射出され続ける。そうなれば次第に氷蓮の張っている壁が削れ亀裂が走って行く。

 

 「くっ…マジかよ……」


 氷蓮の張っている氷壁はかなりの神力を織り交ぜているにもかかわらず少しずつ崩壊して行っている。それに引き換え相手はまるで疲労する様子も見せずに未だに大量の氷柱を撃ち続けているのだ。

 苦しそうな顔をしながら盾となり続けている氷蓮をこれ以上見ていられない加江須たちは全員行動を起こそうとする。だが氷壁の左右から飛び出そうとしてもラスボの氷柱を放っている範囲が広すぎるのだ。何しろほとんど部屋を覆いつくすほどに弾幕が濃すぎるのだ。壁から飛び出そうものならその瞬間に穴だらけにされかねない。


 「くっ…これでは接近する事も…!」


 氷蓮の作り出してくれた壁に隠れて生成した拳銃や刀を握りしめながら悔し気に下唇を白は噛みしめる。だがだからと言ってこのまま馬鹿正直に飛び出てはハチの巣にされる。

 どうにかして敵の穴を突けないかと皆が思案を巡らせている中、一つの打開策を見出すことが出来た加江須が皆に言った。


 「俺が一気にヤツの元まで接近して行く。他のみんなは後方から援護射撃を頼む」


 「なっ、馬鹿言うんじゃないわよ! この出鱈目な弾幕の中に突っ込んで行くなんて自殺行為よ!」


 加江須が口にしたあまりにも無謀な作戦に仁乃が叱りつけるかの様に睨みを利かせる。そう言っている間も氷壁は亀裂が広がって行き、壁の上部は少しずつ砕けて氷の欠片が全員の頭の上に降り注ぐ。

 

 「お前が呆れるのも分かる。でもこのまま氷蓮の背中に隠れているだけじゃジリ貧だ。それに……」


 途中で言葉を切って氷蓮の方へと視線を向ける。

 彼の目線に釣られて仁乃をはじめ他のメンバーたちも氷蓮へと視線を動かした。


 「はあ…はあ……」


 皆の目に映る彼女はとても疲労感を感じさせるほどに疲れていた。息は荒くなり額からは汗がポタポタと垂れ落ちる。それでも自分の作り出した氷壁を維持し続けようと神力を途切れさせることなく送り続けている。神力を送り続けているからこそ今だに氷壁が完全に崩壊せずに済んでいるのだ。だが彼女の顔を見ればもう時間の問題である事は明白だ。


 「このままじゃこの氷の壁がもたないってのもあるがあいつの体力がもたない」


 そう言うと加江須は首を一度コキッと小気味よく鳴らすと覚悟を決めて壁のギリギリまで移動する。


 「本気でこの弾幕の中を突っ切る気?」


 覚悟の決まった彼の瞳を見ればこんなセリフなど無意味だとは思う。だがそれでも最後に確かめておくと加江須は無言で頷いた。

 

 「そう心配するな。あんなヤツに俺がやられるか」


 そう言うと加江須は9本の尻尾を全て自分の前で重ねる。そして尻尾に神力、そして炎を纏わせて勢いよく氷壁の右側から飛び出した。

 安全地帯であった壁の外に出ると同時に前に盾として重ねていた尻尾に氷柱がぶち当たり続ける。だが神力の大部分を尻尾に送り防御力を高めているので氷柱は尻尾を貫くまではいかなかった。しかも炎を纏わせているのでぶつかる直前に氷が溶け質量も減少している。


 よし…絶え間なく衝撃が伝わるがダメージはそこまで大きくない。このまま一気に突っ込む!!


 盾にしている尻尾は衝撃と痛みが止め処なく襲い掛かるがこの程度なら堪えて動ける。そう判断した加江須は一気にラスボへと全力で駆けて行く。

 自分の体の前に尻尾を重ねながら突っ込ん来た加江須にラスボは少し失笑する。


 「何だか間抜けな戦法だな。毛玉がこっちに向かって来たぞ」


 「やかましい! このままこの弾幕を突っ切ってお前に熱い拳を叩きこんでやるよ!」

 

 確かに真正面から見れば巨大な毛玉が向かって来ているようで珍妙な光景ではある。だが実際に飛んでくる氷柱を意にも返さない防御力は見事だ。

 加江須が向かってくる途中までは氷柱を飛ばし続けていたラスボだが、この方法では致命傷を与えられないと判断。


 今の手段ではダメージは蓄積できないと判断して氷柱の弾幕を中断し、そして先程見せた様に再び加江須と同じく妖狐の姿へと変身した。


 「(ぐっ、またアイツも変身しやがった…!)」

 

 氷柱が飛んでこなくなった事を理解すると自分の前に重ねていた尾を背の後ろにひっこめる。そして今まで尻尾に集中していた神力を今度は右手に集中。逆にラスボの方は尻尾の1本に自らの力を籠めて尾を振ってくる。


 二人の妖狐の拳と尾が激突すると凄まじい衝撃が部屋全体へと走り、その衝撃によって床一面に亀裂が走る。すると床が一気に崩れて仁乃たちは再び階下へと落とされる。


 「ちょっ、また!?」


 またしても下の階に落ちて行く仁乃たち。

 そして落下しながら彼女が見たものは加江須の引いた拳が鮮血で溢れていた光景であった。



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