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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その2
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仁乃と氷蓮の地雷


 ホテルの廊下は奇妙な緊張感に包まれており、一方は強い敵意を抱きそしてもう一方はどこか余裕を持っていた。

 向かい合う相手が4人も居るにもかかわらずたった独りっきりの狂華は笑みを崩すことなく白へと話し掛ける。


 「また会ったわね白。それにしても随分と大所帯ね」


 「下らない問答などする気はありません。一体何の用ですか?」

  

 そう言いながら白は片手には日本刀、そしてもう片方には拳銃を生成していた。

 何気に拳銃を生成している所を始めて目撃した仁乃たちは少し驚いていたが、そんなリアクションなど今の彼女には目に入らない。彼女の瞳の中に映り込んでいるのは忌々しい狂人だけだ。

 まるで真剣で突き刺されているかの様な鋭利な殺気を心地よく感じながらナイフの刃をペロリと狂華が舐める。


 「うぇ……」


 この中でもっとも精神的に弱い余羽が目の前の狂人の行為に嫌悪感を抱く。

 これだけの敵意を複数人から向けられていながらもそれを嬉しそうにしている対面上に居る女の神経が理解できない。

 余羽の失礼な反応を見て狂華が若干むくれながら話し掛けて来た。


 「あらあら失礼な反応。私がここに来たのはラスボの仲間である幹部が居ると知ったからなのよ。そのお陰でそこに居る女の人だって助けられたのよ?」


 そう言いながら狂華は白の背後で震えている女性をナイフで指した。

 

 「な…何? 何がどうなっているの?」


 この場で唯一の一般人である女性は混乱の極みに陥っていた。無理も無いだろう。自分を人質にしていた女性がナイフで後頭部と腹部を裂かれたと思うと光の粒になって消えて行ったのだ。そしてこの白髪の少女は何もない空間から刀と拳銃を取り出したのだ。

 もうここまででも十分理解不能でお腹いっぱいなのだが、更に彼女を混乱に陥れる出来事が起こった。


 「そのまま動かないでください」


 「え……ええ!?」


 いつの間にか自分の隣に移動していた余羽が女性の折れている指に触れて能力を発動する。すると歪に曲がり青紫色に変色していた痛々しい指はみるみる元の綺麗な状態に戻ったのだ。

 複雑に折れていた3本の指が一瞬で治った女性は驚きの余り尻もちを付いてしまう。


 「(な、何!? さっきから何が起きているのよ!? 魔法? 超能力? もしかしてコイツ等全員宇宙人とか言うオチじゃないでしょうね!!)」


 もう次から次へと目まぐるしく発生する異常現象に女性は正気を保ってはいられず、ついには『う~ん』と呻き声を漏らしながら背中から床の上に倒れて気を失った。


 「あら…気絶しちゃった…」


 目を回しながら気を失ってしまった女性を壁際へと座らせながら余羽は同情をする。


 「(まあ気絶しちゃうのも無理ないよね。ご愁傷様)


 いきなりこんな非現実的な現場に遭遇すればこうなるのも無理は無いだろう。挙句には彼女はゲダツに人質にされて指を3本も折られているのだから。

 だがこの人が気を失ってくれた事は今の状況ではありがたい。そう思いつつ余羽は緊迫している空気の中に戻った。

 

 しばし一定の距離を確保しつつ向かい合っていた両者であったが、しびれを切らした氷蓮が一番先頭に立つと狂華に言葉を投げかける。


 「お前がこの場所に何で居るのかも大事な事かもしれねぇけどな。それよりも改めて確認しておきてぇことがある」

 

 「随分と怖い顔をしてるわね。それで何を質問したいのかしら?」


 「……テメェが加江須を本気で殺す気でいるかどうかについてだ」


 この氷蓮の問い掛けに対しては仁乃も彼女と同じく空気をピリピリとしたものへと変え、この質問の答えをさっさと言えと狂華に眼で訴えていた。

 そんな彼の恋人二人に睨まれながら狂華はまるで間を置かずにこう答えた。


 「もう念入りに確認する必要はないでしょ? 私が彼を…久利加江須を本気で殺そうとしている事は確定時効だと理解できている筈だと思うけど?」


 狂華がそう言い終わるとほとんど同タイミングであった――彼女に無数の氷柱と糸の槍が飛んで行ったのは。


 「おっと危ない」


 まるで危機感を感じさせない軽い口調で飛んでくる殺意の籠った攻撃を避けて見せる狂華。もしもあのまま棒立ちをしていたのならば自分は全身を穴だらけにされて閲覧注意の肉塊となっていたことだろう。

 別に度肝を抜かれたと言う程でもないがまさかここまで容赦なく殺しにかかるとは思ってもおらず、躊躇いなく命を取りに来た二人に口笛を送った。


 「ヒュウ♪ まさかいきなり本気で殺しにくるとは。あなたたち二人も私に負けず劣らずどこかネジが外れているんじゃないのかしら?」


 狂華はそう言いながら攻撃をやり過ごし再び正面を向いた。だが次の瞬間には自分の首元の一歩手前まで仁乃の作り上げた糸の槍が突き刺さろうとしていた。さすがにギョッとして慌てて時を止めて勢いよく後方へと飛び退いた。


 「あっぶないわね。まさかここまで攻撃的になるとは…」


 どうやら少々自分は目の前の二人を甘く見ていたようだ。予想以上にこの二人は自分の恋人の事が絡むと周りが見えなくなるようだ。

 

 「どうやらこの娘たちに対しての認識を改める必要があるわね」

  

 そう言いながら時間を再び動かし始めた。

 凍てついていた時間が動き出すと同時、仁乃の突き出していた槍は本来の標的が消えたせいで勢い余って床へと深々と突き刺さった。

 

 「チッ、また時間を止めたわね!」


 床に突き刺さった槍を引き抜いていつの間にか距離が開けている狂華を睨みつける。

 だが仁乃の攻撃を避けたと同時に今度は氷蓮の攻撃が飛んでくる。いつの間にか自分の真上には氷で造形された巨大なハンマーが浮いており、そのまま自分の脳天を叩き潰そうとそのハンマーは落下して来た。


 「ちょ、息つく暇もないわね!!」


 時間を再び動かすと同時にすぐに次の攻撃が降り注いでくる。再度時間を停止して攻撃が直撃するギリギリで何とか回避する狂華。そして再び時間を動かし始めると凄まじい衝撃音と共に床に落ちた氷のハンマーが床を深く陥没させた。


 「クソがッ!! また時間を止めて避けやがったな!」


 自分の攻撃を避けられ仁乃に続いて氷蓮も忌々し気に大きく舌打ちをした。

 

 仁乃と氷蓮は二人並んで狂華に向かってそれぞれ糸の槍と氷の剣を突き付けた。その瞳は自分の大切な者には決して手出しはさせないと言う覚悟が宿っており、後方で様子を窺っていた余羽は味方でありながら二人の凶暴な一面に少々慄いていた。


 「仁乃さんも氷蓮もなんか人が変わったみたいなんだけど……」


 確かにあの二人は少し強気な性格ではあるがあそこまで容赦ない攻め方をまだ手も出してきていない相手にするとは余羽も思っていなかった。

 

 この時に余羽は体育祭の時の加江須の虐殺シーンを思い返していた。あの体育祭、恋人である仁乃がゲダツにやられた際に加江須は凄まじい怒気と共にゲダツをぐちゃぐちゃにしていた光景は今でも少しトラウマだ。その時から余羽は秘かに彼に対して恋人絡みの事では決して怒らせてはいけないと理解した。

 そして今、自分の目の前で戦闘狂である狂華に一切の容赦なく襲い掛かっている光景を見てあの二人も加江須と同様の地雷を胸の内に孕んでいる事に気付いた。彼女たちも彼氏に害をなす敵に対しては一切の容赦を忘れる様だ。


 氷蓮に対して加江須君の事でからかったりしなくてよかったな……。


 もしも自分が氷蓮の惚気に嫌気がさして彼の事を貶すような事を愚痴っていればあの狂華のように問答無用っといった感じで攻撃をされていたかもしれない。


 そんな事を呑気に考えていると白の驚きの声が聴こえて来た。


 「え、どうしたの白さん……ええ!?」


 何やら口を小さく開いて硬直している白を不思議そうに見つめた後、その視線を辿って同じ方向に視線を傾けると驚きの光景が広がっていた。何と氷蓮が氷で造形した龍、彼女の最大の大技であるアイスドラゴンヘッドを繰り出そうとしている。彼女の構えている両手からは精密な造形がなされている龍の頭部が飛び出ており、今にも胴体まで手の中から飛び出て行こうとしている。

 

 「ちょっと待ったぁぁぁぁぁぁ!!!」


 気が付けば叫びながら氷蓮へと全速力で駆けて行く余羽。

 今にも大技を解き放とうとする彼女を後ろから羽交い絞めにしてなんとか技の発動は阻止できた。しかし味方である余羽に攻撃を中断させられた氷蓮は若干怒り気味でなんのつもりかと尋ねる。


 「どうして止めんだよ!!」

 

 「当たり前でしょ! こんなホテルの廊下で気軽に使っていい技じゃないでしょ!!」


 もっと開けた場所ならば止めはしないがこの場所は不味すぎる。廊下の左右の壁にはいくつもの部屋だってあるのだ。下手をしたら今熟睡中の宿泊客達が飛び起きかねない。いや、下手をしたら方向が逸れて近くの部屋に突っ込んで行くかもしれない。

 だが氷蓮を強引に止めようとすると今度は仁乃が暴走を始める。


 「ちょおおおお!? そのバカでかい槍をどうする気ですか仁乃さん!?」


 嫌な気配を感じて隣を見ると仁乃の頭上には大量の糸を束ねに束ねて作られた超巨大な槍が浮いている。


 「下がって居なさい余羽さん。近くに居ると巻き込まれるわよ…」


 「だからこんな場所でそんな大技ダメだって!!」


 やはりこの二人も恋人絡みだと豹変するタイプだと言うのは自分の思い過ごしではない。加江須と同じく何をするか分かったもんじゃない。

 必死に仁乃と氷蓮を宥めようと奮闘する余羽を置いておき対照的に冷静な白がゆっくりと歩いてきて狂華に話し掛けた。


 「ここまで彼女たちに攻撃をされても反撃をしないところを見るとこの場で戦う意思が無い事は判断できました。ですが、何故わざわざ私たちの前に顔を出したのですか? まさか本当に幹部を倒す為だけにここまで?」


 自分たちと戦いに来たのではないとすると一体何が狙いだったのか問うと彼女は素直に質問に返答する。

 

 「言っているでしょ。私の目的はあなた達と同じラスボだと」


 そう言うと彼女は暴走気味の仁乃と氷蓮すら大人しくさせる程の重大な情報を口にした。


 「ついに見つけたのよ。あなた達と私の共通の敵――ラスボの潜伏先をね……」



 

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