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自然公園での戦闘

 

 生い茂る葉やそれの土台となる木々、それらによって姿は見えてこないが加江須はゲダツの放つ視線を敏感に感じ取っていた。しかし、彼の後ろに居る氷蓮と仁乃の二人にはまだ何も感じ取れはしない。

 仁乃が加江須に近づき、本当にゲダツの気配を感じ取れるのかどうか聞き直す。


 「ねえ加江須、本当にゲダツの気配を感じるの? 少なくとも私はまだ何も感じないんだけど……」


 「それについては俺もだな。ここにゲダツが潜伏しているって言ったから少し神経質にでもなってんじゃねぇの?」


 気のせいではないのかと言う二人であるが、しかし加江須はゆっくりと首を横に振る。彼の眼は曖昧な物を見つけた人間のする目でなく確信を持っていた。


 「まるで舐められるような視線が絶えることなく向け続けられていて落ち着かない。今までのゲダツの時と同じこの感覚……間違えるかよ」


 そう言って自身の気のせいではない事を告げると、氷蓮は加江須に対して内心では驚いていた。


 「(おいおい…マジかよ…)」


 氷蓮は仁乃の方へと近づくと、彼女に耳打ちをする。


 「やっぱあいつ凄いな。俺やお前よりもレベルが上だ」


 「? どういう事よ?」


 氷蓮の言っている事は何となく理解はできる。確かに加江須の実力は自分たち以上である事くらいは仁乃だって言われるまでもなく分かっている。

 しかし氷蓮が今、加江須の事を改めて化け物じみていると思ったのはこのエリアに潜伏しているゲダツの存在をキャッチしたからそう思ったのだ。


 「ゲダツの中には自身の存在感を薄め、俺らの索敵を逃れようとするタイプもいんだよ。容姿や能力だけでなく、そう言った隠密性に長けているタイプもいんだよ。今この自然公園に潜んでいるのはその手のタイプだ」


 そう言いながら氷蓮は加江須の後に付いて行きながら仁乃へと説明をする。

 姿が見えるまで接近しているならまだしも、気配の遮断に長けているタイプのゲダツを既にロックオンしている事が氷蓮からすれば異常なのだ。


 「俺だって転生してからもう大分経つ。その中で今回の様に上手く自分の存在感を薄めて隠れるタイプは何体か見て来たんだぜ。だけど姿も見ずにそのタイプを見つけられたためしはねぇ…」


 そうな会話を仁乃としていると、この中で唯一ゲダツの存在を感じ取っていた加江須が振り返って氷蓮にこの辺りに隠れているゲダツの特徴に関して質問をする。


 「氷蓮、ここに隠れているゲダツはどういうタイプなんだ? 個体によってゲダツの力は色々と違うからな」


 これまで加江須が見て来たのは四足歩行や二足歩行の獣タイプも居れば、昆虫の様なカマキリ擬きなど全く容姿も技も異なるタイプもいた。この自然公園内に居るタイプも恐らくその3つとはまた容姿も使う技も違うだろう。敵に対する事前情報を知っているといないとでは戦い方も変わってくる。

 これから戦うゲダツの事をすでに知っている氷蓮が自分の知っている限りの情報を提示する。


 「俺がここで遭遇したタイプはなんつーのかな…見てくれは狼みたいなんだけどよ……」


 そこまで言うと言葉を詰まらせ、続きを言おうとしない氷蓮。

 何故か途中で黙り込んでしまう彼女に対して仁乃が続きを促してくる。


 「何よ途中で黙りこくって。何か言えないわけでもあるわけ?」


 「いやそうじゃねぇよ。ただよ…あの狼みてーなゲダツ、攻撃が当たらねぇんだよ」

 

 「当たらない? まさか体をすり抜けて攻撃が効かないってことか?」


 もしそうだとすれば今までのゲダツとはハッキリ言ってレベルが違い過ぎる。攻撃自体が当たらなければ倒しようがないのだから。

 加江須が潜んでいるゲダツに対して半ば無敵のイメージをするが、その不安を氷蓮が打ち消すように続きを話す。


 「別に透明人間みてーななんでもすり抜ける訳じゃねぇよ。ただ、全て避けられんだよ」


 「それって動きが素早いってこと?」


 仁乃がそう訊くと、氷蓮が頭を掻きながら答える。


 「確かに動きが速いってのもあるが…あの回避能力は異常だ。前回は結局逃がしてしまったからな…」


 森林の中へと入ってからしばらく歩き続ける3人。

 すると今入っているエリアの中央付近まで行くと、氷蓮と仁乃もゲダツ特有の気配を感じることができた。


 「居るわね…どこかから様子を覗っているのかしら」

 

 「十中八九そうだろうよ。気をつけろ、油断してると食い殺されるぜ」


 仁乃と氷蓮が互いに背中を預ける形で周囲を警戒し、その二人から少し離れた位置で加江須はゲダツの潜伏している場所を探る。

 

 ――その時、常人離れしている3人の耳に獣のうめき声が聴こえて来た。


 「……そこかッ!」


 氷蓮が腕に氷を纏い、手のひらから氷柱を離れた木々の間へと打ち込む。

 発射された氷柱は立木を貫くが、その木の背後から一つの影が飛び出してきて、そのまま氷蓮へと走ってくる。


 「そら来たぜ!!」

 

 立木の背後から飛び出てきたのは、事前に氷蓮から聞いていた通り狼の様な姿をしたゲダツであり、4本の脚を使いすごい速度で氷蓮の方へと突っ込んでくる。

 迫ってきているゲダツ目掛けて氷蓮が無数の氷柱を発射し串刺しにしようとする。

 

 「はやっ、全部避けてるわよアイツ!」


 迫ってくる氷柱の軍勢を高速で移動し、その全て避けている俊敏な動きに仁乃が声を出し驚く。


 「お前も何か遠距離攻撃持ってねぇのかよ! 俺ばかりに撃たせてんじゃねぇよ!」


 「あるわよ、攻撃手段くらい!!」


 氷蓮の物言いに腹を立てながらも糸を出してそれを集約し、自分の周囲に糸をまとめて作った槍を展開し、ソレを一斉にゲダツへと放って物量を増やす。

 しかし氷蓮だけでなく仁乃の手数も追加されたにもかかわらず、ゲダツは攻撃の隙間を縫って避け続ける。


 これだけの手数を集中して向けられているにも関わらず全て回避するゲダツ。予想をはるかに上回る回避能力に仁乃がわずかな驚愕を感じてしまう。


 「これだけ撃っても掠りもしない! いくら何でも速すぎるわよ!」


 「文句言ってねぇでとにかく撃て! 直撃は無理でも脚の一本に被弾させれればそれで詰みだ!」


 そう言いながら氷蓮は頭の中で、空中に跳んで氷柱のサイズをさらに巨大化し、それを真上からゲダツへと叩き落そうと考える。


 「(物量で当てられねぇなら上から質量で潰してやらぁ! 腐れ狼が!!)」


 仁乃が遠距離攻撃で注意を引いている隙に上空へと跳躍して氷柱を作り出す氷蓮。そのまま彼女は作り出した巨大な氷柱を振り下ろそうとするが――


 「ガルルルルルルルッ!!!」


 「こっちに来たか!」


 今まで逃げ回っていたゲダツは離れていた加江須の方へと駆け込んでいく。

 両拳に炎を宿して迎撃の体制を取る加江須であるが、その真上では氷柱を構えていた氷蓮が苦虫を嚙み潰したような表情をする。


 「ちっ、この位置からデケー氷柱を落としたら加江須も巻き込みかねねぇな」


 上空から攻撃のタイミングをうかがっていた氷蓮は作り出していた巨大な氷柱を消し去り、攻撃を一時中断する。


 彼女の真下では加江須が攻撃をゲダツへと繰り出し続けていた。


 「はっ、おりゃ!!」

 

 迫って来たゲダツに対して逃げることなく真正面から向かっていき、高速で炎を纏った拳や蹴りを連続で繰り出すが、それを避け続けるゲダツ。


 「(さっきの氷蓮と仁乃の攻撃を避け続けていただけはあるな。俺の攻撃も全て避けられる……なら!)」


 攻撃が当たらないのであれば当ててもらおうと思い、加江須はわざとゲダツの前で隙を見せるような動きを取る。今までの攻防の中でゲダツは加江須の攻撃を避けながら、鋭い牙や爪で攻撃を繰り出してきていた。ならばカウンターを取る要領でわざ隙を見せ、攻撃をくらう直前に攻撃の当たる個所を発火しようと目論む。


 「(さあ隙を見せたぞ。喰いつくなり爪で抉るなりしてこい…)」


 そう思い目の前のゲダツの動きを注視する加江須。

 しかしいつまで経ってもゲダツは手を出してこようとはせず、一方的に攻撃を避け続けるだけとなる。


 「(なんだ…なんで攻撃してこない?)」


 今までとは違い牙や爪で攻撃してこなくなったゲダツ。ならばこの至近距離、炎を一気に前方へと放って丸焦げにしてやろうかと加江須は右腕を引き、手のひらを広げて炎を噴出しようと身構えるが――


 「ガウッ!」


 加江須が炎を放とうとする一歩手前、ゲダツは短い咆哮と共に後方へと一気に跳躍して距離を開けた。

 またしても自分の読みが外れてしまい悔し気な顔をする加江須であるが、ゲダツが後方へ下がると今度は仁乃が攻撃を仕掛けた。


 「今よ! 串刺しになりなさい!!」


 ゲダツ目掛けて糸で出来た槍を発射する仁乃。

 ゲダツの体は加江須の方へと向いており、後ろで攻撃を繰り出した仁乃の姿はゲダツの瞳には映っておらず、今度こそ獲ったと確信して口元に笑みを浮かべる仁乃。


 しかしゲダツは仁乃の方を見ず、後ろを振り返ることなくその場で華麗にジャンプし糸の槍を躱した。


 「なっ、うそ!?」


 まさか見もせずに攻撃を避けられるとは思わず一瞬驚きから体が硬直する仁乃。

 その一瞬の隙を狙い、ゲダツは一直線に仁乃の方へと突っ込んでいく。


 「しまっ!」


 反応が遅れてしまい予想以上にゲダツの接近を許してしまう仁乃。

 両手から糸を出して迎撃しようとするが、それよりも一瞬早くゲダツの牙が仁乃へと突き刺さりそうになる。


 思わず目をつぶってしまう仁乃だが、ゲダツの牙が突き刺さるよりも早く上から大量の氷柱が振ってきてゲダツを串刺しにしようとする。

 真上から迫って来た氷柱をギリギリ回避して3人から距離を取り様子を窺うゲダツ。


 仁乃は目の前で地面に突き刺さる氷柱を見ながら、自分の後ろに立っている木の上に居る氷蓮に文句を飛ばす。


 「危ないじゃない! あやうく私にも刺さりそうになったわよ!!」


 「うるせぇな。ちゃんと調整していたっつーの」


 そう言って仁乃の隣に降り立つ氷蓮。それを納得のいかないと言った感じで睨みつける仁乃。


 そんな中、加江須は先程死角から放たれた仁乃の攻撃を避けたゲダツの動きについてある憶測を立てていた。


 「まさかあのゲダツの能力は……」


 すべての攻撃を紙一重で回避し続けるゲダツ。最初は動きが速いゆえに当たらないと思い込んでいたが、今の一連の動きから彼は1つの可能性に気づき始めていた。




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