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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その2
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命乞いと元凶


 「もう…いつまでホテルの中に留まっているつもりなのよマイヤは……」


 いくら待ってもホテルから脱出する気配を感じられずに苛立ちながら待ち続けるマリヤであったが、自分が破壊した窓から二人分の人影が飛び出て来るのを見た。流石にこれ以上はこの場に留まっているのは不味いと思いマイヤは仕方なしにこの場を後にしようとする。


 「ああもうっ、後は自分で何とかしてねマイヤ!」


 何とも薄情なセリフを口にしながらその場を後にするマリヤ。いくら仲が良いとは言え所詮はゲダツと言うべきか。あまり躊躇う様子も見せずにマイヤを置いて行く選択をあっさりと決めてしまう。

 そのままマリヤは人気の多い場所を目指して移動を始めようとする。だが彼女がこの場から逃げ出す事は出来なかった。


 「逃がすかよ!!」


 上空から加江須の怒号が聴こえて来て思わず夜の空を見ると火の玉がこちら目掛けて飛んできていた。

 加江須が全身に炎を纏わせ、更に両手を背後に向けて炎を噴出して加速しながらマリヤ目掛けて飛んできたのだ。

 想像以上の速度にマリヤは逃げ切れないと悟り下手に背を向けずにこちらに向かって来る加江須を睨みつけた。


 凄まじい衝突音と共に地上に着地した火の玉は纏わせている炎を振り払うとその姿を現す。その振る舞いはどこか神秘的だった。


 「もう逃げられないぞ…!」


 「どうやら…そうみたいだね……」


 目の前で圧倒的な神力を撒き散らしている加江須に思わず膝をつきそうになる。そこにイザナミも着地して加江須の隣に並んで立つ。

 加江須に引けを取らない程の神力を纏わせながらイザナミまで眼前に立ちはだかりマリヤの膝が震えそうになる。


 「(無理…こんな化け物級の転生戦士、それも二人同時にマリヤ独りで戦って勝てる訳ないじゃん)」


 ゆっくりとこちらへと近付いて来る加江須の足音がまるで死神の足音に聴こえる。人の悪感情から生まれたゲダツが死神と言う比喩もおかしな話だと我ながら思った。

 

 「さて…覚悟してもらうぞ」


 加江須はそう言うと拳に炎を纏わせてゆっくりと近付いて来る。


 だがあと数歩手前と言うところでマリヤはその場で膝をついてなんと土下座をしたのだ。


 「……それは何の真似だ?」


 加江須が訝しむかのような眼で無様に土下座をする彼女を見つめる。イザナミもイザナミで当惑気味になりながら加江須を見つめる。まさかいきなりこのような行為に走るとは微塵も考えていなかったのだから無理も無いだろう。

 そして土下座をしているマリヤは額を地面に擦り付けながら口を開いた。


 「ほんとうにごめんなさい! もう二度と悪事は働きません! もちろん人を食べる事もしません! ですからどうかご慈悲を!!」


 「「………」」


 加江須とイザナミは互いに顔を見合わせた後、苦虫を噛み潰したような顔をしながら加江須が話し掛ける。もちろん攻撃はしないが手に纏っている炎はそのままの状態で。


 「お前…少し調子が良すぎるんじゃないのか? まさかそんな安い謝罪だけで俺たちが納得するとでも?」


 その言葉に頭を下げているマリヤがビクッと体を揺らした。だが彼女は頭を上げると少し半笑いの様な状態で必死に生き永らえようと取引を持ち掛けて来た。


 「マ、マリヤはラスボについての情報を持っているよ! もしも助けてくれるならラスボの能力について話してあげるからさ!」


 彼女の口から出て来た言葉はさすがに無視できないものであった。この旋利律市へとやって来た最大の目的であるラスボの持つ能力。その情報は本音を言うのであれば喉から手が出る程に欲しい情報であるのだから。だがこの女の口から出て来る言葉が果たして信じていいのかどうか疑わしい。もしかしたら助かりたいが為の嘘を口にする可能性だって高いのだ。それにこれまで散々多くの人間を喰い殺して来たこの女を見逃すのも危険な気がする。

 

 「お前の話を信用する根拠がない。助かりたいがために口から出まかせを言うんじゃないのか?」


 そう加江須が少し低い声で言うとマリヤは急に態度が豹変したのだ。


 「何よ……何よ何よ何よ!! アンタら私と同じゲダツのディザイアってヤツとは手を組んでいたじゃない!! その女は良くてマリヤは許してくれないの!! 大体私たちを生み出したのはアンタら人間じゃない!! アンタたちが勝手に私たちを作り出して起きながら一方的に殺す訳!?」


 マリヤが騒ぎ立てながら眼の端に涙を滲ませ必死の形相で訴えかけて来る。

 

 「アンタたちが黒い感情を抱くから私たちゲダツが生み出されるのよ! それなのに元凶たるアンタたちは知らんぷり!? ただゲダツと言うだけで見つけたら問答無用で退治!? 何なのよ、私たちだって生きているのよ!! アンタたちにとってはマリヤたちはゴキブリか何かなの!?」


 「ぐっ……」


 次々とぶつけられるその言葉に加江須は少しバツの悪そうな表情となった。

 正直に言えばこのマリヤの言っている事は加江須にも理解できる部分がある。確かにその通りだ。自分たち人間が彼女たちゲダツを生み出す元凶であるのだ。人間は表向きはニコニコと笑う事が出来るがその内側には陰険な感情をひた隠しにして生きている。そして悲しき事にそんな人間の方がこの世界には遥かに多いのもまた事実だ。

 今の今まで心の奥底で悩んでいた事実をゲダツにぶつけられた事で胸がズキリと痛んだ。特にイザナミの方は思わず目を逸らしてしまっていた。


 加江須とイザナミの表情に悲しみや苦悩が出て来た事をマリヤは見逃さなかった。


 「私がラスボに従っていたのは彼に脅されていたからなの!! 自分の命を守る為には仕方がなかったのよ!!」


 その必死に形相から吐き出て来る言葉にイザナミはもう視線を下へと向けていた。その瞬間、マリヤの顔は一気に豹変した。今までしおらしい顔をしていた彼女は一気に口の端が吊り上がりそのままイザナミへ向かって飛び掛かって来たのだ。

 突き出された貫き手は並の人間ならば貫けるほどの威力であり、完全に無防備になっている彼女の腹部にその魔手が伸びて行く。

 視線を逸らしていた彼女はしまったと言う顔をするがもう遅かった。


 ――ザシュッ……


 生々しい肉の抉れる音と水っぽい音が同時に周囲に響いた。

 

 「……え?」


 反射的に目をつぶっていたイザナミが瞼を開けると自分の目の前に加江須が立っていた。彼はイザナミの前に立ちはだかり突き伸ばされたマリヤの指を腕でガードしていた。腕には神力を纏ってはいたが咄嗟に全力を籠める事が出来ず指先が腕の肉に喰い込んでいた。そこからは服を破り赤い滴をポタポタと落としている。


 「残念だったな…」


 「ぐっ、この!!」


 完全に虚を突いたと思っていたマリヤは思わず舌打ちをしてもう片方の手で貫き手を放ち加江須の急所部を抉ろうとする。だがそれよりも一手早く加江須は瞬時に妖狐へと変身すると炎を纏った尻尾をマリヤの首へと叩きつけた。

 まるで鞭の様にしなった尻尾が彼女の首をスパっと跳ね飛ばし、そのまま彼女の飛んだ首とその下の体を炎で包んだ。


 「か、加江須さん大丈夫ですか!?」


 目の前で燃えて行くマリヤをしばし呆然と見つめていたイザナミであったがすぐに正気を取り戻し、そして自分を庇って負傷した加江須の腕を心配そうに見つめる。神力で腕の強度を上げていたのでそこまでの深手を負っていなかったがそれでも痛々しい。


 「ごめんなさい加江須さん。私が不用意に彼女から目を逸らしたりしたから」


 「いや…別にいいよ……」


 血に染まった腕を見つめながらどこか複雑そうな表情をする加江須。

 やっぱり自分のせいで不快感を与えてしまったと思ったイザナミが少し必死になり謝ってくる。だが加江須は別に怪我をしたせいじゃないと誤解を解く。


 「さっきのマリヤってヤツさ…まあアイツは俺たちの隙をつくために演技していたんだろうけど……。でも…アイツの言っている事はそこまで間違ってもいないんだよなって思って……」


 「……そう、ですね」


 あの時にマリヤの言った言葉は全てが間違いではないと加江須も痛感させられていた。

 冷静に考えてみればゲダツは人間によって生み出される。ならばそのゲダツが人間を襲うのはある意味自業自得なのでは?などとつい考えてしまったのだ。そのせいでマリヤの不意打ちに対応するのも一瞬遅れてしまったのだ。


 「……やるせないよな」


 自分の血の滴る腕を見つめながら加江須は誰に言うでもなく独りで呟く。

 この腕の傷も滴る血ももしかしたらゲダツにやられた、と言うよりも自業自得と言った方が正しいのかもしれない。


 「……ホテルに戻ろうイザナミ。まだ仁乃たちが戦っていると思う」


 加江須はそう言うと負傷した部分の腕を軽い応急処置を済ませるとホテルへと戻って行く。その後をイザナミも付いて行くがその表情には影が差していた。

 

 「(人々の悪感情から生まれるゲダツ。この世界は永遠にこの呪縛から逃れられないのでしょうか?)」


 この地上へ追放される前からこの疑問をイザナミはずっと心のうちに隠していた。だがその解答はイザナミだけでなく他の神々にも出せるものではなかった。自分たちに出来た事は精々転生戦士と言う名の一時的な防衛措置に過ぎない。しかも転生戦士と成れる存在は限られている。つまりは根本的な解決法など何一つ浮かんではいないのが現状だ。


 「(この世界は今のままで良いのでしょうか? 本当に転生戦士を生み出していくだけでこの世界はもつのでしょうか?)」


 そんな疑問と共にイザナミは真っ黒な空を見上げる。 


 すでに追放された自分が知るすべはないがあの雲の向こうで下界を観察している神々は自分と同じ危機感をちゃんと抱いているのだろうか……?



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