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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その2
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ホテル内での追跡


 勢いよくホテルの窓から外へと飛び出したマリヤはそのまま降下して行き地上に着地した。ちらりと上を見ると加江須とイザナミの二人が飛び出て来る様子はない。恐らくだが今もまだ自分の傀儡が足止めをしてくれているのだろう。だが恐らくだが実力的にすぐに撃破されて後を追い掛けて来るだろう。


 「う~…マイヤの方は大丈夫かな?」


 未だにホテル内に居るであろうマイヤの安否を不安に感じるマリヤ。

 彼女も所詮はゲダツなので別段仲間意識が強固と言う訳でもない。ラスボに従っているのだって彼に心酔している訳ではない。ただ彼の強さに恐れをなして服従する道を選んだだけだ。だがそんな彼女もマイヤだけは友人の様な信頼を寄せていた。まあ親友と言う程でもないが。


 「早く出て来てよマイヤ…」


 先に独りで逃亡するのも気が引けて彼女はマイヤがホテルから脱出するのを待っていた。

 



 ◆◆◆




 ホテルの外では今か今かとマイヤの到着を待っているその頃、当の本人はホテルの廊下を走りながら階段の手前まで来ると3階から2階へと一気に飛び降りる。そのままかなりの高さから着地すると階段の少し手前に居た男性客が驚きの余り手に持っていた近くの売店の袋を落とす。


 「え…え…?」


 大きすぎる驚愕の余り声の出ない男を無視してその横を走り抜けていくマイヤ。その速度は凄まじくとても人間の脚力で発揮できるレベルではないと思った。

 目を白黒させて得体の知れないモノを見つめるかのような視線を遠ざかっているマイヤに向ける男性客。


 「……嘘だろ?」


 自分の見た光景がどうにも信じられず階段を途中まで登り上へと視線を向ける。


 まさかこの高さから飛び降りたのか? いや、でもこんな高さから飛び降りたら足の骨がぐちゃぐちゃになるに決まっている。それに飛び降りた後であんなダッシュが出来る訳が……え……?


 階段から上の3階を覗いていると何やら複数人の少女の話し声が聴こえて来た。その直後に上の階から階段を使って下りず、手すりから飛び降りて一気に自分の居る下の階へと複数人の少女が着地を決めた。

 飛び降りて来た少女たちは自分の存在に気付くと少し焦り始める。


 「あ、あのすいません。驚かせちゃって!」


 その中でツインテールの胸の大きな少女が早口で謝るとそのまま先程飛び降りて来た少女と同じ方向へと走って行く。その速度はまたしても人間の身体能力とは思えないほどのスピードだった。


 「………疲れてんのかな?」


 もしかして疲労の余り自分は幻覚でも見てるのではないかと思った男は片手で頭を抱えながら自分の借りている部屋へとふらふらと向かって行ったのだった。落としていった買い物袋を拾う事すら忘れて。


 2階の廊下を走りながら仁乃は少し焦っていた。

 

 「ああもうっ、さっきの人みたいにあまり一般人に私たちの戦っている現場を見られると不味いのに!」


 今更ながらに仁乃は自分たちの居るこの場所が戦いずらいフィールドである事に気付く。このホテル内には多くの一般人が居る。ここまではまだ先程飛び降りた際に一人だけすれ違っただけであるが早くあのゲダツ女を捕まえなければ何人にも自分たちの常軌を逸した力を目撃されてしまう。

 自分たちの力は裏の世界で扱う代物だ。何も知らない表の世界で気安く使っていいものじゃない。


 「早くあの逃げた女に追いつかないと大勢目撃者が出てしまうわ……!」


 「……それもありますが他にも懸念すべき点がありますね」


 仁乃の言葉に対して白がそんな事を口にする。

 一体どういう意味かと後ろからついてきている余羽が尋ねようとすると……。


 「あだっ! もう、急に止まらないでよ氷蓮!」


 白の言葉の意味を確かめようと顔を横にずらしていた余羽は自分の前を走っていた氷蓮が急に停止したので彼女の後頭部に鼻をぶつけてしまった。ジンジンと痛む鼻を擦りながら非難するかのような視線を向けようとするが……。


 「え、アイツ……」


 視線を前方に向けるとそこには自分たちが必死に後を追っていた目標のゲダツが立ち止まっていたのだ。まさか今まで全速力で逃げ続けていた相手が自分から立ち止まるとは思っていなかったが、しかしヤツは不敵な笑みと共に人質を取って立ち止まっていたのだ。

 その光景を一緒に見ている白が小さな声で『やはりこうなりましたか』と呟いている声が聴こえて来た。


 ああそうか。あの時に白さんが言った言葉の意味がやっと分かった。


 あの時に彼女の言った他の懸念点、それは一般人たちを人質に取られるかもしれないと言う意味だったのだ。どうしてこの可能性を自分たちはもっと考えなかったのだろう。


 そんな自分たちの間抜けさに辟易していると廊下の先からマイヤのどこか勝ち誇ったかのような調子の良い声が聴こえて来た。


 「はいはい動かないでねあなた達。それ以上近づいたりしたらマイヤも何をするか分からないよ」


 そう言いながら彼女は人質に取っている女性の首に腕を回し、更には両指を眼球の手前に突き付けている。掴まっている女性はどうにか逃げようと体を揺らしていたがそれを不快に思ったマイヤが舌打ちをして大人しくさせようとする。


 「あなたも動かないでよね。また痛い思いしたくないでしょう?」

 

 そう言うと彼女は女性の手を掴むと彼女の右手の薬指をへし折ったのだ。

 強引に変な方向へと薬指をへし折られ女性は激痛から呻き声を上げる。よく見ると彼女の右手は今折られた指以外にも小指が奇妙な方向にへし折れていた。どうやら人質にする際に暴れる彼女を取り押さえる為に小指を折ったのだろう。


 「テ、テメェ……!」


 何の罪もない一般人を痛めつけるマイヤに氷蓮はギリッと歯を噛みしめながら一歩前へと進む。

 だがマイヤはこちらに近づこうとする氷蓮を見て人質にしている女性の中指をへし折って見せた。


 「………ッ!?」


 まるで小枝の様にまたしても指をへし折られた彼女は叫び声をあげようとしていたがその口をマイヤが塞いでしまう。

 

 「静かにしてよね。それよりも転生戦士さん、まだ近づこうとするなら次は親指と人差し指を2本まとめて逆方向に曲げちゃうから。それとも両目を抉って見る?」


 「ぐ…この…!!」


 思わず感情に任せて飛び出てしまいそうになる氷蓮を仁乃が糸で巻き付けて強引に動きを止めた。

 彼女の気持ちは痛いほどによく分かる。自分たちの戦いに関係の無い一般人を巻き込み、更には道具の様に無感情に傷つけ破壊する行為に腸が煮えくりかえる思いだった。その後ろでは白と余羽も唇を噛みしめていた。もしも人質が手元から離れればその瞬間に飛び出している事だろう。


 「動いちゃだめよー。マイヤがこのホテルから脱出するまではその場で待機しているように。心配しなくても安全な場所まで逃げ切れたら解放してあげるから」


 誰が信じられるか、そう口にしたいが無言を貫く一同。

 そうこうしているうちに彼女はじりじりと人質を盾にしながら後退して行く。

 

 「(この腐れ外道め。今に見てなさい、無色透明の糸を伸ばして縛り上げてやるわ…!)」


 このままでは逃げられてしまうと判断した仁乃は自らの能力で造り出す特殊な糸、透明なクリアネットを巻き付けようとするが……。


 「っ! 少しでも変な動きを見せたらこの女の残っている指を全部折るからね!!」


 決して仁乃が指先から出していたクリアネットが見えていた訳ではないが何か不穏な空気を察したのかマイヤが先手を打って叫んだ。

 その言葉にビクッと指先を震えさせ体が硬直してしまう。


 「……動くんじゃないわよ」


 そう言いながらマイヤは少しずつ後退して行く。どうにかして彼女と人質を引きはがせないかと皆が考えていたその時であった。


 何の前触れもなくマイヤの後頭部にナイフが深々と突き刺さったのだ。

 

 「グギィッ!?」


 いきなり後頭部にナイフが突き刺さり激痛に動転してしまうマイヤ。その際に女性に回していた腕の力を緩めてしまい女性を解放してしまった。

 自分の首を絞めていた腕が緩んで自由になった女性は泣きながら仁乃たちの方へと逃げて来る。涙交じりの年上の女性を白が抱き寄せてもう大丈夫だと告げると彼女は安堵から子供の様に泣きじゃくり始めた。


 人質を手放してしまった事に対してしまったと言う顔をしたマイヤであったが、それよりも突然頭部に生えて来たナイフの方が遥かに問題だ。

 

 「流石はゲダツね。後頭部をナイフで刺されてもまだ息があるわ」


 聴こえて来たのはどこか人を小馬鹿にするかのような少女の声。

 振り返るとそこには歪な笑みを浮かべている少女が立っていた。その少女に何者かを問おうとするが次の瞬間には目の前から姿が消えた。


 「え…どこに……うぐっ!?」


 突然腹部に痛みが走り視線を下に向けるとそこには屈んでいる少女がいつの間にか居た。そして腹部にはナイフが深々と突き刺さっており、次の瞬間にそのナイフは腹部を深く大きく縦に裂いた。


 「う…あ……」


 一体何が起きたのかまるで理解できずにマイヤの体は光の粒となり崩れていく。そしてバラバラの光の粒となり辺り一面に散らばって行った。

 まさか自分たちが手出しできずにどう対処すべきか悩んでいた相手があっさりと死んでしまうとは思わず呆然とする。だが次の瞬間には彼女たちの表情が敵意に彩られる。その中でも白の怒りの表情は一番明確に判別しやすかった。


 「どうしてこの場面であなたが出て来るんですか…!?」


 「もう…同じ転生戦士が来たんだからもっとフレンドリーに接して欲しいわね」


 忌々しそうに睨みを利かせる白とそれを余裕そうに受け流す狂華。

 

 もうすでにゲダツを無事に倒せた筈にもかかわらず両者の間に走る空気は先程よりも張り詰めたものへとなっていた。



 

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