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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その2
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死者の強み、不死身に近い死兵


 「グガアアアアアアアッ!!!」


 耳障りな奇声と共に金森は加江須へと飛び掛かって来た。

 未だに彼らが殺されて傀儡とされている事を知らない加江須は戸惑いながら話し掛ける。


 「お、おいアンタどうした? 何でアイツらの命令になんて従う!!」


 「グギィィィィィ!!!」


 彼の問い掛けに対して返って来たのは聞くに堪えない奇声だけだ。まるで意思疎通が出来ていない事を確認すると申し訳なさを感じつつ蹴りで迎撃した。

 彼の神力が籠った蹴りは飛び掛かって来た金森の横腹にぶち当たり、脚が身体に振れている部分に何やら硬い物が軋み、パキリと割ってしまう感触が伝わって来た。間違いなくこの一撃であばら骨が何本か粉砕したのだろう。


 だが……金森は口の端から血を垂らしながらも平然と掴みかかって来たのだ。


 「な、なに!?」


 まさか痛がることも怯む事もなく掴んでくるとは思ってもいなかった加江須に一瞬だが隙が生まれてしまう。だがすぐ近くに居たイザナミのフォローが入り稲妻の様な速度の蹴りで顎下を下からかちあげた。その威力に天井まで吹っ飛んだ金森だったがすぐにむくりと起き上がる。完全に痛覚が存在していない。

 まるでダメージを感じていない金森を見てイザナミが言った。


 「あの人から生気を感じられません。恐らくあれはもう……」


 それ以上先は何も言わなかったが彼女が何を言いたいのか加江須には理解できた。生気をまるで感じさせない乾いた瞳、それにまるで痛みがないかのような立ち振る舞いは生者のそれではない。

 

 あれは殺されて死体になった者を操っているのか? あのゲダツの二人組の命令を聞いて動いている事を考えると死者を操る類の能力者か?


 だがもしそうだとすれば司令塔であるあの二人を撃破すればこの骸たちも動かなくなるはずだ。そう思い加江須は拳を燃え上がらせながらマリヤへと飛び掛かって行く。しかしソレを邪魔するかのように受付で殺された男が壁の様に立ちはだかる。


 「ぐっ、邪魔だ!!」

 

 相手がもしもただ操られているだけならば加江須も加減が出来た事だろう。しかし立ちはだかっている男はわき腹が派手に抉られ大量の出血、どう考えても完全に骸となり果て操られている事が分かっているので加減無しの拳を叩きこむ。

 激しい打撃音と共に神力で強化された加江須の拳は男の胸に刺さり、そのまま貫通して背中から加江須の腕が飛び出る。


 「悪いな…!」


 いくら相手が既に死者となっているとは言え、いや死者だからこそその肉体を傷つける事に罪悪感が芽生える。だが加江須は重要な事を忘れていた。そう、相手は既に魂の無き肉の塊だ。たとえ体に拳が突き抜け貫通したとしても既に死んでいる骸には致命傷にならない。

 

 貫いた腕を引き抜こうとする加江須であるが、なんと受付の男は腕が貫通したままの状態で普通に動き、自分に深々と突き刺さっている加江須の腕を掴んで動きを止めたのだ。流石にこれにはギョッとした加江須であったがすぐに立ち直る。


 「すまないがもう成仏してくれよ!!」


 例え重要な臓器を破壊しようが、身体をどれだけ破損させようが動き続ける。ならばもう動き様のない状態にするしかない。彼は突き刺している腕に神力を練り込んだ業火を発生させる。その火力はあまりにも強力で目の前の彼の亡骸を一瞬で黒ズミにする。


 「う、うそ。どんな火力しているの?」


 自分の傀儡が一瞬で真っ黒な塊にされた光景にマリヤは戦慄を覚える。ハッキリと言ってまともに戦えば自分は確実に殺される。そう悟るともうここはやはり逃走を選択すべきだと潔く逃げる為のルート確保に専念した。




 ◆◆◆




 加江須たちが室内でマリヤと戦っている一方で廊下でも仁乃たちがマイヤへと攻撃をするが壁の様に操り人形の転生戦士である二人の男が立ちはだかる。

 金森同様に命令に忠実に動く人形に仁乃は舌打ち交じりに顔を歪めた。


 「邪魔よこの!」


 糸で作り上げた槍を振るうがそれを回避しようとしない二人組。

 いくら糸とは言え束ねれば立派な人体を破壊できる武器だ。それに神力も籠められているので威力は絶大だ。


 「おいマジか。こいつら血反吐吐きながら戦ってやがる…!」


 「き、気味悪い…うぅ……」


 仁乃の攻撃を受けて吐血しながらも攻撃を繰り出してくる二人組に氷蓮は舌を出してうげっとした顔をする。その後ろではあまりの不気味さから余羽が引いていた。


 「もう彼らは人間と思ってはいけないようですね」


 そう言うと白は刀を生成して仁乃の加勢のために飛び出し、片方の男の腕を斬り落として見せる。だがやはり片腕を斬り落とされても男は動揺すらしない。それどころかその切り落ちた腕をもう片方の手で空中で拾うとソレを投げつけて来たのだ。


 「ぐっ、奇行が過ぎます…!」


 完全に常軌を逸している戦闘方法に白すらも寒気が背中に走った。

 

 「あっ、アイツ逃げるよ!!」


 余羽の一際大きな声が廊下に響き仁乃たちが目を向けると、壁となる二人組で足止めをしつつマイヤは廊下を走っていた。

 まさかこうまで堂々と敵前逃亡をするとは思わず焦りが生じる。


 「逃げんじゃないわよこの! アンタ、それでも人々が恐れるゲダツなわけ!?」


 まさか隙をついて攻撃しようとすらせず逃げ出すとは完全に予想外だったので追跡の為の初動に遅れる。しかも今もなお操り人形と化している二人組が邪魔で仕方がない。


 このままではマイヤに逃げられると焦った氷蓮は仁乃と白を押しのけ前へと出る。そして全身から冷気を放ちながら目の前の二人の男を睨みつける。


 「たくっ、この男たちはもう死んでんだよな? なら全身氷漬けにしてすぐにあのゲダツを追うぞ!」


 そう言って最速で目の前の骸二つを行動停止に追い込もうとするが、まるで氷蓮の攻撃を迎撃するかのように身構える傀儡たち。今まで不気味な動きばかりしていた男たちが急にまともな構えを見せる事に少し驚きはしたが、彼女たちが真に驚愕したのはこの後であった。




 ◆◆◆




 廊下での戦闘と同時進行で室内でも加江須とイザナミがマリヤを打ち取ろうと奮戦していた。だがマリヤの盾になろうと命令に忠実に動く金森が邪魔で仕方がない。どうにか撃退しようと奮戦するイザナミは少し威力を上げて蹴りを繰り出した。


 「くっ、ごめんなさい!」


 死体に鞭を打って辱める事に大きな罪悪感を感じつつイザナミの鋭い蹴りが金森の側頭部に蹴りを綺麗に入れる。するとゴギッと言う嫌な感触と音が響き彼の首が奇妙な方向へと捻じ曲がった。だが彼は首をへし折られながらも逆に拳を突き出して来たのだ。


 「ぐっ……!」


 咄嗟に腕をクロスしてガードに成功したイザナミであったが彼女の顔は驚愕に染まる。それは金森の拳には神力が宿っていたからだ。いや…神力と言うよりは少し禍々しい力だ。その力を感知した彼女は思わず比喩表現ではなく吐き気すら込み上げて来た。


 「な、何ですかこの力は? まさか神力が変容して……」


 「イザナミ…?」


 何やらイザナミの様子がおかしい事に気付く。これは加江須たちよりも神力の扱いに長け、さらに感受性も一番高い彼女だからこそ最初に気付けたことであった。


 マリヤとマイヤは能力持ちの人型ゲダツ。その力は『亡骸を操る特殊能力』であり、その能力名の通り物言わぬ死体を自由に使役できる力だ。そして厄介な点はただ死体を動かせるだけでない。もうすでに死体と化しているがために痛みを感じず、致命傷となる傷を受けても動き続けられる。そして一番厄介な点はもしも操る対照が力のある者……つまりは転生戦士ならばその者の生前の能力を使役できると言う事だ。


 金森は首を捻じ曲げたまま命令を下す主を守る為に神力を解放した。

 

 先程までは金森はイザナミを殴る際に拳にのみ神力を籠めていただけだから加江須たちは気付かなかったが、今度は全身から神力が放出されたために加江須も廊下側に居た仁乃たちも気付く。


 「な…なんだこの吐き気がする神力は? いや…こいつから放たれている気配…これは神力か?」

 

 死者となった金森から放出される力は確かに神力と酷似している。だがそれと同時に信じられない不快感まで伝わってくるのだ。まさか力を感受して恐怖や緊張よりも吐き気を感じるとは思いもしなかった。

 

 「ぐっ…気分悪くなってくるぜ。この金森から感じる力は…?」


 「恐らくは神力でしょう。しかし死体となって力を使う事で死臭が神力と混ざり合っているのでしょう」


 イザナミから聞かされた予測になるほどと感じていたが、すぐに呑気に推測している暇ではなくなる事を思い知らされる。

 

 「ウガアアアアアア!!」


 金森は意味不明な叫び声とともに加江須へと向かって来て拳を突き出す。だがこのていどの速度なら……そう思って右に避けた。

 

 「当たるか……がッ!?」


 「加江須さん!?」


 確かに繰り出された金森の拳は避けたはずだった。だがどう言う訳か拳を避けても頬に殴られたかのような衝撃が走ったのだ。

 殴られた頬を押さえながら何が起きたのか理解できない加江須。


 「どう言う事だよ? 確かに避けたはずだぞ……」


 間違いなく金森の拳を自分は避けていた。にもかかわらず実際はぶん殴られたかのような衝撃が頬に走ったのだ。


 イザナミも何かおかしな力を金森が使用している事を理解して呟いた。


 「間違いありません。この人が生前持っていた特殊能力でしょう……」


 「たくっ…まさか能力まで生前と変わらず使えるとはな……」


 唯の死者ではなく不死身に近い転生戦士との戦いであると理解した加江須とイザナミは気を入れ直す。

 もう死者にこれ以上は鞭打ちたくないなど言ってはいられない。そして廊下側でも仁乃たちが相手をしている転生戦士たちがついに能力を使用し始めていた。



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