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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その2
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休息


 初日の激闘を終えた加江須たち一行は繁華街の中央付近のホテルで休息を取っていた。この繁華街内のホテルに泊まるのは少し思う部分もあったが、しかし今から繫華街の外へと出て休息を取れる場所を探すにも時間が掛かる。寝床を見つけられず最悪野宿と言う事態になるのだけは避けたかったのだ。

 

 加江須たちが借りた部屋は3つ、フロントで鍵を受け取ると指定された部屋へと向かって行く。


 部屋の内訳は加江須とイザナミ、仁乃と氷蓮、白と余羽と言う具合に分れる事となった。普段であれば加江須と二人きりには自分がなりたいと仁乃や氷蓮が立候補していただろうが今回はイザナミに譲ってくれた。このホテルに来てからもイザナミはディザイアを守れなかった自責の念に囚われているようなので加江須に任せる事としたのだ。


 もしもの時はすぐに連絡を取り合う事を取り決めた後、あてがわれた部屋へと3組は分れてそれぞれ部屋で休息を取り始める。

 

 「……大丈夫かイザナミ?」


 部屋でしばらく加江須とイザナミは互いに無言であったがタイミングを見計らって加江須が話しかける。やはりディザイアを守り切れなかった事を未だに悔いているのか彼女の顔は失意に沈んでいる。

 少しでも彼女を慰めようと加江須は彼女の隣に座ると肩を優しく抱いた。


 「辛かったな…」


 「!?」


 今まで無言を貫いていたイザナミの肩が彼のその言葉に震えた。そして数秒後には透明な雫がツーっと頬を伝って手元に落ちた。

 そして彼女は加江須に身を寄り添わせるとポツリポツリと自分の胸の溜め込んでいた苦しみを吐露し出した。


 「加江須さん…私は自分が情けないです。いくら弱体化しているとは言え神でありながら仲間すらも守れない。本当に私は駄目神様です。あはは……」


 本当にイザナミは心の優しい神様だと加江須は改めて思っていた。いかに協力関係だったとは言えあのディザイアの様なゲダツが死んでも胸を痛める。それに公園に辿り着いた時もイザナミは半ゲダツはともかく一般人たちは気絶程度で済ませていた。もしも自分が彼女の立場ならばここまでディザイアの死に嘆いていただろうか? だが目の前で誰かを守れなかった苦しみは加江須にも痛いほどによくわかる。

 悲哀感に苛まれるイザナミを抱きしめながら加江須はもっとも自分が絶望を感じた時の事を思い出していた。


 「(……黄美。俺もお前を守れなかったんだよな……)」


 今この場には居ない…いやもうこの世にすら居ない恋人の名前を心の内で呼んでいた。


 あの時に自分は目の前で黄美を守り切れなかった。必ず守って見せると誓っていながらもみすみす死なせてしまったのだ。


 「加江須さん……震えてますよ……」


 気が付けば自分の罪を思い返して加江須の体が震えていた。

 イザナミの様にこの戦いでまた恋人の誰かを、それこそ目の前に居るイザナミを失ってしまうかと考えるだけで震えが止まらない。だが今ここで弱気な態度を見せればイザナミをより心配させてしまう。

 だがそんな彼の強がりをイザナミは見抜いていた。


 「怖い…ですよね。誰かを失うのは…加江須さんだって私と同じく失う事が怖いですよね……」


 そう言うと彼女は加江須の背に手を回して抱き返してくれた。そして何を言わずしばしの間、二人は互いに抱きしめ合い続けた。

 慰めてあげようとしていたはずがいつの間にか逆にイザナミに慰められて少し情けない気分になったが、どうやらイザナミの気分も落ち着いてきた様だった。


 「すいません加江須さん。いつまでもへこたれていられませんよね」


 そう言うとイザナミは自分の両頬をペチペチと叩いて気合を入れ直す。


 「まだ元凶たるラスボを倒せていません。こんな所で腐っている暇なんてありませんよね」


 それは加江須に対して言っているというよりも自分に強く言い聞かせている様であった。

 加江須は彼女の両手を握ると彼女の瞳を見つめながら今度こそ誓って見せた。


 「イザナミ、お前のことを俺は必ず守るから。仁乃も氷蓮も、そして白と余羽ももう誰も黄美やディザイアの様に死なせないから……」


 そう言って誓いを立てた後にしばし二人は見つめ合い、そしてゆっくりと互いに目をつぶり顔を近づける。そのまま互いの唇を少しの間合わせ続けた。

 

 「……ん…一緒に最後まで戦いきりましょうね加江須さん」


 「ああ、もう誰も失わせてたまるか」


 そう言いながらもう悲壮感が大分抜け落ちたイザナミの頭をよしよしと撫でて上げた。

 頭部に置かれる温もりに気持ちよさそうに目を細めるイザナミであったが、しばらくすると部屋のドアの方を見ると少し申し訳なさそうな顔をした。


 「加江須さん、私ばかりに構わないでお二人にも」


 イザナミがそう言うとドアの向こうがガタンッと音を立てる。何事かと思い加江須も少しだけギョッとした顔をし、その直後にドアがノックもなしに開いた。そこには盗み聞きをしてバツの悪そうな表情の仁乃と氷蓮が居た。

 

 「お前たち盗み聞きしてたのかよ…」


 それにしてもイザナミはドアの向こうの気配にちゃんと気付いていたな。やっぱり弱体化しているとはいえ俺以上の力を秘めている事が良く分かる。


 改めてイザナミの実力を再認識していると二人が口を開き始めた。


 「しょ、しょうがないでしょ。イザナミさんが心配だったんだから」


 「そ、そうだぜ。イザナミだって俺たちと同じ大切な恋人なんだしな」


 呆れ気味に加江須に盗み聞きをしていた事を問い詰められると二人はどもりながらそう答える。

 正直に言えばイザナミの様子が心配だったと言う事もあるが、それ以上に自分たちを置いてイザナミと加江須の二人っきりの状況が気になって仕方がなかった。そして加江須も何となしに二人の本音を見抜いており二人に手招きをする。

 加江須に呼ばれ二人はそそくさと近付いて来ると無言でずいっと頭を差し出して来た。


 「たくっ…可愛い奴等だな」


 そう言うと加江須は差し出された二人の頭をイザナミの時と同じように優しく慈愛を持って撫でて上げる。そうすると二人も猫の様に目を細めて気持ちよさそうに顔をほころばせる。

 気が付けばイザナミから放たれていた重い空気は払拭され、そして少しくすぐったい雰囲気が室内に広がっていた。


 ――その部屋の様子をまたしても廊下のドア越しから二人の少女が見つめていた。


 「はぁ~…イザナミさんの様子を心配して見に来たけど損しちゃった」


 「まあ立ち直れたのならば良いではないですか」


 廊下の外から部屋の中を今度は余羽と白がこっそりと気配を消して見ていた。

 この二人は純粋にイザナミを心配して様子を窺いに来たのだが、いざ見に行ってみれば砂糖の様な甘い世界が広がっており余羽は胸やけをする。

 すると自分の背中越しに室内の様子を窺っていた白は少し頬を染めながら余羽に話しかけて来た。


 「あの…どう思いますかあの雰囲気?」


 「え、ああ。凄い甘くて甘くて勘弁って感じかな~」


 「いえ、その……どこまで進んでいるのでしょうか?」


 白の言葉にうん?っと首を傾げる余羽。

 そんな疑問符を頭の上に浮かべている彼女を置いておいてひとりで妄想を浮かべ続ける。


 「あれだけ甘い雰囲気ならばもう相当進んでいるのでは? も、もしかしてもうキスを通り越してあんなことやこんなことまで……ごくり……」


 少し頬を紅く染めながら何やらいかがわしい方向に想像を広げている彼女を見て余羽は溜息を吐いた。


 「(ああもう…真面目だと思っていたけどこの娘もこの娘で……)」


 何だか胃がキリキリと痛みだし始めた気がし、イザナミの代わりに今度は違う意味で余羽が憂鬱そうな表情を浮かべるのであった。




 ◆◆◆




 加江須たちがホテルで休息を取っているその頃、ひとりの転生戦士が活動していた。


 「それで? アンタたちの親玉はどこに居るの?」


 「し、知らねぇよ」


 人気の少ない繁華街の路地裏で複数の男が一人の少女に完膚なきまでにボロ雑巾とされていた。辺りは痛みに呻く男たちの苦悶の声が漂い、その惨状を作り上げた張本人である狂華が疲れた様に溜息を一つ漏らす。


 「くだらない意地を張ってないで素直になった方がいいと思うんだけどなぁ」

 

 そう言いながら彼女は質問をしていた男とは別の倒れている男の脳天にナイフを投擲した。凄まじい速度で頭頂部に根元までナイフが突き刺さった男はビクンと体を跳ね、そのままピクリとも動かなくなった。

 見せしめとして仲間の1人が殺された事に狂華の前で倒れ込んでいた男は震え上がった。まるで作業の様に人をひとり終わらせた事に心底恐怖を植え付けられる。


 ガタガタと震える男に再度狂華は同じ質問をしてくる。


 「アンタたちの親玉はどこかなぁ? 私もアンタたちの雑魚ばかりに構うのも面倒なのよ」


 そう言いながら見せしめとして他の倒れている男にまた頭部にナイフを飛ばして絶命させる。それは暗にこれ以上隠し立てするならお前もこうなると言われている事が嫌でも理解できる。他の倒れている男たちも仲間が二人も殺され震え上がっていた。しかし逃げようにも彼等の体はもう満足に動かせない程に痛めつけられ逃げる事もままならない。

 そして狂華に至近距離まで顔を近づけられながら3度目の質問。


 「ア・ン・タ・の・お・や・だ・ま・は・ど・こ?」


 わざと恐怖を煽るかのように一文字一文字を少しデカい声で発しながら最後の質問をする。そして男の方もここで何も言わなければ自分が今度は無造作に殺される番だと理解した。だが答えようにも末端である自分はラスボの潜伏先がどこかは本当に知らないのだ。

 いっそのこと嘘でもついてこの場から逃れようかとも考えた。だが目の前の女は不思議と嘘を看破してしまう気がして結局は正直に答える事しか出来なかった。


 「俺たちは知らない。本当に知らないんだよぉ…」


 恐怖の余り涙を流しながらそう男が言うと彼女は『あっ、そう』とだけ呟くとそのまましゃがみ込んでいた体制から立ち上がり、そして背を向けて路地から立ち去って行った。

 

 もしかして助かったのか、そう思った瞬間――路地に居た男たちは一人残らず爆発四散して飛び散った。


 「はあ~……ダル……」


 路地の周辺は地面や壁が真っ赤な液体で塗りつぶされて凄惨な光景を作り出していた。だがそんな惨状を作り出した当の本人は口笛を吹きながらその場を立ち去って行った。


 それから数十分後、酔っ払いがこの路地へと入り込んで腰を抜かす事となる。それはさながら地獄の様な空間であったと……。

 


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