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氷蓮の語るゲダツの習性


 「ちょと待て氷蓮、俺たち以上にゲダツの事を知っているとはどういう事だ?」


 氷蓮の口から出て来たその言葉は仁乃だけでなく、加江須の警戒心も引き上げるに値する発言であった。

 無意識のうちに加江須は仁乃を庇うかのように彼女の前に立ち、背を向けて立っている氷蓮の事を訝しむように見つめる。


 「今からゲダツと戦闘をしに行く。その言い方じゃまるでゲダツがどこに潜んでいるか分かっている様な口ぶりじゃないか」


 「まるでも何も…いくつか心当たりがあるという事だ」


 「……なんでゲダツがどこにいるか、その心当たりがお前にある?」


 いつの間にか加江須の口調は質問と言うよりも尋問の様に変化し始めていた。

 加江須から感じる気配が何やらとげとげしくなった事を感じ取った氷蓮は振り返えって落ち着くように促す。


 「そんなに警戒すんなよ。俺がなんでゲダツの居場所に心当たりがあるか、それは歩きながら話してやるからよ」


 そう言いながら再び歩き出し始める氷蓮。その後姿を見ながら仁乃は加江須に囁きかける。


 「ねえ加江須、本当に付いて行って大丈夫だと思う? 私…なんだか嫌な予感が…」


 「……」


 正直、仁乃と同様今の加江須も目の前の少女に対して言いようのない不安を感じ取っていた。何故彼女はゲダツの出現場所に心当たりがあるのか?


 「(……よくよく考えれば俺は氷蓮の事を何も知らない。本当にたった今会ったばかりの間柄だ……)」


 もしかして彼女は自分たちを罠にはめようとしているのではないのか? そんな考えをしてしまうと目の前の少女に対して疑念がドンドンと湧いてくる。

 しかし、先程のファミレスでのやり取りを思い返すと彼女が自分たちを騙そうとしている類の人間とも断ずる気にはなれなかった。


 「仁乃、とりあえず今はあいつに付いて行ってみよう」


 「え、でも……」


 危険なんじゃないかと言おうとする仁乃であるが、そんな彼女の不安を拭うように加江須が彼女の手を優しく握った。


 「安心しろ。いざとなれば俺が守ってやるよ。それにゲダツについて氷蓮が何か知っているなら俺も知っておきたい。今後の為にな…」


 「う、うん…」


 加江須にそう言われ素直に頷く仁乃。彼に手を握られた仁乃は今まで感じていた不安が消えて行き、とても大きな安心感に包まれる。


 そんな二人のやり取りを、直接反応はしないが心の中で声に出していた氷蓮。


 「(たく…お熱いねぇ。この距離からだと丸聞こえなんだよ)」


 何気に恥ずかしい会話をしている二人に少し呆れる氷蓮。

 しかしどうやら加江須の方は素でそう言っている様で、今時こんな臭いセリフを言える奴が現実に居るもんなんだなぁと思う氷蓮。


 「(まあとにかく、いつまでも疑われ続けるのも癪だ。とりあえずこっちから話すべきことは話しておくか)」


 このまま目的の場所まで黙って先導し続けても疑いが晴れる訳ではない。向こうは自分の事を怪しげな少女と思っているが、自分としてはあの二人、特に加江須の力を借りたいと純粋に思っているだけだ。


 背後から感じる疑いの視線をむずがゆく思いながら、背中を向けつつ氷蓮は歩きながらゲダツについて自分の知っている事を二人に教え始める。


 「なんで俺がゲダツの出現場所に目途が立つのか……それは奴等の習性をなんとなく程度だが理解しているからだ」


 「習性…?」


 加江須がそう訊き返すと、前を歩いていた氷蓮はクルっと反転し、後ろ向きで歩きながら二人と目を合わせて話を続ける。


 「そう、とはいえこれはあくまで俺の勝手な憶測の域を出ない。だから今後、今から聞く情報をあまり頼りにしねぇ方が良いと思うぜ」


 自分の知っている情報が正解かどうか判断できない事を伝えてから、自分のこれまでのゲダツとの戦いの中で知り得た事を話し始める。


 「まず、チームを組む前に俺の言っていた事を覚えているか。討伐率が100パーセントじゃないって言っていたろ」


 「ああそう言っていたが…それがどうした?」


 「実はよ、俺は一度取り逃がした事のあるゲダツを後日〝同じ遭遇場所〟で出会って改めてぶちのめした事が3度あるんだよ」


 「え、同じ遭遇場所って……」


 氷蓮のその言葉を聞き加江須ではなく、今まで黙っていた仁乃の方が反応を示した。

 反応を見せる仁乃の姿に氷蓮が彼女に質問をする。


 「何だよ仁乃。その様子だとお前も同じ経験があるのか?」


 「……まあね」


 数日前に河原で遭遇したカマキリ擬きのゲダツ。あの個体と遭遇したのはあれで二度目であった。しかも遭遇場所も同じであったのだ。

 氷蓮と同じ経験をしている仁乃は完全ではないとはいえ、彼女の言っている事が多少は真実ではないかと思い始める。

 一方、加江須はさり気なく言っていた氷蓮の3度と言う単語が気になっていた。


 「(一度取り逃がしたゲダツを3度撃破した。しかも恐らく初見に倒した個体を含めるとこれまで何体のゲダツを倒してきたんだ?)」


 そんな二人のそれぞれの内心を知らずさらに説明を続ける氷蓮。


 「一度逃がしてしまった個体と百パーじゃないが改めて同じ場所で遭遇する事がある。これはあくまで可能性だが……ゲダツは恐らく縄張りの様なモンを意識してんじゃねぇかと俺は思うんだよ」


 「縄張り…あいつ等にそんな事を思考する力が有るのか?」


 「さぁな…さっきも言っていたけどあくまで俺個人の見解だ。だが、同じ場所で取り逃がした個体と遭遇、それも3度となればそうも思えねぇか?」


 氷蓮のその言葉に加江須と仁乃は内心で同意の気持ちが大きくなる。特に仁乃は同じ個体と同じ場所で遭遇した経験があるため尚更そうである。

 

 「そしてもう一つ、ゲダツは恐らくだが人目のつかない場所をできるだけ縄張りにしてんじゃないかと思うんだよ」


 「そう思う根拠は?」


 「俺がこれまでゲダツと遭遇した場所から考えてそう思ったまでだ。お前らはどうなんだ?」


 氷蓮にそう言われてみると、加江須が初めてゲダツと遭遇した場所は廃工場であり、仁乃がリベンジマッチを挑んだカマキリ擬きも人気の少ない河原であった。


 ここまで氷蓮の話を聞き、意外にもそれを先に肯定したのは仁乃の方であった。


 「正直…あんたの言っている事、あながち間違えとは思えないかもしれないわ。現に私も思い当たる節があるし……」


 「へぇ、そう言ってくれるとホッとするぜ。それで、少しは信用してくれたか?」


 どこか挑発的に見える笑みを浮かべながら氷蓮が仁乃にそう訊くが、彼女はプイッとそっぽを向く。

 

 「まだ完全に信じた訳じゃないわよ。少し頷ける部分があっただけよ」


 「ケッ、そうですか」


 そっぽを向いている仁乃から視線を隣に移し、今度は加江須に聞く。


 「お前はどうだよ? 俺がまだ信じられねぇか?」


 「…別に俺個人はお前を完全に敵だと思っていないし、それにチームを組むと言ったんだ。信じたいとは思っているさ」


 「遠回しにまだ信用してないと言ってるのと同義な気がすんが…まあいいや」


 気が付けば様々な店が立ち並んでいるエリアを離れ、人通りの少ない道路を歩いていた3人。すると人の目がなくなったのか氷蓮が大きく跳躍して近くの電柱の上へと飛び乗った。


 「お前らも上の方へ来いよ。歩いて行ったら時間かかるし、それに地上で走ると人目に付くかもだろ」


 「…その言い方、どうやらまだ目的地まで距離があるみたいだな。俺たちも上から行くか仁乃」


 そう言うと加江須も同じように跳躍し、氷蓮の飛び乗った電柱よりも手前の電柱へと飛び乗る。


 「仕方ないわねもう…」


 同じように激しく跳躍をする仁乃。

 

 「よし、じゃあ飛ばすぜ!」


 そう言うと一気に氷蓮が空中を移動し始める。その後に続く加江須と仁乃。


 「ちょっと、一体どこに向かう気なの? 街から随分離れて行くけど…」


 「言ったろ。ゲダツは人気の無い場所を縄張りにする傾向があるってよ。街中の様な場所にはあまり姿を出さねぇもんだ。まあ私個人の意見だがな」


 そう言いながら屋根の上を飛び移り高速で移動する氷蓮。

 まるで下を見ず、後ろに居る仁乃を見つめながら移動する氷蓮の動きを見て加江須は冷静に彼女の実力を測定する。


 「(着地する足場をほとんど確かめもせずに空中を綺麗に移動する移動の手際の良さ。やっぱり氷蓮はそうとう実戦を積んでいるな)」


 そのままペースを乱すことなく空中を移動していく3人であった。




 ◆◆◆




 しばらくの長距離移動を終え、3人は自然が溢れている場所へとやって来ていた。しかし3人の居る場所は山などではなく、自然の風景地を保護して楽しめる自然公園の中であった。


 一面が緑に囲まれた場所、その周辺を見渡しながら仁乃が疑問の声を氷蓮にぶつける。


 「ここって自然公園よね。結構人がいると思うけど…」


 実際に3人の視線の先には僅かではあるが遊びに来ている子供や親の姿も確認できる。

 

 「そりゃ今居るエリアは見晴らしもいいからな。でもこの公園の奥の方を見てみろよ」


 そう言って氷蓮が後ろの方を指さし、その方向に加江須と仁乃も視線を傾ける。

 彼女が指を差した方面は多くの木々が並んでおり、その木々が遮蔽物となり奥深くまで景色を見通す事が出来ない。


 「この自然公園は中々に広いからな。あの木々が立ち並んでいる辺りのエリアは向こうの芝生が広がっている見通しの良いエリアと違って人も少なく、目立たない」


 そう言うと氷蓮は木々が立ち並んでいるエリアの方へと歩いて行く。それに続こうと加江須と仁乃も後に続くと、その中で唯一、加江須だけが足を止めた。


 「加江須…?」


 突然立ち止まった加江須に仁乃が不思議がると、加江須は仁乃と氷蓮を追い越して先頭に付いた。

 彼の行動に首を傾げている氷蓮と仁乃。そんな二人の視線など気にせず今から入ろうとしているエリアを見つめながら加江須が言った。


 「なるほど…確かにいるな。何か嫌な視線を感じる」


 加江須が睨みつける先、木々に覆われ姿は未だに見えてこないがゲダツの嫌な気配を彼だけは確かに感じ取っていた。


 

 

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