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その姿はまるで……


 自らにとっての宝とも言える〝美しい顔〟を切り裂かれた事でフォックスの感情の爆弾は大爆発し、人の形をしていた肉体は暴走してかつての化け物の姿へと戻った。彼女の肉体は膨らみ、ガッシリとした筋肉質なものに変わる。全身は血の様な真っ赤な体毛で覆われ、元々の体格の5倍はありそうな巨体となる。その姿は体毛の色はともかく、容姿に関してはどこかゴリラを連想させる化け物だ。


 あまりにも今までとはかけ離れた姿に間抜けにも口を開けて呆けてしまう愛理。


 「へ、変身した? いやもしかしてアレが本来の姿って…事…?」


 「ああ恐らくだがあの姿が元の容姿だったんだろ。それにしても……」


 目の前で元々の姿を曝け出したフォックスの事をしばしの間じーっと見つめた後、真顔を浮かべていた彼の顔はぶふっといきなり噴き出す。

 彼が噴き出した事で隣に居た愛理はギョッとした顔になった。そしてフォックスに至ってはガチリと歯を噛みしめて目を血走らせる。


 「……何がおかしいのかしら?」


 どうやらまだフォックスは完全に理性を失っている訳ではないようで、堪え切れずに笑ってしまったと言った感じに振舞う河琉の反応に低い声で何がおかしいか尋ねた。

 そんな不快感を隠す気もないフォックスに対して河琉は指を差しながら言う。


 「お前が美しい女の姿を手に入れた事を喜んでいた理由が分ったよ。その醜い姿がコンプレックスだったか? まるでゴリラみたいな見た目だもんな」


 そう言いながら河琉は頬を少し赤く染めて口元をヒクヒクと痙攣させている。その反応は誰がどう見ても必死に笑い出そうとしている自分を押さえ込んでいると理解できる。現に彼の反応を見て愛理は内心でオタオタしていた。


 「ば、馬鹿! わざわざ相手を挑発してどうするの! あれだけ人型の時に自分の美貌に酔いしれていたナルシストだったのよ! 下手な事を言ったら……あ…やば……」


 少し慌て気味に口を開き声を出していた為、ついつい勢いに任せて河琉と同じように自分の思った事を素直に吐露してしまっていた。すぐに不味いと思い口に手を当てて誤魔化そうとするが時すでに遅し。


 「………ひえ」


 口を手で塞ぎながらそーっと変身したフォックスの方へとそろそろと視線を移し、そして思わず悲鳴が漏れた。

 視線を動かした彼女の瞳の中には眼球を血走らせ口から剥き出しになっている牙を覗かせて憤怒に駆られているゲダツの姿が映り込んだのだから。


 「ははは…ははははは……アーハハハハハハハッ!!」


 突然笑い声を上げるフォックスに二人は怪訝そうな顔つきになる。それもそうだろう。てっきり自分の容姿を貶された事にブチ切れるとばかり思っていたのでまさか笑うとは思ってもみなかった。

 だが二人は盛大な勘違いをしていた。笑いと言うのは必ずしも面白かったり嬉しかったりする場合のみに使用するとは限らない。苦笑や含み笑いなど、そして時として不愉快の極みに達している場合にも怒りの余り笑いを零してしまう事がある。そう、正に今のフォックスは完全に怒りの限界点を突破している状態であった。


 その後もしばらく笑い続けるフォックスだがその笑い声は前触れもなくピタリと止まり、大きく開いていた口を一度閉ざすとフォックスは静かな声で二人に対してこう言った。


 「本気で私を怒らせたな。テメェら楽に死ねると思うなよ」


 その言葉を言い終わったほぼ直後、電撃を操作して肉体能力を強化したフォックスは一瞬で二人の目の前まで迫っていた。

 変身…いや元の状態に戻ったフォックスの拳の大きさは人間の姿をしていた時よりも遥かに大きく、そして力強さを感じさせた。握って振りかぶっているフォックスの拳には血管が浮き出ており、その剛胆な拳に危機感を抱いた愛理はすぐに背後へと跳んだ。その際に彼女は自らの筋肉を電撃で強制的に動かし反射速度を上げていた。未だに肉体能力向上の技には慣れていないので僅か一瞬の強化でも愛理の体には反動でダメージが蓄積されてしまう。それでも今振り下ろされている拳が直撃するよりはマシだと自らに言い聞かせる。

 河琉も河琉で白虎に変身している身体能力を駆使して攻撃を軽やかに避けて見せた。

 

 「ちいぃぃぃ!! ちょこまかとォ!!」


 元の異形形態に戻った彼女の拳は床下に深々とめり込み、さらには拳には電撃の付与もされているので拳が突き刺さっている周辺にはスパークが弾け飛んでいる。

 攻撃が外れたフォックスはすぐに床下から拳を引き抜くと後ろへと跳躍した河琉の方へと向かって行く。やはりもっとも自らの忌むべき部分を指摘されて愛理以上に彼に対して殺意が芽生え、いや咲き乱れているのだろう。


 回避した自分を目指して突っ込んで来るフォックスに対して河琉は別段焦る事もなく、それどころか呆れ気味な顔をしていた。


 「ヤレヤレ、確かにパワーは目を見張るものがあるが図体がデカくなって動きが大振り気味だぜ? しかも怒り任せに突っ込んで来る獣なんざ尚更あしらいやすいんだよ」


 そう言うと河琉はバックステップで軽やかに後方へと下がっていた脚を止めてその場で仁王立ちになった。当然動きを止めればフォックスに一瞬で間合いを詰められる。


 「諦めたかぁ!?」


 「バーカ、そんな潔い男にオレが見えるかよ」


 ついに諦めて往生する気になったのかと口にするフォックスに大して嘲りながら河琉はのんびりとした口調で言い返してやった。

 この期に及んでも余裕の表情が剥がれない彼に更に怒りが上昇したフォックスの1撃が振り下ろされる。


 「おせぇおせぇ……そら喉元がガラ空きだ!!」


 巨体となった大振りの攻撃を紙一重で回避、そして流れるように右手の鋭利な爪で喉を抉ろうとする河琉はもはや勝ちを確信している表情であった。だが今回ばかりは彼も少し勝ち誇るのが早かった。


 ――ガギンッ……。


 「あん?」


 白虎の爪をフォックスの喉へと勢いよく突き刺したはずだったが、彼の伸ばした爪は喉を裂くどころか皮膚の上の体毛で止まってしまったのだ。爪の感触から感じる体毛はまるで鋼を突っついている感じだった。

 

 予想外の体毛の強度に河琉はしまったと言う顔になるがもう遅かった。


 「スキありィィィィ!!!」


 ――ボグシャ!!


 「うぼぶっ!?」


 予想外のアクシデントでコンマ1秒だけ河琉の次の行動が出遅れてしまった。風を切り裂いて振るわれる拳がモロに腹部を貫き凄まじい激痛が走った。ギチギチと骨の軋む音が内部から振動し、口からは血の塊を1つ吐き出した。

 彼の吐き出した血の塊を顔面に浴びてようやく嬉しそうに笑うフォックス。今まで溜めに溜められた鬱憤が晴れた瞬間であった。


 「そぅらぁ! ようやくイイ顔をしてくれたじゃない!!」


 そう言うともう片方の握りしめた拳を河琉の顔面に叩きつけてやる。

 咄嗟に彼は腕を顔の前でクロスして顔面を砕かれる事は防げた。だが防御した腕はギシギシとまたしても骨が嫌な音色を奏でている。そのまま彼は吹き飛ばされ、地面に勢いよく叩きつけられてゴロゴロと転がり続ける。


 「な、こ、この!!」


 愛理は背後に回り込んで雷撃による槍を飛ばしてやるが直撃をしてもまるでダメージを負っている様子が見られない。先程までは黒雷を纏っていたからこそダメージを受けていなかったが今は違う。そもそも黒雷を身に纏っていない。つまり素の状態で自分の電撃を受けてもまるで応えていないという事だ。

 フォックスはギロリと愛理の方へと視線を向けると一瞬で間合いを詰めて来た。


 「さあ今度はあなたの番よ。大人しく死になさいな」


 どうやら河琉をぶっ飛ばせた事で溜飲が下がった彼女は口調も元に戻っていた。しかし姿は相変わらず異形のままでその剛腕を振りかざしてくる。

 

 「ッ、肉体能力を向上!!」


 電撃を操り筋肉を強制的に動かそうとする愛理だが、身体の内部に電撃を流した瞬間に全身の筋肉が引き裂かれるような激痛が迸る。やはり未だ慣れていない筋肉操作をいきなり実践で多用するのはかなり無茶だったようで避けるどころかその場で膝をついてしまう。

 その場で膝をついてしまい視線だけ上へと向けるともうすぐ目の前までフォックスの繰り出した自分の顔よりも大きな拳が迫っていた。その瞬間、愛理の眼には迫りる拳がスローに見え、更には今までの自分の記憶が駆け巡る。


 「(あ…これって走馬……)」 

 

 不思議ともう助からないと思うと彼女はむしろ冷静になり、1秒後の自分の未来を予測できた。


 だが彼女の想像した悲惨な未来が訪れる事はなかった。何故なら愛理の顔面に拳がぶつかるよりも早く河琉がロケットの様に飛び出て来て腕に跳び蹴りを入れて拳の軌道を強引に変えたからだ。


 「へえ…まだ生きていたのね。でも随分とお疲れの様で」


 未だに立っていられる彼に驚いているフォックスだがその顔は誰が見ても見下しているかのような虫を見る目だ。それはこのダメージではもうまともに戦えないと決めつけていた。

 そんな彼女の視線に気付いた河琉は視線を下に下げて小さな声で呟き始める。


 「なるほどなぁ。もうオレでは勝ち目がないと決めつけているのか。さっきのオレもお前はもう相手にならないと決めつけて手痛いダメージを貰ったからな。この痛みは未熟な自分のツケだと思って受け入れてやる。そして今度はオレがお前に忠告してやるよゲダツ」


 そう言うと河琉の肉体が目に見えて変貌し始めたのだ。


 愛理の視線の先では自分よりも小柄な体格である彼がどんどん体格が大きさを増し、更には全身には真っ白な体毛が生え始める。そして口からはみ出る程に牙は伸び、彼の体格は元の異形の姿に戻ったフォックスと遜色ないほどの質量を感じさせる〝怪物〟へと変身した。


 「な…なによその姿は? アンタは転生戦士…つまりは人間でしょ?」


 フォックスが狼狽えるのは無理も無いだろう。

 何故なら彼の姿はまるでゲダツを連想させる完全なる怪物と変わり果てているのだから。


 「さて…ファイナルラウンド開始だ」


 河琉とフォックスの戦いはいよいよ最終局面を迎える。



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