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戦いの中で学んでいく


 完全に致命傷を突けたと思っていた河琉であったが、彼の攻撃はむなしく空を裂いており、しかもフォックスの速度が想定以上に跳ね上がり背後から攻撃を受けてしまう。

 彼女の電撃を殴打と共に背中から直撃して苦悶の顔を浮かべて吹き飛んでいく河琉。


 「ハハハッ! ド派手に吹き飛んだじゃねぇかクソ虎野郎!」


 そう言いながら口汚く吹き飛んでいった河琉を嘲るフォックス。

 今までの小悪魔的な雰囲気から一変してまるでチンピラの様な豹変を見せる。だが性格の変わりよう以上に明らかに速度が桁違いに跳ね上がっている方が今は重要な問題だ。

 

 「(あのゲダツの動き…明らかに今までの速度じゃないわよ。まさか今の今まで手を抜いていた?)」


 河琉に押され気味だった様子から愛理は完全にフォックスの真の力を履き違えていた。

 だがここで彼女は今のフォックスの状態を見てある事に気付いた。


 「(アイツ…ずっと体中から電撃が流れ続けて放出が止まっていない。まさか……)」


 河琉を吹き飛ばしたフォックスの全身からは確かに電撃が絶え間なく流れ続けている。そしてあの化け物みたいに強い河琉の背後を容易に取って見せた身体能力。そこまで思考が行くと愛理の頭の中にはある仮説が組み立てられた。


 そして彼女の脳内で組み立てられた仮説は吹き飛んでいった河琉の脳内にも同様に存在した。


 「なるほどなぁ。そう言うカラクリか…」


 「チッ、しぶとい野郎だなオイッ! マジでさっさと死んでくれよ!」


 攻撃を受けて壁の方まで吹き飛び叩きつけられた河琉であったが、彼は取り立てて致命傷を受けた様子も見せず再びフォックスの方まで歩み寄る。その無傷っぷりに毒舌を遠慮なくフォックスはぶつけていた。

 自分に浴びせられる罵声を軽く流しながら河琉は自分の考えを口にし始める。


 「お前の全身には絶え間なく電撃が巡り続けているところを見ると……大方筋肉に電撃の付与で強制的に速度を上げている、と言ったところか?」


 河琉がネタ晴らしをすると少し離れて聞いていた愛理はやっぱりと言った顔をした。


 正直に言えば自分は決して賢い方ではないが以前に何かの本で読んだことがある。人間の脳や筋肉は本人が全力で動かしているつもりでも100%使役出来ていないらしい。所謂リミッターなる物が存在するらしい。そして人間に限りなく近い肉体を持つ上級タイプのゲダツであるフォックスにもそのリミッターは存在する。だが彼女は自らの能力を巧みに操り常に流され続ける電撃の流れをコントロール、本来は不可能である100%の力を抑えるリミッターを破壊したのだ。


 自分の身体能力の強化のタネを見抜かれたフォックスは取り立てて慌てもせず、むしろ得意げな表情でこう言って来た。


 「私の肉体強化の仕組みを理解したから何だってんだぁ? 正体を探れても対処方がなきゃ無意味なんだよ!!」


 相変わらず荒々しい口調で再び彼女は河琉へと異常な速度で迫って行く。


 「オラァッ!! くたばれクソ虎野郎!!」


 「チッ…あんま図に乗んじゃねぇぞ…!」


 自らのリミッターを力づくで外したフォックス、そして守護神と呼ばれている白虎の力を操る人外と化した河琉。その化け物二人の激突はさらに苛烈さを増していく。最初の頃の二人の速度ですら愛理にとっては凄まじいレベルだったが、今はもうとても援護する余裕すらない。


 「ぐ、援護したいけど……」


 このまま黙って見ているだけなど御免被ると言う気概はあるのだが、二人の速度に付いて行けない状態で闇雲に攻撃をしても当たるとは思えないしスタミナも無駄に消耗する可能性が高い。それに下手をしたら河琉に流れ弾が当たってしまう可能性もあった。

 今だって二人は部屋の中を縦横無尽に移動し続けて攻防を繰り広げている。ハッキリ言って目で二人の行方を追うだけでも精一杯なのだ。


 「(でも…だからってこのままただ間抜けに見ているだけにもいかない。どうすれば……)」


 何とかあの二人の戦いに参戦する方法を必死に考える愛理。

 身体能力が強化されたフォックスではあるがそれでも変身している河琉の相手は一筋縄ではないらしい。その証拠に今この瞬間にも彼女が愛理には一切攻撃をしてこない。今の白虎化している河琉の前では一瞬でも弱みを見せれば致命的な隙になりかねないからだ。だがそれは同時に愛理は手を出さずとも何の問題にはならないと高を括っているとも裏付けられる。


 「(そう…アイツは私を軽んじている。だからこそ今だって私を放置してあいつに集中しているんだ)」


 自分が遥かに格下だと思われて放置される事は愛理にとってはむしろ喜ばしい事であった。何故ならそのお陰で彼女は自分に目もくれず思案を巡らせる機会を与えられているのだから。

 

 自分の決して出来の良くない頭をフル回転させてどうするかを必死に悩んでいた愛理であったがすぐにハッとなる。


 「なんでもっと早く気付かなかったんだろ。私とあのゲダツは力の大小はあるけど能力の性質は一緒じゃない。それなら……」


 愛理はそう言いながら河琉と激突し続けているフォックスの帯電している肉体を注視していた。


 そして愛理が何か秘策を思いついていた最中にも河琉とフォックスは激闘を演じ続けている。


 「そらそらそら逃げんな! 黒炭にでもなりやがれ!!」


 絶え間ない落雷を落とされ続け室内には常に轟音が轟き続ける。

 自身の真上から降り注ぐ稲妻を躱しながら間合いを詰めていき爪を振るって彼女の肉体を裂こうとする。だが帯電で強制的に強化した身体能力で河琉の爪はギリギリで回避される。


 「近づいてんじゃねぇ!!」


 不快感を全開にして全身を激しくスパークさせるフォックスに慌てて再び距離を取る河琉。このように先程から河琉の戦法はヒットアンドアウェイとなっている。無数の電撃を躱し続け、間合いをジリジリと詰めて攻撃を入れる。だが今のところ彼の攻撃は回避、もしくは防御されてしまっている。

 思うように攻撃を仕掛けられない現状に河琉は思わず歯噛みした。


 「たくっ…ビリビリバチバチと放電しやがって。うっとおしくて仕方ねぇな」


 「そう思ってんなら早く丸焦げになりやがれクソ虎がァッ!!!」


 そう言いながら一際大きな閃光が走ったと思うと凄まじい範囲の電撃が飛んでくる。だがその攻撃も河琉は全て避けて見せる。その軽やかさにフォックスは腹立たしそうに低く唸る。彼女としても致命的な一撃をいつまでも与えられない現状に腹立っていた。

 この二人は今は完全に目の前の相手だけに意識を向けていた。味方である河琉すらもフォックスの事しか頭にない状態であった。


 「クソがッ! もうこれ以上ダラダラと戦うのは真っ平だ! この一撃で殺してやるよ!!」


 いつまでも終わらず長引く戦いに嫌気がさしたフォックスは最大出力の大技で確実に仕留めようと両手に激しい黒雷を纏わせる。そのまま溜め込んだ黒雷を解き放ってやろうかとするが……。


 「これで死んじま……がふっ!?」


 「あん?」


 目の前に居る自分の美貌を汚した憎たらしい転生戦士の餓鬼を殺そうと攻撃を放とうとした直後であった。彼女の腹部には完全に意識の外に居た愛理の拳がめり込んでいたのだ。

 完全に無防備な状態の腹部に突き刺さった拳は本来以上のダメージをフォックスへと与えた。


 「こ…このブタ女が……! 死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 本来は河琉へと放つはずだった渾身の一撃を感情の赴くままに愛理へ向かって撃ち出す。だが腹部のダメージが抜け切っていない状態で放たれた攻撃は愛理に間一髪で回避される。

 フォックスの放出した雷の束は壁や天井を砕き、そして黒コゲにして室内は悲惨な惨状となった。だが肝心の愛理には攻撃を避けられてしまったので意味はない。しかも大技を撃ち終わった直後に隙を見せてしまい愛理と、そしていつの間にか距離を詰めていた河琉の二人の攻撃が同時に突き刺さった。


 「ぐああッ!? か、顔が! 私の美貌がァ!!??」


 愛理の蹴りは腹部に深く突き刺さり、そして河琉の鋭利な爪は彼女がもっとも大事にしている顔を切り裂いたのだ。

 腹部を蹴られて吹き飛んでいる事などお構いなしに切り裂かれた顔を両手で押さえて絶叫を上げつつフォックスは吹き飛んだ。


 「おーおー。大事なお顔が無残になったなオイ。それにしてもお前…」


 顔を傷つけられて喚いているフォックスをひとまず無視して河琉は隣に居る愛理へとある質問を投げかけようとする。その質問とはいきなり極端に上昇した彼女の身体能力についてだ。

 確かに河琉もフォックスも互いに戦っている相手だけに意識を集中していた事は否定できない。しかし愛理の実力を考えれば仮に参戦してきても隙を付かれるつまりなどフォックスには無かった。だが愛理のスピードは今までとは明らかに異なる程に速く、そのせいで反応に遅れて2撃もフォックスは攻撃を喰らった。そしてその光景を見ていた河琉にも驚愕はあった。

 今まで実力を隠していたのかと問うと愛理は首を横に振って否定する。


 「命懸けの戦いで出し惜しみなんてしないよ。皮肉にもアイツがこの土壇場でも強くなるヒントをくれたんだよ」


 そう言いながら愛理は吹き飛んでいったフォックスの方に視線を向けつついきなり強くなった秘密を解き明かし始める。


 「私の持っている力はアイツと同じ電撃を操るタイプ。そしてアイツは電撃を利用して身体能力を底上げしていた。だったら同じタイプの力を持つ私にも出来ると思ったのよ」


 愛理の身体能力がいきなり跳ね上がった理由は彼女が自身の筋肉を電撃で操作したからであった。しかし今の今までこのような力の使い方をした事がなかった愛理の反動は大きく、彼女は辛そうに顔を歪めてその場で膝をついた。


 「ぐ…このパワーアップ方法は諸刃の剣かも。体が痛くてたまらない……」


 筋肉に掛けた負荷が大きすぎ、フォックスの様に長時間の強化は今の彼女の実力では不可能であった。ズキズキと筋肉は痛み脂汗が額には浮かぶ。

 これ以上の無茶はさせるべきでないと河琉は判断すると彼女の前に立ってぶっきらぼうに言った。


 「あとはオレがやっておく。お前は端の方で休んで……」


 河琉がそう言った直後、今まで視線を切っていたフォックスの吹き飛んだ方向から獣の様な咆哮が放たれる。

 そちらに目を向けるとそこには切り裂かれた顔からダラダラと大量の血を零しているフォックスが立っている。


 「こ、こ、こ…この私の顔を……カオォォォォォォォ!!!!!!」


 憎しみの叫びを口にしながらフォックスの全身からはどす黒い雷が四方へと流れ、そしてそのまま彼女の体が膨らんだかと思うとその姿はどんどんと変貌していく。


 「ごろずうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!」


 そう言った直後に彼女は完全に人の姿から化け物へと変貌した。



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