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それぞれの行動


 「うう…ぐすっ…おかーさん…」


 「もう大丈夫だからね。ほら、悪い人攫いたちはやっつけたから」


 「ありがとうおねえちゃん。凄くカッコ良かった!」


 車の中で人攫い共に捕まって縄で縛られた子供たちを解放してあやしてあげる愛理。

 まだ見た感じでは1、2年生ぐらいの低学年の子供だ。いきなり誘拐されてさぞ怖い思いをしたのだろう。この一件でトラウマが植え付けられなければいいのだが。とにかく出来る限り子供たちを安心させようと優しい口調で彼等をあやしてあげる。


 少し離れた電柱には男共が仲良く子供を縛っていたロープで逆に縛られ拘束されている。警察にも通報はもうしているのですぐに駆けつけてくれるだろう。

 そんな気絶状態の男どもの前で1人の少年がしゃがみ込んでブツブツと独り言を呟く。


 「まったく…前回に引き続き今回も有力な情報はナシか。なんだかメンドクなって来たな」


 子供たちをあやしながら愛理は少年の呟きに耳を傾けていた。どうやら突如この場に乱入して来たあの少年はこの誘拐事件に関しての詳細を自分以上に網羅しているようだ。それにあの少年の身体の内からは神力を感じ取れる。十中八九あの少年は転生戦士なのだろう。

 とにかくここまで首を突っ込んだ以上は真実を知りたい。そう思い愛理は少年に話し掛けようとする。


 「あの……」


 愛理が手を伸ばして口を開きかけたと同時に遠巻きにパトカーのサイレンが聴こえて来た。

 サイレン音が鼓膜を震わせた瞬間、この場に乱入して来た少年は愛理に一言だけ話しかけこの場を立ち去って行く。


 「おっと面倒ごとはオレは御免だ。後処理はあんたに任せるわ」


 「え、ちょ、ちょっと待ってよあなた!?」


 まさか自分ひとりに事後処理を任せて消えるとは思わず驚く愛理。


 結局、その後駆けつけて来た警察たちに対しての事情説明は愛理がひとりで行う事となった。やって来たパトカーは複数台おり、警察と同時に子供たちの親御さんも同乗していた。涙交じりに抱擁する母と子の光景には思わず愛理に顔からは微笑みが零れた。


 「(それにしてもあいつめぇ~。色々話も聞きたかったのに…)」




 ◆◆◆




 「あーあ…今回も〝本命のゲダツ〟に辿り着ける情報は無しか」


 先程に愛理の前に現れた少年はこの町の転生戦士である1人、玖寂河琉であった。

 実は彼があの場面で登場したのは偶然と言う訳でもない。実は最近彼の通っている学校付近では人攫いが多発していたのだ。それも攫われるのは全てが小さな子供である。にもかかわらずこの誘拐事件を警察は未だに掴んでいない。それは何故か――攫われた子供たちが〝この世界から存在そのものが消失〟したからである。つまり――ゲダツに喰い殺されているという事だ。


 実はこの一連の誘拐事件は今この町に潜んでいるあるゲダツが糸を引いていた。しかもそのゲダツは人の姿を模している上級タイプのゲダツだ。河琉はその情報を一早く掴んでいたのだ。だが彼がこの情報を手にしたのはただの偶然である。今回の愛理同様に誘拐現場にたまたま居合わせ、逃げて行った誘拐犯を捕まえて締め上げ、そして裏でゲダツが関与している事を知れただけだ。


 「しっかし…あのグループも全員がただの一般人。本当に用心深いゲダツだぜ」


 河琉があの場に現れたのは事前に彼が締め上げた別のグループから他のグループ達がどのエリアを徘徊しているかの情報を引き出していたおかげだった。しかし前回同様に今回の誘拐班達も全員がただの一般の人間で構成されていた。つまりは首謀者が自分の情報を教える程に深い繋がりがある者達ではなく、いい様にこき使われているだけの下っ端だ。実際にあの連中に多少の尋問はしたが大した情報を得られなかった。どうやらあの誘拐犯グループは首謀者の側近と思われる半ゲダツの男からの指示で捕まえた子供を数日監禁、そして連絡があり次第指定された場所に誘拐した子供たちを持っていく手筈となっているらしい。

 誘拐を実行している連中は元々は少し規模の大きな半グレのグループだったらしい。だがある日とある男が半グレ組織の根城に乗り込んできたらしい。そこで半グレたちは全員が半殺しの状態にされ、結果彼等の組織は傀儡となり果ててしまった。もしも反抗しようなら命はないと脅されているために半グレ共は従うしかなかったのだ。


 「それにしてもゲダツもゲダツで悪知恵が働くもんだ。直接自らは動かず半グレを手足として使うとはな」


 それに半グレ組織を圧倒した半ゲダツの男も直接誘拐の実行犯には加わらず、河琉は未だ首謀者どころかその側近のゲダツに辿り着けずにいた。

 だが先程の誘拐犯は警察へと引き渡されたはずだ。そうなればこの誘拐事件は表向きにも調査が入る事だろう。もちろんゲダツや転生戦士などの裏の真実には到達しないだろうが少なくともこの町で誘拐事件が起きている事実は把握されるはずだ。そうなれば首謀者のゲダツもあの半グレ共を今までの様に利用する事は出来ないだろう。あわよくば自ら動き出すかもしれない。


 「これでせめて首謀者の側近である半ゲダツの男が出て来てくれると有難いんだがな」


 そう言いながら河琉は次の半グレ達が狩場としている他の誘拐エリア付近へと向かおうとする。


 「それにしてもあの女……」


 移動をしながら河琉は先程に誘拐犯たちを圧倒していた少女の事を思い出していた。

 あの身のこなしもただの素人とは思えなかったが、それ以上に彼女からは自分と同じ神力を感じ取れた。だがどこか気配に違和感があったのだ。

 これは河琉が知る由も無い事だが愛理は神具を身に着けているからこそ神力を扱える為、純粋な転生戦士とは力の気配が少々違ったのだ。


 「ま…この一連の誘拐に関わっているならまた顔を合わせる事もあるだろう。とにかく今は次の犯行エリアに行くか」


 周辺に人の気配が感じられない事を確認すると河琉は地面を思いっきり蹴るとそのまま凄まじいスピードで次の目的地へと向かうのであった。




 ◆◆◆




 「あーもー…事情聴取ってやつは本当に面倒だなー……」


 警察がやって来てから愛理は警察署まで連れていかれた。だがもちろん犯人として連行されたわけではない。誘拐犯を捉えた功労者、そして詳しく事情を聞いて調書を取りたかったからだそうだ。話の途中で本当に愛理が独りで誘拐犯を捕らえたのかと警察には訝し気味に疑われはしたが。まあその疑念も無理も無いだろう。裏の世界を知らない彼等からすれば愛理はただの一般的な少女にしか見えないのだから。

 兎にも角にもこの1件で事件が起きた付近の見回り強化をするらしい。これで少しは治安の補強もされる事だろう。


 「しっかしアイツは一体なんだったんだろうなぁ?」


 転生戦士でありそしてこの事件と深く関わっていると思しき少年を気にする愛理。

 それに今回の事件は誘拐犯たちが裏の世界のワードを知っていた事も気になる。誘拐犯の男の1人が私を転生戦士と言った事、そして他の転生戦士が動いている事からゲダツとも関わりがあるのではないかと推測してしまう。


 「もしそうだとしたら放っておけないよね…」


 加江須たちが旋利律市へと赴いている間、この町は自分が守って見せると決意していたその矢先でのゲダツ絡みの怪しげな事件。もしこの件にゲダツが絡んでいるのならばそれは最早警察だけの仕事ではない。自分も積極的に動くべきだろう。

 しかし決意を固めても正直現状では自分は何も有力な情報を掴んでいない。それに確かにあの誘拐犯は転生戦士と口には出していたがゲダツとは口にしていない。つまりは裏でゲダツが糸を引いている決定的な確証もない。こんな事なら先程の誘拐犯からゲダツについて聞き出してから倒すべきだったと自分の無思慮ぶりに我ながら呆れた。


 「とにかくさっきの公園付近にもう一度戻ろうかな。そうすればアイツ等の仲間がまだ居るかも…」


 とりあえず何か手掛かりを得られないかともう一度あの犯行の起こった現場に戻ろうと考えた愛理であったが、不意に背中に強烈な圧を感じた。


 「……誰?」


 後ろを振り返るとそこには一人の男が立っていた。

 その男は一言で言うなら〝不気味〟と言う表現が容姿にかなっている。まるで女性の様な少し濃い青色のロングヘア―で、髪の毛の先が地面に着きそうなほど異様に長く、そして目元には濃いクマまで出来ている。

 あの揃ってフードとマスクを装着していた連中と同じ、いやそれ以上に怪しげな見た目の男に一気に最大限に警戒をする愛理。だが彼女が警戒をした最大の理由は決して見た目が怪しさ爆発だからではない。


 この男からはゲダツ特有の気配がうっすらと感じるのだ。


 「その眼…どうやらウチが〝半ゲダツ〟だって理解しているみたいだな」


 「……アンタがあの誘拐犯共の親玉って事かしら?」


 相手が半ゲダツと口にして僅かに驚くがすぐに目元を吊り上げ睨みつけながらそう問いかける。半ゲダツと言うだけでまだ確証はないがそれでも自分の直感がタイミング良く現れたこの男相手にそう訴えたのだ。

 すると相手の方も別段隠そうと言う意図も無かったようでガリガリと頭を掻きながら素直に頷いた。


 「あーそうだよ。全く半グレの馬鹿共の誘拐グループが2つも連絡不能になったから何事かと思えば警察に捕まりやがって…」


 はぁーっと長い溜息と共に一際強く頭をガリガリと苛立ち気味に掻きむしった。


 「……いつから私の後をつけていた訳?」


 「あん、お前が事情説明の為にパトカーに乗った時からだよ」


 またしても素直に質問に返事を返す男。

 だがこの男の言葉が真実であると言うのならば今の今まで自分は間抜けに尾行されていたらしい。それにこの男…どうにもゲダツの気配が薄いのだ。そのせいで今の今まで存在に気付けなかった。


 「まあお喋りはここまでだ。悪いがウチの手でサクっと殺されてくれ」


 その言葉と共に男は2本のナイフを取り出すと一気に愛理へと襲い掛かって来た。



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