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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その1
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無責任な同情は怒りを誘う


 「感じるわ…あなたの力が私の中で溶け込んで来るのを……」


 ディザイアの口周りや衣服は真っ赤な鮮血で彩られており、先程まで自分の目の前で冷たくなっていた綱木の亡骸はもうどこにも見当たらなかった。何故なら――もう綱木の亡骸は自分の胃の腑の中へと消えて行ってしまったのだから。

 ゲダツに襲われ命を失った者はもう誰にも存在を認識されなくなる。その人物は初めからこの世に居なかった事となってしまうのだ。ゲダツの手で命を刈り取られた綱木はもはや実の親すらその存在を憶えてはいないだろう。


 だからディザイアの胃袋に彼女が納められた事も誰にも気づかれない。


 「ごめんなさい綱木。でもあなたを取り込んだ事で私の力が更に跳ね上がった実感を持てるわ」


 自分の腹部を軽く擦りながらもうこの世には居ない相棒へと語り続けるディザイア。

 彼女だっていくら亡骸と化していたとは言え相棒であった彼女を食したのは決してゲダツの持つ醜い本能に従順したからではない。より自分の力を高めて戦力を得る為――そして自分の願いを叶える為の苦渋の決断と言うやつだ……。


 この時に綱木の存在を捕食した事により彼女は綱木の持っていた特殊能力の1つ、欲求をコントロールする特殊能力を得たのであった。

 新たな力を手に入れてより強くなった綱木は今は無き相棒へと自分の決意を伝えた。


 「少し待っていてね綱木。必ずあなたを生き返らせて見せるからね…」


 ゲダツである自分には死んでしまった人を生き返らせる神の如き力は兼ね備わってはいない。しかし神の代行者とも言える〝転生戦士〟ならば話は別だ。

 人の世に巣食うゲダツを駆逐する使命を課せられるその代わりに神々から願いを叶えてもらえる権利を持つ転生戦士ならば死者を生き返らせる事も可能だろう。ならば力を持つ転生戦士に取り入り自分の願いを叶えてもらえばいい。そうすれば綱木も生き返ってまたあの輝かしい二人の時間を取り戻せるはずだ。いや、必ず取り戻して見せる。その為ならばどんな代価だって支払う覚悟ももう出来ている。

 

 綱木と共に生活をしてからすっかりと人間にかぶれていたディザイアであったが、最も親しい友が死んだこの日から再び本来の悪感情の集合体らしい冷淡で残忍な一面がぶり返し始めていた。

 目的を果たす為ならば転生戦士だろうが、なにも知らない一般人だろうが利用する。その想いと共に彼女はこの日より綱木を生き返らせることを目的に動き出し始めたのであった。




 ◆◆◆




 「(そう…彼女を取り戻す為ならこの元神様の強さも優しさも命すらも利用してやるわ)」


 イザナミに体を支えられながらディザイアは過去のもっとも辛く苦しい記憶を思い出していた。

 そうだ、自分はもっとも大切な相棒を救う為に本来は敵であるこの連中と手を組んでまで戦っているのだ。それなのにこんな小娘1人に手こずっていてどうすると言うのか。


 「フォロー感謝するわ元神様。でも私を心配する暇があるのならあの小生意気な転生戦士の隙をつく方法を考えてくれた方がありがたいのだけど?」


 あえて憎まれ口を叩いてでも戦っている形奈に意識を向けさせるディザイア。

 せっかく助けてあげたにもかかわらず嫌味ったらしい口調をぶつけられたイザナミであるが特に何も言わず無言で意識を形奈へと集中する。


 「(……2対1であるにもかかわらずここまでほぼ互角に戦い続けるとは…あの形奈と言う方…本当に強いですね…)」


 いくら弱体化しているとは言え元は神の座に就いていたイザナミにここまで賞賛される形奈は敵ながら本当に転生戦士としては優秀であった。だが彼女のここまでの強さは加江須達の様に大切な何かを〝守る〟為ではなく、幼い頃に味わって来た苦難、恨みや憎しみの負の感情が原動力となりここまで鍛え上げられたものだ。


 ――そこまで思考が行くとイザナミの胸がズキリと痛んだ。


 例えどんな苦難の過去を背負って来たとしても形奈の蛮行を許すわけにはいかない。そう胸に抱いていたイザナミの決心が揺らぎ始めた瞬間であった。

 もしも彼女がまともな家庭の娘として産まれていればここまでの怪物に成る事は恐らくなかったのだろうか? もしも…もしも転生戦士になど成らず蘇ることなくこの世を去っていたのならばここまで悲しい力を身に着ける事もなく今度は幸福な運命と共に新たな生まれ変わりができたのかもしれなかったのだろうか?

 神々の中でも人間と言う生命を見下す事もせず向き合い続けて来たイザナミだからこそこんなもしも…などと考えてしまい、そして胸が痛んで苦しんだ。かつて彼女が神界に居た頃には人間を道具としてしか見ていない神々も大勢いた。だからこそ転生戦士などと言うシステムだって作り上げられた節もある。そんな連中とは違いイザナミは〝人間〟を見下した事は無い。


 だが彼女の持つそんな慈愛の心は必ずしも相手に安らぎや幸福を与えるとは限らない。時にはその慈愛に反吐を持つタイプの人間だっている。


 「はん…ずいぶんと〝慈愛の眼〟で私を見て来るじゃないか。そう言えばさっき私の片目が父親に潰されたと知った時もまるで自分の事の様にショックを受けていたな?」


 そう言いながら形奈は口の端をヒクヒクと痙攣させた。

 別にイザナミが直接同情的なセリフを口に出して言ったわけではないが、それでも形奈の眼には彼女が先程に自分の語った凄惨な過去をいつまでも哀れんでいる事が本能的に分かった。


 ――まるでただ心配するだけで何もしてくれなかった木偶人形同然の母の様に……。


 一方で形奈に慈愛の眼などと、このようなセリフを投げつけられたイザナミは訝しむかのように眉をひそめた。

 そのイザナミの表情を見て形奈は思わずペッと唾を地面に吐き捨てながら再度口を開き始める。


 「だから――〝その眼〟を止めろって言っている!! 人を勝手に哀れんで可哀そうな女性と決めつけるだけ決めつけ何もしない傍観者風情が!!」


 今まで脱力気味にダランと腕を下げていた形奈であったがいきなり激昂し、イザナミが2、3度の瞬きをしている間にはもう懐に入り込んでいた。

 滑り込むようにキラリと光る刀の刃が自分の首元まで伸びて来て焦りを見せるイザナミ。完全に虚を突かれてしまい反応がコンマ1秒遅れてしまったのだ。


 「まずはお前の首から獲ったぞ!!」


 「そうそう思い通りにいくとは思わない事ね!」


 見事に間合いを詰めて不意を付いた形奈の斬撃は横から伸ばされたディザイアの傘によって受け止められる。自分の攻撃を止められてしまった事に軽く舌を打つ彼女であるがすぐに殺気を感じ取り背後へと跳ぶ。


 「っ……!」


 鼻先がチリチリと熱い。どうやら我に返ったイザナミの蹴りが鼻先を掠めた様だ。

 形奈は追撃を加えてこようとしてくる目の前の二人に神力で形成した剣を伸ばして再び間合いを取る。


 「(1対1なら一足一刀の距離を維持したいが二人相手ではやはり片方に密着し続けるのは無理があるか…)」


 もしも形奈が戦っている相手がイザナミ、もしくはディザイアのどちらかとの一騎打ちであればこう何度も間合いを取るような戦法は取らないだろう。特にディザイアと1対1ならば勝率だって高いだろう。


 形奈が距離を取るが深追いはせずに相手の様子を窺いつつもディザイアはイザナミを叱咤した。


 「何をボーっとしてるのかしら元神様? あやうく首から上が斬り飛ばされるところだったわよ」


 「す、すいません。助かりました…」


 ディザイアの言葉に反論する余地のないイザナミは素直に頭を下げる。

 

 「(しかし先程の『傍観者風情』と言う言葉…)」


 あんなセリフを大声でぶつけてくると言う事はやはり彼女は壮絶な過去を背負っている。本人も実体験を口にしていたが周りに居た皆が彼女の事を腫物の様に扱い、そして手を差し伸ばして助けてくれる人間など皆無だったのだろう。何しろ実の両親、特に父親からは片方の目から光すら奪われたと言っていたくらいなのだ。

 そこまで想像がよぎるとまたしてもイザナミの顔に影が差す。


 「(……この戦いは…本当に必要な戦いなのでしょうか?)」


 目の前で刀を振るう少女は確かに悲惨な過去を背負っている。だがだからと言ってゲダツと手を組む大義名分になりはしない。もしも彼女の過去に手を伸ばしてくれる人が居たのなら……。

 そんな事を考えているとバシンッと背中に軽い衝撃が走った。


 「さっきと全く同じセリフを言うわよ。何をボーっとしているの?」


 どうやら背中に走った衝撃は背後から彼女に背中を軽く叩かれて発生したものらしい。

 一度ならず二度までも呆けてしまい謝罪を述べようとする彼女であったが、それよりも先にディザイアの口から出て来た言葉に思わず息をのんだ。


 「敵の過去に同情なんてしていたら生き残れないわよ。分かっているのかしら甘ちゃん神様?」


 「ッ……」


 あまりにも的確に心を射抜いてきたディザイアの言葉、それに対して息を詰まらせる事しかできないイザナミ。

 そんな反応を見てディザイアは思わずはーっと長い溜め息を吐き出した。


 「相手がどんな境遇であろうが私にもあなたにも為すべき事があるはずよ。この旋利津市にやって来た大前提を見失っているんじゃないわよ」


 「……すいません。その通りですね」


 ディザイアからの静かで、それでいてどこか冷たい言葉にはどんな犠牲を払ってでも自分は目的を遂げてみせると言う覚悟が伝わって来る。その決心にあてられイザナミは自身の頬を軽く叩いて意識を入れ替える。


 「(そうだ。私は黄美さんを生き返らせる。そして元神として元凶たるゲダツ、ラスボを討伐する為にここまで来たんです!!)」


 「………」


 自分を叱責した事で戦いが始まった当初と同じ強い瞳を形奈へと向ける事が出来るようになったイザナミであるが、そんな彼女をディザイアはどこか不安そうな瞳で無言のまま見つめていた。

 

 「(この甘さ…命取りにならなければいいんだけど……)」



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