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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その1
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鋼鉄の強度


 目の前で片膝をついて息を切らしているひとりの少女を見つめながら豪胆はどこか退屈そうに溜息を深々と吐いていた。


 「おいおい…これじゃまるで嬲り殺しじゃねぇかよ」


 「はあ…はあ……」


 相手の失望の籠っている声に睨みを返す気力すらない程に余羽は追い込まれていた。

 彼女の肉体には痛々しいあざが複数出来ており、口からは一筋の血が零れ落ちている。


 「回復能力は便利だがやっぱり戦闘には不向きみたいだな。最初に俺を投げ飛ばしたんだからもう少しは楽しめると思っていたんだけどな」


 「うる…さい…このメタリックゴリラめ……」


 体中のあらゆる箇所からズキズキと痛みが走り続けている。もちろん能力で傷を修復してはいるがダメージを負うスピードの方が早いために間に合わない。

 膝をつきつつも自身の太ももに手を当ててダメージを修復していたがそこに鋼鉄の拳が飛んでくる。


 「オゥラァッ!!」


 「ごぶっ!?」


 咄嗟に両腕に神力を籠めてガードしようとしたが相手の拳の速度はガードを上回り余羽の腹部を打ち抜いた。

 まるでボールの様に跳ね跳んだ彼女の体は天井に激突し、そのままバウンドして床下へと叩きつけられた。


 「お…うお……ごへぇ……」


 天井に叩きつけられた背中や落下した際の痛みなど気に留める余裕が無いほどに殴打を受けた腹部を押さえてもがき苦しむ。確かに腕のガードは間に合わなかったかもしれないがちゃんと神力で肉体は強化していた。それでも深刻なダメージを負ってしまった。


 「うぐぐぐ……おえっ……」


 痛みに耐えきれず蹲りながら嘔吐までしてしまう余羽。

 今まで味わった事のない重すぎる打撃に無様に這いつくばっていると頭上から豪胆が話しかけて来た。


 「どうやらここまでみたいだな。残りの二人の侵入者に期待するか」


 そう言うと血管が浮き出る程に拳を固く握りしめると神力を集約してパワーを一点に集める。この一撃は間違いなく神力で強化されている余羽の体すらも貫いてしまうだろう。


 「これで終わりだなぁ!!」


 頭上へと掲げていた拳をまるで稲妻の様な速度で振り下ろした豪胆であったが、その拳は床で蹲っている無防備な余羽を貫通する事はなかった。


 「……あん?」


 豪胆が振り下ろした拳は標的である余羽の体に触れる数センチ手前で止まったのだ。だが彼は自らの意思で拳を止めたのではない。

 何やら右腕に何かが絡みついている感覚があるのだ。まるで見えない糸が幾重にも絡みついているかのような……。

 

 「ぐぎぎぎぎぎぎ……!!」


 背後から何やら呻き声の様なものが聴こえてきて振り返るとツインテールの少女が必死の形相で何かを引っ張るかのような体制をしている。だが彼女の両手で握っている中には何もない。まるでパントマイムでもしているかのようだ。

 厳密に言えば目では見えない無色の糸を豪胆の腕に巻き付けソレを引っ張っているのだ。


 半ゲダツを片付け終わった後に急いで余羽の気配を辿って仁乃はここまで最速でやって来たのだ。そしてこの場所へと向かっている最中にもうひとつの神力の気配も探知しており余羽が戦っている事を把握。そしてこの部屋に飛び込むと声を掛けるよりも先に今まさに余羽に止めを刺そうとしている豪胆の攻撃を止めたのだ。


 そしてこの場に駆け付けたのは彼女1人だけではなかった。


 「てめぇは俺のツレに何してんだ?」


 「なっ、お前!」


 仁乃が豪胆の振り上げた拳を止めている間にもう一人の乱入者である氷蓮が豪胆の目の前まで迫っており、驚きで一瞬だけ硬直してしまった隙を付いて彼の下顎を蹴り上げてやった。

 神力の籠った蹴りで下顎を攻撃された豪胆は意識が一瞬だけ飛びかけそうになるが何とか意識を踏み止ませた。だが未だに体は意識とは裏腹に思うように動いてくれず、そのチャンスを氷蓮は逃さず氷で造形した剣を横薙ぎに振るって攻撃をする。

 

 「なっ、見た目通りの硬度かコイツ!」


 氷蓮の振るった氷の剣は神力が付与されているのでそうそう簡単に壊れる代物ではない。だが彼女の振るった剣は豪胆の鋼で出来た肉体には及ばなかったようで逆に剣の方が粉々に砕け散ったのだ。

 

 バラバラに砕けた剣を冷静に観察しつつも氷蓮は足元で這っている余羽を担ぐと仁乃の方まで一気に跳躍して避難をする。


 「余羽のヤツは回収したぜ。もう大丈夫だ」


 「そ、そう。ならもう糸は離すわよ。これ以上は押さえていられない…!」


 クリアネットで豪胆の動きを封じていた仁乃は余裕のない言葉と共に糸を手放してしまう。

 いきなり糸を離されて自由になった豪胆は自分の腕を見て首を傾げる。


 「(なんだぁ? 何か細い物で腕を押さえられていた感触はあったが目には何も見えなかった。……あの女の能力か?)」


 自由になった腕をグルグルと回しながら豪胆は駆けつけて来た仁乃と氷蓮を見つめる。

 

 「(あのツインテールの他に来たもう一人のアイツ…見たところ氷を操る能力みたいだな。あの再生女を含めてこれで3人全員勢ぞろいってか)」


 どうやらあの二人は半ゲダツを片付けて応援に来たようだ。まあ元々豪胆からすれば半ゲダツなどゲダツの成り損ないに過ぎない。最短で始末されても不思議でも何でもない。それよりも今この場に新しい玩具が現れてくれた事はラッキーですらある。


 「良かったな再生女。お仲間がギリギリで駆けつけてくれたみたいじゃねぇか。まあでもどうせ3匹とも殺す気だから関係ないかなぁ?」


 相手の怒りを高めるためにあえて煽るかのような口調で話し掛けてやると3人の中で一番気の短い氷蓮が真っ先に喰いついてきた。

 

 「舐めてんじゃねぇぞこのクソメタリックゴリラがッ!!」


 煽られてきた事もあるがそれ以上に余羽をここまで痛めつけた相手を許せないと言う思いが強く単身で突っ込む氷蓮。

 

 「てめぇは最速で死ねや!!」


 「ばっ、考えなしに突っ込んで行くんじゃないわよ!!」


 あんな安い挑発に乗って突っ込んで行く氷蓮に背後から制止の声を仁乃は投げかけるのだがまるで効果なし。


 豪胆へと走って行きながら氷蓮は自分の周辺にまずは大量の氷柱を展開、そしてそれらを射出しながら両手には氷で造り出した双剣を携える。


 「今度はあの女よりもかなり戦いがいがありそうだな」


 自分へと飛んできて来る氷柱の軍勢を見つめながら嬉しそうに笑った。

 全身を能力で最高硬度へと仕立てて相手の攻撃を真正面から受け止める。大量の氷柱が彼の肉体へと突き刺さる、ではなくぶつかって粉々に散って行く。

 全ての氷柱を真正面から浴びて起きながらかすり傷すらついていない事に舌打ちをしつつ懐へと滑り込み双剣を振るった。


 「ぐっ、かてぇなクソがッ!」


 「あいにく防御に関してはピカイチの自信があるぜ。そして圧倒的硬度は攻撃にも転じる!」


 氷蓮の双剣により斬撃を防御無しで受けながら鋼鉄化した拳を勢いよく振るって来た。

 

 「遅いんだよこの間抜けが!」


 豪胆の拳を余裕で回避して逆にカウンターを叩きこんでやるがまるで効き目がない。と言うよりもぶつけた剣には逆にヒビが入っていたくらいだ。

 

 「はははッ、そんな生温い攻撃なんざ一万回受けても俺にはダメージなんて与えられるかよ!!」


 「くそ、面倒な能力を持ってんな!!」


 氷蓮は自分の攻撃を受けてもまるで怯むことのない豪胆の攻撃をかわしつつカウンターを何度も叩き入れてやった。だが豪胆自身が口にしたように何度攻撃を直撃させてもまるで効き目がない。


 「そらそらそらそら!」

 

 「うぜぇんだよゴリラ野郎が!」


 正直に言えば豪胆の攻撃の速度は一緒に訓練した加江須やイザナミからすれば遅いも遅い。この程度の攻撃など恐れるに足らない。だが問題なのは自分の攻撃がまるでダメージを通す事が出来ていない事だ。何しろ目の前の男は攻撃を受けながらも普通に反撃をしてくるのだ。


 「(くそ、どうすりゃダメージを与えられんだよ!)」


 内心で氷蓮が毒づきながら豪胆と戦っている最中、少し離れた場所では仁乃は冷静に二人の戦闘を眺めていた。

 見た感じではスピードは明らかに氷蓮が上回っているだろう。その証拠に氷蓮が何度も攻撃を叩き入れている事に対して逆に相手はまるで攻撃を当てられていないのだ。


 「でもあのままじゃジリ貧になりかねないわ」


 「あのガチガチの防御…どう突破しろって言うのよ……」


 身をもってあの強度の厄介さが骨身にしみている余羽は自身の肉体の損傷を修復しながらどう攻略すればいいのか頭を悩ませる。

 普通であれば氷蓮だけに戦わせずに自分たちも参戦するべきなんだろうが攻撃の手数が増えてもダメージを与えられなければ意味がない。


 「(どうすればいいの? このまま何も考えず突っ込んでも解決にはならない。あの圧倒的な防御を無視してダメージを与えられる方法は……)」


 氷の剣やハンマーなどがまるでダメージにならないならば自分の糸を束ねた槍なども無意味だろう。

 勿論あの圧倒的な硬度、半ゲダツの様に細く鋭い糸で縛り上げて切断も不可能だろう。


 「何とかアイツの硬度を下げる事ができれば…」


 どうにか突破の方法を考えながら視線の先で戦っている二人を見つめる仁乃。

 

 「……ん?」


 頭を悩ませていた仁乃であったが視線の先で氷蓮の砕けた氷の剣の破片を見て何かに気付いた。


 「……そうか。この方法なら……」


 「え、仁乃さん?」


 何かに気付いたのか突然何かブツブツと口元に手を当てて独り言を呟く仁乃。しばし何か考え込んでいた彼女であるが目が少し大きく見開かれ立ち上がると氷蓮に声を飛ばした。


 「こっちに戻って来て氷蓮!」


 「ああん? くそっ!」


 華麗に豪胆の攻撃を避けて彼を蹴り飛ばし距離を取る氷蓮。

 背後に吹き飛んでいく彼に氷柱を大量に飛ばしつつ一旦仁乃の方まで下がって行く。


 「お前さっきから何やってんだよ仁乃。あのゴリラ倒すために加勢くらいしろよ!」


 「分かってるわよ。でも普通のやり方じゃ手数があってもアイツには通用しない…でしょ?」


 悔しいが的を射てる発言に苦虫を嚙み潰したような顔をする氷蓮だが、次の仁乃の言葉にその表情は驚愕に変わる。


 「アイツを倒す算段が付いたわ。私の指示に従ってもらうわよ」


 仁乃のこの言葉は氷蓮だけでなく余羽も驚き、そんな二人に彼女は大まかに自身の立てた作戦を伝える。


 「いい…アイツを倒す方法、それは――」

 

 

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