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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その1
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もう逃げないと決めたのよ


 わ…私は今人生で一番の危険な状況に対面しているかもしれません。

 勝ち目がないと判断して逃げ出した半ゲダツの男を追い掛ける事となったのだが思わぬハプニングが発生したからです。


 「よぉ…どうやらお前もラスボを倒す為に外から来た転生戦士で良いんだよなぁ?」


 「あ…え…それは…」


 目の前で凄まじい威圧感とそれに加え自分と同じ神力を放っている事から間違いなく転生戦士だろう。ただし事前に話で聞いていたラスボに協力している側の……。

 ゲダツと共闘しているならば自分と同じ転生戦士と言えども全く油断はできない。いやむしろこの上なく焦りの感情が胸の内から芽吹いて来る。何故なら目の前の屈強な男は殺気を放っており、更には今まで逃げていた半ゲダツの男も彼の傍によって安堵しているのだからかなりのやり手なのだろう。


 「気を付けてください豪胆さん! コイツの他にもまだ二人の仲間がこのビル内に居ます!」


 「んな大きな声出さなくても分かってるわ。このビル内で動き回っている気配は探知できている」


 余羽が知らないのは無理ないだろうがこの時、仁乃と氷蓮は逃げて行った半ゲダツを追いかけている真っ最中であった。

 途中で別れて逃げ続けている仲間の二人は完全に戦意喪失と言った感じなのだが余羽の目の前に居る半ゲダツは冷静さを取り戻していた。


 「くはははは! もうお前は完全に死んだぜ! この人はラスボさんから信頼も厚い幹部の転生戦士だ! お前みたいなちょっと神力が操れる小娘とは格が違ぇよバーカ!!」


 今まで逃げていたくせに何を偉そうにと普段なら非難の眼でも向けていたかもしれない。だが今はあんな腰巾着に意識を割いている場合ではない。あんな喧しいだけの虎の威を借りる狐なんてどうでも良い。それよりもこの豪胆と呼ばれている転生戦士の方が重要だ。

 余羽が黙り込んでいる事に気分を良くした半ゲダツの男は更に口汚く彼女を罵り始める。


 「おいおいどうしたんだよ転生戦士さんよぉ! 今まで俺を追い掛け回していたくせに本物の実力者を前にすると縮こまりやがって情けねぇなぁ!!」


 それはお前にだって十分言える事でしょうが。と言うより後ろに隠れて罵声する分アンタの方がたちが悪いのよ。


 口にこそは出しはしないが内心でひとりで騒いでいる半ゲダツの馬鹿に言い返してやった。だが彼の野次に苛立ちを感じていたのは野次を飛ばされている本人だけではなかった。


 「おいお前…」


 「え、何ですか?」


 「さっきからウザいんだよ。もうその小うるさい口を閉じて――黙って死ねや」


 そう言うと男は半ゲダツの頭部を掴み、そしてそのまま無造作に頭部を握りしめて砕いてしまったのだ。

 比喩表現でも何でもなく彼は凄まじい握力で頭部を握りしめて男の頭蓋骨ごと頭を潰したのだ。まるで噴水の様な赤い鮮血と鉄さびの臭いが今居る部屋に充満する。


 「ひぃッ…な、何で殺して…!?」


 「ああん? ピーピー喧しいから殺しただけだよ。それにコイツは使い捨ての半ゲダツ、死んだところで損な事はねえんだよ」


 いともアッサリとそんな事を言う豪胆であるがそう言う事ではない。仮にも仲間をアッサリと殺した事が常軌を逸していると言いたいのだ。

 豪胆は手に持っている骸と化した男を放り捨てて凶悪な笑みを余羽へと向ける。


 「さあこれでクソくだらねぇ野次も居なくなったぜ。俺と――遊ぼうぜぇぇぇぇぇぇ!!!」


 まるで猛獣の様に床を深く踏み込んで余羽へと突進してくる豪胆。その際に踏み込んだ場所の床はあまりの衝撃に大きく陥没していた。

 ロケットの様な突撃をかまして来た豪胆に思わずビビッてしまう余羽であったが、彼女だって怯える為にここまで来たわけではない。ラスボと戦う為に来たのだ。


 「う、おおおおおお!!」


 豪胆と同じように神力で脚力を強化して叫び声と共に思いっきり真横へと跳んで肉弾のミサイルを紙一重で回避する。そしてそのまま余羽の横を通り過ぎて行った豪胆の拳は狙いが外れ背後の壁へと突き刺さった。

 彼の拳は壁に深くめり込み稲妻の様な枝分かれした亀裂が壁には走っていた。


 「ぐ…あぶなぁ……」


 もしも加江須たちと一緒に特訓を積んでいなければ今頃自分の首から上が飛んでいたかもしれなかった。だが今の自分ならばギリギリだが見切る事が可能だ。


 「(私だって怯える為に来たわけじゃないんだから!)」


 もう今までの戦いから目を背ける生き方とは決別した彼女は怯えを感じつつもイザナミから教わった格闘技で対抗しようと考える。

 余羽が構えると同時に壁から拳を引き抜いて振り返る豪胆の表情はどこか嬉しそうであった。


 「今のを避けれるならそこで死んだ半ゲダツよりは強いようだな。まあそうでなきゃ張り合いがねぇ」


 彼は純粋にラスボの障害となる者を葬る為だけでなく、純粋な強者との戦闘を望んでいた。


 「せっかく俺もお前も〝こんな力〟を手に入れたんだ! 自分の力なら余すことなく使ってみたくなるよなぁ!!」


 そう言うと豪胆は右腕を掲げ神力をその腕に集中する。すると彼の掲げた右腕はまるで金属の様に白い光沢を放つ銀色へと変色する。


 「な、何それ!? 凄いメタリックになったんですけど!?」


 「驚いているな。なら、その身で受けてもっと驚いてみろよ!!」


 叫びと共に再びこちらへと突っ込んで来る豪胆だがそのスピードは先程とは違う。明らかに速度が増しているのだ。だが今の余羽はもう戦う覚悟を決めており、相手の一挙手一投足を見逃したりはしない。そんな事をすればその瞬間には死ぬかもしれないのだから。


 こちらへミサイルの様に突っ込んで来た豪胆に対して、余羽の取った選択は〝回避〟ではなく〝受け〟であった。


 「すうぅぅぅ……」


 もうすぐ間近まで迫りつつある暴力に対して彼女は息を一度吸い込み、そして深く吐いてむしろ自分をリラックスさせるようにする。


 「どうした女戦士。今度は反応すら出来なかったか!」


 目の前で回避に移ろうとしない余羽を見て諦めたのかと少し失望しながら嘲笑う豪胆であるが、その考えは大きな間違いであったと直後に気付く、いや気付かされる。


 次の瞬間には豪胆の体は浮遊感と共に空中へと飛ばされていたのだ。


 「何だと…?」


 自分が眼下に居る少女に投げ飛ばされた事は理解できたが信じがたい光景であった。見たところ神力で身体能力を向上してはいる様だがそれでも自分よりも遥かに強化の質は劣る。そんな少女が自分を投げ飛ばすなんてにわかに信じがたい。

 だがそんな事を呑気に思考している暇など彼には無かった。


 「そいやッ!」


 「がふぅっ!?」


 空中に投げ出された豪胆はそのまま宙に浮いている状態から横っ腹に余羽から蹴りを入れられたのだ。神力で強化された彼女の蹴りをまともに受けて思わず口からは小さく空気が漏れる。

 しかし先程は投げ飛ばされた事に驚いていた豪胆であったが、今度は余羽の方が驚愕する事となる。


 「いだあぁいッ!?」


 なんと蹴りを入れたはずの余羽の方が痛みを訴え出したのだ。

 

 余羽の蹴りを受けた豪胆はそのまま再び壁際までボールの様に飛んでいった。だがそんな彼の行方など後回しにし自分の脚を押さえてその場でピョンピョンと飛び跳ねた。


 「いつつ…な、なんなのよアイツの身体は!? まるで鋼づくりの様に馬鹿みたいに硬すぎるんだけど…つっ~……」


 よく見てみると蹴りを打ち込んだ脚の一部分が内出血したのかあざが出来ている。

 急いで自分の痛々しく内側から出血している箇所に触れて能力を発動、そしてまるでビデオの巻き戻しの様にあざが引いて元の綺麗な肌へと戻って行く。


 「ほお…一瞬でダメージを回復させるか。それがお前の能力みたいだな」


 野太い声の方へと振り向くと不敵な笑みを浮かべて豪胆が彼女の事を興味深そうに見つめてきている。脚のダメージをすぐに修復し終えると再び向かい合う余羽であったが思わずギョッとする。


 「ぜ、全身メタリック…」


 先程までは右腕1本だけだった光沢は全身を身の纏いキラキラと輝いている。その姿はまるで銀の彫像の様であり不気味極まりない。

 自分の不気味な姿に対して内心で引かれている事に気付かず豪胆は流暢に話しかけて来る。


 「どうやらお前の能力は戦闘向きと言う訳ではないみたいだな。俺の『鋼鉄化する特殊能力』に比べるとインパクトが低いぜ」


 正確に言えば余羽の能力は修復であり回復ではないが戦闘向け出ない事は事実なので上手く言い返す言葉が出てこない。それに今は相手の力を観察する事の方が重要だ。


 「鋼鉄化する力ね。どうりで蹴り込んだ私の方がダメージを受けたはずだわ」


 肉体を鋼鉄並の硬度にしたのならば迂闊に蹴り込んだ自分がダメージを受けた事は理解できた。だが恐らくあの男は鋼鉄に加えて神力で肉体を強化したのだろう。それならば神力を籠めた蹴りがまるで通用しない事も頷ける。


 不味いなぁ…正直に言えば私じゃ攻撃力が圧倒的に不足している。


 何度も言うが彼女の持っている能力は戦闘向きとは言えない。イザナミからは合気の要領で相手の力を利用する形の近接の戦い方を学びはしたが見たところダメージがまるでないのだ。それにそうそう何度も都合よく投げ飛ばせるとは思っていない。いつかはあの金属の塊で出来た肉体に捉えられてしまうだろう。


 「(何とか時間を稼がないと。仁乃さんと氷蓮の二人がここに来るまで!)」


 途中でそれぞれ分かれた仁乃と氷蓮の二人は半ゲダツの相手をしているだけのはずだからすぐに片が付くはずだ。そうなれば今度はこちらに来てくれるだろう。だがそれまでは自分ひとりでこの化け物を食い止めなければならない。

 再び構えを取って豪胆に向かい合うと彼はニヤリと笑ってこちらへと走って来た。


 「そうそう何度も投げ飛ばせれると思うなよ! お前の後は他の二人の侵入者も殴り殺してやるぜ!」


 全身を鋼で纏った豪胆は怒声と共に地面をドスドスと踏み抜きながらこちらへと駆けて来る。

 そんな彼に怯えを感じつつも余羽はギュッと下唇を噛んで迫りくる化け物と激突した。



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