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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その1
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旋利津市突入前の下準備 3

  

 出来うることなら極力目の前でいやらしい眼を向けて来る女と深く関わりを持ちたくはないものであった。しかし今の様な緊急事態ではそんな個人的感情は押し殺さなければならない。何故なら間も無く自分たちは大きな戦いに赴かなければならない。今は戦力の当てがあるのであれば1つでも確保しておきたい。

 それに目の前の女とは願いを1つ叶えると言う約束もある。だからこそ本当は遠慮したいところ携帯の番号まで交換しているのだ。


 「(まさか俺の方からコイツに頭を下げて頼み事をする日が来るとはな。だが今は緊急事態、背に腹は代えられん)」


 加江須は自らの心に渦巻く黒いモヤを払拭し、一度浅く深呼吸をすると真面目な面持ちで目の前に座って居る人型のゲダツであるディザイアに改めて呼び出しの理由を述べる。


 「もう一度言うぞ。今現在、俺たち転生戦士はお前と同じ人型タイプのゲダツであるラスボを討伐しなければ新たな願いを叶える機会は訪れてくれない状態だ。何故ならラスボは協力者である転生戦士から自分の願いを代わりに成就してもらおうと画策しているからだ。そう…お前と同じようにな……」


 加江須が一通り言葉を吐き出すと今度はディザイアが口を開き始める。その表情は相変わらずどこか相手を小馬鹿にする感が出ているが、それだけでなく小さな焦りも彼には見えた気がした。


 「……正直に言えばこの展開は予想外であったわ。まさか自分と同じ人型ゲダツに苦しめられる事となるとはね」


 本来であればディザイアだって加江須とは敵対関係であるゲダツ、どちらかと言えばラスボの味方側とも取れる立場だろう。しかし彼女の場合は加江須にかつての自分の友を生き返らせてもらわなければならない。それ故にラスボの存在は目障りであった。それに元々ラスボは自分以外のゲダツを疎んでいる傾向がある。それを理解しているからこそディザイアはかつて加江須と共に一度旋利律市へと足を運んだのだ。


 「神様たちは直接手を出してこない代わりにこんな陰湿な形で対応して来るとはね」


 目の前のテーブルに両肘を付けてはぁ~っと残念そうな溜め息を吐きだす。

 まあ元々は地上を守る為にその地上に住んでいた人間を甘い蜜をちらつかせて利用していた連中と考えれば今更心疾しい奴等だと非難する気は無いが。


 「それにしても今の事態は転生戦士だけでなく私にも不利益で仕方がないわ。あなた…私との約束を忘れてはいないわよね?」


 念には念をと言わんばかりにディザイアは不敵な笑みと共に加江須の瞳を覗き込んで来る。

 その突き刺してくる視線を僅かに煙たく思いながら加江須はため息交じりに答える。


 「心配しなくても忘れてないさ。お前から受けた借りを返す為にお前の友人である女性を生き返らせる…だろ…はぁ…」


 もちろん加江須は目の前の女性との約束を忘れてはしない。だがよくよく考えてみれば今の事態に陥った原因は人型ゲダツに転生戦士が協力をしているから起きた事態だ。それならば自分だって目の前の人型ゲダツであるディザイアの願いを叶えても大丈夫なのかと少し気掛かりではある。まあ加江須の場合はあくまで1度だけの代行だ。目下問題となっているラスボと手を組んでいる形奈はガッチリと共闘しているので問題となったのだろう。


 まあ一先ず自分とディザイアの関係は置いておき、今はラスボ討伐の為に話を進めるとしよう。


 「お前との約束は守るつもりではある。だがその為にはラスボを討伐しないといけないのも事実だ。お前だって今の話を聞いてその点は理解できているだろ?」


 「だから私に問題のゲダツとの戦いに参戦して欲しいと?」


 ディザイアの言葉に無言で頷き肯定を示す加江須。

 そんな彼の訴えるかの様な眼差しにニヤニヤと笑みを浮かべながら顎下に手を置き、いかにも手を貸そうか否かと悩んでいる素振りを見せる。


 「……下手な三文芝居はやめろ。お前がここで協力しないと言う方があり得ないと半ば理解しているんだ」


 「あら遊び心が無いわね。こういう場合は少し不安げな目を向けて来るものではないかしら?」


 このどこか余裕ぶっている態度は正直に言えば腹立たしく感じる部分は多々あるが今は我慢するとしよう。

 一度瞼を閉じ、もう一度持ち上げてディザイアの瞳を見つめた。その中には神妙な顔つきをしている自分の姿が映り込んでいる。


 「下らない遊び心は今は捨てて置け。俺達と共に旋利津市に行くか行かないかを今すぐ答えろ」


 もうこれ以上の下らない問答は御免被ると言わんばかりに若干だが睨みを利かせると、流石に今のこの空気を読んだ彼女は両手を上げてはいはいと言わんばかりに答えを出す。


 「心配しなくても私も同行するわよ。忘れた訳じゃないでしょ? 元々ラスボを倒しに行こうとあなたを旋利律市に誘ったのは最初はこの私だったのよ」


 ディザイアとしてもラスボの存在は不愉快極まりないのだ。以前は自分と加江須、そして自分の血で半ゲダツとなった手駒の3人で乗り込んだ際には結局ラスボ本人に出会う事すら叶わなかった。だが今回は加江須の恋人である転生戦士達も共に同行すると言うではないか。それならば戦力が整っているこのタイミングで力を貸すべきだろう。何よりラスボを倒さなければいつまで経っても自分の願いは叶えられないのだ。


 こうしてディザイアも戦力として同行する事が確定し確実に戦力を増やせている事に加江須は内心で喜ぶ。


 「(これで乗り込む面子は俺、仁乃、氷蓮、イザナミ、余羽、武桐、そしてディザイアの7人になった。愛理が同行しない分、それ以上の戦力を補充する事には成功したな)」


 出来る事なら確実性を増す為にあと1人位は仲間を集めておきたいところではある。だがそもそも加江須の交流内では他にゲダツと戦う力を保有している候補が存在しない。転生戦士は探せばまだまだ存在するだろうが所詮は自分の知らぬ場所で戦っている者達だ。


 「………」


 もうこれ以上は当てがないと考えていた加江須の脳内に1人の戦闘狂の転生戦士が思い浮かんだ。


 「(いや無理だな。あんな奴と一緒に並んで戦うなんて無理に決まっている)」


 自分の脳内でナイフに付着している返り血を舐めているあのイカれた転生戦士の女の存在をすぐに消し去る加江須。そもそも連絡先を交換している訳でもない。もしかしたら武桐なら一応は同じ学園に通っていたよしみで知っているかもしれないが…いや、どちらにしてもあの女を仲間に誘うのは却下だろう。

 信用できないと言う点では目の前のディザイアにも言えるがあの女の場合はそれだけでない。目を離した次の瞬間には何をしでかすか理解できない。そもそも自分の命を狙っていると本人である自分の前で公言している女なのだ。 


 「(今はあの戦闘狂の事は忘れよう。それよりも次に考えるべき事は……)」


 一度脳内を占めているあの狂った少女に対しての考えを全て払拭して思考をガラリと変える加江須であるが、この時の彼はまだ知らなかった。

 

 このラスボとの戦いで完全に蚊帳の外と思っていた〝その少女〟と再びぶつかり合う事になるなどと……。




 ◆◆◆




 久利家の居間には大勢の人間が集まって顔を見合わせていた。いや、正確に言えば大勢の人間と言う表現が的確ではないかもしれない。何故なら居間に集まっているメンバーは転生戦士達、人型ゲダツ、そして元神様と言った人外なる輩なのだから。


 加江須は集まったメンバーを一通り見渡すと早速本題に入ろうとする。だがここで唯一人類の敵対として見られているディザイアが茶々を入れて来る。


 「中々に爽快な面子ね。転生戦士があちらこちらに…ふふ、それにまさか元神様まで居るなんてねぇ…少し場違いな感じが否めないわ」

 

 そう言いつつも彼女は言葉とは裏腹に特に動じる事もなく自分の左右に居る人物を見る。

 彼女の左隣に座って居る白は少し呆れ気味な眼で疲れた様な表情で口を開く。


 「あなたが全然微塵もこの場の面子に動じていないことは重々理解しました。ですのであまり場の輪を乱さないでくれますか? 私たちは駄弁る為にここに集まっているのではないので」


 「あらそれはごめんなさい」


 全然申し訳なさそうな雰囲気を見せず誠意無き謝りを述べるディザイア。

 

 「はあ…頼むからしばらく余計な事は言わないでくれよディザイア。それじゃあ…今からここに居る皆でラスボ討伐の為の作戦を立てようと思う」


 ディザイアを軽く窘めてから加江須は今回の仲間となるメンバー達との話し合いを始めるのであった。




 ◆◆◆




 「ふ~ん……ラスボねぇ……」


 もう誰も居ない夜遅くのありふれた公園、そこに置いてあるベンチに横になりながら転生戦士である仙洞狂華は一人でぼやいていた。

 彼女は今しがたゲダツを討伐し、そして転生の間に呼ばれたのだ。だがそこで願いを叶える代わりにこんな話を聞かされた。


 「転生戦士とガッチリ絡んでいるラスボとかを倒さなければ新たに願いは叶えられない……かぁ……」


 まさかゲダツと手を組んでいる転生戦士が居るとは狂華は話を聞いて驚いた。とは言え自分の場合は同じ転生戦士同士でも仲間など作ろうとはしないが……。


 「……ふふ」


 寝転がっている姿勢を正してベンチから離れる狂華。

 頭上を見上げると煌びやかな星空が見え、届くはずが無いと理解しつつも手を伸ばす。


 「願いを叶えるよりも面白そうな話を聞けたなぁ。ふふふ…新しい玩具が見つかったかも♡」


 そう呟くと彼女は公園を出て早速とある場所を目指し歩き始める。


 「確か旋利津市、だっけ? 今からでも行ってみようかしら?」


 そう独り言を呟きながら彼女は街灯の明かりが届いていない闇の中へと姿を消していくのであった。



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