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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
第十一章 ラスボ討伐編 その1
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告げられたのは残酷な真実と喪失だった


 いつもの様に焼失市の外の景色は太陽が沈んで行きもう日没となっていた。あと少し時間が経過すれば世界は闇に覆われて暗闇に沈んで行きそうな具合であった。天の空の色が変化する、それは毎日繰り返される当たり前の現象だが、その日の光の元で生きている人間は必ずしも毎日が同じ事の繰り返しとは限らない。


 現にこの焼失市の中で生活をしているある少年は自分の命と引き換えにしても惜しくない愛する人を突然失ってしまった。それも自分の眼前でだ。


 町中に立ち並んでいる家は外の景色に合わせて室内の電気を点けて内側から明かりを灯していく。しかしそんな中で未だに電気を点けようとしていない家が1軒だけあった。


 その家の室内の居間の方には1人の少年、そして4人の女性が机を囲んで座って居た。とある高校生

のこの5人が一つの屋根の下に集まっているのはある話をするためだ。


 「……以上が昨日の自然公園で起こった出来事だ。そして…黄美の態度が急変した理由だ……」


 この家の住人である少年、久利加江須は静かな声色で自分の目の前で起きた悲劇を今ようやく語り終えて口を閉じた。


 昨日の休日に加江須は自然公園の方へと足を運んでいた。その理由は彼の恋人の1人である愛野黄美との関係をどうやって修復しようか頭を悩ませていたからだ。突然の彼女からの別れ話に自分に対しての冷酷な態度を取る理由が分らず頭を悩ませていた。

 だが黄美が彼に冷たく当たり続けていた理由は彼を嫌っていたからではない。むしろ彼を好いていたからこそ遠ざかろうとしていたのだ。


 加江須から話を聞き終わったすぐ直後、紬愛理は消え入りそうな声でそっと呟いた。


 「……黄美は加江須君の為にあんな酷い態度を取っていたんだ。私…何も知らないで黄美に色々とキツク当たっちゃって……」


 学園で黄美と同じクラスに所属している愛理はクラス内で険悪な態度を取り続けていた事を後悔していた。だがこの場に愛理の事を責める人物は誰一人として存在しない。何故ならこの場に居る他の皆も黄美の本心を結局は見抜くことが出来なかったのだから。


 「もし私があの娘の本心を見抜いていたら…! 親友だったのに…!!」


 どうして自分はもっと黄美の事を信じてあげれなかったのだろう。ああまで露骨に態度が変わればもっと深い事情があると気付けてもおかしくは無かったはずなのに……!

 その同様の思いは他の4人にもあった。特に黄美に対して憤りを感じていた氷蓮は下唇を噛んで何も出来なかった悔しさ、そして彼女を誤解していた思慮の浅さを嘆いていた。仁乃とイザナミももっと積極的に彼女と向かい合ってきちんと話を聞くべきだったと悔やむ。


 その中でも一番後悔の念が強かったのは他でもない加江須であった。


 「すまなかった…俺が…俺があの娘を守り切れなかった……!」


 彼の口から出て来るのは後悔に苛まれた謝罪の言葉。それは守って上げれなかった黄美本人はもちろんの事、こんな話を聞かせ苦しみの種を植え付けてしまった4人の恋人達にも向けていた。

 加江須の謝罪に対して他の4人は何も言わなかった。それは彼に対して非難の言葉を浴びせかける気などさらさらない事もあるが、それ以上に今のこの押しつぶされそうな空気の中で何を言えばいいのか分からなかったからだ。


 誰も何も言おうとしない。唯一聴こえて来る音と言えば愛理のすすり泣く声だけである。他の3人の恋人たちも声を上げてこそいないが涙を流している。そんな中で加江須だけは涙の一滴も零さず強い眼差しで机を見つめていた。

 彼が涙を流さない理由は決して黄美が死んだことを悲しんでいない訳ではない。むしろその逆、今のこの場に居る彼女達以上に加江須は昨日の夜は泣き喚き続けていた。


 眼の端に浮かぶ涙を拭いながらイザナミは加江須の顔を横目で見つめる。

 昨日の夕刻に家に帰って来た加江須は自室へと飛び込むと頭を押さえて床に這いつくばり泣き喚いた。

 彼の泣きじゃくる声が聴こえて来たイザナミが部屋へと飛び込むと加江須は額を床に何度も打ち付けて大声で張り裂けんばかりに叫んでいた。


 ――『うああああ…守れなかった。俺は…俺は黄美を守れなかったぁ……!』


 ――『加江須さん!? なにをしているんですか!!』


 夕方になっても中々家に加江須が帰って来なかった事を不安に思っていた矢先、半ば発狂状態の彼が戻って来た事でイザナミは完全に動揺していた。

 そして彼の身に何があったのかを全て聞いたイザナミは全身の力が抜け落ちて行く感覚に囚われ膝をついて彼と同じように嘆いた。


 それから二人は自然公園の方まで戻り、人目につかない場所に隠しておいた黄美の遺体を回収しておいた。

 イザナミの持つ神具のお陰で黄美の遺体は腐敗をさせずに今も丁重に保管している。彼女は半ゲダツである奥手の手で殺されたのでこの場に居る様な特殊な人間しか彼女の死を認識していない。もちろん彼女の両親も娘が居た事すらもう忘れているだろう。


 神具の中に安置されている黄美の亡骸を見て再び涙を零した加江須であったが、涙を拭うと彼は強い瞳を永遠の眠りについている黄美に向けて強く誓った。


 ――『待っていてくれ黄美。すぐにお前を生き返らせてやるからな』


 死んだ人間は二度と息を吹き返しはしない。それは誰もが持つ共通の認識であり自明の理だろう。だが転生戦士には死者をも生き返らせれる可能性を持ち合わせている。


 加江須は机に向け続けていた視線を持ち上げて恋人たちへと自分の成そうとしている事を告げる。


 「俺は黄美の事を必ず生き返らせる。もう涙は昨日の内に散々と流しておいた。今は悲しみに暮れる暇は俺にはないんだ」


 加江須がそう言うと他の皆も目元を擦って全員が加江須と同じように強い眼差しで彼の方へと顔を向ける。


 「黄美さんを生き返らせる為には私たち転生戦士がゲダツを討伐して行き願いを叶える権利を獲得しないといけないわね」


 「ああ、となれば俺と仁乃、そして加江須の3人の誰でも良いから早いとこゲダツを狩り続けて願いを叶える権利を手にする。それが俺たちの最優先事項だな」


 仁乃と氷蓮は今だに少し赤くなっている目を擦りながら今後の行動指針を定めようとする。だがそんな二人に待ったを掛けたのは加江須であった。


 「いや…実はゲダツを倒して願いを叶える、それよりも前にやるべきことが俺たちにはあるんだ」


 実は昨日に黄美の命を奪った憎き半ゲダツである奥手を始末した後の事だ。冷たくなった黄美の亡骸の前で泣き叫んでいると彼は現世から転生の間へと呼び寄せられていた。

 現世の転生戦士があの転生の間に呼び出された理由はただ一つ、彼の功績が称えられて呼び出した転生戦士に願いを叶える権利を与える為だ。

 

 彼は転生の間に呼び出され、そこにいた神の1人であるヤソマガツヒノカミと対面する。


 加江須はその転生の間でヒノカミと繰り広げた会話の内容を皆に話し始める。


 『なあアンタ、この場所に俺を呼び出したって事は願いを叶えてくれるんだろ? だったら今すぐにでも叶えて欲しい願いがある! 黄美を生き返らせてくれ! なあ頼むよ!!』


 加江須は早口でまくしたてながらヒノカミへと縋り付くかのように彼女の服を掴む。

 今にも泣きだしそうな顔をしている彼をヒノカミはどこか言いにくそうな顔をしながら衝撃の事実を告げた。それは今の彼にとってはまるで死刑判決でも受けたかの様に錯覚するほどにショッキングであった。


 『確かにこの転生の間にこちらサイドが呼び出すのは基本は願いを叶える為っス。でも……今回は……』


 そこまで口にするとそれ以上は一瞬だけ口をつぐんだ。だがその間も一瞬の事、すぐにその後に控えている言葉を口から並べて行く。


 『転生戦士のあなた方には……しばし願いを叶える権利が剥奪される事を伝達しに来たんっス……』


 彼女の口から出て来たこの言葉は正に青天の霹靂である。

 この転生の間に呼ばれて黄美を生き返らせれると希望を持てた。それが一気に急転直下の絶望の底に叩き落とされたのだ。彼はヒノカミの掴んでいた服を力なく放してしばし呆然とする。だがすぐに我に返ると勢いよく彼女へと再度として掴みかかった。


 『ふっ、ざけるなぁ!! いきなりもう願いを叶えられないなんて言われて納得できるかぁ!!』


 彼女の両肩を掴んでガクガクと何度も彼女の体を揺らす。


 『ちゃんと、ちゃんと説明をしろよ!! どうして俺の願いを叶えられない!? どうして黄美を生き返らせてくれない!? 神様が約束を反故するつもりかよ!!』

 

 『……落ち着いて下さいっス。今事情を説明しますから…』


 加江須の万力の様な力を更に大きな力で強引の引き剥がして事情を説明し始める。


 『最初にも言いましたけど永久に剥奪と言う訳ではないっス。あくまで一時的、もっと詳しく言うのであれば〝ある人型ゲダツ〟を討伐するまでは願いを叶えられないと言った方が正しいかもしれないっスね…』


 『どういう事だよ? あるゲダツを倒すまでは願いを叶えられない…?』


 加江須の言葉に対してヒノカミは一度頷いた。

 

 どうやら最近新たな新種の人型ゲダツと共闘している転生戦士が居るらしいのだ。ゲダツと転生戦士は相容れてはならない存在同士。それでも手を組んで戦うだけであるならこんな事態には発展しなかっただろう。だが問題なのはその手を組んでいる人型ゲダツが転生戦士の願いを代行して叶えようとしている事が問題なのだ。人の悪感情から生まれた存在の願いを神側からすれば受理する訳にもいかない。


 『だからその願いを代行して叶えようとしている人型ゲダツを討伐するまでは全ての転生戦士は願いを一時的に叶えられない様にする事となったっス。理不尽と思うかも知れないっスけど上がそう判断した以上は下の私らは従うしかないんっスよ…』


 『誰だよ…その最優先で討伐しなきゃならないゲダツって言うのは……』


 加江須の言葉に対してヒノカミはその倒すべきゲダツの名を告げる。


 『最優先で排除しなければならないゲダツの名はラスボ。旋利津市に潜んでいる人型ゲダツっス』

 


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