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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
裏第三章 対人型ゲダツ編
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あっけない終わり方


 路地裏で始まった転生戦士とゲダツによる激突。

 まるで真剣の様な鋭い蹴りを傘で受け止めた女性は握っている傘を横薙ぎに振るって河琉を後ろへと吹き飛ばす。だが吹き飛びつつも空中で体制を整えると再び河琉は女性へと真っ直ぐに向かって行く。


 「いいないいな! 少し前に戦ったゲダツよりも楽しめそうだぜ!!」


 「やれやれ予想以上に苛烈な子ね。まあだから手を組めるんじゃないかと思ったんだけど」


 まるで猛獣並の攻撃性と獰猛性に少し面倒な顔をする女性。

 このまま馬鹿正直に彼の繰り出す攻撃を受け続ける道理はない。ここは自分の持っている能力で彼の戦意を削いで大人しくさせようと考える。

 

 転生戦士と同じようにゲダツの中には特殊な能力を兼ね備えているタイプも居る。そしてこの人型ゲダツである彼女もまた特殊能力を保有する者であった。


 「盛りの強すぎる獣には鎮静剤が必要かしらね。それじゃあ……あなたの中の戦いに対する〝欲求〟を消して上げる」


 そう言うと彼女は自分の持つ能力を発動する。 

 彼女の能力は河琉の様な攻撃性のある能力ではない。どちらかと言えば精神性の能力、その内容は『欲求をコントロールする特殊能力』である。この能力は人の中にある多種多様な欲求を彼女が手玉に取りコントロールできるのだ。

 例えば食欲をコントロールすればものを食べる事を制限でき、睡眠欲をコントロールすれば眠気を抑えられる。そして、河琉の様な戦闘欲の強い人間にこの能力を発動すれば戦いに対しての欲を薄めることが出来るのだ。とは言え自分の様な人型のゲダツや彼の様な転生戦士に対しては一般人よりも効力が弱まる。それでも河琉の獰猛性を打ち消す事は十分に可能のはずだ。


 だが彼女が能力を発動しているにも関わらず河琉は特に能力の影響を受けているとは思えない鋭い攻撃を繰り出して来た。

 神力を大量に含んだ拳が女性の腹部へと捻じ込まれそうになり、咄嗟に傘で殴打される個所を防御して彼の攻撃を防いだ。だが衝撃までは殺せずかなり後方へと吹き飛ぶ女性。


 「これは…どういう事かしら…?」


 自分の能力は確かにちゃんと発動していた。にも関わらず目の前の少年から戦いに対しての欲求が抑えられている様には思えなかった。相変わらず彼は生肉を狙う肉食動物の様な鋭い眼を自分へと向け続けている。

 

 「何をぼーっとしてるんだよ! もっとやる気を出さないと狩り殺されるぞ!」


 河琉は指を折り曲げてまるでヒグマの様に腕を振るう。

 自分の頭部へと振り下ろされる5本の指を真横に跳んで回避する女性。神力の籠められている指先による攻撃は女性の頭部に命中せず躱されると、そのまま勢いよく彼の指は代わりに地面のアスファルトを削り取った。

 まるで豆腐でもむしるかの様にアスファルトを削り取った彼は手の中の破片を女性目掛けて投げ飛ばす。


 「大人しそうな見た目とは裏腹に随分と野蛮で原始的な攻撃ね。もう少し品性のある手段は取れないのかしら?」


 投石によるアスファルトの飛礫を傘を広げてガードする女性。

 軽口を叩きつつも何故自分の能力があの少年に通用しないのかを考える。間違いなく能力はちゃんと発動している。自分の不発なんてオチではない。それとも能力はきちんと作動してあの少年の戦闘欲があれでも抑えられているのだろうか?


 「(……いや、それはないわね)」


 見たところ彼は能力を発動する前と何も変化は見られない。どう考えても自分が操作したはずの戦闘に対する欲が消沈したとは思えない。

 ならば彼の持っている特殊能力で自分の能力を打ち消しているのだろうか? 以前に特殊能力を無効にする転生戦士と戦った事もある為そのように考える女性。

 だが残念ながら彼女にはこの謎について落ち着いて考える余裕は無かった。

 

 「また上の空だな! 戦いの真っ只中に何を考えているんだよ!」


 「ぐっ、いったいわねぇ…」

 

 凄まじい速度による蹴りの連撃を傘で防ぎ続けていた彼女であるがその内の一撃が肩に直撃する。そして蹴りがぶつけられた影響で彼女は体制を崩してしまう。

 その隙を河琉は見逃さずに再び指に力を籠めて彼女の体を骨ごと抉ろうとする。


 「調子に、乗り過ぎよ!」


 「がふっ!?」


 神力を指先に集約した振り下ろしは確かに当たれば致命的かもしれない。だが攻撃の軌道が単調であり彼女は紙一重で彼の攻撃を回避するとお返しと言わんばかりに彼の肩に蹴りを叩きこんでやった。

 まるで鈍器で思いっきり殴られたかのような痛みと衝撃に片目をつぶる河琉。だがその顔はとても嬉しそうに歪んでいた。


 「がはっ…いいな、この痛み、むしろ血がたぎって来たぞ…」


 蹴りを受けて吹き飛んだ河琉は空中で回転して体制を整える。そして彼は自身の能力、守護神である白虎の力を解放して変身する。

 姿が変身した彼を見て女性は驚きのあまり息をのんだ。


 「変身能力…彼と同じタイプの能力かしら…」


 どこぞの妖狐に変身する転生戦士の事を思い返しながら彼女は傘を武器として構える。

 それにしてもあの変身した姿が彼の能力であるのならば自分が予想していた様な相手の特殊能力を打ち消す力を彼が持っていない事になる。ならば何故あの男には自分の欲をコントロールする能力が通用しないのか? 間違いなく能力は発動している筈なのに……。


 「考えている暇はなさそうね…!」


 変身を完了した彼はまるで稲妻の様な凄まじい速度で女性へと突っ込んでいく。

 

 「しゃおらぁッ!」


 「ちぃッ!!」


 変身した事で指先から伸びている鋭利な爪が彼女の頬を掠めて鮮血が宙に舞う。

 爪の掠めた個所が一瞬すーっと涼しくなったと思えば次の瞬間には痛みと熱が宿る。


 両者の振るう傘と爪がぶつかり合い互いに相手の攻撃を身に少しずつ掠める。


 「はは、そうだ! このハラハラとした高揚感を味わいたかった!」


 「このバトルジャンキーめ…」


 自分の力を遠慮なしに心置きなく使える喜び、そして自分を殺そうとする殺意の籠った攻撃によるスリル、それは日常の生活の中では決して味わう事の出来ない未知の感覚であった。

 河川敷での烈火との戦いも確かに楽しかった。だがあの戦いはあくまで転生戦士同士による勝ち負けを決める戦いに過ぎない。だがこの戦いは命の保証の無いガチの戦いだ。だからこそ彼は喜びに満ち溢れていた。

 体に鈍い痛み、鋭い痛みが蓄積されるほどに自分は今生きている事を、充実している事を強く認識できる。


 「ぶっとびなゲダツ女!!」


 「ぐくぅ!?」


 怒号と共に河琉は渾身の一撃を繰り出し女性を上空へと打ち上げる。

 傘によるガードをすり抜けて腹部を下から打ち抜かれた彼女は上空に吹き飛びながら血を零す。口の端から赤い雫を落としながら眼下を見ると既に河琉は地上には居らず、一気に跳躍して吹き飛んだ彼女よりもさらに上空へと跳んでいた。

 

 「オオラァッ!!」


 気合一閃の鋭い右ストレートが女性の背面を穿ち、拳にはミシミシと肉を打つ感触の他に硬い骨が軋む音が肌で伝わり聴こえて来る。

 背中に繰り出した拳を一気に振り切るとそのまま彼女は地上へと弾丸の様な速度で叩き落とされた。

 殴打によって加速して地面に激突した女性はそのまま地面を数回バウンドしつつも体制を整える。


 「ぐはっ…はぁ…はぁ…強いわね…」


 女性は地面に激突した際に頭部から出血して顔に流れる血を拭う。目に入ってくる赤い液体が鬱陶しくて仕方がない。

 

 ハッキリ言ってこのまま戦い続ければ不利なのはこちらの方だろう。

 相手のあの変身能力、何の動物かまでは解らないが戦闘能力が大幅に上昇している。しかも自分の持つ能力がまるで効いていない事が圧倒的に不利であった。


 「(このまま戦ってもこちらの命が危険なだけ。そこまで理解できているのならこれ以上は無理をする必要は無いわ)」


 彼女が尾行されている事を理解しつつも河琉に自身の後を追わせていたのは〝保険〟の為であった。

 彼女には現在手を組んでいる転生戦士が存在する。しかしその少年にはとある事情から警戒をされつつある現状であった。もちろん自分はゲダツなのだから警戒されるのは当然。しかしその度合いがより一層強まっているのだ。

 街中の雑踏の中で見つけた河琉と言う新たな転生戦士。一瞬のすれ違いざまに見た彼の瞳の中には戦いに対しての欲が垣間見えた。欲望をコントロールできる彼女には人の中に隠れる欲を見抜く才があったのだ。だが交渉が決裂した以上はもう彼との戦いに付き合う必要も感じなかった。


 「さあこのままトドメだ!」


 空中を蹴って一気に女性目掛けて河琉は風を裂きながら突っ込んで行く。

 だが彼女は懐から小さな何かを取り出すとソレを地上へと降りてきている彼へと目掛けて投げつける。


 「……な、爆弾!?」


 自分に投げ飛ばされた無機物の形状を見て爆弾の類かと思い腕をクロスしてガードの体制を取る河琉であるが、彼の目の前に投げ込まれたのは正確には閃光弾。他の言い方をするならスタングレネードと呼ばれる代物だ。その効果は強烈な光で相手の視界を奪う言うなればこけおどしの道具だ。

 まるで太陽が間近に迫ったかのような超強烈な光で視界を奪われた河琉は目を閉じてもがき苦しむ。


 「ぐああ……こ、こんな物を隠し持ってやがったか……」


 両目を押さえながら地上へと着地する河琉。

 完全に視界が潰されてしまい感覚だけで女の行方を探ろうとするがさすがにそこまで都合良くいかない。


 「ぐ……くそ……」


 視界が回復した頃には案の定もう女性の姿はどこにも見えず、みすみす大魚を逃してしまった事を悔しそうな顔をしながら彼は歯を噛みしめていた。

 こうして初めての人型タイプとの戦闘は何とも中途半端な形で幕を閉じたのであった。

 


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