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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
裏第三章 対人型ゲダツ編
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傘の女


 河川敷での決闘が終わりどこかで一息つこうかと考えていた河琉。とりあえずは街の方へと繰り出そうかと考えながら河道を歩き続けていた。

 すぐ近くの水流を眺めながら先程の自分の発言を思い返しては頬を染めていた。


 「たくっ…オレは何を偉そうに言っているんだか?」


 戦いの後に烈火に対して過去に囚われるななどと語り出した自分に対して少し、いやかなり恥ずかしくなる。何を一丁前に説法でも語るかのような口ぶりで話していたのだろう。そのせいで彼に対して烈火が本気で恋心を抱いている事も彼は知らない。まあ恐らくは彼女の話を聞いていて過去の自分を思い返してしまいついポロッと出てしまったのだろう。


 それはまぁいいとして、先程の彼女との戦いは得るものが多かった。


 「今回のあいつとの戦いは今後の戦いの参考にもできそうだ。それにしても……」


 彼は足を止めると自分の両手を無言で眺める。

 視線を下げた瞳に映る自分の両手はプルプルと小刻みに震えていた。それは先程の戦いを体が忘れきれない余韻からの震え、戦いの熱に対する震えであった。


 「やっぱり戦いはいいな。自分の手に入れたこの転生戦士の力を溜めこみ続けるなんて体に毒だ。オレには…こういう毒抜きは今後も必要だ」


 つい先程に烈火とあれだけ激しい戦闘を行ったばかりであるにもかかわらず彼は既にまたあの感覚を、戦いと言う愉悦を求め始めていた。もう一度酔い痴れたくて仕方がなかった。

 

 そして彼のこの願いはすぐに叶う事となる。




 ◆◆◆




 河川敷から大幅に歩いて人通りの多い街へと河琉は足を運んでいた。

 彼は街中に接地されている時計塔を見つめながら自分の判断を間違えたかと少し後悔した。


 「……大分時間が経っているな。これならそのまま家まで直行した方が良かったか?」


 戦いの後の一休みをどこぞのカフェでも取ろうかと思ったが、街にたどり着くころにはまだ日は明るいが時刻はそれなりに経過していた。まあ特別厳しい門限が定められている訳でもない。コーヒーの1杯を飲む時間位はあるだろう。


 「さーて…どこか人の少なそうなカフェは……あん?」


 人通りの多い街中なので歩いていれば必然的に多くの人間とすれ違う。そんな行き交う人々に微塵も興味を示していなかった彼であったが、ある一人の女性とすれ違って思わず足を止めた。


 「……なんだアイツ?」


 彼の視線の先に居るのは一人の若い女性、しかし彼女には少し異様な雰囲気が漂っていた。

 まず目先の女性は雨も降っていないこんな中で傘を差しているのだ。その部分は確かに異様ではあるがただ物珍しい光景に過ぎない。問題なのはもう一つ、彼にとっては傘以上に気になる部分があった。


 「アイツから感じるこの感じ…これって……」


 彼が視線の先で歩いている女性から感じ取ったのは異質な〝気配〟であった。

 

 なにしろあの女からは自分が初めてゲダツと戦った際に感じた肌に纏わりつく感覚、それが全身から放たれているのだ。

 

 「……ちょっとつけてみるか」


 目前に見えていたカフェから反転して急遽の予定変更、彼は少し離れた場所を歩いている傘を持つ女性の後をつけ始める。

 一定の距離を保ちつつ勘付かれない様に女性の後を尾行する河琉。


 「(アイツどこへ向かっているんだ?)」


 別に視線の先を歩いているあの女がどこへ向かおうとしているかは彼には関係の無い事かもしれない。元々が顔見知りでも何でもないのだ。だが心なしか急に人気の少ない方へと歩いて行っている気がしてならないのだ。まるで…背後に居る自分を誘い出すために……。


 「はん、それならそれでいいさ。アイツから感じる気配から察するに普通の人間でない事は重々理解してんだ」


 もしかしたら既に自分の存在に気付き誘い込まれているのかもしれないと理解した彼であるがそのまま尾行を続行する。

 その後もしばし後をつけ続けていると河琉の予想した通り彼女はドンドン人の気配が少ない場所へと進んでいく。やがては誰も居ないであろう路地裏へと姿を消していった。


 「……完全に誘い込まれているな」


 いくらなんでもここまで露骨に人目を避ける場所へと歩いている所を見ると察しが付く。もうあの傘の女は自分の存在に気付いているのだろう。


 「さて…どうするか……」


 今はまだ周辺にはちらほらと一般人の姿が確認できる。しかしあの路地裏へと入り込めば完全に他の人間の視界には自分とあの女の姿は目撃されなくなる。つまりあの女と1対1で向かい合う構図が彼には予想できた。どう考えてももう尾行されている事はあの女も気付いているだろうし。


 「ハッ、むしろ丁度いい。人目を避けたいと言うのは共通の思いだ」


 小さく口元に笑みを浮かべると彼はそのまま歩を進ませて同じく路地の裏へと姿を消した。


 周辺から人の気配が遮断された寂しげな路地へと入り込んでしばし歩いていると、少し離れて前を歩いている女性の歩がここでようやく止まる。

 そしてゆっくりと振り返って自分の方へと初めて顔を向けて来た。


 「あらあら、随分と可愛らしいストーカーさんね」


 やはり女性は河琉が尾行していた事に勘付いていた様で自分の顔を見つめながらニコニコと笑っている。整った顔立ちをしているがこの暗い雰囲気の漂う場所ではその笑みはどこか薄気味悪く見えるだろう。だがそれはあくまで一般人に言える事であり、河琉は特に動じず平然とした顔で彼女へと話し掛ける。


 「もうお互い普通の人間でない事は理解している筈だ。変に取り繕う必要は無いだろ?」


 「ええそうね。あなた…転生戦士、なのでしょう?」


 そう言いながら女性は傘をクルクルと回して笑みを浮かべる。

 それに応えるかのように彼も同じ様な表情をしてこう言い返してやった。


 「今しがた普通の人間でないと言ったが訂正させてもらうぞ。お前…ゲダツだろ?」


 まだ河琉は転生戦士となってからは下級タイプのゲダツしか見た事が無く、目の前のこの女性の様な人型タイプのゲダツは見た事が無い。しかし彼女から感じ取れる気配から半ば鎌をかけるかの様な形で問い正してみた。すると相手は特に隠すつもりもないのか『正解♪』と弾んだ声で口にする。


 「本当にゲダツだったとはな…。人間に近いタイプのゲダツもいるんだな。初めて見たぜ…」


 そう言いながら彼は自然と腰を低くして足に力を籠める。

 少し屈んだ姿勢を取る彼に対して目の前の女性は少し目を鋭くさせて傘を剣の様に構え、直線上に居る彼に話し掛ける。


 「あら怖いわね。まるで今にも襲い掛かって来そうな雰囲気だわ」


 「まるでも何もゲダツと転生戦士が向かい合っているんだぞ。だとしたらこの後の展開なんてお前も分かりきっているだろうに」


 「ふふ…それもそうね。でも私があなたをこの場所に誘い込んだのは別段あなたと戦いたかったからではないわ。ねえ…私と手を組んでみない?」


 彼女のこの言葉に眉を顰める河琉。

 転生戦士とゲダツは相反する敵対存在のはずだ。人を喰らう異形がなぜ天敵である自分に対してこのような事を口にしているのか真意が分からず訝しむ。

 予想通りの警戒心剥き出しの反応に女性はクスクスと笑いながら自分の目的を語り出す。


 「実は私にはどうしても叶えたい願いがあってね。あなたと手を組みたいのはその為よ」


 「……はっはーん…なるほどな。ゲダツを倒す事でオレたち転生戦士は願いを叶える権利を得ることが出来る。そのお零れ狙いか? だがオレにはメリットがないだろ」


 「そんな事はないわ。あなたの眼を見れば分かるわ。あなたは戦いに、刺激に飢えているのではなくて? 私ならその欲求を満たす為の敵を捜し出して用意できるわ。相手はもちろんゲダツ、心置きなく戦える相手よ」


 目の前の女性の言葉に対して河琉は表情には出してはいないが内心では驚いていた。刺激に飢えている、まさしくその通りであった。折角手に入れた神力などの強大な力に表側の人格に押さえつけられていたストレス、それを発散したいといつだって願っている。ほんの少し前まで烈火と行っていた戦いをまた堪能したいと思っている。

 流石は人の悪感情の集合体。人間の中に潜む欲望を読み取る事に長けているのかもしれない。


 「随分とあっさりと尾行を許していたとは思っていたがオレを抱き込む為だったのか?」


 「さてどうかしらね? それで返答は?」


 正直に言えば戦う相手を見繕ってくれると言うこの条件は少し心を惹かれた。それに彼女が見つけて来る相手は全てがゲダツならば容赦なく退治できる。

 それにゲダツであるこの女が一体どのような願いを叶えたいのかも少し気にもなる。だがこの誘いに対して彼の答えは決まっている。


 「中々に魅惑的な誘い文句だ。だが生憎ゲダツと手を組むつもりなんて微塵も無い。それに――戦うべき得物ならもう目の前に居るからな」


 そう言うと彼は神力を全身から放出して完全な戦闘態勢へと移行した。

 交渉が決裂した事を悟った女性は残念そうに溜息を一つ吐き、傘をクルクルと手元で回転させながら口を開いた。


 「出来ることなら保険は多く打っておきたかったけど。あの久利加江須にはすっかり警戒されているし……」


 「なんだぁ? その言い方から察するにお前と手を組んでいる転生戦士が居るのかよ? だとしたらオレなんかよりもよっぽどろくでなしだな」


 そう言いながら河琉は一気に女性へと跳躍して神力を込めた蹴りを繰り出す。

 その飛んでくる蹴りに対して閉じた傘を振るって迎撃する。両者の攻撃がぶつかり合い二人は凄まじい風圧を感じる。


 「さあ、オレを愉しませてくれよ人型タイプ」


 猛獣の様な覇気を纏わせながら再び味わえる戦いの愉悦を喜ぶ河琉。その顔はまるでどちらがゲダツか判らない程の狂気をはらんでいた。

 


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