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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
裏第三章 対人型ゲダツ編
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唐突な戦闘の申し出


 クラスを脱出した河琉は購買に向かう、などと口にしていたがそれは嘘。あの場から抜け出る為のただの口実に過ぎない。元々小食派の彼は昼食を抜く事がしばしある。育ち盛りの少年としてはどうなのかと思うが……。


 「くああ…外いい天気だなぁ。眠くなってくる…」


 目を猫の様にグシグシと擦りながら当てもなく廊下を歩く河琉の見せるその愛らしい姿はすれ違う女子の心を掴んで身を悶えさせる。

 だがそんな眠気に囚われている彼の背後から覇気の良い声がぶつけられる。


 「そこの少年、脚を止めて少し待ってくれないか!」


 「あん、何だよ…?」


 いきなり背後から鋭い声をぶつけられた事で思わず背筋を伸ばして振り返る。するとそこには赤い髪のショート―ヘアー、凛とした真っ直ぐな瞳を持った女子が腕組をして立っていた。

 

 「いきなり声を掛けて申し訳ない! だが出来る事なら私の話を聞いてくれないか!」


 「っ…うるせ……」


 ハキハキとでかい声で話し掛けて来る赤髪の女子に思わず関わりたくないと素直に顔に出してしまう。

 どう考えても声の大きさや雰囲気から察するに熱血タイプの女子だ。この手のタイプは表と裏、どちらの人格の河琉にとっても苦手な手合いであった。こういう輩と関わり合いを持つと面倒ごとに巻き込まれる事が目に見える。

 無視してそのままこの場から立ち去ろうとする河琉であるが、相手の女子は声のボリュームを全く落とさずに肩を掴んで耳元で五月蠅く話しかけて来る。


 「まあ待ってくれまいか! 別に取って食おうという訳ではない! 私は君と少しばかり話がしたいんだ! そう釣れない態度を取らなくてもいいだろう!」


 こんな至近距離で相手の迷惑を考えずに大声で話し掛けて来られて顔がしかめっ面となる。周りを見てみると近くの廊下を歩いている他の生徒も耳を押さえている。

 そんな周辺の態度など一切気にせず相も変わらず過剰な声量で一方的に話しかけ続けてくる赤髪の女子。


 「噂で聞いたんだが君はボクシング部で大層活躍をしたそうだな! 何でもあのインターハイ経験者の袴田にも勝ったそうじゃないか!!」


 「あーもー五月蠅いな。だからどうしたってんだよ? 結局お前はオレをどうしたいんだよ?」


 本当はこんな耳障りな声の持ち主と会話などしたくないがこうでも言わないとこの手のタイプは延々としつこく話しかけて来るだろう。しかもいちいち鼓膜を震わせて来るほどの大音量でだ。できうる限り最速で会話を打ち切ろうとする河琉であるが、ここで彼女は予想外の頼み事をして来たのだ。


 「あの袴田に勝った君の力を見てみたいんだ! 是非とも私と戦ってはくれないか!」


 「………あん?」


 初対面の自分にいきなり何をほざいてんだと表情に表す河琉。

 それは河琉本人だけでなく、話を聞いていた廊下に居る全ての生徒達が全員同じ思いであった。


 「え、何あの娘?」


 「いきなり戦って欲しいって馬鹿じゃないの?」


 話を聞いていた生徒達は辛辣な言葉をひそひそと交わしている。しかも中にはこの女を馬鹿にする意図が含まれているのかわざと聴こえる様な大きさの声で話している生徒も居る。まあ河琉も正直に言えば周りの連中に同意したい。所謂残念美人? とか言うやつだからな。

 だが周りの小馬鹿にするような反応など露知らずと言った感じで目をランランと輝かして見つめ続けてきている少女。


 「あー…あんたさぁ、スポーツ関係の部員?」


 「いや私はこの学園のどの部活動にも属していない! 敢えて言うなら帰宅部だ!!」


 「………」


 正直目の前のこの女がどういう人間かまるで見当が付かない。

 もしも運動部ならばまだ何とか理解も追いつく。もしも格闘関連の部員ならば要は腕試しと言う事と判断できる。だが特にどこへ属する事もしていない女子生徒が何故自分と戦いたいのだろうか?


 「悪いが喧嘩相手なら他を当たれ」


 そう言いながら河琉はこの場を立ち去ろうとする。

 だがその直後に悪寒が走り、その場で勢いよく急降下してしゃがみ込む。


 「おお流石だな! 今の拳を避けるとは!」


 「……お前」


 しゃがんだ体制のまま顔を上げると自分の頭上には彼女の拳が伸びていた。

 いきなりの不意打ちにも苛立ったが、それ以上に河琉には気になる点があった。


 「(明らかにただの一般人の放つ拳の速度じゃねぇ…)」


 自分へと繰り出して来た拳は以前戦ったボクシング部の袴田なんて目じゃなかった。と言うよりも普通の人間の出せる速度ではないのだ。

 そこまで考えが及ぶと彼の中で目の前の少女の正体が果たして自分と〝同種〟かどうか気になりだした。数十秒前までは関わり合いたくないと思っていた相手であるが今は別だ。この女に対して一気に興味心が湧いて来る。

 廊下では事の成り行きをを窺っていた生徒達も驚きを露わにしていた。無理も無いだろう。今の拳は普通の人間では絶対に反応すら出来ない筈だ。


 「面白いじゃん。少し場所を変えて話そうぜ…」


 河琉はまるで新しい玩具を見つけて喜んでいる無邪気な子供の様な顔をして彼女の顔を見て言った。




 ◆◆◆




 「そう言えばまだ自己紹介をしていなかったな! 私の名前は轟烈火(とどろきれっか)だ! 苗字でも名前でも好きな方で呼んでくれ!」


 それなりに膨らみのある自身の胸をドンッ、とはいかずふにゃんと拳で叩く烈火。

 二人は今は校舎裏、以前河琉が袴田に絡まれた場所へと移動していた。廊下では他の生徒達からの視線が煩わしいし、それに何よりもしもこの烈火の正体が河琉の予測通りであれば他の人間に話の内容をおいそれと聞かれるわけにはいかない。だが人気の無いこの場所なら遠慮なく自分の聞きたい事を質問できる。


 「轟って言ったな。さっきの拳、あれはとても普通の人間の出せる速度を超えている。お前…何者だ……?」


 このような前置き無しで単刀直入に転生戦士かどうか聞いた方が早いかもしれない。だがこの女がもしもただの一般人であれば自分の事を訝しむかもしれない。この男はいきなり何を意味不明な事を言っているんだと。だからまずは烈火の正体をハッキリとさせようとするが、ここで彼女はある意味で自分の期待を裏切ってくれる答えを提示して来た。それも大声で。


 「まどろっこしく訊かなくても大丈夫だ! 私も君と同じ転生戦士、そう警戒しなくてもいいぞ!」


 「……マジか?」


 確かに…確かに目の前の彼女は嘘を付けない性格だとは何となく思っていた。だがこうまで馬鹿正直にこんな重大な事実を口にする程の間抜けだとも思ってはいなかった。予想では図星を付かれて目線を泳がせたり、挙動不審となったりはするとは思っていたが。

 

 「お前さ…よくもまぁ自分の正体を駆け引きも無しで暴露できるよな。もしオレがお前と同じ転生戦士でなけりゃ今頃怪しまれていたぜ」


 「いや、私は君が自分と同じ転生戦士であると確信を持っていたから話したんだぞ?」


 どうやらこの烈火は数日前から自分の事を独自に調べていたみたいだ。

 彼女が言うにはボクシング部で一騒動あった事を耳にしたらしく、しかもそこで大立ち回りしたのは学園のマスコット同然の扱いを受けている男子生徒であると知った。もしも同じ体育会系の人間ならば彼女もふーん、そうか。と思う程度で片付いた話かもしれなかった。だがその男子は夏休み前まではとても気弱で暴力はおろか運動すら苦手としていた男と聞いたのだ。


 「長期休みを開けていきなり殴り合いを得意とする屈強な男達をねじ伏せる。どう考えても普通に考えればおかしなことだ。だが君が私と同じ神力を扱う者であるならば話は別だ。いくら力が有ると言っても一般人相手に後れを取るわけがない」


 「……成程な」


 烈火からの推測を聞いた河琉は自分のこれまでの行動を少し恥じた。

 言われてみれば自分の休み明けの変化は明らかに異常だったのかもしれない。それもそうだろう。いくら夏休みが長いなどと言っても一ヶ月間半と言う時間でああまで豹変するなんて普通に考えれば無理だ。トレーニングなんかでたどり着ける領域を超えている。インターハイ経験者のボクシング部員を圧倒するなんて。今後はもう少し派手な行動は控えるべきだと自分を戒めて起きつつ烈火と会話を続ける。


 「まあお互いの素性はこれでハッキリしたんだ。それで、断る気は無いがオレと戦いたい理由を教えてくれよ?」


 「ああ、私が戦いたい理由は二つある! 1つは自分の力を思う存分振るってみたいんだ! この力を手にしてからゲダツとやらとはまだ戦った事が無くてな、いまいち自分の力がどの程度か把握できていないんだ!」


 「なるほどね。つまりオレは自分の力をどの程度か見極めるための目安にしたいと?」


 「確かにそれもある! だがもう1つは……」


 今まで快調に口を動かし続けていた烈火の言葉が急に詰まる。

 ハキハキと話していた彼女が急に黙り込んだことで少し不審に感じる河琉。しかもどこか彼女の表情もおかしい。今まで威風堂々と言った態度から恥じらいを感じる乙女の様な表情をしているのだ。


 「おいどうしたよ急に…」


 「い、いや…ごほんっ! そうだな…もう1つの理由については君が私に勝利した際に教えようではないか!」


 「ほお…」


 そこまで彼女の理由とやらに興味は無いがこのような条件を付きつけられて不敵に笑う河琉。


 「いいじゃん、じゃあお前に勝利して聞き出すとするよ」


 そう口にする彼の表情はまるで飢えた獣の様な危うさが宿っていた。

 

 「放課後に時間を空けておくよ。存分にやり合おう」


 「ああ、望むところだ!」


 そう言うと二人は拳を軽く突き合わせて嬉しそうに笑った。



 

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