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仁乃VS形奈


 突如として乱入して来た形奈の登場に仁乃たちは全員距離を取って厳しい眼で様子を窺っていた。

 

 「ふん、一丁前に間合いを取って様子を窺うか…」


 どこか小馬鹿にするかのような口調でそう言いながら彼女は自分が殺した半ゲダツの男の骸を片手で掴み、ソレをブンッと宙へと放り投げる。

 勢いよく空中へと放られた男の骸は最高到達点まで行くと、そこからは当然の様に重力に従い彼女の眼の前へと落下して行く。


 「……シュッ!」


 自分の目の前に落ちて来る骸をカッと目を見開いて見つめ、そして目にもとまらぬ瞬速で刀を骸へと高速で何度も振るった。

 彼女の振るった刃はまるで豆腐でも斬るかのようにとどこおりなく、滑らかに男の体へと滑り込み、そして男の骸が地面に落ちると同時に彼の骸は細切れとなって地にばら撒かれる。


 「な……」


 愛理はバラバラとなった男の骸に思わず言葉を失ってしまう。 

 彼女の眼には形奈が動かした腕が余りにも速過ぎて刀を握った両腕が消えてすら見えたのだ。そして地面に落ちた男の体が信じられない程に細切れにされた現場を見ると驚きはなお一層だ。細かく分離された肉片、それはすなわち自分の目の前に落ちて来た男の肉体が地上に落下する刹那に凄まじい速度で何度も斬り付けた事の裏返しである。


 「うぷっ…」


 驚愕で固まっている愛理の隣では黄美が自分の口元を押さえて少し顔を青くしている。とは言えこの反応は当たり前だろう。人間があんなにも原型が分らぬほどに幾重にも分断されバラバラ肉とされた光景は今まで平穏な世界で生きて来た女子高生には凄まじすぎる。

 

 「二人とも相手から目を逸らしちゃ駄目よ。目を背けた瞬間に斬りかかってくるかもしれないのだから」


 そう言いながら仁乃は糸の槍を構えて眼前の形奈を力強く睨みつける。その瞳の中には恐れも恐怖も一切なく、その肝の座りように形奈は意外そうに驚きの声を漏らす。


 「ほお、てっきりそこの二人みたく怯えを顔や体に表すと思ったが…中々どうして…」


 「お生憎様。私だって命懸けの戦闘はそれなりに経験してるのよ」


 黄美と愛理とは違い純粋な転生戦士である仁乃はこれまで何度も激闘を乗り越えて来たのだ。今更半ゲダツが一人バラバラに解体された程度では動じない程にはメンタル面は成長している。だが死線を何度か乗り越えて来た経験からか、この時の彼女は表情こそ冷静さを保っているが内心では焦りがじんわりと滲んでいた。


 「(不味いわね…コイツ私よりも…強い…?)」


 まだ実際に戦った訳ではないので断定するわけではないが、これまで何度も戦いの中に身を置いてきたからこそ直感できてしまう事もある。相手と自分との大まかな力量差と言う物を……。

 そしてそれは相手にも言える事である。仁乃と対峙している形奈はどこか余裕を感じさせる雰囲気を醸し出している。


 「確かにお前のその表情を見れば何度も修羅場を潜り抜けて来た事は想像できる。だがな――私ほど命を賭けた戦いに臨んだ回数は少ない事も分かるぞ」


 形奈がその一言を言い終わったと同時であった。


 ――……ガギィンッ!!


 彼女の突き出した刀の切っ先をギリギリで槍の腹で受け止める仁乃。

 

 「ほう、今の突きで喉を突くつもりだったのだがな、やるじゃな……」


 目の前の敵が全てを言い終えるよりも先に仁乃は既に次の行動へと移っていた。

 彼女は糸を結束して作った槍を元の幾重もの細い元の糸の状態へと崩し、そして受け止めていた彼女の刀を崩した大量の糸で絡めとった。

 そして刀を糸で絡めとると再び糸を収束して槍を再構築する。


 「うおっ!」


 まさか相手の得物が無数の糸になった事で少し驚く形奈。その隙を見逃さずに仁乃は刀を巻き込んだ状態で槍を再構築したので彼女の武器は仁乃の槍の中へと組み込まれて奪い取られる。 

 丸腰となった彼女目掛けて槍で突きの連打を浴びせる仁乃であるが、彼女は手持ちの武器を失っても余裕を崩す事なく攻撃を全て回避する。


 「くっ、ちょこまかと!」


 「糸を操る能力か…思いのほか厄介で応用も効くようだな。まさか刀を奪い取られるとはな。だが……」


 形奈は冷静に相手の能力を見極わめて分析を開始する。

 どうやらこの仁乃とやらは糸を操る特殊能力を持っているのだろう。しかもただ細い糸を出すだけではない。大量の糸を一気に出し、その糸を束ねる事で今手に持っている様な槍のような武器も作り出せる。

 自分の持っている特殊能力と違い幅広く応用が利く彼女の能力を僅かに羨み、同時に危険だと思った形奈であったが彼女は未だ慌てない。


 「能力は厄介でも経験の差が違うんだよ」


 そう言うと目の前で自分の攻撃を避け続けている形奈の姿が消える。


 「え、どこに…!?」


 一瞬で眼前から消えた形奈がどこに行ったのかを目で追おうとするが、そんな仁乃の背にいつの間にか移動していた彼女は背後から仁乃の心臓部目掛けて手刀を穿つ。

 風を切る音と共に仁乃の心臓を貫こうとする形奈の手刀であるが、その凶器が仁乃を貫くよりも先に彼女目掛けて火球が飛んでくる。


 「おっと危ない!」


 自分に凄まじい熱気と共に飛んできた火球を横に跳んでやり過ごす形奈。

 いつの間にか背後に移動されていた仁乃は驚きと共に一旦距離を取り、それと入れ替わるかのように次々と形奈目掛けて火球が降り注いで行く。

 

 「この! 当たりなさい!!」


 黄美は焦りを僅かに声に滲ませながら大量の火球を次々と打ち込み続ける。だが形奈はソレを易々と回避して黄美へと距離を詰めようとする。

 だがそうはさせまいと愛理が跳び蹴りを仕掛けて形奈の頭部にヒットさせようとする。

 

 「おっと意外と過激な攻撃だ。だが素直過ぎる」


 「こんのぉ!」


 神具のお陰で神力を操れる愛理は指輪を付けている間は身体能力が相当上昇する。それ故に夏休み中の特訓期間は加江須やイザナミから肉弾戦の訓練もつけてもらっていた。だがやはり教えてくれていた二人と比べると拙い格闘技術は形奈には通用せず、愛理の跳び蹴りを避けた彼女は頭上を通り過ぎようとしている愛理の脚を片手で掴み、そのまま思いっきり彼女の体を地面へとハンマーの様に振り下ろす。


 「やばっ!?」


 脚を掴まれそのまま地面へと叩きつけられそうになった愛理はこのままでは顔面からモロに地面に叩きつけられると悟り両腕を顔の前でクロスし腕をクッションとした。

 神力で強化を施しておいたが地面に激突した両腕から鈍い痛みが走り、それと同時に全身に凄まじい衝撃が伝わって感覚が麻痺してしまう。


 「い…が…」


 地面に叩きつけられた彼女は2度ほどバウンドして仰向けに転がる。

 そんな無防備に痙攣している彼女に止めを刺そうとする形奈であるが、それよりも早く動いた仁乃が間合いを一気に詰めて横薙ぎに槍を振るって邪魔をしてくる。


 「おっと危ない」


 「くそっ!」


 しかしその攻撃もまるで危機感を感じさせない程に落ち着いている声色で回避される。だがすぐに黄美の火球による遠距離サポート攻撃によって再び仁乃たちから距離を置く。その隙に倒れている愛理の体を仁乃が糸を射出して絡めとり、こちら側へと抱き寄せる。

 自分たちの元へと引き寄せられた愛理の傍へと黄美が駆け寄り安否を確認する。


 「ちょっと愛理大丈夫!」

 

 「う…あ…」


 声を掛けてみると反応を示してはくれた。だが彼女は呻き声の様な声を出す事は出来たがちゃんとした言葉を口から出す事は出来なかった。どうやら先程の形奈の振り下ろし攻撃が相当に効いたようでまだ満足に動けないようだ。

 

 仁乃はまだ戦い慣れていない二人を庇うかのように前へと出て片手に槍を、そしてもう片手には糸を束ねてハンマーの様な物を即座に作り出す。


 「黄美さんは愛理の事を守りつつ後ろからサポートしてちょうだい。私が前に出て戦うから…」


 「……分かったわ。気を付けてね仁乃さん」


 この場でもっとも頼りになる仁乃の指示に素直に従う黄美。

 相手はかなりの実践慣れをしている転生戦士だ。自分の様な実践が初の素人がしゃしゃり出ても仁乃の足を引っ張る事になる事は目に見えている。それならば場数を踏んでいる彼女の言う通りサポート方面に回るべきだろう。


 「さて…そっちの水色の髪の女が回復する前にお前たち二人を始末するか。いや、それとも先にその愛理とかを殺しておくか?」


 「そんなふざけた事をみすみす許す訳ないでしょうが…!」

 

 そう言いながら槍の切っ先を突き付ける仁乃。

 確かに相手はかなりの実力者である事は認める。だが武器として使用していた彼女の刀は自分の糸の集合体である槍の中に埋め込まれている状態だ。丸腰の相手ならばまだ勝算は十分にあると判断してもいいだろう。


 それに〝仕込み〟の方も念には念を入れて済ませている。


 「ふん、とりあえずまずは私の刀を返してもらおうかな。やはりアレがないと少し物寂しいからな」


 そう言いながら余裕を崩すことなくゆっくりと仁乃たちへと距離を詰めていくが、しかしここで彼女は自分の足元に違和感を感じる。


 「ん…なんだコレは…?」


 何やら足元に何かが纏わりついている感触を感じるのだ。だが自分のこの感覚とは異なり足には何も引っ付いてはいない。ただの気のせいだろうかと思ったが、次の瞬間には遅れてようやく彼女は自分が罠にはめられている事に気付く。


 「チッ!」


 舌打ちを一つするとともに今立っている場から離れようとするが遅かった。


 「捕まえたわよコイツめ!!」


 仁乃がそう言いながら武器を持ちつつ指を微かに動かした。すると形奈は足元が縛り上げられる感覚に陥る。例えるならばまるで見えない糸で足を縛り付けられている感じだ。


 「いや…これはまるで…じゃないな。お前…透明な糸を私の足元周辺に張っておいたな。そしてタイミングを見計らってその無色の糸で両足を縛り上げる。直情タイプかと思っていたが小細工も普通と使うんだな」


 まさに今の形奈の推測通りであった。

 先程に倒れている愛理に止めを刺そうとしている彼女に槍を持って接近した際、彼女は同時に周辺へと透明な糸、クリアネットを張り巡らせておいたのだ。

 

 両脚を縛られた形奈はバランスを崩してその場で間抜けに尻もちを付く。


 「隙ありよ!!」


 相手の動きを制限した事を確信した仁乃は一気に自分の周辺へ大量の糸の槍を展開、そしてすぐに一斉射出して形奈を追い込む。

 

 「その足が不自由な状態でこの攻撃は防げるかしら!」


 数にすれば20以上の糸の槍が一直線に形奈の体へ喰い込もうと向かってくる。だが彼女はくすりと小さく笑うと自分の足に絡まる糸を一瞬で切断すると起き上がり、そのまま無駄な動きをせず最小限の動きで槍の豪雨をやり過ごす。

 自分のクリアネットを破られた事に驚く仁乃。


 「どうやってクリアネットから抜け出たのよ……?」


 彼女の武器である刀はこちら側にあるのだ。少なくとも神力で強化された糸を素手で引きちぎったとも思えない。ならばあの女はどうやって糸を切断したと言うのか?

 

 「随分と驚いているな。だが生憎そこまで大した事はしていない」


 そう言うと彼女は指を真っ直ぐに伸ばし手刀を形作る。

 

 「ただ神力で糸を〝斬った〟だけのこと…」


 そう言うと彼女の伸ばされた指先からは神力で形成された金色の剣が伸びていた。


 

 

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