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黄美と愛理、初の実戦

 

 加江須に後頭部を上から足で押さえつけられながら奥手は洗いざらい自分の知る限りの事を全て吐露し始める。


 「アイツからの指示だったんだよ。お前の強さを警戒して形奈はまずはお前の動きを押さえる事から始めようって」


 「学園じゃなくて俺を誘き出す事が目的か。それで?」


 「そ、その為にお前が大切にしている恋人連中を人質として扱うから俺たちにお前の足止めを命令されたんだよ。形奈のヤローはお前について色々と下調べしていたみたいだ。お前の恋人が何人かこの学園に在籍している事も掴んでいる」


 四肢を切断されて激痛に話している最中ずっと苛まれるが気にもならなかった。そんな痛覚よりも自分の頭を踏みつけにしている妖狐の怒りが恐ろしすぎて……。

 大まかな形奈の目論見を話し終えるとすぐに次は命乞いをする奥手。


 「な、なあ、言われた通りに全部話してやったぞ。もう俺を解放してくれ」


 「………」


 加江須は無言で彼の頭部から足を離して彼を解放してあげる。

 頭上から押さえつけられていた力にようやく解き放たれた奥手であったが自由になれたわけではなかった。何故なら彼は現在両手両足を失っているのだ。ゲダツの生命力のお陰で出血も止まり生きてこそ入るがこれでは身動きは取れない。


 「な、なあ久利、悪いんだけど手足をこっちに持ってきてくれないか? このままじゃ動けねぇよ」


 千切れた両手両足をくっつける為に持ってきてほしいと頼み込む奥手に対して加江須の出した返答は次の行動だった。


 彼は無言で散らばっている彼の手足に火を放ったのだ。


 「あ、ああああああ!?」


 千切れた四肢の全ては一瞬で灰となってしまい唖然と口を大開きにして固まってしまう。そんな石化状態の彼を置いて加江須は急いで仁乃たちが向かった正面方面へと加勢に向かおうとする。

 

 「ま、待てよ久利! 俺の手足はどうなるんだよ!!」


 芋虫の様にモゾモゾとその場で体をゆれ動かしながら自分をこのまま放置するつもりなのかと訴えるが彼は走りながら後ろを向き、そして短くこう告げた。


 「知るかよ。命は助けてやるけどその後の事はお前で何とかしろ」


 「うそ…」


 その冷酷な発言を終えると一気に天高く跳躍して彼の前から消える加江須。

 取り残された彼はただ茫然と飛び去って行く彼の後姿を眺める事しか出来なかった。さながら手足の無い蛇が自由に大空を飛べる鳥を見るかのように。


 「だ…誰か助けてくれ…」


 力なき声で助けを求める奥手であるがこの辺りは人気も少ないために誰も彼の存在に気付かない。無情にも声は届かないのだ。


 「お願いしますぅ。だれかたすけてぇ~……」


 とうとう子供の様に涙まで流して助けを求めてしまう彼であったが、漫画の様に都合よく助けを乞うても人が来るとは限らない。

 それからしばらくの間、四肢を失った高校生の涙交じりの救援の声が小さく周辺へと響き続けた。




 ◆◆◆




 時間は少し巻き戻り加江須とは反対方面の正面付近へと近付きつつあるゲダツたちの対応を受け持った仁乃たちは学園を出てすぐに校門を抜けると半ゲダツの男達と遭遇した。

 すぐに身構える仁乃であったがここで相手の発言に眉をひそめた。


 「おお出て来たぞ。コイツ等があの久利加江須ってヤツの恋人か?」


 「(コイツ等…私たちと加江須の関係を知っている?)」


 そう、どういう訳か相手は自分たちが加江須と深い関係である事を知っていた。となれば相手は加江須の事だけでなく自分たち、いやこの新在間学園に在籍している転生戦士の事を熟知している事となる。


 「それにしてもイイ女共だな。本当に久利加江須ってガキを始末出来たらコイツ等を好きにして良いのか?」


 そう言いながら男共は下種な笑みを顔に張りつける。

 その発言を聞いて仁乃は顔をしかめた。相手の狙いはどうやら口の軽いこの連中のお陰で加江須の命である事は知れた。だがどうして加江須を狙って来たのかは不明だ。


 「事情は不明だけどアンタ達の狙いが加江須である事はその軽い口から理解したわ。だと言うなら容赦は微塵も必要ないわね」


 そう怒り心頭と言った顔で能力を発動して糸を束ねて瞬時に槍を作り出す仁乃。

 コイツ等が半ゲダツである事は気配からして間違いない。それならば転生戦士の自分が戦う事は宿命、などと使命感から彼女の戦意が湧きだっているのではない。


 「私たちの大切な恋人を殺そうとしている悪いゲダツ達。当然始末されても文句はないわね」


 転生戦士だのゲダツだの立場うんぬんよりも大切な人を狙っている事が仁乃にとっては何よりも許せない事であった。それは愛理も同様であり、彼女も怒りをありありと顔に浮かべて指輪から雷を迸らせている。


 「さっきまで初めての実戦で緊張していたけどそんな不安は消し飛んだよ。加江須君に手を出す気でいるなら容赦しないよ」


 そう言いながら仁乃と愛理の二人が男共へと向かって行こうとするが、それよりも先に怒りの赴くままに動いた少女が居た。


 仁乃と愛理の間を金色の髪を靡かせ一人の少女が飛び出した。


 「――死になさいよアンタ」


 恐ろしく冷たい一言と共に黄美が一番先頭に立っていた男の頭部を掴むとそこに指輪から神力を発動して炎に変換、その炎で相手の頭部を業火で包んでやった。


 「あづああああああ!?」

 

 相手がひ弱そうな少女だけで油断していた半ゲダツの男は一瞬で全身を炎で炙られ悲鳴を上げて転げまわる。

 そんな苦しみの声を上げる男をゴミを見るかのような目で見つめながら吐き捨てるように彼女はこう言った。


 「アンタの様な薄汚いゴキブリ以下の生命体がカエちゃんを殺すなんて許される訳ないじゃない。そのまま焼け死になさい」


 そう言うと足元で転げまわる男の顔面を綺麗につま先で蹴りぬいた。

 イザナミから与えられた神具の指輪は神力を操る力を付与する。男の全身を覆う炎の様な特殊能力だけでなく純粋な身体能力も上昇しているのだ。

 彼女の蹴りは神力で強化されており、その勢いと威力は凄まじく力強く蹴り込んだつま先は男の顔面を潰し、衝撃で大量の出血と何やら目元から何か丸い球体が転がって来た。


 「ふん、このクズめが」


 足元に転がって来た男の目玉をぐしゃっと踏み潰す黄美。

 だが不意打ちで倒せたのはあくまでこの一人だけだ。残りの連中は黄美のこの行動に怒りを爆発させて一気になだれ込んで来た。

 だが黄美は冷静な表情を崩さずに脚力を神力で強化、そして一気に背後へと後退する。


 「このクソアマ逃げてんじゃねぇ!!」


 2人の男が黄美を追尾するが自分たちが複数でこの場に居る様に相手もまた複数人居る。その事が一瞬だけとは言え彼等の頭から抜け落ちてしまう。

 その隙をこの中で戦い慣れている仁乃が見逃す訳も無かった。

 

 「黄美さんだけが相手じゃないわよ。アンタ等の敵は私と愛理も居るんだから」


 そう言うと仁乃は脚を動かし黄美と相手の男たちの間に一瞬で入り込み、手に持っている槍で相手の男二人の心臓部をそれぞれ一瞬で貫いてやった。

 そのスピードは雷の様に速く、夏の長期休みの間に鍛えられた彼女の速度には相手の半ゲダツの男たちはほとんど反応できなかった。


 「ぐっ…!」

 

 「ぎゃ…!」


 仁乃の槍で心臓部を貫かれた二人は短い悲鳴の後にぐったりと動かなくなり絶命する。

 

 「なっ、コイツ強いぞ!」


 一瞬で二人の仲間がやられてしまい残りの半ゲダツ連中は急停止して足を止める。だが仁乃に注目し続けていた為に仁乃と同時に動き始めていた愛理がその中の一人の男に狙いを定めて拳を繰り出していた。


 「喰らえコイツめ!!」


 「ぐあっ! このクソガキがぁ!!」


 神力で強化した拳を半ゲダツの1人の頬へと繰り出す愛理であるが、神力で拳の破壊力が増しているとはいえ加江須の様にこれだけで相手を戦闘不能に持ち込むことは出来ない。しかし愛理の攻撃の恐ろしさは次の瞬間に発揮される。


 「痺れてな、この外道が!!」


 その言葉と共に指輪から放出される神力を雷へと変換、その雷は当然拳が触れている男の全身を一気に駆け巡る。

 全身に迸る電流は男の意思とは関係なしに全身を痙攣させ、愛理へと繰り出そうとしていた拳を振えずその場で痺れる。


 「あびばあばばば!?」

 

 全身が強烈な電気で覆われ口からは言葉すらも満足に出せない。

 そして拳を男の頬から引き抜くと強化した蹴りで側頭部を思いっきり蹴り込んでやった。


 「どうだぁ! 私だってやれるんだぞ!!」


 そう言いながら指輪から雷を放電させて構えを取る愛理。

 彼女に蹴り飛ばされた男は未だに全身が小刻みに震え、口の端からは泡を吹き出している。


 「くそ、コイツ等こんなに強いだなんて。形奈さんから聞いていた話と違うじゃないかよ!!」


 形奈から久利加江須の恋人たちを押さえるように命令を受けた際、久利加江須以外は大した力を持っていないと聞かされていた。間違いなく自分たちが数で圧倒すれば勝てると。だが蓋を開けて見れば聞いていた話とはまるで噛み合わない彼女たちの実力に最初は余裕の笑みを浮かべていた残りの連中は僅かに後ずさり戸惑っていた。


 「くっ…お前らいいのかよ? この辺りは人通りも決して少なくないんだぞ。もしここに居る俺たちを殺せば死体が残って目立つぜ」


 まともにやり合えば自分たちの命が危険だと判断した敵の1人は見苦しく今更周囲の目を気にするように促し始める。しかしこの男の言う事も一理ある。今は人気が無いとは言え一般人がこの場を通ればこれだけの半ゲダツの男たちが死体となって転がっていれば騒ぎになりかねない。

 だが残念ながらその点の対応策を彼女たちはすでに用意を整えていた。

 

 「悪いけど…アンタ達の様な半ゲダツの処理対策も整えているわ」


 その言葉と共に仁乃は小さな黒いボックスを取り出した。

 サイコロよりも少し大きいその箱には小さな穴が空いており、その小さな小箱を倒れている半ゲダツの男に近づけると奇怪な現象が発生する。


 小箱を近づけられた半ゲダツの男は黒いモヤの様に身体が崩れると箱に空いている穴の中へと吸い込まれていったのだ。


 「アンタ等の様な人の目に見えるゲダツの後処理神具よ。凄いでしょ」


 そう言いながら仁乃は不敵な笑みを向けて槍を再度構える。


 「さて、後処理の用意も備えてある事もこれで分かったのなら覚悟を決めなさい。腐りきった半ゲダツ共」



 

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