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クラスメイトの真実


 校舎裏で加江須に釘を刺された奥手は酷く荒れていた。

 彼は苛立ち気に道路に設置されている自販機に蹴りを入れて喧しく怒鳴っていた。


 「ふざけやがって、ふざけやがって、ふざけやがってぇぇぇぇ!!!」


 ガンガンガンと自販機の取り出し口を何度も蹴って胸の中の苛立ちを吐き出そうとするが一向に気分が晴れない。それどころか時間が経つにつれて神経が逆撫でされている様な感覚に陥る始末だ。

 最初はあの男の秘密やあわよくばモテる秘訣でも聞こうかと思って呼び出したつもりだった。だが昼休みに恋人に連れられて笑っていたあの男の顔を見て怒りが込み上げて来た。もちろん彼だってこれが逆恨みである事は重々承知しているつもりだ。それでも自分と同じような取り柄の無い男子が急に人生の勝ち組みたいに成り上がっている事が我慢できなくなりあのような暴挙に走ってしまった。


 「くそ、偉そうに俺を脅しやがって! 何様のつもりだあの野郎は!」


 自分の前から消えゆく際に釘を刺された事を思い出して親指の爪を噛んでイライラする。だがそもそも先に相手を脅すかのような発言をしたのは奥手の方なのだが、身勝手な人間ほど自分の行いを棚に上げるものだ。彼の中では逆恨みと理解しつつ相手の方が絶対に悪いだろうと言う奇妙な感覚に囚われていた。


 「くそ…イライラするぜ。こうなったらアイツが複数の女と付き合っている事実をぶちまけてやろうか…」


 そうすればこの胸のつっかえも取れるだろう。

 だがそこまで考えると校舎裏で加江須の見せたあの猛獣の様に鋭い眼光が鮮明に思い返される。もしも自分がこの事実を暴露してあの男の恋人たちに被害が及べば加江須のヤツは何をしてくるか本当に分からない。そう考えるとこの案は実行に移す気にはなれなかった。


 「やっぱりあの野郎は何か隠してやがんな。普通の一般生徒があんな殺気みてーなの出せるかよ。ヤクザ並みの迫力だったぞ」


 やはりあの久利加江須には何か秘密がある。明確な確証は無いのだが何故か奥手にはそう断言出来た。

 

 どうにかヤツの正体を探れないかを考えながら自販機から離れようとした時、奥手の頭上から女性の声が聴こえて来た。


 「中々の慧眼の持ち主じゃないか。ただの一般人が朧気ながらもそこまで見抜けるとはな」


 突如として聴こえて来た声に過敏に反応する奥手。さきほどまで自販機を蹴り続けていたので器物破損の現場を見られたと思い焦り出す。

 声が聴こえて来る方向へと急いで顔を向けるとその声の発生源は自分の背にある電柱、その真上から放たれていた。

 

 「な、何だアンタ? 何でそんなところに……」


 首を上げて電柱の頂点を見上げながら戸惑いの色を浮かべる。何故ならそこには青紫色のショートヘアーで片目が閉ざされている女性が立っていたからだ。更に腰には刀が差し込まれている。銃刀法違反になりかねない風体だ。

 まるでサーカスの団員の様に片脚で器用に電柱の上に立っている女性は口元に笑みを浮かべるとその場で大きくジャンプし、そして一気に地面へと着地した。かなりの高さであるにもかかわらずクッションの1つも無しになんなく降りて来た女性に思わず後ずさってしまう。

 着地した際に下げていた顔を上へ向け怪しげな笑みと共に奥手と向き合う女性。


 「そう警戒するな。別に取って食おうとしている訳じゃないだろう」


 そう言いながら一瞬で彼の目の前まで移動を終えてポンと優し気に肩を叩く女性。

 まるで瞬間移動の様なスピードで移動をした彼女に肩を叩かれ思わず腰が抜けそうになる。先程の電柱から飛び降りた事といい、今のスピードといいどう考えても普通の人間じゃない。相手を普通と言うには身体能力があまりにも常軌を逸している。

 まるでこの世のものではない人の皮を被った化け物と対峙した気分に陥っていると目の前の片目の女性は穏やかな口調で接して来た。


 「怯えるな怯えるな。私はお前の敵でも何でもない。そう緊張するなよ」


 そう耳元でどこか色香が含まれる声色で囁いて来る女性。その行為は奥手の様な思春期の男心をくすぐり思わずドキリとしてしまう。

 直前までは化け物に見えていた女性だが片目が閉ざされているとはいえ顔立ちはかなり整っており、そんな綺麗な年上の女性に迫られると胸が高鳴ってしまう。


 「あ、あんたは一体何者なんだ? どう考えても普通の人間じゃないだろ」

 

 「ああその通りだ。お前のその読みは正解だよ。私は普通の人間ではない。そう…お前が今気にしている久利加江須と同様にな」


 彼女の口から出て来た少年の名前は奥手に衝撃を与えたのは当然の事だろう。今の今までその人物の事ばかりを苛立ちと共に考えていたのだから。まさかこの女性の口からその少年の名前が出て来るとは完全に予想外であった。

 

 「あんたは一体誰だ? あの久利のヤツについて何か知っているのか?」

 

 「ああ知っているとも。何しろ私はあの男には殺されかけたんだからな」


 「殺され…!?」


 目の前の女性の口から出て来た物騒な単語に思わず声が喉の奥で詰まってしまった。

 そんな彼のリアクションを放置して彼女、東華形奈は彼が知りたがっている久利加江須についての全てを話し始めた。

 

 形奈の口から出て来た話は光景無糖にも程がある内容であった。まるでどこぞの漫画の話をされていると言われた方がまだ理解も納得も出来る。

 実はこの世界にはゲダツと呼ばれる怪物達が生息しており、久利のヤツはそんな化け物と戦う力を一度死んでから手に入れたらしい。そして陰で化け物と何度も戦っていると……。


 「……以上が久利加江須の正体だ。お前が独り言として呟いていたな。あの男は普通の一般生徒ではないと。まさにその通りだ。数々の修羅場をあの男は潜り抜けてきている。そんな男の放つ威圧はお前の様な普通の人間にはさぞ恐ろしく感じただろう」


 「し、信じられねぇよ。確かに久利のヤロウはある日いきなり超人みたいになりはしたけどよ……」


 全ての話を聞き終わった奥手はまだ納得できていないような顔をしていた。あまりにもリアリティの無い話にもしかしてからかわれているんじゃないかとすら思った。

 だがそんな彼の疑いを一刀両断するかのように形奈は腰の刀を引き抜き、自販機の前まで移動すると神力で強化した刀を縦に一閃して自販機を物理的に縦に一刀両断した。


 「な…マジかよ…」


 切り裂かれた自販機は中の飲料水を地面に零しながらバチバチと切り裂かれた配線から火花を散らしてる。まるで豆腐でも斬るかのようにアッサリと自販機を切り裂いた形奈の事を呆然と見つめていると、更に彼女は神力をコントロールして刀を空に振るうと神力の塊が斬撃として少し離れたところの駐車場の中に駐車していた車を切り裂いた。その直後に車は漏れ出たガソリンが機材のショートで引火でもしたのか爆発した。

 凄まじい轟音が周囲へと響き渡り黒い煙が駐車場に立ち込める。


 「おっとやりすぎたな。少し離れるか」


 さすがに今の爆発音は人を集めかねない。もちろん自分が車を切り裂いたなどと言っても誰も信じないだろうが目立つのは勘弁だ。そう思いこの場を離れようとする形奈であるが、その際に傍で間抜けに大口を開けて呆けている奥手の腕を掴むとそのまま一気に跳躍する。

 

 「うわわわわわわ!?」


 「おいおい暴れるなよ。少し人気の無い場所まで跳ぶぞ」


 すぐ傍で騒ぐ彼の口を手で押さえると彼女は家の屋根を飛び移って行き人気の無さそうな路地裏へと降り立った。

 地上へと着地すると同時に遠くの方からサイレンが聴こえて来た。あの爆発の火災を消化するために消防車でも呼んだのだろう。まあもう自分には関係ないことだ。


 「さて話の続きをしようか少年。今の私の斬撃と惨劇を見てもまだ私の話が下らない与太話だと思うか?」

 

 彼女が少し好戦的な眼で見つめながら笑みを浮かべると彼は高速で首を横に振っていた。あんな非現実的な光景を見せつけられて彼女の話が与太だとは思わなければ、下手に刺激して怒らせてしまえば自分の命にかかわると本気で感じたからだ。


 「理解してくれたようで何より。さて…話を戻すが久利加江須は私と同じ転生戦士と呼ばれる存在だ。今の私の様な魔法みたいな力も使える。手から炎を出したりな」


 「アイツにもあんな力が……どうりで学校の運動部の連中も子ども扱いできるわけだ……」


 久利のヤツにとって自分など、いや学園内に居る生徒達はさぞかしレベルの低い存在なのだろう。校舎裏で見せた一学生らしからぬあの殺気だって今なら理解できる。何しろ彼はゲダツと呼ばれる化け物と日々戦っているのだ。平穏な学校生活しか送っていない自分たちとは違う。


 「くそ…でも狡くねぇか? あんたの話から察するに久利のヤツは運よく転生戦士とかになったんだろ? 運よくその転生戦士の素質があってチート化とか汚ねぇだろ……」


 何だか不公平極まりない話だと思う。要するにアイツは運が良かっただけじゃないか。それなのに偶然手に入れた力を我が物顔で使っている事が納得できないでいると形奈がこんな事を言って来た。


 「ならもしもお前がヤツと同じ様な超人化できればヤツよりも優れた男に成れるのか?」


 「え…それはどういう…?」


 一体どういう意味なのかと奥手が尋ねると彼女は待っていましたと言わんばかりにある物を取り出して見せつける。


 「何だソレ? 薬かなんかか?」


 彼女の取り出したものはよく薬局などで見かけるカプセル型の薬のようだった。しかしカプセルの中には粉末状の薬ではなく赤い液体が入っている。


 「この薬はお前の様に無力な人間に力を授けるアイテムだ。どうだ、飲んでみないか? お前だって久利加江須に負けっぱなしは癪に障るんだろう?」


 そう言いながら彼女は手の平に載せている薬を目の前の少年へとそっと差し出すのだった。



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