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新学期スタート


 「起きてください加江須さん。今日からもう学校ですよ」


 「んん…あと10分だけ寝かせてください」


 「ダメです。もう今日から学校なんですよ」


 未だに布団から出てこようとしない加江須に優し気な声色で布団を剥ぎ取るイザナミ。

 全身を覆ってた布団を剥ぎ取られると窓からは朝の心地よい光が差し込んで来るのだが、未だ惰眠を貪りたい彼からすればとてもその光がうっとおしくて仕方がない。


 「はーい起きてください」


 しかし二度寝はさせまいとイザナミが手を引いて半寝ぼけの加江須を立ち上がらせた。そこまでされれば嫌でももう起きなければならない。

 

 「ふわぁ……おはようイザナミ…」


 「はいおはようございます」


 欠伸交じりに挨拶をする加江須に笑顔で挨拶を返すイザナミ。

 力の抜けた顔を水で洗って台所に行くと食欲を刺激する良い匂いが立ち込めていた。


 「おお美味そうだ。いつもありがとうな」


 「住まわせてもらっているんですからこれくらいは当然です」


 イザナミがこの家へとやって来てからは朝食はいつも彼女が用意してくれており、特に家事で忙しい母さんは感謝しているようだ。


 「それにしても父さんと母さんはもう仕事に出たのか? いつもよりも早いな」


 「何でもお二人とも今日は朝から早出の出勤しなければいけない用事があるそうですよ」


 「登校初日の朝から家族の顔も見ずに登校か。まあ別にいいけど…」


 みそ汁を啜りながらそんな事を呟いているとある事を思い出した加江須。


 「そう言えばイザナミ、お前今日からアルバイト始めるんだってな」


 「はい、近くのお花屋さんで」


 実はイザナミは今日から近くのフラワーショップでアルバイトを始める事になっているのだ。ただ養ってもらうだけでは納得できないと思っていつの間にかアルバイトを探していたみたいなのだ。

 

 「別に家の家事を手伝ってくれるんだから無理して働かなくてもいいのにな」


 「そうはいきませんよ。それに私だって家にこもる事が正しいとも思えませんし」


 まあ確かにイザナミは学生ではないので日中は退屈かもしれない。そう考えるとアルバイトと言う選択も悪くは無いだろう。だがここでふと気になったのだがウチの親は彼女を遠縁の親戚と見ているが学校などの事は気にしないのだろうか? 普通に考えればイザナミが夏休みを終えても家に居続けると不審に思うのではないだろうか?

 そんな疑問を尋ねてみるとどうやらそのあたりはイザナミが催眠で上手くはぐらかしているらしい。

 さり気なく抜かりの無い女神に思わず笑ってしまった。


 「ごちそうさま。よし、じゃあもう行くよ。アルバイト頑張れよ」


 「はい、加江須さんも久しぶりの学校楽しんでくださいね」


 手を振って笑顔で見送ってくれるイザナミに笑顔を返して家を出る加江須。

 

 こうして通学路を歩くのも本当に久々だ。これまでは夏休みが終わってからの初日の登校は億劫で仕方が無かった。あと1日だけでいいから休ませてほしいと毎年思っていたものだ。だがこの夏休みは戦いばかりだったので平穏な朝の登校が少し心地が良い。

 

 「おはよう加江須」


 「ああおはよう仁乃」


 しばし歩いていると同じ学校を目指し登校している仁乃と合流する。そこからは黄美と愛理の二人とも合流して4人で学校を目指す。

 学校までの道のりはまだ続くので必然的に道中で会話が繰り広げられる。


 「へえー、じゃあイザナミさん今日からアルバイトなんだ」


 ふとイザナミが今日からアルバイトをする事になった事を話すと愛理が少し驚いていた。


 「それにしてもフラワーショップかぁ…。なんだかイザナミさんに似合っているかも」


 花屋で様々な種類の花に囲まれて働いているイザナミの姿を想像しながら黄美が呟く。そんな彼女と同じように加江須も想像してみると確かにかなり似合っている。優し気なイザナミの周りを花々が包んでいる光景はどこか幻想的だ。

 そしてアルバイトの話となると今度は仁乃が氷蓮について話始めた。


 「そう言えば氷蓮も新しいバイトするらしいわよ。どこで働くかまでは聞かなかったけど」


 余羽のマンションに住み始めてからはアルバイトを控えていた彼女であるが、部屋の主である彼女も今日から学校生活と言う事で暇なのだろう。それに仁乃の話では彼女がよく行くゲームセンターなどの費用も自分で稼いでいるらしい。遊ぶためにはやはりバイトは切り離せないのだろう。

 

 そんな身近な人たちの事を話しているといつの間にか周りには同じ制服姿の生徒が増えていた。


 「おおガッコ―見えて来たよ。なんだか懐かしいねぇ…」


 愛理の視線の先には夏休み前と何も変わらない母校が建っていた。まあたかだか一月半しか時間が経っていないから何も変化が無いのは当たり前の事なのだが……。

 だが愛理の言う通り久方ぶりの学園はなんだか懐かしく感じる。しかし周りに居る同じ学園の生徒達は違うようだ。


 「ああガッコ―着いちゃった。いやだなー…」


 「俺まだ夏休みの宿題少し残ってるのに…」


 周りの生徒達は自分の母校を見て憂鬱そうな声を漏らしている。まああれだけ長い休みを満喫した直後だと考えれば少し分かる気がする。

 すると周囲から嫌な視線が加江須の体へといくつも突き刺さり始める。


 「はぁ…これも懐かしいな…」

 

 自分に向けられるこの敵意が含まれている視線、コレもどこか懐かしく感じてしまうとは……。

 周囲をチラチラと見てみると男子達が恨めしそうに自分の事を睨みつけている。その理由はもう分かりきっている。自分が仁乃、黄美、愛理と言った美少女たちに囲まれているからだ。

 男共のこの嫉妬に満ちた視線を懐かしめるようになるとは、慣れとは恐ろしいものである。とは言え今更この程度の重圧など屁でもない。日頃から化け物共と戦い続けて来た彼のメンタルは鋼並みに鍛えられているのだ。


 「何をボケッとしてるのよ加江須。ほら行くわよ」


 周囲のやっかみに反応していたせいで足を止めてしまっていたようで、急に距離が開いた事を不審に感じた仁乃が彼の手を掴んで引っ張って行く。

 

 「おい速いって。そんな急がなくても遅刻なんてしないだろ」


 「いいからハキハキ歩く!」


 仁乃に手を引かれながら学校を目指す加江須。その後ろを黄美と愛理も小走りで付いて行くのだった。


 そして…そんな彼女たちを…いや少女3人に囲まれている加江須の事を恨めしそうに見ている男子が居た。


 「くそ…休み明けで怠いところにラブコメみたいな光景見せやがって」


 視線の先に映る光景に親指を噛んでいるのは加江須と同じクラスの男子、蓮亜奥手であった。

 彼は三日前にホームセンターで加江須たちと遭遇していた。まあ遭遇したと言っても彼が一方的に覗き見をしていただけだが。あの日も彼は自分の周りに美少女達を寄せていた。


 「くそ…アイツめ。見せびらかしやがって…」


 他の男子達も加江須には嫉妬心を抱いている事は間違いないのだが奥手はそれ以上であった。自分とどこも変わらない様な男子が複数の恋人に囲まれている現状がどこか気に入らない。それが我ながら自分が小心者であると自覚しつつもその嫉妬は消えてくれない。


 「まあいいや。突然運動神経が良くなったり女にモテたり、その理由を後で問い詰めてやる」




 ◆◆◆




 夏休み明けの始業式を体育館で行われた後に学園は通常通りの授業を開始した。

 それぞれの担当教師たちも夏休み中の思い出を授業前に軽く生徒達に質問してから今まで通りの授業を始める。やはり久方ぶりの学校の勉学はかなり退屈なのだろう。加江須のクラスでは数人の生徒が授業半ばでうつらうつらと舟を漕いでいた。


 「おーい起きろお前たち」


 授業を受け持つ教師が眠っている生徒を見かける度にちゃんと注意を入れていたが、しかし教師の方も久しぶりの授業のせいか気が抜けているのだろう。休み前とは違い注意の声に覇気を感じられない。


 「(こりゃ明日、明後日まではみんな気が抜けたままかもな…)」


 そんなことを考えている彼もまた眠ってこそはいないが欠伸を大きく一つしていた。


 「おい久利、堂々と欠伸をするな」


 そんなまだ休み気分が抜け切っていないまま時間は過ぎて行き、そして昼食の為の昼休みへと突入する。

 授業が終わると加江須は両手を頭の後ろで組んで大きく欠伸をする。やはり長い休みの直後の授業はいつもの倍は眠気が襲ってくる。

 

 「眠い眠いっと…」


 目を擦りながら席を立って食堂へと向かおうとすると、自分の机の前に一人の男子が立っていた。


 「おい久利、少し話がある」

 

 「え…何だよ蓮亜?」


 話しかけて来た生徒は蓮亜奥手であり、正直彼とはクラスは同じだがほとんど話した事は無かったと思う。それ故に何の用かと思っていたのだが……。


 「な、何だよ?」


 「………」


 何だか蓮亜の表情が少し怖い気がする。しかし自分は彼に何か怒りを買う様な事をした覚えは無いのだが。そもそも普段からほとんど話すらしていないのだ。

 そんな彼の戸惑いを無視するかのように蓮亜が口を開き始める。


 「お前に訊きたいこと……」


 「加江須いるー?」


 蓮亜が口を開くと同時にクラスの扉が開き仁乃がクラスへと足を踏み入れて来た。そして加江須の姿を確認すると彼の手を掴んで連行して行こうとする。


 「もう黄美さんも愛理も屋上に来てるわよ。いつまで待たせる気?」

 

 「え、もしかして今日も弁当作ってくれたのか?」

 

 てっきり今日は約束もしていなかったので食堂で済ませようかと思っていたがまさか手作り弁当を作って来てくれていたとは。その優しさに感謝しながら加江須は蓮亜に声を掛けた。


 「悪い蓮亜、話しなら放課後に聞くよ」


 そう言いながら仁乃と共にクラスを仲良く出て行く加江須。

 そんな彼の背中を蓮亜はギリッと歯を強く噛みしめながら睨みつけていた。



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