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……この女は結局ゲダツだった


 目の前で見せつけられる仲間の1人が無残にやられる光景を見て加江須は息をのんだ。


 「……ヨウリ!!」


 しばしの呆然の後に彼の大きな叫び声が室内に響き渡る。

 彼の視線の先ではヨウリは頭部を刀で完全に貫かれており、普通に考えれば間違いなく即死だろう。   

 だが彼の両手は未だにガッチリと形奈の体を押さえ続けしがみ付いている。


 「コイツ、こんな状態でまだ!?」


 まるで自分の体を掴んでいるヨウリの手が衣服と接着しているのではないかと思う程に離れてくれない。そして動かなくなったヨウリが離れてくれないせいで思うように動けない形奈の隙をついた加江須の尻尾が凄まじい速度で彼女の頭部へと伸びて行く。

 伸縮自在の彼の尻尾は離れた位置からでも形奈を仕留めようと凄まじい速度で向かってくる。


 「ぐっ、ふざけるな半ゲダツ!」


 こんな半ゲダツのために死んでたまるもんかとガッチリつかんでいるヨウリの体を力づくで引き剥がし、その直後に回避行動をとる形奈であるが一歩遅かった。

 伸びて来た尻尾は急所こそは外れはしたが形奈の左腕を削って行き致命傷を負わせたのだ。


 「ぐがっ! こ、この狐擬きが!」


 左腕の肉が大きく抉られてしまいダランと力なく下がる。

 ヨウリの体を加江須の方へ蹴り飛ばし、すぐに自分の腕の止血を始める形奈。


 「しっかりしろヨウリ!」


 自分の方へと蹴り飛んできたヨウリの体を受け止めて彼の顔を窺う加江須であるが、その表情はすぐに悲痛なものへと変わった。

 どう見てもヨウリはもう手遅れであった。貫かれた頭部からは大量の血が流れ落ちており、瞳にも光が一切宿っておらずもう彼の肉体の中には魂が宿っていない事は明白であった。


 「ぐっ……すまない……」


 たとえ半ゲダツとは言え自分たちの為に体を張って隙を作ってくれた彼に感謝と、それ以上に申し訳なく思い礼を述べる加江須。

 そんな感傷に浸っている彼とは違い片腕を使用不能にされた形奈に対してディザイアは猛攻を繰り広げていた。


 「形成が逆転したんじゃないのかしら? そんな状態でもまだ今まで見たいな余裕を浮かべる事が果たして出来るかしら?」

 

 「図に乗るな! 感情の塊であるゲダツ風情が!!」


 二人の刀と傘が高速で何度もぶつかり合う。

 片腕を使用不可能にされてもまだ形奈の目は死んでいなかった。


 「(不味いな。このゲダツだけならまだしもあの狐の相手はこの状況では厳しいぞ)」


 ディザイアと攻防を繰り広げながらも形奈は真逆の方向に居る加江須の存在を警戒していた。今はあのヨウリとかの死に動揺をしているようだがヤツが立ち直ってこちらへと攻めて来るとかなり不味いだろう。重要な血管をいくつか切ってはいるが神力で薄い膜の様に傷口を覆って止血は出来ている。だが痛みまでは消す事は出来ないのだ。こうしてディザイアと打ち合っている最中にも激しい激痛が抉れている左腕からずっとはしり続けているのだ。


 「この、離れろゲダツが!!」


 形奈は神力を一気に全身から噴出してその勢いに任せ激しい威力の蹴りをディザイアへと叩きこむ。

 放たれたその蹴りのせいで吹っ飛ばされてしまうディザイアであるがガードをしていたのでダメージはそこまでない。だが彼女が離れると同時に今度は加江須がこちらを睨んできて自分目掛けて踏み込んで来ようとしている姿が見えた。


 「(ちっ……この負傷でこれ以上の戦闘は不利か?)」


 決して戦えないと言う訳ではないがこれ以上の戦闘は逆にやられてしまうリスクを感じる。それならば引き際をわきまえた方が賢い選択だ。

 そう思うと彼女は刀を鞘に納めると自分の懐をまさぐり煙玉を数個取り出す。


 「次は確実にお前たちの息の根を止める!!」


 その言葉と共に彼女は床へと思いっきり煙玉を叩きつけてやった。

 至近距離の床へとフルスイングで煙玉がぶつかり、周囲は白煙で一気に包まれる。


 「ぐっ、古典的な方法を!!」


 加江須はそう言いながら形奈の居場所を探ろうとするが、相手は神力を自分以上にコントロールできるのだ。白煙の中からは今まで刀の様な切れ味の良い威圧感を放っていた彼女の気配が完全に断たれる。


 「逃がさないわよ!!」


 ディザイアが傘を強く握ると一気に横へと振りぬいて煙を払う。

 加江須は咄嗟に入り口付近を陣取ってこの煙に紛れて形奈が逃げる事を防ごうとする。しかし煙が晴れるともうこの部屋には形奈の姿が綺麗さっぱりと消えていた。


 「アイツ一体どこへ……」


 少なくとも入り口から出て行ってはいない筈だ。自分がバリケードの様に塞いでいたのだから。では彼女は一体どここら消えたと言うのだろうか?

 そう思って部屋の中をぐるっと見て行くと壁に何やら四角形に切り取られて出来た穴がある。覗いてみるとその穴は隣の部屋へと続いており、その部屋のドアが開かれた形跡も確認できた。


 「……逃げられたか」


 加江須がそう言いながらまんまと逃げられてしまった事に下唇を噛んだ。

 あの転生戦士はラスボとやらと協力している。という事はラスボについて色々と情報も持っていた筈だ。みすみす手掛かりを逃がしてしまうとはなんとも間抜けな話だ。


 しかも……犠牲者だって出てしまった。


 加江須が振り返ると入り口ではヨウリが横になっている。その姿を見ると胸の中にズキリとした痛みが生じる。

 ヨウリは自分たちの勝利の為に自らの命を捨ててまで形奈へと向かって行ったのだ。それなのに自分はそれに報いる事が出来なかった。


 「悪かったなヨウリ。お前の犠牲を無駄にしてしまった」


 彼の亡骸の前で悲し気にそう言った加江須であるが、そんな彼に背後からディザイアが特に変化の無い様子で声を掛けて来た。


 「どうやらあの転生戦士はもう完全に逃げた様ね。まあでもこれで良かったかもしれないわ」


 「……そうだな。あのまま戦っていても確実に勝てたかどうかも分からない。そう考えれば逃がしてもらったともとれるかもな」


 「そうじゃないわよ。相手は転生戦士なんだから仮に倒してもあなたには何の功績も与えられないでしょ? ここでヨウリの様に〝無駄死に〟なんてしてもらっては困るのよ」


 どこまでも落ち着いた口調でそう言う彼女に加江須の顔は僅かに怒りが滲んだ。

 

 「あまり無駄死になんて言い方はよせよ。ヨウリだって体を張ったんだ。その事は褒めてやろうぜ」


 「何を言うかと思えば…相手に逃げられているのだから無駄死には無駄死にでしょう? まあ死んだのがヨウリだけなのは不幸中の幸いね」


 信じられない程に冷淡な物言いに加江須はギリッと歯を噛みしめながらディザイアの顔を睨みつける。いくら何でもこの言い方はあんまりだろう。


 「あの時…あの時にヨウリがあの女に突っ込んだお陰でお前だって助かったんだぞ。それなのに…そんな言い方があるかよ」


 加江須がそう言うと彼女は疲れたような顔と共に信じられない言葉を吐いた。


 「彼は私にとって奴隷と変わらないわ。そんな〝物〟が壊れた程度で騒ぎ立てる方がどうかしているわ」


 ディザイアはまるで助けてもらった事に感謝も、そして自分の連れが死んだ事に関する嘆きも見せない。それどころかヨウリの存在を掃いて捨てる様な扱い方をする。

 その言葉は加江須に怒りを沸きあがらせるには十分であり、思わず彼女の胸ぐらを勢いよく掴んでいた。


 至近距離で彼女の事を睨みつけながら加江須が口を開く。


 「お前は少しぐらいはあいつによくやったと言えないのか? お前を助けようと体を張ったんだぞ。そんなあいつの存在を道具の様に言うなんていくらなんでもヨウリが報われないだろうが」


 「……はあ」


 加江須の言葉を聞き終わると彼女はうっとおしそうな顔をし、自分の胸ぐらを掴んでいる彼の手を少し乱暴に振り払うと冷たい表情のまま言い返して来た。


 「私をまるで冷酷無情呼ばわりしているけれどソレは人間の価値観を基準にした上で言っているのでしょう? 何度も言うけれど私は〝ゲダツ〟なのよ。ゲダツは人の悪感情の集合体。人間の悪意より生まれた生き物。そんな私に人間の持つ倫理観を説教の様にぶつけるなんてズレているとは思わない?」

 

 「っ……お前……」


 「もうハッキリと言うけれど私はヨウリが死んだことを悲しいだなんて微塵も思っていないわ。ただ便利だと考えていた人形が壊れた、その程度の認識よ。そしてゲダツの価値観を基準に考えれば私のこの発言はゲダツからすれば異常でもなんでもないわ」


 「……そうかよ!」


 もうこれ以上は何を言っても平行線のままだろう。それにこれ以上はこの女の言葉を聞きたいとも思えない。

 加江須はどこか考え方が甘かったのかもしれない。人と似た姿をし、そして共に戦っている彼女の中には人の心に似た何かが芽生え始めているのでないかと無意識化に思っていた。それに彼女は転生戦士を生き返らせたいと言う理由から自分に協力まで申し出たのだから。

 だがこの瞬間に彼は目の前のディザイアと言う存在がどこまで行ってもゲダツである事が再認識できた。


 「まだ何か言いたい事はあるのかしら?」


 「……いやもういい。今はもうお前と会話をしたいとは思えない」


 そう言うと加江須はこの根城を後にする事にする。もう半ゲダツもおらず、形奈も逃げ去ってしまったのだ。これ以上はこのアジトに留まる理由もないだろう。

 こうして突入時とは違い2人となってアジトを出て行く加江須とディザイア。しかし加江須は背後から付いて来ているディザイアに対して明確な嫌悪感を顔へと浮かべていた。



 

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