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番外編 女の子になっちゃった

加江須「いやー久しぶりの番外編だな」

恋人達「………」

加江須「ん、どうしたみんな?」

仁乃「ねえ…私たちいつになったら本編再登場するの? もう大分出てない気がするんだけど?」

加江須「え…いやそれは……」

恋人達「………」

加江須「ば、番外編始まります!!」


 これはイザナミがこの家へとやって来て同居してからしばし時間が経過した頃の日常の一コマだ。

 いまだ夏休み中と言う事もあり加江須たち学生は暇を持て余す事も多々ある。膨大な量の夏休みの課題、ゲダツとの戦いに向けての特訓などを行っても長期休みの間にはやはり時間が余るものだ。


 加江須の部屋ではイザナミが自分の持ってきた神具の整理をしていた。


 「この神具は必要…この神具は不必要…」


 「……さっきから何やっているんだよイザナミ?」


 この部屋の主である加江須は宿題と言う学生のするべき仕事に勤しんでいるのだが、同じ部屋の隅で先程からイザナミがガサガサとしているので気になって仕方ない。

 加江須に声を掛けられて迷惑になっているのかと思い申し訳なさそうに謝るイザナミ。


 「ごめんなさい加江須さん。もしかして気に障りましたか?」


 「いやいやそう言う意味で言ったんじゃないよ」


 そう言いながら彼女の頭をヨシヨシと撫でて上げる。

 加江須の温かな手で頭を撫でられた彼女はまるで猫の様に目を細めて気持ちよさそうな顔をする。


 「(うお…めちゃくちゃ可愛い。とても俺より遥かに長生きしている女神様とは思えない)」


 自分の恋人の姿に少しドキッとしながらも改めて何をしているのかを尋ねると今度は説明してくれた。


 「実は神界から追放される時に持ってきた荷物なんですが…部屋の中に置いてある物を片っ端から詰め込んで持ってきていたので不要な物をいくつかありまして、今整理をしているんですよ」


 「ほーん…荷物の整理していたのか」


 ひょいっと顔を覗かせてイザナミの手元を見てみると色々な道具が転がっている。確かさっき仕分けしている時に神具と言っていたがこれら全てが神具なのだろうか?

 気になって質問してみると彼女はそうですと頷いた。


 「俺が普段特訓で使っているあの水晶や指輪以外にも色々と持ってきていたんだな」


 「はい。加江須さんたちのお役に立てる物を少しでも持ってこようかと思って…でもいざ振り分けてみると役に立たない物ばかりでしたが…」


 自分の持ってきた物がほとんど不必要である事を知って力なく笑うイザナミ。

 そんな彼女の隣に座ると何気なしに床の上に並べてある神具の1つを手に取って見た。


 「例えばこれとかどういう道具なんだ?」

 

 そう言いながら加江須が手に取ったのは何やら銃を模した玩具の様な神具。


 「それは神力をエネルギーに変換する所謂レーザー銃みたいな道具です。その銃に神力を籠めると自動的に銃口から返還されたエネルギーが射出されます」


 「おお凄いな。これは意外と武器になるんじゃないのか?」


 「いえ残念ながら耐久性が低いんです。加江須さんほど大きな神力の持ち主が力を注いだら耐え切れずに壊れると思います。ほとんど子供の玩具みたいなものですからね」


 イザナミが困り顔で笑いながらそう言った。

 なるほど…確かに神力を注いで壊れるようなら役には立たないな。ではコレは何だろうか?


 「じゃあコレはどんな道具だ?」


 そう言いながら次に加江須が手を出したのは何やら一か所に固めて置いてある大量の小さな白い球であった。

 その中の1つを手に取って見ると球の中に小さく文字が書いてある。えーっと……女性って書いてあるぞ?


 「あっ! それはダメです!!」


 よそ見をしていたイザナミが隣の加江須へと視線を向けると彼の持っている神具を見て慌てふためく。すぐに彼の手の中の神具を取り上げようとするがよそ見をしていたせいで一手遅かった。


 ――次の瞬間に加江須の持つ神具の球がボンッと小さく爆発したのだ。


 「ああ遅かった!」


 イザナミがしまったと言う顔をして煙の中に隠れている加江須の事を見つめる。


 「ごほっ…何だこれ? 爆発したぞ?」


 まさかのいきなりの爆発に加江須はむせながら驚きの声を上げる。

 

 「おいイザナミ何だコレは? もしかして煙玉なのか……あれ……?」


 ここで加江須は何か自分の声色に違和感を感じた。なんだか自分の声がいつもと違う気がする。いつもの男らしい野太く低い声ではなく細くて甲高いのだ。これはまるで女性の声だ。


 「何か俺の声が変だぞ? この煙のせいなのか?」


 徐々に加江須の全身を覆う白い煙は薄れて行きその中に包まれている加江須の姿が見えて来た。

 

 「おいイザナミ、今の神具はどういう効果があるんだ?」


 加江須が今小さく爆発した神具の効果を尋ねるがどういう訳かイザナミは何も答えてくれない。


 「イザナミ? どうかした…え、鏡…?」


 イザナミは何も言わないままに手鏡をすっと渡して来た。

 この鏡を見ろと言う意味なのか? よくわからないまま彼は手鏡を手に取ると鏡の中の自分の顔を見つめる。そこにはもう見慣れている自分の顔が映ってい………んん?


 「……誰よコレ?」


 自分の見つめる鏡の向こう側には見知らぬ可愛らしい顔をした女性が居た。優しく垂れさがっている目尻に小さな口、そして柔らかそうな頬。


 「……あ、どうも」


 鏡の中に映る相手の女性に反射的に頭を下げて挨拶をする。すると鏡の中の彼女も同じように頭を下げて来た。それから二人は鏡を間に挟んで頭を下げ続けている。しかし頭を下げつつも二人の体、いや加江須の体はブルブルと小さく震えていた。


 「お…おい…おいおいおい?」


 頭を下げたままで加江須は口を開く。そこから発せられるのはやはり女性の声。そして渡された手鏡を覗き込んで映った顔……これはつまり……。


 「……」


 無言のまま顔をゆっくと上げてみると無情にも鏡の向こう側には相も変わらず見た事の無い女の子が居る。自分がプラプラと手を振れば同じように真似をする。


 「……ねえイザナミ、お前の目には今の俺が男と女、どっちに見える?」


 乾いた笑みを浮かべながら加江須がそう呟くとイザナミも同じような笑みを浮かべながら言った。


 「とても可愛らしい〝女の子〟にしか見えません加江須さん」


 その言葉を聞いて加江須は思わず天を仰いだのだった。




 ◆◆◆




 「きゃあああああ! カエちゃんとても可愛い♡!」


 そう狂喜乱舞の勢いで加江須に抱き着いているのは黄美である。

 今日は昼から特訓を行う為にいつものメンバーは加江須の家へと尋ねる予定があり、つい先程に黄美たちがやって来たのだ。


 「まさか彼氏が彼女に変わっているとはね…」


 仁乃はどこか呆れながらぬいぐるみの様にハグをされている加江須を見て溜め息交じりにそう呟いた。

 

 「まあ転生戦士だのゲダツだの女神だの居るくらいだからな。いまさら女体化くらいで騒ぐ気にはならねぇけど」


 そう言いながら氷蓮が加江須の姿をじっと見る。

 

 「(くそ…何で元は男の加江須が俺よりもサイズが大きいんだよ)」


 一体何が大きいのかはあえて言わないでおこう。

 そんな内心でジェラシーを抱いていると隣で仁乃が話しかけて来る。


 「あんたなに変な顔してるのよ?」


 「うるせーよ。オメーにだけは話したくねぇ…」


 よりにもよってこの中で一番のサイズの仁乃が話しかけて来たのでそっぽを向く氷蓮。そんな彼女の態度に不思議そうにする仁乃。


 「おい黄美もう離してくれよ。少し苦しいし…」


 「そうだよー。ヒートアップしすぎだって黄美」


 少し興奮気味の黄美の事をぺりぺりと引き剥がしてやる愛理。

 

 「それにしても加江須君、いや加江須ちゃんも災難だったねぇ」


 「お前もさりげなくからかうのはやめろ」


 にししと笑っている愛理に加江須は疲れた様に呟いた。

 そんな彼女とは対照的にイザナミは申し訳なさそうに目を伏せながら謝っていた。


 「本当にすいませんでした加江須さん。私のせいで…」


 「いやイザナミのせいじゃないよ。俺が許可なく勝手にいじったんだから…」


 イザナミの話ではどうやらあの神具は一種の変身アイテムだったみたいだ。手に取った球には〝女の子〟と書かれていた。あの球は触れている者の神力を感知してその球に書かれている生物へと肉体を変化させるらしい。他の球には〝犬〟だの〝猫〟だの文字が書かれている。まだ同じ人間に変身した事は不幸中の幸いだったのかもしれない。

 あの時に加江須としては神力を流し込んだつもりはなかったが、僅かな神力にでも反応してしまうらしい。どうやらイザナミの様に神力を完全にコントロールできれば体から漏れているごく微量の神力も抑えられるのでこの神具も反応しないらしい。


 「ところでこの神具ってどの程度まで効力が続くの? もしかして一生このままとか…」


 「な、なにィ!?」


 冗談のつもりで口にする愛理であるが加江須としては洒落にならない。思わずイザナミに詰め寄ってしまうが彼女は慌てつつもそれは大丈夫だと言ってくれた。


 「心配しなくてもこの神具の効力は24時間までです。時間が経てば効力が溶けるので安心してください」


 「そ、そうか…やめろよ愛理。あまり驚かせるな」


 もしも一生このままなんて言われようものなら最悪ゲダツを倒して願いを叶える時に戻してもらおうかとすら考えたくらいだ。


 「(しっかし性別が変わると違和感も強いな。特にこの胸部……)」


 男の時には無かった胸部のふくらみが何気なしにうっとおしく感じてしまう加江須。少し重たく感じ、世の女性達はよくこんなものをぶら下げて毎日何気ない顔で生活できているもんだと感心してしまう。

 そんな事を呑気に考えていると黄美がキラキラとした瞳をしながら話しかけて来た。


 「ねえねえカエちゃん。カエちゃんって女性物の服ってあるの?」


 「持っている訳ないだろ。最悪犯罪かと思われるぞ」


 男の自分が女性物の服をいくつも持っていれば家族からだってどんな目で見られるか。そもそも何で黄美はそんな質問をしてくるのだろうと思っていると彼女は密着するほどに近づきさらに質問を続ける。


 「じゃあカエちゃんのお母さんの服は?」


 「それは…まあ母さんのもう着ないお古とかならいくつかあるんだろうけど」


 加江須がそう言うと黄美の顔がさらにぱあっと明るくなる。

 そんな彼女の表情を少し怖く思いつつも黄美の質問の真意を尋ねる。


 「おい黄美、お前何を企んでいるんだ?」

 

 「えーそんなの決まっているでしょカエちゃん。だってせっかく今日1日は私たちと同じ女の子なんだからおめかししないと♪」


 「おっ、それいいじゃん。私もサンセー!」


 黄美の言葉に便乗して愛理も楽し気な声で手を上げて盛り上がる。

 こうして加江須の意思とは無関係に盛り上がって行く恋人たちに彼は、いや彼女はしどろもどろとするしかできなかった。



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