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ディザイア過去編 夜の公園で繰り広げられる戦闘


 目の前で繰り広げられていた戦いはゲダツの隙をついた綱木の頭部による一突きで決した。

 だがその戦いを見ていたゲダツ女は何が起きたのか理解できずにいた。


 今のは一体どういう事なの? 確かにあの転生戦士はゲダツの目の前で攻撃を防ぐので精一杯で防戦一方だったはず…でも気が付いた時にはゲダツの背後へと移動を終えていた……。


 そんな事を考えているといつの間にか視線の先に居る綱木の姿が消えていた。

 

 「え…どこに行ったの?」


 「――それで、あなたは何なんですかね?」


 「!?」


 突然背から声を掛けられて心臓が鷲掴みにされるような感覚に陥る彼女。

 そして振り返れば綱木が自分の背後へと立っていたのだ。


 「ぐっ!!」


 脚に力を籠めて一気にその場から離れる女性。


 「(どういう事よ? いつの間に背後へと回り込んだのよ? 気配も一切感じられなかったなんてあり得ないわよ!?)」


 自分だってこれまで何度も転生戦士との戦いで極限の窮地を乗り越えて来たのだ。それなのにこうまであっさりと背後に回り込まれる事を許してしまうなんて……。


 今までずっと涼しい顔をしていた彼女であったが、焦りを面に出しながら綱木と向かい合う。


 「あなた確か、昼間に逢いましたよね? どうしてこんな時間にこの場所に?」

 

 「……また会ったわね。この場所に居る理由? 私だって夜の散歩ぐらいはするわよ」


 とりあえずは誤魔化す事から始める女性であったが、そんな薄っぺらな演技などはすぐに見破られてしまった。


 「…ずっと感じていたのよ。あの鬼みたいなゲダツと戦っている最中ずっとね。この公園内から微かにだけどもう一つのゲダツの気配を。それに…見えていたんでしょ? あのゲダツの姿があなたにはちゃんと……」


 「……」


 「あなたには勘付かれない様にあの鬼の攻撃を捌きつつ一瞬だけあなたの方に視線を傾けていたのよ。そしたらあなたは明らかに私だけでなくゲダツの姿も見えていたわ。ゲダツを目視できる、その時点であなたが普通の人間でない事は明らか。しかしその気配はゲダツに近い、それはつまり……」


 そこまで綱木が口にした時であった。


 ――彼女の顔面目掛けて凄まじい勢いの貫き手が放たれてきた。


 「ッ!?」

 

 話をしながらも相手との距離はきちんと見極めていたつもりであった綱木であるが、予想以上に踏み込みの力が強かったのか一瞬で間合いを詰められてしまい気が付けば彼女はもう目の前まで迫っていた。

 凄まじい速度で繰り出して来たその槍の様に伸びる貫き手を間一髪で躱す事が出来た。


 「ずああああッ!!」


 「ちいいいい!!」


 仕留めそこなった女性は今度は蹴りを放とうとするが、それよりも早く綱木は傘を横薙ぎに振るってくる。

 頭部に直撃しそうな傘による殴打をしゃがみ込んで回避する。そして身を低くしつつも後ろへと跳んで再び間合いを作るがすぐに悪手である事に気付いた。


 「(しまったわね。得物を持つ以上はアイツの方がリーチ差があるのに…むしろ距離を詰めないといけないのに離れてしまうなんて…!)」


 しかし悔いたところでもう遅い。自分の判断ミスを嘆く暇があるならば次の一手を思考する方が先決だ。だがそんな余裕など目の前の敵は与えてはくれない。


 「そらそらそら!!」


 「ふっ、はっ、くっ!!」


 今度は綱木の方から間合いを詰めつつも傘の先端部で高速の突きを繰り出してくる。

 普通の人間の動体視力では追い切れないような超高速の突きの連打を全て紙一重で回避し続ける女性。

 最初は少し焦りつつ攻撃を回避していた彼女であるが、次第に目が慣れて来て完全に突きを見切って傘の先端部を握って攻撃を止めた。


 「もう目が慣れたわ。相手が並のゲダツならば通用したんでしょうけどね、私は生憎並ではないの」


 もうすっかりと余裕を取り戻していた彼女は口元に弧を描き、そして心臓部に貫き手を放つ。


 「ぐっ、やらせないわ!」


 自分の心臓を抉り取ろうとする魔手を防ぐために彼女は神力で強化した左手を盾のようにして心臓を守る。その結果心臓は守れたのだが放たれた貫き手は盾とした犠牲に選んだ左手の甲を貫通してしまった。

 

 「いぐっ!? こ…のぉ…!!」


 全身から一気に神力を噴出して身体能力を一瞬とは言え爆発的に跳ね上げる綱木。

 数倍まで膨れ上がった戦闘力で放たれた拳はまるで閃光の様に速く、女性の頬に綺麗に突き刺さってそのまま凄まじい衝撃と共に彼女の体はまるで紙切れの様に一気に吹き飛んでいく。

 ゴロゴロと転がりながら地面の土で衣服を汚しながら倒れ込み、殴られた頬を押さえて渋面を浮かべる女性。予想以上の攻撃力に殴られた頬が凄まじく痛み、口の中には鉄の味が広がる。

 

 今まで人を喰らう事で味わい続けて来たこの鉄の味、それをまさか殴られて内頬を傷つけ自分自身の血液で味わうなんてね。


 何やら口の中に異物が転がっている違和感を感じ、ぷっと吐き出すと殴られた際に抜けた奥歯がコロリと地面に転がった。


 「痛いじゃない。容赦なく顔面パンチとは意外とえげつない攻撃するのね。奥歯も見事に抜け落ちたわよ」


 「えげつないのはお互い様でしょ。ぐっ…アンタだって私の心臓をピンポイントで狙って来てさぁ……」


 大量の血液を風穴を開けられた左手からボタボタと零す綱木。

 あまりの激痛で脂汗まで出て来て、痛みの余り歯を食いしばっている。しかし決して瞳を目の前のゲダツからは逸らそうとはしない。もしここで痛みの余り目などつぶろうものならその瞬間には今度こそ心臓を抉られるかもしれない。


 「はあ…はあ…はあ…」


 「ふう…ふう…ふう…」


 二人はそれぞれ多大にダメージを負いながらもまだ瞳からは闘志が全くと言っていいほど衰えていない。

 しばし呼吸を乱しながらも睨み合い続ける両者。先に動いたのは女ゲダツの方であった。


 地面が激しく爆発するかのような轟音と共に一気に距離を詰める女性。だがそのまま真っ直ぐ直進はせず、ギリギリで左方向へと跳んで方向転換した。

 自分へと向かって来た彼女へとタイミングを合わせて傘で頭部に突きを放ったのだが、左へと避けられて綱木の攻撃は見事に外れる。

 すぐに彼女が移動した左方向に顔を向けるがそれと同時に蹴りが横っ腹に当てられ、凄まじい威力の蹴りで口からは一気に空気が出て行き、次いで吐血もした。


 「ゴホッ!? ぐあああああ……!?」


 咄嗟に神力を蹴りを受けるであろう部分に集約してどうにか骨までは折れずに済んだ。だがその威力は一瞬だけとは言え意識を刈り取った。しかし威力が大きすぎたおかげか、痛みが大きすぎたおかげで意識は再浮上した。しかしそのせいか鈍い鈍痛が蹴られた場所に走った。

 地面を数度バウンドしながら転がり、そして咳き込みながら少量の血を土の上に吐き出す。


 「これでもう終りね! 来世ではお幸せに!!」


 蹲っている綱木の真上へと移動していた女ゲダツは踵を振り上げ、そのまま踵落としで頭部を砕こうと下降して行く。

 このままあの勢いで踵落としを頭部に落とされればいくら神力でガードをしても命を絶たれてしまうだろう。


 「……ふっ」


 だがそんな窮地の中でも彼女はどこか不敵な笑みを浮かべていた。蹲っている為に表情は見えないがその笑みはあの時、鬼の様なゲダツが勝ち誇っていた際にも見せていたものと同じであった。


 「勝ち誇ったわね。でも勝利を確信した直後が一番付け入る隙を生み出すのよ」


 そう言い終わった直後、痛みで無様に蹲っている彼女の体がその場から〝消えた〟のだ。

 突然標的が消え、しかも踵落としの体制で落下していた女性は対応できずに何もない地面を踵で虚しく砕いていた。

 

 「また消えたわ! 今度はどこ……がっ……」


 突然背後からドスンと言う音が体の内部に響き渡り、視線を下へと向けると自分の体を何かが貫いているのだ。

 そして顔だけを背後に向けるとそこには口元から血を流しながらも傘を自分の背から腹へと貫いている綱木の姿があった。


 「はあ…はあ…」


 「……やられちゃったかぁ」


 その言葉と共に彼女はゆっくりと瞼を閉じ、どこか失笑にも似た小さな笑い声を漏らしながらそのままその場で倒れる。

 腹部まで貫かれていた傘を引き抜いてその場で膝を綱木はつき、そして改めて倒れている彼女を見つめる。


 「ど、どうやらこれで決着したみたいね。うぐ…」


 もしかしたらまた起き上がるのではないかと思い膝をつきつつもまだ油断せずに彼女をしばし見つめる。だが一向に起き上がってこない事を理解すると今度こそ全身から力を抜いた。


 「それにしても人間と変わらない姿をしているゲダツなんて居るなんてね」


 綱木の中ではゲダツはこの世の物とは思えない異形だとどこか決めつけていた。それがまさか自分と同じ人間の姿をしているとは予想外であった。


 「……驚いているよりも先に止めを刺した方が良いわよね」


 痛みと疲労で気だるい体に鞭打って彼女へと止めを刺そうと動く。

 傘を力強く握りしめ、そして確実に止めを刺すために頭部を貫こうと傘を構える。


 ――そこへ…苦しそうに呻いている彼女の姿が瞳に映る。


 「はあ…はあ…うっ、くっ…!」


 「………」


 腹部の傷がさぞかし痛むのだろう。その苦しむ姿はとてもこれまで自分が倒して来たゲダツと同じ存在とは思えない。どう考えても人間の女性が苦しんでいる様にしか見えない。


 「何を躊躇しているのよ私は。彼女はゲダツ、私の事だって殺そうとしたわ」


 ここで躊躇えば自分が逆に殺されるのだ。そうなる前に早く止めを刺せ。そう自分に無理矢理言い聞かせると彼女は目をカッと見開き頭上に掲げていた傘を思いっきり振り下ろした。


 

 

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