表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/335

ディザイアの訪問、そして新たな戦いへ


 イザナミの為に計画した海水浴と温泉旅行から帰宅した加江須達、そこで戦闘狂である狂華と遭遇はしたが無事に帰還することが出来た。

 それからはいつも通り神具を用いてゲダツとの戦いに備えて特訓の日々を過ごしていた。だが残りの休みを全て特訓で潰す事はしない。

 

 今日は特訓は休みと言う事で加江須は自宅で学生らしく宿題と向き合っていた。

 

 「えーっと…ここの問題はぁ…」


 取り立てて頭が良い訳でもない加江須は苦戦しつつまだ大分手つかずの宿題に必死に勤しんでいた。

 どうやら加江須だけでなく仁乃たちもゲダツとの戦いや特訓に時間を割き過ぎてしまっていたようで今日は彼女たちも自宅でそれぞれ宿題と向かい合っている。

 ちなみに学校通いでない氷蓮とイザナミの二人は代わりの町のパトロールに出かけている。何もしないで家でだらけるよりはマシだと判断しての行動だろう。その際に加江須は氷蓮にパトロールついでにイザナミとどこか軽く遊びにでも連れて行って上げて欲しいと頼んでおいた。まだ神界から追放された事で時々顔に影が差している彼女の姿を見かける事があるのでやはり心配なのだ。


 「う~ん…だめだ解らねぇ」


 これまでは何とか問題を解けていた加江須であったがどうにも自分は数学に弱いらしい。今はドリルの小難しい計算に手こずっている。

 自力で解くのは無理だと判断して仕方なしに教科書を参考にして考えようと教科書を手にする。


 その直後に家のインターホンが鳴り響いた。


 「もー何だよ。せっかくやる気が出てきたところなのに」


 そんな文句を言いつつも下の階まで降りて行き玄関へと向かう。

 学生の自分とは違い両親は今だって仕事に出かけている以上は自分が応対しなければならない。このまま居留守でも使おうかとも考えたが一定の感覚でチャイム音が鳴りやまない。これでは勉強など手が付かないだろう。


 「はいどちら様です……何の用だよ……」


 ドアを開けながらも腹の中で少しめんどくさいなぁと思っていた加江須であるが、ドアの向こう側に立っていた二人の人物の顔を見てあからさまに面倒だと顔に隠すことなく出した。

 わざわざ訪ねて来た相手に対して失礼な態度ではあるかもしれないだろう。しかし思わず素直な感情が包み隠さず顔に出てしまうのもやって来た相手を見ると無理も無いだろう。


 「あらあら、もう少し愛想良くしてくれてもいい気がするんだけど。お客様に対してその露骨な迷惑顔はNGでしょ」


 「ああそうだな。相手が〝普通の人間〟ならそうだろうな。でも〝ゲダツ〟相手ならこの対応も許される気がするけどな」


 そう言いながら加江須は開かれたドアの向こうで微笑を浮かべているディザイアへ思った不満を呟いた。




 ◆◆◆




 「ほらよお茶だ」


 やって来たディザイアとその付き添いであるヨウリの二人にお茶を出す。

 目の前に差し出されたお茶をヨウリは何も言わず飲んでいるが、その隣ではディザイアがクスクスと笑いながら辛口で評価していた。


 「あらあんまり美味しくないわね。お茶くみは慣れてないのかしら?」


 「随分とハッキリ言いやがるな」


 「ええそうね。だってあなただって私が家に来た時に嫌な顔をあからさまにしていたから」


 どうやら先程の応対の意趣返しのつもりらしい。まあ実際に自分の淹れるお茶が美味いとは思っていない。同じお茶でもイザナミが淹れてくれてものは自分よりも遥かに美味しかったし。

 それに自分のお茶くみの良し悪しなどどうでも良い。それよりもこの二人が自分の家にわざわざやって来たと言う事は間違いなく面倒ごとを持ってきたはずだ。


 「俺の淹れた不味い茶を飲むためにわざわざ来たわけじゃないだろ。一体何の用でここに来た?」


 そう言いながら加江須は目を細めて探るかのような顔つきとなる。その空気の変化を感じ取って薄ら笑いを浮かべていたディザイアの表情も真面目なものとなる。

 彼女は湯呑をテーブルに置くとヨウリの事を横目で見つめる。すると隣で座って居るヨウリが一度頷いて本題に入った。


 「実はここ最近、とあるゲダツが面倒ごとを引き起こしている」


 「あるゲダツが面倒ごと? それってこの焼失市で起きているのか?」


 加江須がそう尋ねるとヨウリは首を横に振った。


 「この焼失市には今のところまだ被害は及んでいない。だがこのまま放置し続ければこの町にも被害があるかもな」


 そうヨウリが言うと加江須は眉をひそめた。

 そして話のタイミングを見計らったディザイアが1枚の写真を取り出した。


 「……誰だコイツは?」


 彼女が取り出した写真に写っている人物は見た感じでは二十代の若者と言った感じだ。ただ派手に髪を染め頬には刺青が入っており普通の一般人とは思えない。

 この写真に写っている男が今話したゲダツなのかと問うとディザイアは首を横に振って否定した。


 「その頭の悪そうな男は今話したゲダツの手によって半ゲダツと化した元人間よ」


 ディザイアの口から出て来た〝半ゲダツ〟と言うワードに反応を見せる加江須。

 確か依然聞いた話で半ゲダツとはディザイアの様な上級ゲダツの血を取り入れる事で人がゲダツと成った存在。しかしリスクもあり血に適合できなければ死に至る。

 こうして今目の前で話をしているヨウリだって元は普通の人間であったが、このディザイアの血を取り入れて半ゲダツと成った存在だ。


 「この写真に写っている男はあるゲダツの手によって半ゲダツと成ったのよ。しかもこの男だけじゃないわ。他にも複数人の人間が半ゲダツにされているわ」


 「……確かに厄介で迷惑な事だ。しかしその事でお前に不利益があるのか?」


 わざわざ転生戦士である自分の元までこの話を持ち掛けて来たのだ。という事は協力関係を一応は結んでいる自分の力が必要だと言うこと。それはこのゲダツがディザイアにとって邪魔者であるという事になる。

 そう予想する加江須に対して彼女は溜息を吐きながらこのゲダツが何をしているのか詳細を口にし始めた。

 

 「この写真の男をはじめ複数人の人間が一人のゲダツの手によって半ゲダツとされているわ。その理由は単純に言えば自分の餌場を確保していくため」


 どうやらディザイアが言うには主犯格であるゲダツは旋利津市の方で半ゲダツを次々と生み出し、それを従え大きな組織化しているらしい。そしてボスであるそのゲダツがそこまで半ゲダツを作り出す理由、それは転生戦士と自分以外のゲダツを排除する為らしい。

 転生戦士を標的にする理由は簡単、そもそも転生戦士はゲダツにとっては天敵だ。自分たちを狩ろうとしている連中なのだから。そしてゲダツを狙う理由、それは獲物の独占及び自分と同じ人型ゲダツを生み出さないためだ。


 「ただのゲダツであればそこまで問題ではないわ。でも私の様に限りなく人に近づけば力も増し思考も人間に近づいて行く。現に今話題にしているゲダツだって人間をまねて組織まで作っているでしょ。そしてそんなゲダツが増えれば余計な思考を持ち同じゲダツでも自分にとって不利益な事態になる事もある。ならば自分だけが頂点に立って他のゲダツを排除してしまおうと考えるものよ。少し単純思考な気がするけど」


 「ゲダツ同士が潰し合ってくれるのはありがたいが結局は自分の保身のため。そう考えると全然喜べる事でもないな」


 そう言いながら加江須は腹黒いゲダツの考え方に反吐が出そうになる。

 

 「しかし旋利津市か。確かあそこは…」


 ディザイアの口から出て来た旋利津市は確かあの狂人である狂華の出身地である場所。しかもあそこでは白から聞いた話では転生戦士同士で戦ってもいたと聞く。そう考えるとあそこはどこか足を踏み込むには躊躇いを感じてしまう。

 だがディザイアから聞いた話からすると別の市の話だからと言って無視して良いことではないだろう。


 「それでその旋利津市を根城にしているゲダツはこの焼失市に進出しようと目論んでいると。しかしどこからその情報を得たんだよ?」


 「それは簡単よ。その写真の男から直接聞いた話なのだから」


 「……なるほどね」


 ディザイアがテーブルの上に置かれている写真をトントンと指先で叩きながら影が差している笑顔を向けて来た。


 どうやらディザイアとヨウリは焼失市に住み着いていると言う訳でもないらしい。この旋利津市をはじめ色々と各地を巡っているそうだ。そして旋利津市に足を踏み入れるとこの写真に写る半ゲダツが襲い掛かって来たそうだ。

 だが相手は人型にまで至った上級ゲダツ、そのゲダツの血を取り入れて生まれた劣化版のゲダツなど勝てる訳もなく返り討ちにしたらしい。


 「そして捕えて色々と教えてもらったのよ。その中でこの男のボスであるゲダツが焼失市や他の町にも手を伸ばそうと画策しているらしいわ」


 「なるほどね。それでこの男はどうなった?」


 加江須がこの男のその後を問うと彼女はニヤリを口を三日月の様な笑みを浮かべながら自分の腹部を擦った。その行為だけでこの男が今どこに居るのか理解できそれ以上は何も聞かなかった。


 「ちなみにとっても不味かったわ。まるで腐りかけの肉ね」


 「いや別に味の詳細は言わなくても良いから」


 半ゲダツとは言え元人間の味の感想など知りたくもない。

 

 「まあ味の方はともかく、私があなたを尋ねて来た理由はただ一つよ」


 そう言うと彼女はテーブルの上に置いた写真を両手で掴み、ソレをビリビリと破きながら薄気味の悪い笑みと共にこう言った。


 「私と一緒にこのバカを率いているお山の大将を殺しに行きましょう」


 「まあそう言うとは思っていたがな。それなら少し待て。他のみんなにも連絡を入れる」


 相手が複数人であると分かっているなら仁乃や氷蓮の様な戦い慣れている転生戦士も同行させた方が良いと思ったが、立ち上がろうとする彼の腕を彼女は掴んで引き留める。


 「それはダメ。今回のゲダツ討伐は私とヨウリ、そしてあなたの3人で行動したいのよ」


 「どうしてだ? 味方は多い方がいいだろ」


 「でもそれだとあなたが願いを叶える権利を今回貰えるか分からないわ。前にも言ったけど私にはあなたに叶えて欲しい願いがあるのよ。その為にはあなたが出来る限り成果を治めないと困るのよ」


 そこを言われると彼女が3人で行こうと言う気も分かった。

 そもそも彼女はその為に以前も自分に手を貸してくれたのだ。それに加江須としてもいくら自分たちに害が無いとは言えいつまでもゲダツと協調しているのは如何なものかとは思っていた。

 

 「…分かったよ。今回の討伐はここに居る3人で向かおう」

  

 「そうこなくちゃね♪ それじゃあ早速レッツゴー!」


 こうして急遽訪れたディザイアに引き連れられ加江須の新たな戦いが始まろうとしていた。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ