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失恋した直後に死んだら俺にハーレムができました。恋人達は俺が守る!!  作者: ゆうきぞく
裏第一章  弱気己脱却編
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冷酷な判断をする転生戦士


 河琉は本来であれば大人しく争いごとを好まず野蛮な喧嘩など出来ない性格であった。

 これまでの人生を思い返しても誰かに暴力を振るった事など一度たりともなかった。そもそも暴力に訴えようなどと野蛮な考えを持った事もない。それが例え理不尽に自分を虐める様な相手であったとしてもだ。

 そんな優しい心根の持ち主だからこそ神力と言う力で強くなっても理不尽の暴力を振るってくる目の前の傲慢な男にも反撃をしなかった。だが目の前の男はこの日、この河琉の中に埋もれていた地雷を踏みぬいてしまったのだ。

 自分だけが被害を受けるだけで済むのであれば手を出す気にすらなれなかった。だが目の前の男はあろうことか無関係の母親に手を出そうとしたのだ。若くして父が死に、女手一つで自分を懸命に育ててくれた最愛の母親を……。


 ――その瞬間、彼の意識は一度闇に沈み代わりに〝別のナニか〟が表へと出て来た。


 今まで抑え込んでいた彼の中の暴力のトリガー、それは自分自身ではなく自分に愛情を注いでくれた母に害をなそうとする事であった。


 「うぎゃああぁぁぁぁぁ!! 鼻が、俺の鼻が折れた!?」


 気が付いた時には足元で傲慢が自分の顔面を押さえながら転げまわっていた。押さえている両手の隙間からは粘っこい鼻血が垂れており、その場でゴロゴロと痛みにもだえている。

 そんな彼の事を河琉はまるで生ごみでも見るかのような眼で見下げ果てていた。


 「僕の…オレの家族にまで手を出そうなんて面白い事を考えるじゃないかよ」


 痛みに呻いていた傲慢であったが、頭上から聴こえて来た彼の声を聴いて顔を上げた。


 そこには信じられないほどに冷たい瞳をしている河琉が立っていた。


 「……何だ? お、お前誰だよ?」


 傲慢がそう言うのは無理も無いほどに彼の雰囲気が一変していた。

 今まで臆病でビクビクとした態度を奮っていた彼はどこにも居らず、自分よりも一回り小さな少年には似付かわしくない覇気を今の彼は纏っていた。


 「立てよ。いつまでしゃがみ込んでいるんだよ?」


 「な、なに命令してんだお前は!!」


 たった今自分の鼻をへし折った相手ではあるが恐れ以上に怒りが勝り彼は立ち上がると同時に拳を再び振るった。しかしその数秒後に彼は自分の愚かな行動を心底悔いた。

 

 「遅いんだよ間抜けが」


 そう言いながら彼は拳を軽くいなすと伸びきった腕を掴み、それをまるで木の枝でも折るかのようにボキッと躊躇いもなくへし折られたのだ。


 「いぎゃああああああ!? 腕の骨が折れたああぁぁぁ!!」


 右腕が歪な方向へと捻じ曲がり激痛に再び叫ぶ傲慢であったが、その耳障りな声を黙らせるために河琉は大口を開けた彼の口元に容赦のない拳を捻じ込んでやった。

 握りしめた彼の拳は大量の歯をへし折り、ついでに鼻の方も更に変形させてやった。


 「五月蠅いんだよ。ぎゃあぎゃあとな」


 「ひ、ひい…助けて!」


 圧倒的な暴力と心の底から震える冷淡な声色に傲慢はもう逃げる事しか頭になかった。

 そこには学園内で恐れられる暴君は居らず、恐怖に震える学生が一人いるだけだ。しかしそんな惨めな姿を見せつけられても河琉の瞳は凍えるように冷たいままだ。

 

 「どこに行く気だ? 散々自由気ままに暴力で生きていたんだ。逆に返り討ちにされた時には逃げるだなんて許されるかよ」


 「ひ、ひいいいい…」


 河琉は地べたに這いつくばっている傲慢の髪を乱暴に掴んで上半身を無理やり起こし上げてやった。

 髪の毛を力強く引っ張られて激痛が頭皮に走り苦痛に顔を歪ませる。だがそんな表情を見たところで何も響きもしなければ罪悪感も胸に去来してこない。

 本当に不思議なものであった。今まではこんな風に誰かに暴力を振るう事など考えもしなかった。しかし一度タガが外れた反動は予想以上に大きかったみたいだ。


 「おい人の金で遊び歩く乞食野郎。オレの話をちゃんと聞けよ。もしも二度も同じことを言わせるようならその都度骨を1本1本へし折ってやるからな」


 そう言われてしまい傲慢は悲鳴を上げていた口を閉ざして大人しく従う素振りを見せた。ここでもしも反発的な態度を取ろうものならば本当に目の前の男は何をするのか分からない。

 

 「ここでオレにやられた事を決して口外するなよ。全部事故、もしくは見知らぬ他人にやられたと言え。いいな」


 「わ、分かりました」


 もしも嫌だと言おうものなら間違いなく骨を折られてしまう。これ以上の苦痛は絶対に御免被る傲慢は壊れた玩具の様にカクカクと頭を上下に振った。

 

 「よしそれでいい。もしもオレの仕業だとバレた時は――オ前ヲブチ殺シテヤル」


 その言葉に傲慢はガチガチと歯を震わせて何度も頷いた。あまりの恐怖に彼のズボンは何やら湿っていた。

 

 「はっ、だっせーな…」


 そう言いながら河琉はポイッと掴んでいた頭部の髪を放した。力強く握っていたせいで幾本かの髪が指に絡まっていた。

 その髪をうっとおしそうにしながら摘まんで取っているその時だった。


 「……何だこの嫌な感じは?」


 背後から何やら異様な気配を感じ取ったのだ。

 まるでヘドロの様な粘ついた気配を辿って背後を振り返って上空を見るとそこには〝化け物〟が上空から此方を見ていた。


 「何だあの鳥は…いや鳥じゃないよなアレ」


 彼が視線を向けている上空では巨大な鳥の様な化け物が羽をはばたかせていた。

 しかしアレがただの鳥でない事は一目瞭然だ。サイズもとても大きく、そして羽毛の色合いと言い複数の眼球と言い化け物と言う形容以外が見当たらない。


 「そうか…アレがゲダツなんだな。確かに異形だなアレは」


 この現世に蘇ってから初めてお目にかかるゲダツに対して河琉が抱いた感想は薄気味悪い風貌だなぁ、と言う感想だった。今まで内気な彼は自分の背後で震える傲慢が地雷を踏みぬいたせいで完全に性格が豹変していた。


 「めんどくさいが仕方ないな。元々はゲダツと戦う為に生き返った訳だしな」


 そう言いながらゲダツと向き合う河琉であったが相手は厄介な事に飛行能力を持っている。その気になればゲダツの居る場所まで跳躍する事は可能だ。しかしもし攻撃を避けられたりすれば空中を自在に動けない自分は格好の餌食だ。

 そこまで考えていると今まで空中から様子見をしていたゲダツが動き始めた。


 「キュエエエエエエ!!」


 奇妙な鳴き声と共に一気に上空からこちらへと下降してくるゲダツ。

 凄まじい速度で風を切りながらこちらへと迫ってくるゲダツの動きを冷静に見極める河琉。


 「おっと危ないな!」


 そう言いながら河琉は横へと飛んで回避した。しかしゲダツが横を通り過ぎた際に衣服が何かによって切り裂かれている事に気付いた。


 「これは……ははーん、あの〝羽〟かぁ…」


 上空へと再び飛び上がり旋回しているゲダツを観察してあの化け物の翼がキラキラと反射して光っている事に気付いた。転生戦士となった今の彼の視力ならば羽の1本1本に目を通す事も可能だ。よく見れば羽の1本に自分の切り裂かれた衣服の一部が引っ付いていた。どうやらあのゲダツの羽は真剣並の斬り味を有しているようだ。

 どう対処すべきか冷静に思考をしていた河琉であったが、背後から何やら喧しい声が聴こえて来た。


 「な、何だいきなり地面が裂けた!?」


 振り返るとそこには鼻血を出しながら自分のすぐ近くの抉れた地面を見て驚いていた傲慢の姿が映り込む。彼が騒いでいる地面の切り傷、あれは先程自分の傍を通過して行った際にゲダツが翼で抉った後だ。

 ゲダツの破壊痕に戸惑っている傲慢であるが、どうやらゲダツの姿を認識は出来ていないようだ。その証拠にヤツは上空に居るゲダツをまるで見向きもしない。


 「ゲダツは普通の人間には見えないか。これも事前に聞いていた通りだな」


 そう言いながら河琉は何も知らない馬鹿は放置しておいてゲダツへと意識を集中した。

 

 視線をゲダツへと傾けたと同時、相手の方も自分が意識されている事を理解したのか先刻以上の大きな鳴き声と共にこちらへと急降下して来た。

 まるで槍の様に尖ったクチバシを自分の胴体目掛けて突っ切ってくるゲダツであるが、その馬鹿正直に突っ込んで来る特攻など避けるのは容易い。

 

 「見え見えの軌道だ。そんなものにみすみす当たるかよ」


 そう余裕すら感じさせながら後方へと跳んでクチバシ攻撃を回避した。

 だが今まで冷静なポーカーフェイスを貫いていた河琉であったが、狙いの外れたゲダツの攻撃の被害を見て一瞬息をのむ。

 なんとゲダツのクチバシは地面に深々と突き刺さり、地面に埋まるクチバシから中心に地面に亀裂が走って行く。そしてすぐに地面に深々と突き刺さっているクチバシを引き抜くと再び上空へと舞い戻る。

 

 「うわあああ!? 地面が盛り上がっているぞ!! 何が起きているんだよ!?」


 ゲダツの姿を黙視できない傲慢は先程から何が起きているのか理解できずに右往左往していた。突然聴こえて来る轟音、そして地面が独りでに砕けたりと完全にパニックになっていた。

 

 「うるさいな。少し静かにしてくれないか?」


 そう言いながら河琉は溜息と共に一瞬で傲慢の背後へと回り込む。

 

 「こっちは今集中しているんだ。頼むからその臭い口を閉じてくれないか」


 「そ、そんな事を言っても何が起きているんだよ!?」


 ただ口を閉じているだけでいいのだがこの小うるさい男は一向に黙ってはくれない。

 そんな彼にイライラとする河琉であったが、ここで彼は何かを思いついたのか傲慢の髪を先程と同様に掴むと彼の体をそのまま強引に宙ぶらりんの状態で釣り上げる。


 「な、何をするんだよ。い、いてて…」


 先程に河琉の手によって痛めつけられた傲慢が無理矢理立ち上がらされて頭部と身体に苦痛が走る。

 しかしそんな彼の肉体の損傷などお構いなしに河琉は能面の様な表情でこう言った。


 「確かゲダツに食い殺されたらその人物の歴史が抹消するんだよな」


 「え、何の話だ?」


 「ある意味ゲダツも役立つかもな。ほら――餌だぞ」


 そう言いながら河琉は三度こちらへと凄まじい速度で突っ込んで来るゲダツ目掛けてまるでボールの様に傲慢の事を放り投げた。

 自分の眼前へと迫りくる人間にゲダツは空中で緊急停止、そして口を開けてそのまま飛び込んで来た人間の肉にかぶりついたのだ。


 「うぎゃあああああああああ!?」


 ゲダツの見えない傲慢は透明な何かに締め付けられている圧迫感に襲われ、そして内臓が締め付けられて大量の血を口から吹き出す。

 

 「だ…助けて……」


 ギリギリと胴を真っ二つにしようとしている見えない何かから救援して欲しいと宙から手を伸ばす傲慢。しかしそんな彼の救済を無慈悲に河琉は切り捨てる。


 「お前がどうなろうと知るかよ。そのまま食いちぎられろよ。その方が後腐れないしな」


 その言葉の直後にゲダツは挟み込んでいる傲慢の身体をくちばしを閉じて食いちぎった。

 上下に分離された傲慢の身体がそのまま地上へと落下するよりも早く、ゲダツは一瞬で目の前の二つに分かれた肉塊を咥えて胃袋に収める。


 「所詮は鳥だな。目の前にエサがあるとそっちを優先するか」


 その声はいつの間にかゲダツよりも更に上空へと跳躍した河琉の口から放たれたものであった。その声に反応して首を上に向けるゲダツ。そこには姿の変貌している河琉が鋭い眼で睨んでいた。


 「化け物には化け物ってな。これが俺の能力、『守護神の力を身に宿す特殊能力』だよ」


 そう口にする彼の姿はまるでライオンの様な耳に尻尾、そして鋭利な爪や牙を剥き出しにして一気にゲダツへと空を蹴り急下降していくのであった。



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