表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/335

次々と喰われる半グレ


 地中から飛び出て来たサメの様な鋭利な牙を持つゲダツがチャラ男の腕に喰らい付いた。

 まるでノコギリの様な鋭利な物で肉を、そして骨を削られるかのような経験した事の無い激痛が走り抜けて行く。しかしこの男がその痛みに絶叫するよりも先に彼の噛み付かれた腕はゲダツに食いちぎられてしまう。

 そして腕の肉を貪りながら再び地中へとゲダツが沈んで行ってようやくチャラ男の絶叫が砂浜に鳴り響いた。


 「うぎゃああぁぁぁぁぁッ!? 俺の腕がぁ! 何だよコレぇ!?」


 加江須の目にはゲダツの姿がくっきり映り込んでいたので原因は理解できているが、ゲダツの存在を認識できないチャラ男はいきなり腕が切り落とされた様な感覚であった。もっとも牙で食いちぎられた彼の腕の断面は刃物で斬り落とされた様に綺麗な断面をしていないがそんな傷跡を見て判断している余裕はない。

 痛みと腕の喪失のダブルパニックでチャラ男はその場をゴロゴロと鮮血を撒き散らしながらのたうち回る。


 「痛い痛い痛い!! いたいよぉぉぉぉぉぉ!!??」


 血液だけでなく涙と鼻水と涎の4種の液体をばらまきながら転げまわるチャラ男。

 そんな苦しみもがいている彼の元へと加江須はすぐに駆け寄る。だがその直後に真下の地面からゲダツが凄まじい速度で近づいて来るのを感知した。


 「くそっ、ここに居たら不味い!」


 未だに喚いている男の肩を組んで彼と一緒に上空へとジャンプした。

 彼が跳躍したその数瞬後にゲダツが砂の中から飛び出して来て大きな口を開けて鋭利な牙を加江須の足に突き立てようとする。

 だが加江須は噛まれるであろう足に炎を纏わせ、足の裏から火炎弾をゲダツの口内へと放ってやる。


 加江須の放った炎の玉を飲み込んだゲダツは悲鳴と共に空中で身を捩りながら再び地中へと波紋を残し沈んでいった。落下ではなく沈んでいったのだ。


 「くそ、また潜りやがった! 居場所は分かっているのに!!」


 相手が地上に居るならば攻撃を当てられるのだが厄介な事に奴等は地の下を〝泳いでいる〟のだ。恐らくは地面の中を、いや何処であろうがまるで水中の中の様に連中は泳げるのだと確信を持てた。それがあのゲダツの持つ特殊能力なのだろう。

 そして加江須にとってゲダツの能力の他に厄介な事はもう1つあったのだ。


 「…倒れている連中はどうすべきか?」


 空中から地上へと降下しつつ加江須は砂浜の上で倒れている半グレ達の身の安全をどう確保すべきか思考していた。すでにもう2人も犠牲者を出している。しかも内1人は砂の下の世界へと引きずり込まれた。恐らくはもうゲダツに食い殺されているだろう。

 単純に逃げるように叫んでこの場から立ち去ってくれるのであれば一言大声でそう叫んでやればいい。しかしたった今自分に制裁を受けた連中、それも如何にも粗暴の悪そうなあの連中が自分の忠告を素直に受け入れるとは思えない。しかもゲダツの姿を奴等は視認できないのだ。


 どうすべきかと頭を悩ませながら考えていると、自分の耳元からチャラ男の醜い絶叫が響いて思考が途切れてしまう。


 「いだぁい!! いだぁああぁぁあい!? 何で俺がこんな事にぃぃぃ!?」


 ゲダツに片腕を食いちぎられて痛みに泣き叫ぶチャラ男。

 地上へと着地すると同時にチラリと男の腕を見てみると当たり前だが出血が酷い。このまま放置すればこの男は間違いなく出血多量で死ぬだろう。


 「……我慢しろよ」


 そう小さく口にすると加江須は手の平を炎で覆い、そのオレンジ色の炎の熱でチャラ男の傷口を炙って止血をしてやった。

 いくら出血を止める為とは言え傷口を火で炙られればたまったものではなく、チャラ男が涙を流しながら更に大声で叫んだ。


 「あづううううううッ!? あづいあづいあづい!? 痛い痛い痛いいたい!!??」


 炎で炙られたチャラ男の腕の切断面からは煙と共に皮膚が、肉が焼ける嫌な匂いがする。しかしその熱さと痛みに耐えたおかげでチャラ男の止血を強引に済ませてやった。生憎自分には花沢余羽の様な修復能力は持ち合わせていないためこのような強引な手段しか取れなかった。

 

 「とりあえずこれで血は止まったが…かなりヤバい状態には変わりねぇな」


 確かに傷口の出血事態は塞げたが火傷と言う外傷を負わせる事になった。いくら血を止めるためとはいえ熱傷状態だ。できれば病院に連れて行ってやりたいところだ。

 だが未だに地中からは5つのゲダツの気配が動き回っている。いや泳ぎ回っている。


 「それに他の連中だってどうにかしねぇと…」


 砂浜の上で加江須の手で無力化された半グレの連中も何人かは意識を取り戻しており、上半身をむくりと起こして周囲の状況を確認し始めていた。

 このまま放っておくわけにもいかずに加江須は大声で周囲へ逃げるように叫んだ。


 「おいお前等! まだ寝ている連中と一緒にこの付近から今すぐに消えろ! でないとコイツみたいになるぞ!」


 そう言って加江須は自分の横で片腕を欠損しているチャラ男を指差してやった。

 仲間の1人が片腕を失っているその光景を見て半グレ共は息をのみ呆然とする。だがすぐに悲鳴を上げながら急いでこの浜辺から逃げようとする。恐らくはこのチャラ男の腕を自分にでも斬り落とされたとでも思ったのだろう。だが理由はどうであれこの場から消えてくれるのであればそれでいい。ただ起き上がった連中は気絶している仲間はそのまま放置していった。


 「くそ、自分たちだけじゃなく仲間も連れて行けよ」


 そう悪態を吐く加江須であるがすぐにハッとした顔になる。

 今まで地中の中で一定の速度を保ちつつ不規則な動きをしていたゲダツの気配が一斉に変化したのだ。地中から感じる5つの気配は逃げて行った半グレ共へと狙いを定めてしまったのだ。


 「なっ、アイツ等逃げて行った連中を狙いに…!」


 すぐにゲダツの捕食を止めねばと思ったが、しかし逃げて行った半グレ共はそれぞれがバラバラの方角へ逃走してしまっているのだ。そのせいでどこから対処をすべきか、そんな思考に囚われてしまったのだ。その判断の迷いはこの状況では致命的であった。

 地中の中で泳いでいたゲダツたちは一斉に浮上してそれぞれが逃げようとしている半グレたちを襲い始める。


 「ぐあああああああ!?」


 「な、何だあぁぁぁぁぁ!?」


 半グレたちにはゲダツの姿は見えておらず、自分の付近の砂浜がいきなり小さく爆ぜたかと思えば腕や脚に激痛が走り鮮血が舞う。まるでノコギリの刃で削られるかのような激痛が走る。中にはゲダツに鋭利な歯でガッチリと喰い込まれて砂の中の世界へと引きずり込まれていった半グレも居た。

 次々と地中へとゲダツに吸い込まれていく半グレ達。たとえ地中へと引きずり込まれなかったとしても加江須の傍で呻いているチャラ男の様に身体の一部が欠損して激痛に苦しみのたうち回る。


 「くそったれがッ!! そこまでにしろ!!」


 加江須が地中から飛び出して来たゲダツの1体に炎の弾丸を放つが、その攻撃はゲダツには当たらず相手はそのまま地の中へと沈んでいった。


 「チクショウが、狙うならこっちに来い!!」


 追撃を仕掛けたいところではあるが相手は地面の中を泳いでいるのだ。今も加江須を警戒して地中を優雅に泳いでいる。これではこちらからも攻撃を仕掛けようがなく、今の加江須にはゲダツを倒すためには半グレを喰らおうとする時か、もしくは直接自分に襲い掛かる時にカウンターを入れるしかなかった。

 意識を地中で動き回っている気配の探知に集中する加江須であるが、そんな彼の集中を乱そうと半グレの悲鳴と言う雑音が入り混じる。


 「ぐわああああああ!? 俺の腕が千切れたぁぁぁぁ!?」

 

 「いでぇよぉ! 何が起きてんだよぉ!?」


 「た…助けて…誰か助けてくれぇ…」


 ゲダツに意識を傾けつつも加江須は悲鳴を上げている半グレ達を横目で見る。

 このままではこの場に居る全員が奴等に無残に食い殺されかねない。正直に言えば自分の恋人たちに手を出そうとした下衆共だ。冷酷かもしれないが奴等が死のうがそこまで気にはならない。だがやはりむざむざと見捨てようと言う気にもなれなかった。


 だがそんな加江須の事を嘲笑うかの様にゲダツは5体同時に別方向から半グレ共を襲い続ける。まるで弄ばれるかの様にすら感じる加江須。

 もしもこの場に居る半グレ達を巻き込んでも良いと言うのであれば規模の大きな攻撃を仕掛けるのだが、その場合はゲダツだけでなくその周辺の半グレも間違いなく巻き込んでしまうだろう。


 「(とは言えこのままだとコイツ等全員食い殺されるぞ。マジでどうする?)」


 もう既に地中へと5人も引きずり込まれており、しかも身体を負傷して倒れている連中も大勢いる。

 まだ数人の半グレに至ってはこの地獄の渦の中でまだ加江須の攻撃から意識を取り戻していないヤツもいる。無防備にもほどがあった。


 「くそ…このままじゃ…」


 加江須は冷や汗をかきながら精神的に追い詰められていた。もしもゲダツたちが自分を優先的に狙ってくれればカウンターで全て撃破する自信がある。しかしゲダツも思考能力がまるで無い訳ではないのだ。人型に限らず通常のゲダツと言えども普通の獣よりは賢いだろう。その証拠にゲダツたちが加江須を襲ってこないのは自分たちがまともに戦えば返り討ちに遭う事を理解できており、そして半グレを同時に狙って彼の隙を伺っているのだ。


 「……仕方ねぇな」


 加江須はどこか諦めたかの様な溜息を吐くと少し非情な戦法を取る事とした。


 今までゲダツ達は5体も同時に半グレを襲っていた為に狙いを定めきれずに逃し続けていたが狙いを1体に絞る事にしたのだ。それはつまりゲダツが倒れている半グレを襲う際に1体に的を絞り他の4体は放置すると言う事だ。

 今でも被害は甚大ではあるが加江須が地上へと飛び出して来たゲダツを牽制していた為にまだ被害を小さく抑えられていた。しかし狙いを1体に絞ったこの方法では確実に自分が標的にしているゲダツ以外の他の4体のゲダツを牽制できない。つまり半ば半グレ達を見殺しにすると言う戦法だ。


 「(悪いな。元々はお前らが俺を襲おうとしたんだ。恨まないでくれよ)」


 そう内心で謝りながら加江須は地上へと再び浮上していくゲダツの1体に狙いを絞り、一気に狙いを定めたゲダツの元へと走って行く。

 徐々に地上へと浮上していくゲダツの気配を頼りに攻撃を今度こそ当てようとする加江須であるが、相手のゲダツはここでフェイントを挟んだ。なんと加江須が狙いを定めていたゲダツの気配は地上へ飛び出す一歩手前で再び地中の下へと沈んでいったのだ。


 「な、フェイントを入れやがった!?」


 そう言いながら振り返ると他の4体が自分の策を間抜けだと嘲笑うかのように倒れている半グレに喰らい付いている光景が見えた。


 「このやろ…! あまり舐めるんじゃ…!?」


 コケにされたと思い一瞬だけ頭に血が上ってしまう加江須。

 その激情に駆られかけた隙を狙って加江須が今しがた狙っていたゲダツが凄い速度で再度浮上して加江須の足に喰らい付こうと地上に飛び出て来た。

 その牙で足を食いちぎられる直前に加江須はカウンターの要領で蹴りを入れてヤツの体を上空へと吹き飛ばしてやる。


 「これでまずは1体だ!!」


 蹴り上げて空中へと吹き飛んだゲダツに火炎砲を叩きこんで一瞬で仕留めた加江須。

 兎にも角にもこれでようやく1体撃破できた。しかしまだ4体も残っているのだ。気を抜く事はできない。

 しかもこの狙いを1体の的に絞る戦法はやはり被害が今まで以上に大きかった。それを裏付ける様に加江須が1体撃破したと同時に他の4体は半グレを派手に食い殺しており、無残な半グレがそこかしこに転がっていた。周辺の砂浜は真っ赤に飛び散った血液で充満しており血の海と化していた。


 「くそっ…早く残り4体も始末しないと。このままだとこの場に居る馬鹿共全員が食い殺されるぞ」


 加江須がギリッと奥歯を噛みしめると同時であった。離れた位置の砂浜から顔を出してもがいている半グレに喰らい付こうとするゲダツ。そのゲダツの顔面が突如として爆ぜたのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ