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一般人30人VS転生戦士1人


 混浴での一幕のその後、部屋へと戻ってすぐに夕食が用意され加江須たちは舌鼓を打っていた。

 旅館の用意した食事は大変美味であり、自分の分の天ぷらを食べきった氷蓮が隣に座っている仁乃のえび天を横取りする。

 

 「もーらい。あむ…うんめぇ~♪」


 「ああ私のえび天盗ったわね!」


 仁乃が中央の刺身へと箸を伸ばしたタイミングを見計らって横取りをする氷蓮。

 横取りしたえび天を一口で頬張りながら氷蓮がめんどくさそうな顔つきでこう答えた。


 「だってお前全然食う気配がなかったじゃねぇかよ。いらねぇと思ったんだよ」


 「楽しみに取っておいたのよバカ!」


 「はいはい喧嘩すんなよ。ほら仁乃、俺の分やるよ」


 今にも氷蓮に掴みかかりそうな気配を察知して加江須が未だ手つかずである自分の天ぷらを箸で掴むと仁乃へと渡そうとする。

 加江須としては彼女の皿の上に天ぷらを置こうとしようとしたが、仁乃からすれば食べさせてもらえると勘違いしたのか頬を染めながらも口を開いて加江須に食べさせてもらった。


 「あむ…ありがと…」


 「お、おお…」


 予想外の仁乃の行動に少し驚いた加江須であったがそのまま食事を再開しようとするが、そんな光景をまざまざと見せつけられて他の恋人たちが黙っている訳が無い。

 加江須の隣に座っている黄美がすり寄って来て口を開けて自分の口内を指差す。


 「カエちゃんカエちゃん。私にもあーんして」


 「お、おおう」


 拒む理由などは一切ないためマグロの刺身を一切れ箸で掴むと彼女へと食べさせてあげる。

 口に入れられたマグロの刺身を咀嚼しながら黄美は嬉しそうに笑って言った。


 「ふふふ…カエちゃんと間接キスしちゃった」

 

 「大袈裟だろ。箸で食べさせただけなんだから…」


 「黄美と仁乃さんだけなんて依怙贔屓なんだ。私にもあーんしてよぉ」


 そう言いながら愛理も続いて口を開いて加江須に食べさせてもらう準備を整えていた。しかもよく見ると氷蓮とイザナミも顔を近づけ無言のまま愛理と同じようにあーんと口を開いている。

 まるで親鳥からエサを貰おうとしている雛の様で少し愛らしく感じる。


 「じゃあ順番にな。まずは愛理から…」


 もしもこの場に余羽がいれば間違いなく口から砂糖でも吐いているだろう。

 そんなこんなで恋人達と甘い時間を過ごし、食事が終わってから少しした後に氷蓮がこの旅館に備わっている温泉卓球でもしに行こうと提案して来た。


 「食後の運動でもしようぜ。さっき廊下を歩いている途中に見つけたけどこの旅館って卓球台があったからよ、誰か一緒にやらねぇか?」


 「あっ、じゃあ私が付き合うよ。温泉旅館で卓球はメジャーだし」


 畳の上でゴロゴロしていた愛理が手を上げて自分が付き合うと名乗り出た。

 この旅館には卓球の他にもゲームコーナーなどの娯楽も備わっており、氷蓮の言葉をきっかけにしばし各々で自由時間を取る事となった。


 「(これは好都合な展開だな…もうそろそろ連中が集まる時間だし)」


 部屋に備え付けられている時計を見てみると浜辺へと誘き出した半グレの連中がそろそろ現れるはずだ。

 チラリと仁乃の方を見ると彼女は無言で頷いてくれた。この後しばし自分が姿を消しても口裏を合わせて誤魔化してくれると言う合図であった。


 「じゃあしばらくは自由時間という事で一度解散だな」


 加江須のその言葉を皮切りに氷蓮と愛理は早速先程見つけた卓球台のある部屋へと向かった。

 イザナミと黄美はもう少し部屋でのんびりするらしく、加江須は夜の散歩に行くと言って部屋を出る。

 部屋を出て廊下を歩き出そうとすると仁乃が他の者には聴こえぬように小さな声で話し掛けて来た。


 「気を付けなさいよ」


 「ああ、あんがとな」


 心配しなくても良いと言う意味を込めて悪戯っ子の様な笑みを彼女へと送り目的の浜辺へと足を運ぶのであった。




 ◆◆◆




 昼間に加江須に圧力を掛けられて虚偽の報告を行ったチャラ男は拭いきれない恐怖心と共に夜の浜辺の上を震えながら立っていた。

 小刻みに震えているチャラ男を隣に居る半グレの仲間の一人が不思議そうな顔で見つめて来る。

 

 「お前どうしたんだよ? そんな震えて寒いのか?」


 「い、いやそうじゃねぇよ」


 「まぁいいけどよ。それよりももうじきお前の情報の時間になるな。この辺りをお前が見張っていた男が女連れて来るんだよな? めちゃくちゃイイ女達だそうじゃねぇかよ」


 そう言いながら仲間は下卑た笑みを浮かべている。他の仲間達も似たり寄ったりの腐った思考回路をしており加江須を襲撃した後に彼の恋人たちと遊ぶことばかり考えていた。

 全員が薄ら笑いと共に手に持っている武器を軽く素振りしているが、その中でチャラ男だけは不安に満ち溢れた顔を張り付けていた。

 

 「コイツ等は何も分かってない…」


 チャラ男だけはあの少年の異常ともいえる力と迫力を目の当たりにしている。今自分が持っている金属バッドなどあの怪物相手には心もとない得物である。

 ここに集まっている人数は全部で30を超えているがそれでも全然心もとない。自分たちの様なごろつき崩れの半端物が例え100人集められてもあの人間に擬態をした怪物に勝てるイメージが頭の中で形成されなかった。

 そんな怯えと不安の抜け切れていないチャラ男にこのグループの纏め役である刈り上げの男が近寄って来た。


 「何をガタガタしてやがんだてめぇは?」


 「あ、兄貴…」


 振り返ると用意して来た木刀を手のひらでパシパシと叩きながら何故か不機嫌そうな顔をしている兄貴分が立っていた。

 どうしてそんな不機嫌そうな顔をしているのか分からず戸惑うチャラ男。もしかしたら自分が嘘の報告を送った事を見破ったのではないかと思いハラハラとし始める。


 「お前の言った時間までもう少しだが……もしこれで誰も来なければどうなるか分かってるだろうなぁ?」


 万が一にも無駄足を踏ませようものならただでは済まないと脅しをかける兄貴分。

 その鋭い眼光に背筋が寒くなる。しかし昼間に岩をも砕いたあの少年の迫力の方が遥かに大きく今までよりは目の前の暴力的な兄貴を怖いとは思えなかった。


 「大丈夫ですよ兄貴。心配しなくても例の男はこのルートを通ります」


 「ならいいけどよ。男の方はどうでもいいが上玉の女の方は是非とも来てもらわねぇとなぁ」


 そう言い残すと彼はその場から離れて行く。

 兄貴分が居なくなった後に傍に居た仲間の一人がチャラ男に話しかけて来た。


 「お前さっきまで震えてたのによく兄貴の前ではそんなすました顔ができんな?」


 「ああ…まぁな…」


 いくら恐ろしい兄貴分とは言え相手は人間ならば今更恐怖は感じられない。何故なら自分は昼間に人ならざる怪物の力を思い知らされているのだ。

 そして…その化け物があと5分もすればこの浜辺へとやって来る。そう考えるとまたチャラ男の体が小さく震える。


 次の瞬間――チャラ男はビクンと一際体を大きく震わせた。


 「ど、どうした?」


 仲間が心配そうに声を掛けるがチャラ男はその言葉に対しては反応を示さない。

 まるで壊れた人形の様に首をガクガクとゆっくりと背後へと向ける。そして自分の心臓が鷲掴みにされるかの様なこの感覚の理由が一瞬で理解できてしまった。


 用意していた懐中電灯を照らすとその光の先にはこちらへと歩を進める一人の少年の姿が確認できた。


 「き…来た…」


 一番最後尾に居たチャラ男が真っ先にこちらへと歩を進めている加江須の存在に気付き、そこから他の半グレ共も加江須の存在に気付いた。


 「あれがお前の言っていたガキかよ。あんなヒョロそうなヤツに負けたのかよ」


 仲間の一人がチャラ男を呆れたような顔で見つめながら失笑した。どう考えても喧嘩向きのガタイをしている風でもない。あれなら自分一人でも勝てると余裕をかます仲間であるが、逆にチャラ男はそんな彼を哀れに思っていた。


 人は見かけによらないとはよく言ったもんだよな。お前らは知らないだろうがアレは人間じゃねぇんだよ! この場に居る俺たちが束になっても勝てるイメージなんて俺には思い浮かべられねぇんだよ!!


 そう内心で叫ぶチャラ男。この時に彼は自分の周りに居る仲間達が戦って犠牲になっている内に逃げる算段を立てようとしていたくらいだ。

 そんな彼の思考を止めるかのように少し離れた場所からこちらへと近づいて来ている加江須が口を開いた。


 「おいお前等、俺に何やら用があるみたいだな」


 「……おいどういう事だ?」


 半グレ共を掻き分けてこの集団のリーダである刈り上げ男が最前に立った。


 「お前…この場所に女共と生意気に夜景デートに洒落込む予定じゃなかったのか? 連れの女共の姿が見えねぇぞ?」


 「ああ、それはお前等を誘い出す為のブラフだよ」


 加江須がそう言うと刈り上げ男がピクッと眉を動かした。

 そんな男の反応など気にせず加江須は淡々と話を続けて行く。


 「そこの昼にちょっかいをかけて来たナンパ男に頼んでな。この浜辺に俺と恋人たちが来ると言う偽の情報をお前等に与えた」


 加江須がそう言うと刈り上げ男はビキッと額に血管を浮き出してチャラ男を見る。

 その今にも殺しに走りかねない眼光には流石に少しビクつくチャラ男。他の仲間達もチャラ男に騙された事に怒りを感じていたがそれ以上にリーダーである男の怒りに恐れを抱き何も言えなかった。


 「そうかぁ…そこの馬鹿は後でケジメを取らせるとしよう。でも分かんねぇな? てめぇは何で一人でわざわざここにやって来た?」


 「決まっているだろ。お前等が俺の大切な恋人たちにふざけた真似をしようとしていたらしいからな。そんな奴らには軽く灸をすえるべきと判断したからだ」


 「ほお…この状況で良い根性してるぜてめぇ…」


 加江須のこの自分達を舐め腐っている態度はこの場に居る沸点の低い半グレ共の腸を煮えくり返させるには十分過ぎた。

 全員が手に持っている武器を強く握りしめてジリジリと加江須へと歩み寄って行く。


 「そうだな。とりあえず死なない程度に痛めつけてやれ。口以外が動かなくなった後に女共の居場所を話してもらうからよ。お前ら…殺れ」


 そのリーダーの抹殺命令を受けたと同時に部下共の半グレ達が一斉に加江須へと怒号と共に向かって行く。

 そんな獣のような咆哮と共に迫りくる連中を冷静に見つめながら加江須は小さく呟いた。


 「俺の大切な者を汚そうとしたんだ。お前等こそ口以外の部位が動かなくなる覚悟はあるんだろうな?」



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