表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
156/335

氷蓮の実践訓練 2


 「何をやってるのよこの大馬鹿!!」


 加江須の部屋の中に仁乃の大声が響き渡り、周囲に居た他の皆は自分の耳を手で塞いでいた。

 そんな周りの驚きなど気にせず仁乃は相も変わらず大声を出し続け、目に入っているモニター内の人物を怒鳴り続ける。


 「相手は紛い物じゃない! そんな偽物に負けるなんて承知しないわよ!!」


 八重歯を覗かせながらうがーっとモニターの中で苦戦している氷蓮を怒鳴り続ける。

 こちらからの声はモニター内には届かない事は仁乃も理解しているが、それでも我慢できなかったのか聴こえぬと分かっていても叫び続ける仁乃。


 「おい仁乃、そんな叫んでも氷蓮には聴こえないぞ」


 「そんな事は分ってるわよ!! でもあんな腑抜けた戦いを見せられたら我慢できないわよ!!」


 モニター内で自分の偽物に苦戦を強いられている氷蓮の姿を指差しながら、諫めようとしている加江須にまで噛み付いて来る仁乃。


 そう、仁乃にはどうしても我慢できなかったのだ。互いにあの異空間内で模擬戦闘を繰り広げていた時の彼女はあんな腑抜けた戦いをしていなかった。悔しいけど総合的に見れば彼女は自分を上回っていた。

 悔しいから決して口には出しはしないが、それでもそんな彼女に内心で僅かに憧れもした。そんな彼女が自分にライバル意識を持ってくれているから自分ももっと強くなりたいと向上心を持てたのに……。


 「そんな偽物にやられたら私の立つ瀬がないでしょうがこの大馬鹿!!」


 ありったけの大声でモニターへ向けて仁乃がそう叫んだ直後であった――


 ――『うるせえぞこのツンデレ馬鹿が!!』


 信じられないことにモニター内の氷蓮が異空間の外側に居る仁乃に向けて怒鳴り返してきたのだ。


 「へ…どうして返事を?」


 まさかの受け答えをして見せた氷蓮を見てイザナミが驚く。

 水晶内の空間は外界とは隔絶されている筈だ。一切の干渉は出来ず、当然外側に居る者の声なんて届くはずもないのだ。

 だがそんな常識などまるで無視して相も変わらず二人の少女は言い合い続けている。


 「ここで負ける様ならもう転生戦士なんて引退したら! あんたには素質が無かったのよ!!」


 『そりゃこっちのセリフだ! わざと加減して戦っている俺の演技を見抜けていねぇくせに何を粋がってんだよ!!』


 やはり仁乃と氷蓮は互いを罵り合っている。

 何故会話が成立しているのか分からず混乱しているイザナミの肩を加江須がポンと叩いた。


 「混乱する気持ちもわかるけど理屈じゃないんだろうな」


 「それはどういう…?」


 「要するに少し歪かもしれないが深くつながり合っているんだよ、あの二人は……」


 イザナミよりも長い時間二人を見て来た加江須には何となくだが二人が空間越しに繋がっている理由が分った。あの二人は何度も口喧嘩をする中だが、それは逆に言えばそれだけ接して来たと言う事にもなる。その中で無意識に信頼関係が生まれているのだろう。


 「ホント……いいコンビだよなあの二人」


 喧嘩するほど仲が良いと言う言葉を今の仁乃と氷蓮は体現していると加江須、いやこの場に居る他の女性たちも同じように思っていた。

 

 もしこの言葉を口にすれば二人は揃って『仲良くなんかない!』と言っている姿まで鮮明に脳裏に映るのであった。




 ◆◆◆




 外の世界から何故か聴こえて来た気がする仁乃の怒声に怒鳴り返しながら、氷蓮は目の前の偽物を思いっきり蹴り飛ばしていた。


 「たくっ、グチグチとうるせーなアイツは!!」


 実際に声が聴こえて来たわけではないのだが、本能的にあのツンデレ馬鹿が何やら文句を言っている気がして言い返してしまった。そのせいでただでさえ戦闘で押され気味となってイライラしていた神経が逆撫でされる。


 だがこの時に氷蓮は無意識に自分の持つ本来の力を発揮し始めていた。


 「あの野郎に負け姿を見せるなんざごめんだぜ! たかだか偽物風情なんぞすぐにぶちのめしてやんよ! 部屋でよく見ていろやこの乳お化けが!!」

 

 そう叫ぶと目の前の偽物へと一気に接近していく氷蓮。

 蹴り飛ばされた偽物は体制を整えた時にはすでに目の前に氷蓮が迫っており、慌てて槍で彼女の心臓部目掛けて突きを繰り出す。


 「あめぇんだよ! そんな直線的な攻撃なんざなぁ!!」


 自分の心臓へと迫る槍を剣で上へと弾き飛ばす。

 そのまま空いている片手で瞬時にハンマー状の氷の造形物を作り出し、ソレを勢いよく偽物の腹部へと叩きこんでやった。


 「ぐっ…こんのぉ…!」


 腹部へと突き刺さったハンマーで吐血しながら地面を背中から滑って行く偽物。

 だが吹き飛ばされながらも偽物はどこか不敵な笑みを浮かべており、地面にぶつかりながら偽物は勝ち誇ったかのように笑い声をあげる。


 「残念だけど勝負ありよ! もうアンタはその場から動けないのだからね!」


 「あん? ……なるほどな」


 偽物の言った通りに確かに氷蓮の体は思うように動かない。

 自分が動けない理由に関してはすぐに彼女も理解できた。目には見えないが無色透明な糸で縛っているのだろう。


 だがあの偽物はまだ気付いていない。拘束されているのは自分だけでないことに。


 「得意げに勝ち誇ったツラを見せるのは勝手だけどよ、いつまで背中を地面に着けたまま喋ってんだオメーはよ?」


 氷蓮のハンマーの一撃で吹き飛ばされた偽物は背中から地面に倒れたままだ。

 

 「言われなくてもすぐに起き上がって…あれ…?」


 地面に寝そべっている体を起こそうと力を籠める偽物であるが、どういう訳か体が起き上がらなかった。と言うよりも動かないのだ。しかも今までは腹部のダメージのせいで気付かなかったが背中が冷たいような気も……。


 身体は動かないが眼球は自由に動かせるので自分の周囲を確認して見る。そして偽物は今の自分の状態を理解した。


 「何これ、氷で背中が張り付いて…」

 

 そう偽物の背中は氷で張り付いているのだ。しかも彼女の周辺の地面も氷の膜で覆われているのだ。


 「お前を弾き飛ばした時だよ。地面に背中から落ちた際に周辺の地面の表面を氷で覆っておいた。その氷でオメーを捕まえたってわけだ」

 

 そう言うと氷蓮は神力を操作し自分の全身を強烈な冷気で包み込む。

 しばらくすると何やらパキパキと音を立てながら地面へと見えない何かが落ちて行く。


 「いくら透明って言っても糸にゃ違いねぇ。それなら神力から作り出した冷気で凍らせちまえば砕けて抜け出せるぜ」


 そう言うと自由になった手足を動かしながら先程の偽物と同じように勝ち誇った顔をする氷蓮。


 「ぐっ、こんの!!」


 偽物はなんとか糸で反撃をしようと試みるが、彼女は手を床に設置した状態で氷付けにされており、思うように反撃ができない。


 「これで最後の攻撃だ。いくぜ…アイスドラゴンヘッド!!」


 勝利を確信した叫び声と共に氷蓮の手からは氷の龍が飛び出て行く。

 その龍は咆哮と共に偽物の方へと突き進み、そしてそのまま彼女へと激突した。


 龍の激突した際に砕け散った氷の破片が辺りに飛び散り周囲へと舞い散る。そして龍の破片で見えなくなった景色が晴れるとそこには氷で全身を覆われた偽物の姿が在った。

 その偽物はしばし氷の中で仁乃の姿を保っていたが、すぐに全身が石の様に薄暗い色へと変色して氷の中で砕ける。


 「どうだ仁乃! 俺様にかかればこんなもんよ!!」


 偽物が完全に撃破出来た事を確認できると彼女は空間の外に居るであろう本物へと拳を掲げてやった。




 ◆◆◆




 「はっはっはっ! どーよ仁乃、俺の方がお前よりも実力が上であった事が証明されたなぁ!!」

 

 「はあ!? あんたが倒したのは作りもんでしょうが!!」


 異空間から出て来た氷蓮は真っ先に仁乃の前まで移動すると声高々に勝ち誇っていた。

 一方で仁乃は所詮は偽物なんて倒しても自分に勝った事にはならないと怒鳴り返してやる。


 「もしも私本人があの場所に居れば勝敗は逆だったわよ!」


 「お? お? 負け犬の遠吠えってやつかぁ?」


 「こ、コイツ腹立つぅ~~ッ!!」


 氷蓮のにやけた顔にギリギリと歯ぎしりする仁乃。

 今にも噴火しそうな彼女の事を黄美と愛理の二人がまあまあと宥めている。


 「たくっ…出て来て早々に喧嘩かよ」


 仁乃と氷蓮の二人を見つめながら加江須は苦笑していた。

 そんな彼の隣ではイザナミも彼と同じような表情で困り顔で笑っている。


 「あはは…お二人とも戦闘後なのにあんなに元気なんて凄いですね…」

 

 「ああ、でもさ…」


 加江須は一度言葉を区切り改めて言い争っている二人の姿を見つめる。


 相も変わらずツンケンとした雰囲気を放っている二人であるがその様子を見ているとなんだか微笑ましく感じてしまう。

 その光景を見ていた加江須は思わず吹き出してしまい、そんな彼の様子を見ていた仁乃と氷蓮が揃って何を笑っているのか尋ねる。


 「ちょっと加江須、何を笑ってんのよ?」


 「なんかおかしな事でもあったのかよ?」


 てっきり自分たちが馬鹿にされているのかと誤解した二人が少し睨むように見つめて来る。

 そんな二人の様子を見て加江須が二人に聴こえるようにそっと呟いた。


 「いや…なんだかんだで二人は仲良いなって…」


 加江須が少し笑いながらそう言うと、言葉を投げかけられて数秒間はポカンとしていた二人であったが、何を言われたか理解するとすぐに二人は同時に顔をボンッと煙を出しながら真っ赤に染め上げる。


 「「ど、どこが似ているのよ(んだよ)!!」」


 「見事にハモッてるじゃないか」


 加江須がそう言って指差しながら微笑ましそうに笑っていると、次の瞬間には照れ隠しから放たれる二人の拳が顔に突き刺さった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ