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仁乃の実践訓練 2


 「グギャアァァァァァァァッ!!!」


 異空間内に轟く怒号と共に双頭のゲダツは大口を2つ開き、そこから青白い光と共に光線が放たれる。

 仁乃は自分へと伸びて来る光線を上空へと跳躍して回避する。そしてそのまま彼女は糸を上空で束ねると巨大な槍を形成する。

 今までの5倍近くは大きな槍は上空から仁乃の手で射出される。

 

 「グオオオオオオオッ!!!」


 自分目掛けて上空から落下してくる巨大な質量の糸の塊を光線で撃ち落とそうとするゲダツ。

 吐き出された光の光線は糸とぶつかり合い、槍その物を消し飛ばす事は出来ずとも光線の勢いに押され弾かれて軌道が逸れる。

 

 「流石にさっきほど簡単にはいかないわね。なら手数ではどうかしら!!」


 仁乃は攻撃方法を拡散へと変更し、大量の糸の槍を形成、そして即座に双頭の怪物目掛けて投擲する。

 だが四足獣となったゲダツは地面を走り糸を全て回避する。そのまま遠距離攻撃を避けながらこちらへと突っ込んで来るゲダツ。

 

 「(速いわね…このまま無暗に攻撃をしても神力がただ消耗するだけね)」


 こちらへと走りながらゲダツは光線を放って来た。

 真正面から撃ち込まれた光線を仁乃は神力で脚力を強化し回避するが、彼女が避けた方向にはゲダツが先回りし凶悪な爪を剝き出しにした前脚を振り上げていた。


 「くっ!!」


 自分の頭部を守るように槍を頭の上で構えた直後に衝撃が振り下ろされる。

 ゲダツの振り上げた前脚が勢いよく頭部目掛けて落とされ、それを槍で受けた仁乃の体が僅かに沈んでしまう。

 

 「お…も…!!」


 受け止めているゲダツの脚は重く、今も体重を真下に居る自分へとかけ続けているのだ。普通の人間ならば今頃真上から潰されて餅にでもなっているかもしれないが、神力で腕力と脚力を強化している彼女はギリギリで踏ん張りゲダツの前脚を抑え続けている。

 しかしいつまでもゲダツの方も拮抗状態を静観している義務もなく、双頭はそれぞれ大口を開けて光線を放つ準備を整える。


 ――だがゲダツの開かれた2つの口からは突如大量の血が噴出した。


 「ウガアアアアアアッ!!」


 激痛の余り叫び声を上げる双頭の怪物。もちろん仁乃に振り下ろし続けていた前脚も引っ込めてしまう。

 しかし何故この双頭のゲダツは突如として鮮血をまき散らしたのだろうか?




 ◆◆◆




 水晶の異空間の様子を部屋から眺めていた黄美が疑問を抱いていた。


 「何であの怪物が突然血を…?」


 あの双頭の怪物が光線を放とうとしているところまでは理解できたのだが、あの怪物が吐き出したのは光線ではなく真っ赤な血であった。そのカラクリが解らずに首を傾げていると加江須が彼女に説明してあげる。


 「あのゲダツは血だけじゃなく牙も一緒に吹っ飛んでいた。多分だけどゲダツが口を開いた時に透明な糸を束ねて突っ込んでやったんだろう。それが牙を砕き喉の奥まで突き刺さったんだろうな」


 この加江須の予想は見事に大正解であった。


 あの時に仁乃は真上から押しつぶそうとしてくるゲダツの前脚を受け止めつつ、片方の手のひらから透明な糸を出し、それを束ねて槍とまではいかないが先端の尖った糸の束を間抜けに開かれていた口内へと突っ込んでやったのだ。


 「仁乃のやつ強くなってんな…」


 モニター内に映る仁乃の奮闘する姿を見つめながら氷蓮が素直な感想を口にする。

 今彼女が戦っている相手は以前は自分も協力して倒したゲダツだ。それなのにたった1人で優勢に戦いを進めているのだ。間違いなく彼女が以前よりも強くなっている証拠だろう。


 「ハッ! そうこなきゃよぉ」


 自分が秘かに一番ライバル意識をしている少女の姿を見て氷蓮は小さく笑った。




 ◆◆◆




 口の中を糸でぐちゃぐちゃにされたゲダツはそのまま後退し、今まで押さえつけていた仁乃を自由にしてしまった。

 上から押さえつける力が消えた瞬間に仁乃はもう攻撃へと移っていた。


 「このまま一気に畳みかけるわ!!」

 

 手に持っていた槍を放り捨てると両の掌をゲダツの後ろ脚の1本へとかざした。そこから大量の糸が発射されゲダツの脚を絡み取ってやった。大量の糸がゲダツの脚に何重にも巻き付き黒い体毛が糸で覆われる。

 自分の脚を捕らわれたゲダツは血をまき散らしながら大口を開くが、それよりも先に仁乃はゲダツの脚に巻き付いている糸を両手で引っ張る。


 「ぐ…ぬぬぬぬぬぬぬ!!」


 神力で腕力を極限まで強化し、苦しい表情をしながらもゲダツを引っ張ってやる。

 片脚を引っ張られたゲダツはそのまま間抜けに地面に顔面を叩きつけ、そのまま強引に引きずられてしまう。


 「うぐぐぐぐぐぐぐ!!」


 腹の底から振り絞っている様な声を真っ赤な顔で出しながらゲダツを引っ張ってやる。

 見た目は細身の女の子の腕で何倍もの大きな化け物を引っ張っている光景はかなりの仰天ものだ。しかも最初はただ引きずっているだけだったが――


 「こんのぉおおおおおおおおお!!!」


 なんと仁乃は限界まで身体能力を強化すると糸を思いっきり引っ張った状態で体を回転させ始めたのだ。今ままでは地面に引きずっていたゲダツの肉体も宙へと浮き出したのだ。そのままハンマー投げの様に脚に絡めていた糸を解きゲダツを遥か遠くまで投げ飛ばしてやった。

 空へと放り出されたゲダツは二つの頭から地面へと激突する。


 「これで…はぁはぁ…トドメぇ!!」


 残りの神力を全て振り絞り一本の巨大な槍を頭上で形成し、それを振りかぶって倒れているゲダツへと全力で投擲する。

 轟音と共にロケットの様な勢いで槍はゲダツへと突き進んでいき、相手のゲダツが体を起こすと同時に真横から串刺しにされた。


 仁乃の槍が貫通した直後、ゲダツは大量の血を吐き出すと同時に体がボロボロと崩れていく。


 「た…倒した…?」


 ゲダツの肉体が崩壊していく様子を眺めて仁乃が膝を地面に着く。

 完全に戦闘不能である事を確認できた仁乃はその場で大の字になって地面へと倒れる。もう気力体力と共に完全に出し尽くした感じだ。


 「私…独りでも勝てたのよね?」


 戦闘の最中は戦っている相手の事しか考える余裕がなかったが、戦闘が終われば自分の成長を実感する事が出来た。

 疲労と共に呼吸を荒くしながらも自分の両手を見つめる仁乃。

 あの巨体であるゲダツを引っ張った為か自分の手のひらはズタズタだ。血も滲んでおりとてもみっともなく感じる。それに今の自分の格好だってそうだ。服は汚れてボロボロとなり汗も止まらない。とても泥臭い様な姿だ。


 「でも…勝てたんだな私…」

 

 しかし今の仁乃は自分の成長を喜んでいた。さすがにまだ加江須には届きはしないが自分だけで人型ゲダツを倒せたのだ。これまでの戦いや特訓も無駄でなかったと思うと少し嬉し涙が出そうになる。


 その直後であった――仁乃の体が異空間内から消えたのは。




 ◆◆◆




 「す、凄かったですね」


 モニター内で倒れている仁乃を見ながらイザナミがそう口にする。

 まさかあんな細身の女の子があんな巨体な怪物を振り回すとは思わなかった。今まで緊張した面持ちで見ていた皆もあの瞬間には呆気に取られてしまい目が点になっていた。

 だが無事にゲダツを倒せたという事もあり胸をなでおろす加江須。


 「本当に強くなったな仁乃。こりゃウカウカとしてられないな」


 自分も彼女に負けぬようにと小さく意気込みを口にするが、モニター内の映像を見て少し驚く。


 「あれ? 仁乃のやつが消えたぞ?」


 氷蓮の言う通り今まで異空間内で倒れていた彼女の姿が消えたのだ。


 その直後にモニター内に居た仁乃の姿が加江須の目の前に現れる。


 「「…え?」」


 自分の目の前に突如として異空間から放り出された仁乃が現れ、互いに至近距離で見つめ合いながら揃って声を出す二人。

 そしてその後は当然仁乃の体が思いっきり加江須へとぶつかり押し倒してしまう。


 「きゃあッ!?」


 「またかコレ!!」


 悲鳴を上げる仁乃とイザナミの時の事を思い出す加江須。

 そのまま仁乃が覆いかぶさった状態で加江須を押し倒し、二人は床にダイブする。


 「いでっ! おい仁乃どいてくれ…あれ…?」


 仁乃に押し倒されて背中から思いっきり床下に倒れた加江須が痛みと共に仁乃にどくように促すが、ここで彼は自分の今の状態を見て固まる。

 なんと加江須は咄嗟に両手を前に出していたようで、下から上に覆いかぶさる仁乃の胸部を持ち上げていたのだ。


 「あんたって何回この手のうっかりを繰り返すのかしらね?」


 自分を押し倒している仁乃はピクピクと目元を動かしながら黒い笑顔を見せて来る。

 

 「(あ、殴られる)」


 もう加江須の方も慣れた様で冷静にこの後の展開を予想でき覚悟を決める。

 しかし仁乃は今の自分の姿を見て顔を真っ赤にすると慌てて加江須の体から離れる。


 「あ、あれ…?」


 てっきりマウントを取られているのでボコボコにされるかと思ったが、彼女は振り上げた拳を引っ込めるとどこか恥ずかしそうな顔をする。


 「ね、ねえシャワー借りてもいい?」

 

 彼女が恥ずかし気にそう呟く姿を見て何故手を出されなかったのかを理解した。

 確かにいくら戦闘後とは言え年頃の女の子だ。汚れた姿を見せるのは抵抗があるのだろう。


 「もちろん使っていいぞ。場所は分かるよな?」


 「う、うん。この家に泊まった事あるし…」


 そう言うと彼女は部屋に置いてあった自分の鞄を持つとそのままシャワーへと向かう。


 「(だ、大丈夫よね? 汗臭いなんて思われていないわよね?)」


 あの時に仁乃が気にしたのは服の汚れではなく疲労からの汗の臭いの方であった。大好きな人に汗臭いなんて言われたくはない。

 

 急いで部屋を出る仁乃の姿を見送った後、加江須はイザナミの方へと顔を向ける。


 「なあイザナミ、この異空間から出る際の仕様どうにかならないか?」

 

 「そ、そうですね。少しどうにか調整できないか後で調べてみます」


 流石に何度も今の様な状態となるのは不味いだろう。もう既にこの排出方法のせいで自分が二度も女性の胸を掴んでしまっているのだ。まあ正直に言えば嬉しいハプニングではあるが……。


 「仁乃さんのおっぱい柔らかかった?」


 「ああ柔らか…て何を言わせんだ!!」


 愛理が笑ながらしてきた質問に反射的に答えてしまいそうになる加江須。その姿を見て愛理はケラケラと笑っている。


 「(ちくしょう…ここの装甲の厚さじゃ勝てねぇ…)」


 部屋を出て行った仁乃の胸部と自分を見比べて気落ちしてしまう氷蓮。


 「じゃあ次は俺の番だな!! 速攻で倒してやんよ!!」


 せめて戦闘面では上回ろうと意気込みながら今度は氷蓮が異空間へと飛び込んでいくのであった。



 

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