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500年の中で初めての幸福

5人目のヒロイン確定回です。今後もまだ増えるかも…?


 加江須たちが各々に自分を研磨し特訓を終えて今日はひとまず終了と言う事で解散する事となったのだが、水晶内の異空間を出た後に少し違和感を覚える加江須。

 何やら女性陣たちがイザナミにコソコソと話しているのだ。一体何を話しているのか気になり耳を近づけようとすると仁乃が『あんたは聞いちゃダメ!!』と言って押しのけてしまい聞けずじまいであった。

 付け加えると言うのであれば加江須だけでなく余羽も自分と同様に輪の外におり首を傾げていた。


 そこそこの時間話し合いがなされた後、仁乃たちはイザナミの背中を軽く押して応援した。


 「それじゃあ私たちはもう行くから。後は頑張ってねイザナミさん」


 仁乃がなにやらイザナミに応援すると無言で彼女は頷いていた。

 よく見ると彼女の頬は僅かだけ朱に染まっており、本当に何を話していたのか気になる。


 「おいマジでイザナミに何を言ったんだよお前等?」


 「それは俺たちが帰った後に分かるぜ。じゃあ帰るぜ余羽」


 氷蓮たちが帰った後に分かるだと? 本当に何があると言うのだろう。

 そんな事を考えている加江須を置いて仁乃たちはそのままそれぞれの帰路を辿るのであった。そして残されたのは加江須とイザナミの二人だけとなる。


 「……そんで結局は何を話していたんだ?」


 皆も居なくなった事で思い切って内容を尋ねてみる加江須。

 するとイザナミは顔を俯かせたままで彼に自分の想いを直球的に伝えた。下手に遠回しで伝えるよりもハッキリとまずは自分のこの胸の想いを聞いて欲しかったのだ。


 「加江須さん。私は……あなたの事が好きです」


 「………んん?」


 イザナミのいきなりすぎる告白宣言は加江須の思考を停止させるには十分過ぎた。


 俺は今一体彼女から何を言われたんだ? 自分の耳が正常なら好きですと言われた気がするのだが……。


 「え~っとぉ…すきってもしかして農作業とかに使う鋤の事か? 菜園でもやりたいとか?」


 何で今この状況で地面を掘る道具の名称など口にするんだろう、なんて極めて低い可能性を考える加江須であるが彼女はさらにより分かりやすく思いの丈を言葉にする。

 

 「私は加江須さんの事を愛しています。ここまで言えば分かってくれるでしょうか?」


 「あ…その…」


 何故このタイミングで告白を? いやそれ以上にそもそもの話彼女は実は自分を好きだった事にすら間抜けにも気付かなかった。だからこそ今のイザナミの告白に対してどう返してあげるべきか答えが出てこない。


 「(ど、どうすればいい? 彼女にどう言う事が正解なんだ?)」


 なんて言葉を掛ければよいのか分からず頭の中でグルグルと様々な単語が渦を巻く。そんな混乱気味の彼に近づいてきて震える彼の手を取るイザナミ。

 温かな彼女の手が自分の手を握り思わずドキッとしてしまう。それが告白をして来た女性ならば尚更だ。


 「イザナミ…本気なのか?」

 

 目を見れば彼女の告白が本物か偽物かなんて一目瞭然であるがそれでも聞かずにはいられなかった。

 そんな戸惑いの中にいる加江須へと彼女はゆっくりと頷いてくれる。


 「今まで私は自分の中のこの想いに気付かないフリをし続けてきました。だって加江須さんには素敵な人達がたくさんいるから。その中に自分のように追放された身の者が混ざるなどあってはならないと……」


 でも仁乃たちはそんな自分を後押ししてくれた。その気持ちが本気であるなら殺し続ける事などないと応援してくれたのだ。


 ――だから私はもうこの想いを隠さない!!


 「もちろん加江須さんがどう返事するかは自由です。ただ…答えは教えて欲しいです」


 イザナミの真剣な眼差しと共に返答を迫られる加江須。

 正直に言えば加江須はイザナミに対して一切の悪感情は抱いていない。自分を生き返らせてくれ、そして自分の大切な人を己の立場を犠牲にしてまで守ってくれた人。そんな彼女の事を尊敬し、そして素晴らしい女性だと思っている。


 「(そんな敬慕している女性の告白だ。それを嫌とは全然思えない。でも……)」


 自分なんぞが彼女を幸せにしてあげられるのかと思ってしまう。


 「イザナミ…俺は…」


 未だに自分の中で答えなど出ていないくせに口を開きかける。

 だが彼の口から放たれていた言葉は途中で途切れた。その理由は彼女の顔を見たからだ。


 イザナミは不安そうな顔で自分の事を見つめていた。その瞳にはもしも自分の気持ちが届かなければどうしようと…そんな感情が混じり込んでいる。


 そんな不安で押しつぶされそうな一人の女性の顔を見て加江須は自分自身を激しく叱咤した。


 「(俺は馬鹿か! 自分なんぞが幸せにできるか否かだと! じゃあここで彼女の想いを切り捨てる事が正解なのか!!)」


 正直に世間一般の価値観を考えれば今の加江須を最低だと思う人物も多数だろう。世の中には一人の女性を生涯をかけて守ろうと決意する男性も居るのだ。そんな者からすれば4人も既に恋人がおり、その上に更に恋人を作ろうなど男の風上にも置けないと言われても仕方がないだろう。

 だが…目の前の女性は自分を愛してくれているのだ。その想いを無下にする事は加江須には出来そうになかった。無論相手の事を自分が愛も何も感じていないのであれば普通に断る。だが加江須も加江須で自分の大切な人を救い底知れぬ慈愛を持ち合わせているイザナミに惹かれている部分はあった。


 だからこそ彼は悩んだ末にこう答えて上げる。


 「俺なんかでよければこの先も一緒に居ようイザナミ」


 そう言いながら彼女が握っている手を優しくではあるが決して離れぬ様にと強く握り返した。

 その答えを聞き自らの想いが実った事を喜んだイザナミは加江須の胸へと感情の赴くままに飛び込んだ。


 「加江須さん…追放されても私は幸せです。大好きだと思った人がこの手を取ってくれる事がこんなに幸せだなんて……」


 「ああそうだな。これから先は俺がお前を…イザナミを守るから。今までイザナミが目に見えない場所からずっと人間を見守っていた時の様に今度は俺が……」


 互いに抱きしめあってそれぞれの心臓の鼓動を強く感じ取れる。

 

 抱きしめてもらいながらイザナミは幸福を感じていた。ただ抱きしめられているだけなのにこんなにも満たされる。こんなにも嬉しくなる。これが本当の恋なのだろう。かつて半ば無理強いさせられていた縁談には微塵も興味なんてなかったしときめく事もなかった。

 でも今はまるで違う。この瞬間にイザナミは確かにこう感じていた。


 「(ああ…私は今ちゃんとした恋をしているんだ…)」


 愛おしいと思った相手に抱きしめられて幸福を知らせる鐘が自分の頭の中で鳴り響き続ける。その幸福にもう少し身を委ねていたいと思うと次の欲求が彼女の中で生まれて来る。


 「あの加江須さん…お願いがあるのですが…」


 「ん? 恋人になったならそんな遠慮気味にお願いなんてするなよ」


 もうただの同居人ではなく恋人同士なのだ。そこに変に遠慮などされてもあまりいい気分はしない。

 恋人同士とは対等な関係のはずだ。どちらが上か下かなんてないのだ。だから加江須は言いたいことがあるのであれば遠慮なく言って欲しいと告げた。

 その力強く感じる言葉にイザナミは自分の方が遥かに長い時間を生きて来たにも関わらずに甘える様な声で〝あるお願い〟を思い切ってする。


 「キスをしてくれませんか…?」


 自分の瞳を見つめながらそんなお願いをするイザナミ。

 彼女の瞳の中には自分が少し戸惑っている姿が滑稽にも映った。遠慮なんかするなと言っておきながら醜態だと思っていたがすぐに気を引き締めて頷いた。


 「ああそうだな。俺もイザナミとキスをしたい」


 「……ん」


 イザナミは目をつぶると少し唇を前へと差し出す。

 そんな自分の事を受け入れる体制を取っている彼女の唇に自身の唇をそっと合わせた。

 

 ただ唇をくっつけただけの軽いキスでありながらイザナミは今まで以上の幸せに包まれた。


 「キス…しちゃいましたね」


 「ああ…そうだな」


 実際に二人が交わしたキスは時間にすれば一瞬に過ぎなかったのだろう。だがイザナミの体感ではそれ以上に感じ、先程まで彼の唇が触れていた自分の唇を触る。


 「えへへ好きな人とキスをするのってこんな嬉しい気分になるんですね」


 長い時間を生きていた女神であるイザナミは大抵の事は経験していた。しかし今この瞬間の幸福は間違いなく今まで生きていた人生の中で初めてである。


 「それじゃあ今後ともよろしくお願いします」


 「こちらこそよろしくな」


 未だに残りつつある幸福の余韻を感じながら頭を下げるイザナミ。

 そんな彼女の頭をポンポンと軽く叩いて笑ってくれる加江須。


 今まで結婚から逃げ続けて来た女神はこの日ようやく心の底から〝大好き〟を理解できた。




 ◆◆◆




 加江須とイザナミがほんわかとした雰囲気を漂わせながら笑い合っている光景を彼の家の遥か先の外から覗き込んでいる者が居た。

 

 「あらら…こりゃ予想以上の展開の進み具合っスね」


 加江須の対面上の家の屋根の上では1人の女性が胡坐をかいて座っており、窓の向こうの部屋の中に映る景色を見てたいそう驚いていた。

 

 「心配して様子を見に来たけどこれは少し予想以上の状況っスよ。追放されておいても幸せそうに笑っているみたいっスね先輩」

 

 向かいの家の屋根から様子を窺っているのは彼女の後輩女神であるヒノカミであった。

 地上へと落とされた彼女の身が心配で少し前に地上へと降りて来たのだ。もちろん腕には神力を封じるミサンガを付けた状態でだ。

 もしかして親に捨てられたショックで塞ぎ込んでいるかと思えばまさかのキスシーンを目撃してしまうとは……。


 「でも彼ならなんか安心できるっスね。何しろ神様相手にも面と面向かって言いたいことも言える度胸があるっスからね」


 どうか神界で不遇な思いをした彼女を幸せにしてください、そんな言葉を小さな声で囁くと彼女はその場から周囲の景色に溶けていった。

 

 彼女が見ていた窓の向こう側の室内では二人の男女がもう一度口づけをしていた姿が映っていた。



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