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番外編 愛野黄美の暴走 2


 「ふ~んふ~んふ~ん♪」


 鼻歌交じりで目に見えて上機嫌な一人の少女、その隣では彼女の友人である愛理が困った顔で笑いながら少し浮かれ気味だと忠告を入れる。


 「ちょっと黄美、いくら何でも浮かれ過ぎじゃない?」


 「うん? そう言われても自然と頬が緩んじゃうのよぉ。だって……」


 「はいはい、幼馴染クンとついに恋仲になれたから嬉しいのよね」


 もう何度も聞いている事なので先に答えを出しておく愛理。

 昨日の昼休みの終わりにクラスへと戻って来た黄美は誰の目から見ても幸せの絶頂にいる事が理解できるほどに浮かれていた。クラス内の皆は怪訝な顔つきで見ているにも関わらずに黄美は周りなど見えていないかの様に1人幸せに浸っていた。

 流石に気になって愛理がそれとなく何があったのかを尋ねると、どうやら昼休みに学園の屋上で幼馴染の久利加江須君と恋仲に成れたらしい。

 

 「いやー黄美にもついに彼女が出来たと思うと感慨深いなぁ。黄美っていつも幼馴染クンの話をするとツンデレ炸裂していたしねぇ」


 「もうやめてよ愛理。私だって昔の自分の態度には反省してるんだから」


 「はいはい…」


 それにしてもだ、本当に自分の親友がここまで立ち直ってくれて良かった。一時期は家へと引き籠っていたが、こうして学園に戻って来て長年想い続けていた幼馴染とも結ばれたのだ。なんだか肩の荷が下りた気分だ。

 

 それにしても……黄美が引きこもっていた理由は何だったのだろう?


 不思議な事に黄美が家に引きこもった理由が思い出せないのだ。ありきたりないじめなどではなかったはずだが…そもそも優等生の黄美はクラスの中でも外でも慕われている。いじめなどとは無縁だろう。


 「(そー言えば黄美にボーイフレンドが出来たって知って嘆いていた男も何人か居たなぁ)」


 クラス内で恥ずかしげもなく交際している事を自分に話している際、聴き耳を立てていたクラスメイトの男子が数名肩を落としていた事を思い出す。


 そんな他愛ない話をしながら校門の前まで辿り着くと一人の男子生徒が目に入った。


 「あっ、カエちゃーん!!」


 校門の前に立っていた男子生徒に向かって嬉しそうに手を振って名前を呼ぶ黄泉。

 相手の方も気付いたようで今まで俯いていた顔を上げて黄美の方へと振り向いた。


 「おっ、幼馴染クンが待ってくれていたか。このこのー、青春してますなぁ」


 そう言いながら肘でうりうりといじってくる愛理。

 そんな彼女に対してもうやめてよ、なんて軽い口調で笑う黄美。


 「お待たせカエちゃん。待たせてしまってごめんね」


 「……気にするなよ」


 ニコニコと笑いながら加江須の腕に自分の腕を絡ませて腕を組む黄美。

 自分の前で堂々といちゃいちゃする親友の姿に愛理はおおっと少し驚く。

 

 「(本当に変わったもんですなぁ。恋愛とはここまで人を変えるものなのか…)」

 

 今の黄美を見ているとしみじみとそう考えてしまう。今までツンツンしていた為にその反動でも来たのだろうか。

 

 「いやーお熱いですなぁご両人」


 そう言いながら愛理は二人を軽くからかってみた。

 そう言えばこうしてこの幼馴染クンと会話をするのはこれが初めてだ。今後も彼とは交流もあるだろうし挨拶でもしておこうと思い加江須に話し掛ける愛理。


 「えーっと加江須君で良いんだよね? 私は黄美の友人の紬愛理です! 今後ともよろしくねー」


 軽い口調と共に加江須へと手を差し出して握手を求める愛理。


 「ああ…俺は久利加江須だ。よろし…ッ!」


 加江須が愛理と握手をかわそうとした瞬間に異変が起きた。

 二人の手と手が接触しようとした直前であった、指先が触れる直前で加江須は一気に青ざめた顔で手を引っ込めたのだ。

 

 「え…な、なに?」

 

 まさか拒否されるとは思わず苦笑いをする愛理であるが、彼の顔を見て息をのんだ。


 加江須の顔は目に見えて真っ青になっており、さらには口元が震えているのだ。


 「ご、ごめん。実は体調が悪くてさ…」


 「あ…そうなんだ。別に気にしなくてもいいよ…」


 加江須はまだ体を震わせながら愛理から視線を切った。

 確かに体調が良さそうではない感じはするが、しかし愛理の目には他の理由で彼が震えている様に見えて仕方がなかった。

 あれはそう…何か恐ろしい事が自分の身に降り注ぐかもしれないと恐怖から縮こまる子供の様な……。


 「ごめん愛理、私たちもう行くね」

 

 「え、うん。久利君お大事に…」


 加江須の様子を不審に思っていると黄美が少し大きな声で別れを告げる。

 彼女は加江須と腕を組んだまま二人で学園を去って行く。体調不良である加江須の事を引っ張ってリードする黄美。恋人が体調不良だから率先して引っ張っているのだろう。

 そんな事を考えているともう大分距離が開いている状態で加江須が首だけを愛理の方へと動かした。


 ――『タ・ス・ケ・テ・ク・レ』


 「え…気のせいだよね…?」


 振り返った加江須が口パクでそう助けを求めているかのように見えた愛理であったが、あんなにも幸せそうな黄美の姿を見て自分の勘違いだと片付けてしまった。


 「……私ももう帰ろうかな」


 視線を校門付近へと向けるともう二人の姿は消えてしまっていた。




 ◆◆◆




 愛理と別れたその後、黄美は無言のまま加江須の腕を引いて歩き続けていた。

 仲良く恋人同士で下校などロマンがあるはずだが、この時の二人の表情はお世辞にも楽しんでいるとは思えなかった。黄美はまるで苦虫を噛み潰しているかのような顔をしており、そして加江須はガチガチと歯を鳴らして怯えている。

 

 そして人の目の無い場所へとたどり着いた瞬間、黄美は乱暴に組んでいた腕を解くと加江須の首を容赦なく絞めた。


 「がはッ!? よ、黄美…やめて…くれ…」



 「はあ? どの口がそんなセリフをほざいてるのよ?」


 黄美はギリッと歯を噛みしめながら更に強い力で彼の首を緩めるどころかより強力に絞めてやる。

 

 「がっ…ぐっ…!?」


 転生戦士の容赦のない絞めに加江須はただ頼むだけでなく力づくで黄美の手を振りほどこうとするのだが、ただの一般人である加江須には神力で握力を常人離れまで強化した彼女の手を振りほどけなかった。


 「ねえ…さっき愛理と手をつなごうとしたわよね? 私と言う恋人がいながらどういうつもり?」


 「ぎっ…がぐっ…!?」


 ついに首を掴んだままで加江須の体を持ち上げる黄美。

 脚が地面に着かず呼吸も出来ず加江須は足を無様に宙でバタバタと動かす事しか出来なかった。呼吸も出来ずに白目まで向き始める。


 「チッ!」


 このままでは死ぬかもしれないと思い彼女は無造作に加江須の体を放り捨てる。

 

 「がはッ!! はぁー…はぁー…ゴホッ…うぐぅ」


 地面へとまるでゴミの様に放り捨てられた加江須はようやく満足に呼吸できる様になった。しかしその直後、仰向けに倒れた加江須の体を黄美は踏みつけて来たのだ。


 「ぐがっ! いっ……」


 「ねえ、まずは最初に謝るべきじゃないのカエちゃん。『彼女がいるのに他の女の子と触れ合おうとしてごめんなさい』って言うべきじゃないの? 何で謝ってくれないの?」


 「た、ただの挨拶の握手じゃないか。お前の親友なんだから失礼な態度を取るわけにもいかな……」


 加江須はそこまで言い掛けるとしまったと言った顔をする。

 昨日の屋上で自分は教え込まれたはずだ。今の様に反論などしてしまえばどうなるかと……。


 「黄美すまない、今のは……あがぁッ!?」


 加江須が急いで謝ろうとするよりも早く黄美の蹴りが加江須の側頭部へと命中した。

 凄まじい勢いを乗せた蹴りは加江須の頭部を蹴り飛ばし、そしてゴロゴロと彼の体が地面を転がって行く。

 

 「あがっ!? あああああああああああッ!!??」


 なんと黄美は神力で強化した脚で蹴りを入れて来たのだ。

 蹴りを入れられた加江須は蹴られた箇所を押さえながら亀のように蹲くまるが、そんな状態でも彼女は決して許しはしない。


 「何で言い訳するのよ!! 私はあなたを愛しているからこう言っているのに何で伝わらないのよ!! カエちゃんは私の事が嫌いなの!? 私にそんな不満があるの!! こんなに愛しているのに!!! 愛しているのにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」


 ヒステリックに頭を掻きむしりながら黄美は身動きを取ろうとしない恋人に向かって上から何度も何度も踏みつけてやった。

 思いっきり踏みつける度に凄まじい激痛が走り、その度に加江須の口からは悲鳴が飛ぶ。しかしどれだけ苦しもうが黄美は暴力を振るい続ける。


 「どうしてどうしてどうしてぇぇぇぇぇぇぇ!!?? こんなにあなたを愛しているのに分かってくれないの!? カエちゃんの為にゲダツと戦い続ける事だって苦じゃなかった!! でもあなたが他の女の子と仲良くなるのは我慢できないの!! だってあなたは私の物なんだから!! 髪の毛から爪まで久利加江須の肉体は私の所有物なんだから!!!!!!」


 「がはっ! うがっ! げえええええええ!?」


 「何とか言いなさいよぉぉぉぉぉぉ!!!」


 それから数分にも渡ってヒステリックに喚きながら黄美は加江須を痛め続けた。

 制服の下は昨日にも多くのあざが付けられたが、今の一連の暴行で倍近くは増えているだろう。


 「ご…ごめんなさい」


 加江須は地面の上で丸くなってガタガタと震えながら黄美に謝る。


 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 「………カエちゃん」


 謝り続ける加江須の頭部を掴み、髪の毛を掴んで持ち上げ至近距離で怯える加江須の瞳を覗き込む。


 「カエちゃん。私は他の誰にもあなたを盗られたくないの。だからこれは必要な行為なの。分かってくれるよね? 酷い事をしているかもしれないけど愛しているからこそなんだよ」

 

 「……はい」


 「ふふ、物分かりが良くなって嬉しいな♪ カエちゃん……愛してる♡」


 そう言いながら黄美は濁った瞳を向けながら彼の唇を奪う。

 愛しい彼氏とのキスは甘酸っぱいと言うよりも鉄臭い血の味がしたのだった。



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