表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
137/335

彼女は罪など犯してない!


 突如として加江須たちの前に現れた謎の女。しかし彼女はイザナミの事を先輩と呼んでいた。という事は彼女はイザナミと同じ神界とやらの住人、恐らくは神である事はおおよそ理解できた。

 空中に浮遊している女性は自分の艶のある黒髪の毛先をくるくるといじりながらジト目でイザナミの事を見ている。


 「もー何やってるんスかイザナミ先輩。まさか地上で女神の力を堂々と解放するなんていくら何でも非常識っスよ。上の方にもバレてるっスよ」


 上空にふわふわと浮いていた女性はゆっくりと地上へと降下していきふわりと着地する。

 地に降り立つと彼女は頬を膨らませながらこちらへと近づいて来た。


 「もー…先輩が問題起こしたせいでウチまで地上に駆り出される事になったんスよ」


 ぶつぶつと文句を垂れ流しながらゆっくりとこちらへ歩み寄って来た女性であるが、加江須たちの中のある人物の顔を見て驚いた。


 「あれ? あんた…もしかして愛野黄美さん?」

 

 「へ? そう…ですけど…」


 イザナミの関係者と思われる女性は黄美を指差しながら彼女の名前を呼んだ。

 突然見知らぬ怪しげな女に名前を呼ばれて少し戸惑いながらも頷く黄美。


 「やっぱり愛野さんじゃないっスか!! いやー二度目の青春を謳歌しているようでなによりっスよ!!」


 自分が声を掛けた相手が愛野黄美本人である事を確認出来て嬉しそうに駆け寄って来た。

 加江須たちを押しのけ黄美の手を取りよかったよかったと繰り返す女。


 「いやーどこかツンケンしてたからあの後上手くやれていたか心配していたんスよ!」


 「なっ、ちょと何ですか? あなた誰ですか?」


 初対面とは思えない馴れ馴れしさに戸惑いながら黄美は女性が何者かを尋ねる。

 

 「ええ誰ってまさか自分の事を忘れたんっスか? ヤソマガツヒノカミっスよ!! ヒノカミちゃん!!」


 「ヒ…ヒノカミ…えっと?」


 相手はあたかも黄美と何度か顔を合わせているかのように振舞うが黄美からすればこのヒノカミとやらとは間違いなく初対面なのだ。

 自分の記憶の海を探るがやはり目の前の女性とはこれが初の顔合わせだ。


 「あの…本当に私はあなたの事を知らないんですが…」


 「ええ………あっ!!」


 黄美の他人を見るかのような目に少し不思議そうにするヒノカミとやら。しかし彼女は何かに気付いた様にあっと大きな声を漏らした。

 彼女はすぐに握っていた黄美の手を離して数歩後ろへと後退して軽く頭を下げた。


 「いやーすんません。どうやら人違いみたいだったみたいっスね!! いやーメンゴメンゴ」


 「はあ…あれ、でも人違いと言うわりには私の名前を…」


 「ああそれはぁ…いやこう見えても自分は神様っスからお見通しって事でひとつ処理しといてくださいな」


 「は、はあそうですか…」


 何故自分の名前を知っていたのか尋ねるもはぐらかすかのような返答しか返って来なかった。とは言え相手は神様らしい。ならば名乗らずともいち下界人の名前ぐらいは分かってもおかしくはないのだろうと自己解釈する黄美。と言うよりも余り関わりたくないと言うのが黄美としての本音であった。


 確かに神がその気になれば下界の者達の名前を知る事は簡単な事だ。しかしヒノカミが黄美の名を知っている理由、実は彼女は黄美と顔を合わせた事があるのだ。ただしそれは今目の前に居る〝この世界〟の黄美ではなく〝別世界〟の黄美であるが。

 ただこの話は目の前の黄美に話しても仕方がないので黙っておくことにするヒノカミ。


 「そ・れ・よ・り!!」


 ヒノカミは黄美から視線を切ると再びイザナミへと指を突き付ける。


 「何を考えてるんスかイザナミ先輩!! どうして地上で力を解放なんてしたんスか!!」


 「ごめんなさいヒノカミさん。その…彼女を助けるために…」


 イザナミは申し訳なさそうな顔をしながらすぐ傍で未だに眠っている仁乃の姿を見つめる。そんな彼女の振る舞いにヒノカミは渋い顔をしながら納得をした。


 「あー…その娘を助けるために仕方なくって感じっスか?」


 ヒノカミがそう言うとイザナミは黙って頷いた。

 そんな彼女に対してヒノカミは頭を掻きながらやれやれと言った顔をする。


 「イザナミ先輩は優しい性格ですからねぇ。でも違反は違反っスよ」


 「ご、ごめんなさい」


 軽い口調ながらも責める様な言い方に思わず後輩相手にも全力で頭を下げて謝罪をするイザナミ。

 自分の目の前で頭を深々と下げている彼女を見て黙っていられず加江須がヒノカミへと話し掛けた。


 「まっ、待ってくれないかヒノカミ様。確かにイザナミは規則を破ったのかもしれない。でもそのおかげで1人の人間の命が救われたんだ」


 決して自分の私利私欲の為に力を振るったのではないと主張する加江須であるが、そんな彼に対して彼女は少し困り顔でこう返す。


 「言いたいことは分るっスよ。でもねぇ…神々が地上のいざこざに干渉するのは正直良い事ではないんスよ。例えそれが人命救助にあたる行為でも……」


 イザナミやヒノカミはあくまで神界の住人であり地上に住む人間ではない。そして地上の事はその世界に住んでいる人間に任せるべきだと神界で定められている。だからこそ神々は人間の中から転生戦士などを生み出しゲダツと戦わせているのだ。

 過剰に神々がこの地上で力を振るい続ければ人々の持つ力や知恵は衰退し、やがてはこの地上に住む人間達は自分で考える事、頑張る事を放棄して人間と言う種が堕落していく恐れがある。神様が居るから大丈夫、などと甘えた考えを多くの人間達が持ってしまえば大げさでなく危険なのだ。

 

 ヒノカミの話を聞き終わると氷蓮が少し不安げな顔でヒノカミに彼女の処遇について尋ねる。


 「なあ…イザナミはどうなんだ? まさか重い罰でも課せられたりすんのか?」


 「まあ今回は一人の人間を救っただけで他に余計な事に力を使役した訳でもないですし……多分そこまで重い罰があるわけでもないでしょうけどウチには何とも言えないっスね。決めるのは上司なんで……」


 べつにヒノカミはあくまで神界にイザナミの事を連れて行くだけで彼女が罰を与える訳ではない。だから氷蓮の問いに対して明確な答えは出せないが何かしらのペナルティはあるだろう。

 

 「まあこの場で答えは出せないっスね。……じぁあ先輩行きましょうか」

 

 「そうね…行きましょう」


 ヒノカミの目の前に何やらゲートの様なものが出現する。恐らくは神界に続く門なのだろう。

 そのままヒノカミに背中を押されながらイザナミはそのゲートをくぐろうとする。


 「あ…加江須さん」


 イザナミがゲートをくぐる直前に加江須へと振り返った。


 「突然押しかけて本当に申し訳ございませんでした。あなたのお陰でこの地上に居る間は助かりました。このぬいぐるみ…大事にしますね」


 そう言うとイザナミは先程ゲームセンターで加江須に取ってもらったぬいぐるみを抱きしめる。

 

 「(なんで…なんでお前が俺に謝るんだよ。俺に礼を言うんだよ)」


 イザナミは自分に謝りそして礼を述べたが、ソレを言わなければならないのはむしろ自分の方のはずだ。もしも彼女が力を振るってくれなければ今頃自分は大切な恋人を失っていたのだ。

 そうだ、彼女は仁乃を助けるために力を振るってくれたのだ。それなのにどうして彼女が罰を受けなければならない。


 確かに規則と言うものは大切かもしれない。でも…でも人を助ける為に力を振るったイザナミは本当に責められる立場の存在なのだろうか? 


 「それじゃあ加江須さん、そして皆さん。今日はありがとうございました。」


 そう皆に礼を述べると彼女は背を向けヒノカミと共に神界へと続いているゲートをくぐろうとした。


 だがイザナミがゲートに足を踏み込もうとした直後――加江須が彼女の手を掴んで引き留めていた。


 「加江須…さん…?」


 「……どうしたんスか? 先輩の腕なんて掴んで……」


 気が付けば加江須はイザナミの腕を掴んで彼女を引き留めていた。

 それは完全に無意識の行動であった。気が付けば自分は彼女の手を掴み引き留めていた。


 「(……俺は何をしているんだ?)」


 イザナミが規則を破ったから自分の世界に戻るように迎えが来た。それを邪魔する資格なんて自分にあるはずが無い事は理解している。


 でも…それでもここで彼女を咎人として黙って見送る事は我慢できなかった。


 「……規則規則ってそんなにルールが大事か?」


 「はい?」


 加江須は小さな声でボソッと自分の想いを口にする。

 

 「さっきも言ったがイザナミのお陰で俺の大切な人が救われたんだ。そうさ、彼女は正しい事をしたはずだ。それなのに罰則なんてあんまりだろ」


 「加江須さん…」


 自分の手を引いてくれながら自分の事を庇ってくれる加江須にイザナミが彼の名を呼ぶ。元々は自分が押しかけて来たはずなのに、ここで黙って見送れば余計なトラブルに巻き込まれる事もないのに彼はヒノカミに自分の意見を真っ直ぐ伝えてくれる。

 

 「加江須さんって言ったスね? どんな理由であれ規則は規則っス。例外は認められないんスよ」


 そう言うとヒノカミは空いているイザナミの手を掴んでゲートをくぐろうとするが、そうはさせまいと加江須はイザナミを握っている手を強く握り自分の元へと彼女の身を引き寄せた。

 

 「きゃっ!! か…加江須さん」


 力強く抱き寄せられたイザナミは加江須の胸元へと頭を押し付ける事になる。

 目線を上に上げると真剣な顔の加江須の顔が瞳に映る。


 「(加江須さん…どうしてそこまで私のために…?)」


 こんな状況で不謹慎だとは自覚しているがこの時にイザナミは彼に対して心からの感謝をしていた。

 だがそれだけではなかった。自分の為にここまでしてくれる彼の優しさに無意識に他の感情も芽生えつつあったのだ。


 「ヒノカミ様、もしこのまま彼女を連れて行くと言うならお願いがあります」


 「……なんっスか?」


 加江須は一度瞼を閉じ、そしてゆっくりと降ろした瞼をもう一度上へと持ち上げてヒノカミの目を見ながらはっきりと言った。


 「俺も神界とやらに一緒に連れて行ってくれ。そこで彼女の行いは正しい行為であると訴えたい」


 加江須の口から出て来た言葉はこの場に居る全ての人間、そして二人の女神の頭を真っ白にするほどの衝撃的なものであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ