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イザナミが持つ真の力


 ゲームセンターの入り口から加江須たちは人が集まって来る前にその場を離れ、今は人気の無い路地裏へと移動をしていた。衣服に付いている血液も目立つが今はそれどころではない。

 周りの人間の目の無い場所まで移動を終えた頃、仁乃の体調には変化が訪れていた。


 「はあ…はあ…」

 

 少し汚れているが仁乃を地面の上へと仰向けに寝かせ楽な姿勢を取らせてあげる。

 皆は不安げな顔をしながら荒い呼吸で汗を大量に流してる仁乃の容体に焦りを募らせる。


 「お、おい仁乃の体調がドンドンと悪くなっているぞ。今この娘の体で何が起きているんだよ?」


 加江須は不安げな顔をしながらイザナミの事を見つめる。他の皆もどうすれば良いのか分からず助言を求めるようにイザナミへと視線を傾ける。

 イザナミは寝ている仁乃の腹部に手を当てて目をつぶり、彼女の体内を探ってみる。


 「……やはり彼女の体の内部にゲダツの気配を感じます」


 「くそッ!! どうすればいいんだ!!」


 改めて彼女から伝えられた事実に加江須は地面目掛けて思いっきり拳を叩きつけた。

 彼の拳が振り下ろされた地面は砕け、拳がアスファルトへと深々とめり込んだ。


 「ど、どうしたらいいんだよこういう時は? だってよ…ゲダツの本体は仁乃の腹ん中なんだろ」


 氷蓮がそう言って周りの人間を見るが誰も何も答えない、いや答えられないのだ。

 今までゲダツを余裕をもって退治して来た加江須であるが、今回ばかりはどう行動を取れば良いのか分からず苦しんでいた。今までは目の前の敵を倒すだけで良かったが、今回その敵は仁乃の体内に隠れているのだ。これでは手の出しようがない。


 一般人の体内へと潜入していたゲダツは内側からその少年の体を爆破し、そして今度は仁乃の口の中に気配を殺して潜り込んだのだ。


 精神的に追い込まれている加江須の事をさらに絶望へと突き落とすかのように仁乃の顔色が更に悪化していく。


 「ちょ、ちょっと不味いじゃん! 仁乃さんの容体がどんどんと悪く…」


 「うぐっ!? う…うぅ…」


 歯を食いしばりながら自分の胸元を掴んで必死に苦しみを耐えようとする仁乃。

 まさか先程の少年の様に仁乃も体の内側から破裂でもするのではないかと加江須が自分の頭を強く掻きむしる。

 

 「これは…仁乃さんの神力がゲダツを抑え込んでいるのでしょう」


 仁乃の様子を調べていたイザナミは今の仁乃の状態を簡単に説明した。


 「仁乃さんは転生戦士であるが故に大きな神力を体内に宿しています。先程に破裂した少年は彼女の様な大きな神力を持っていなかったがために体をコントロールされ内側から肉体を破壊されました。しかし彼女の場合は神力がゲダツの力を封じているので肉体を乗っ取られずに済んでいます」


 イザナミのその説明を聞いて少しだけ安心する加江須であるが、それでも慰め程度の安心感だ。今現在も彼女は自分の眼下で苦しんでいるのだ。


 「このままだと仁乃はどうなる?」


 「詳しくはわかりませんが恐らく…今はまだ神力で力を押さえ込まれているゲダツですが仁乃さんが衰退すれば神力も弱まります。そうなればさらに加速的に衰弱し…そして…」


 その先は何も言えずに思わず目を伏せてしまうイザナミ。

 悲痛なその姿を見るだけで仁乃がどうなるかを理解した加江須。


 「ちくしょう!! コソコソと仁乃の中に隠れやがって!! 人の体内に潜んでないで出てきやがれ!!」

 

 「その通りだぜクソゲダツがッ!! てめぇは人間を喰う側だろうが!! それが人の腹の中に入いってどうなんだよコラァッ!!」


 手を出すことが出来ない加江須と氷蓮はせめて大声で仁乃の腹の中に入るゲダツへと叫んだが、そんな事をしても状況は何も好転などしない。自らの力足らずに手も足も出ない状態で仁乃の事を放置するしかなく、黄美と愛理も自分たちには何も出来ない無力感から涙を流している。

 

 「うう…どうしたら…どうしたらいいの?」


 「黄美…うっ、うわぁぁぁん!!」


 嗚咽を零す黄美の姿に堪え切れなくなった愛理はとうとう大声で泣きじゃくり始める。 


 「ぐ…ちくしょうめ。わりぃ仁乃…俺もどうすりゃいいのか分からねぇよ」


 二人に続いて今までゲダツに向かって怒鳴っていた氷蓮も眼の端に涙が溜まり出す。

 当然、加江須も唇を震わせて瞳が潤み始める。しかし彼は涙をこらえて彼女を救う方法を考え続ける。


 「(でもどうすれば良いんだよ? 倒すべき敵が大切な人の腹の中にいるなんて…どう倒せと言うんだよ?)」


 しかし考えれば考える程に手の施しようがないと言う現実を突きつけられる。何が転生戦士だ、こんな時に身に持っている力が何一つ役に立たなければ転生戦士などと偉そうな肩書に意味などない。

 

 「(頼むよ神様。どうか…どうか彼女を死なせないでくれよ…大切なんだよ…)」


 もう自分にはどうする手立てもないと悟った加江須はとうとう神頼みをする始末。それほどまでに彼も切羽詰まっていたのだ。


 そして、そんな彼の願いを救い上げようと決意した女神がこの場に居た。


 「……この方法しかありませんね」


 皆が嘆きの渦に飲み込まれている中、イザナミは何かを決意したかのような強い瞳で仁乃の事を見つめた。

 先程までは自分たちと同じ無力感に苛まれていた彼女の突如の強い顔に加江須が声を掛ける。


 「…どうしたイザナミ?」


 今まで打つ手がないと思っていた加江須であるが、イザナミにはどうやらまだ方法が残されている様だった。

 彼女は自分の腕に巻いてあるミサンガを掴むと、ソレを力づくで引き千切ったのだ。


 「え…お前ソレは…」


 イザナミが地面へと捨てたミサンガを見て加江須は思わず言葉を詰まらせる。

 あのミサンガはイザナミの持つ強大な神力を封じ込めるための枷だったはずだ。


 イザナミが一呼吸した直後、彼女の体が黄金色に光り輝きだす。


 「なっ! これは!!」


 まともに直視することが出来ない程の輝きに圧倒され目元を手で隠す加江須。それは彼だけでなく他の皆も彼女の眩さにまともにイザナミの姿を直視できずにいた。

 だが加江須と氷蓮はただ眩い光だけに圧倒された訳ではない。


 彼女の全身から放たれる凄まじい神力に圧倒されたからだ。


 「(な、何だよこの出鱈目な力はよッ!? これがあのナヨナヨしていたイザナミかよ!!)」


 「(こ、この力…これが神の持つ本来の力かよ!!)」


 イザナミの神力は氷蓮はおろか、加江須ですらも比較にならない程に強大であった。しかしその強大な力は決して恐怖は感じはしなかった。むしろイザナミの放つ力は温かく、今まで仁乃の事で焦っていた加江須と氷蓮は安心感すら胸に抱いていた。それは転生戦士ではない黄美と愛理も同じであった。彼女たちは転生戦士ではないから神力を感知できないが、それでも安心感は胸に抱けた。


 「仁乃さん今助けます。もう少し堪えてください」


 イザナミは信じられない程に落ち着いた口調で今も苦しんでいる彼女にそう語りかけると、そのまま彼女の腹部にゆっくりと手を置いた。


 「さあ…彼女から出て行きなさい」


 その一言と共に仁乃の体はイザナミと同様に光り輝き出した。


 「う…ん……」


 仁乃の体が光ると同時に彼女は口を開き、口の中から何やら黒い靄の様な物が天へと向かって吐き出される。そうして彼女が靄を吐き出し終わると容体の方も変化が現れる。

 今までは胸を押さえて脂汗を掻きながらもがき苦しんでいた仁乃であったが、イザナミの処置が終わると苦しむ事もなくなり楽な表情へと変わる。

 

 「……終わりましたよ皆さん。ゲダツは浄化しました」


 イザナミは落ち着き払った声で周りで不安がっていた加江須たちを安心させるかのように優しくもう大丈夫だと告げる。

 しばし呆然としていた加江須たちであるが、すぐに我に返ると皆は一斉に仁乃の元へと集まり彼女の様子を窺った。


 「すー…すー…」


 イザナミの処置が終わった仁乃は穏やかな寝息を立てており、その姿に安堵した皆は思わず声を出して喜んだ。


 「やったぁッ!! 仁乃さん助かったんだよ黄美ぃ!!」


 「うん…うん…!」


 二人して涙を流しながら抱きしめ合って喜び合う黄美と愛理。

 

 「たくっ…不安にさせてんじゃねぇぞこの乳お化けがよ」


 そんな罵声を口にしながらも氷蓮も心底ホッとしたのだろう。自分の目元をゴシゴシとこすりながら笑っていた。


 そして加江須は……言葉を出す余裕も無いほどに泣きながら喜んでいた。


 「う…うぐっ…うおおお……」


 嗚咽だけが口から漏れ出て行き、『良かった』、『助けてくれてありがとう』などの仁乃に対する安堵の言葉もイザナミに対する感謝の言葉も思うように出てこない。

 それからしばしの間この場に居る加江須たちは涙を流して喜んでいた。


 こうして数分間のあいだ路地裏では4人の嗚咽が響き渡ったのであった。


 「ぐすっ…ありがとなイザナミ。本当に…ありがとう」


 ようやく礼を述べれるまでに落ち着きを取り戻した加江須。

 そんな彼に対してイザナミは手を振って礼なんて必要ないと言ってくれた。


 「私も加江須さんには助けてもらいましたし、それに今日だって皆さんのお陰で楽しく過ごせました。だからお礼なんてよしてください」


 「ああそうか。でもお前…大丈夫なのか?」


 加江須はイザナミのすぐ近くに千切られて捨てられているミサンガを見つめている。

 彼が何を言いたいのか理解できたイザナミは困り顔で笑った。


 「気にしないでください。こうして力を解放しなければ仁乃さんが死んでいたかもしれないんですから。後悔は一切ありません」


 そう、イザナミがこの地上に降り立っていられたのは自らの力をあのミサンガで封じていたからだ。

 神が力を地上で振舞ってはいけない。その為の枷を彼女は自分の意思で取り外してしまったのだ。


 「とりあえず今は仁乃さんを別の場所に移しましょう。こんなゴツゴツとした地面に置いておくわけにもいきませんから」


 「そうだな…とりあえず仁乃の事を『ちょーと待った!』…!?」


 いきなり背後から聴こえてきた声に驚いて振り返る加江須とイザナミ。

 そこには煌びやかな艶のある黒い長髪の女性が宙の上で立っており、眼下の加江須たちを見下ろしていた。


 「なーにやってんスかイザナミ先輩。この地上で女神の力をぶっちぎりで使っちゃうなんてご法度っスよ」



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