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押しかけて来る恋人たち 「事情説明してよね!」

 

 イザナミをしばし家に置く事にしてから翌日の朝、学生である彼は今もまだ夏休み中なので自宅で大人しくして惰眠を貪っていた。昨日の戦闘もあって体にも少し疲労が残っているので布団にもぐり込んで寝ている。

 だが彼の部屋の扉が開き、布団の上から声が掛けられた。


 「お、起きてください。もう朝ですよぉ」


 「う~ん、うるさいよ母さん。夏休みなんだからもう少し寝かせて」


 半ボケの状態でそう言って更に布団の中へと潜って行った。

 そうしてまた睡魔に襲われ始めるのだが、そんな彼を現実世界に引き戻そうと布団の上から体を揺さぶられる。


 「だ、だめですよぉ。あまり不摂生な生活は。それに私はお母さんではありません」


 「んん?」


 耳を澄ませてみると自分を起こそうとする声が何やら聞き覚えの無い声だったのだ。

 少し驚き気味に布団をめくるとそこにはイザナミが立っていた。


 「イ、イザナミ? 何でこの家に…あ…」


 そうだ、そう言えばそうだった。昨日に彼女が両親からの縁談を進める話に嫌気がさしてウチに転がり込んできたのだった。よくよく考えれば両親は仕事に出かけている筈だ。社会人である両親には学生の様な長期夏休みなんてないのだから。


 「朝ごはん出来てますので居間の方まで来てください」


 そう言うとエプロン姿の彼女はそのまま部屋を出て行く。

 その後姿を見て加江須はしみじみとこう思った。


 「本当に神様らしくないよなぁ」


 さっきのお玉を片手にエプロンを付けている姿は人間の新妻の様に見えて仕方がなかった。


 「ハッ!! 何を考えているんだ俺は!!」


 自分が無意識に変な事を考えていると自覚した彼は自身の頭に拳骨を一つ落としてやった。


 「俺には愛する恋人が4人も居るんだ…あっ、待てよ…」


 ここで加江須は現在の自分の状況が少し不味いのではないかと今更ながらに気付く。

 恋人たちがいながら同じ屋根の下で別の女性と生活をしているなど一歩間違えれば浮気だと思われかねない。

 もしも、もしもである。今の状況を一切説明せずに恋人の誰かがこの現状を見たとしたら――


 ――『カエちゃん? 私と言う恋人がいるのに…説明シテヨ?』


 ――『ふ~ん…細切れになる覚悟は出来ているわよねぇ?』


 ――『はは…加江須君は私にはもう興味がないのかな? あはは…』


 ――『ほーう? 俺様がいながらいい度胸だぜ。氷漬けにされても文句ねぇよなぁ?』


 加江須の頭の中では目にどす黒い怒りの炎を灯して恐ろしい笑みを浮かべる恋人たちをの姿が映った。


 「……とりあえず事情を説明した方がいいな」


 変な誤解をされぬように加江須は一瞬で覚醒し、机の上に置いてあるスマホを手に取った。今の時間帯は寝坊助の自分と違って他の4人はもう起床しているだろう。そう思うと彼はまず最初に仁乃へと電話を掛けたのであった。




 ◆◆◆




 自分の恋人たちにメールで今の状況を伝えておいた。その後はイザナミに用意された朝食を食べていた。


 「(あ…ウマいじゃん…)」


 テーブルの上に用意してあった朝食は自分の母に負けず美味であった。特にみそ汁は何か隠し味でもあるのか母の作る物とは違い少し味が深かった。

 

 「ど、どうでしょうか?」


 自分の作ったみそ汁を飲んでいるとイザナミが味の評価を尋ねて来る。

 彼女の性格から考えれば味見をしてから出しているのだろうが人の味覚はそれぞれだ。もしかして口に合わなかったんじゃないかと不安げに見つめている。


 「ああ美味いよ。そんな心配そうに見てこなくても…」


 加江須にそう褒められると、ぱあっと花の咲いたような笑みを浮かべた。

 いちいち些細な事柄でもこうして表情を変えると本当に彼女がただの人間の女性だと錯覚しそうになる。


 「しかし何も朝食なんて用意しなくてもいいんだぞ。休みの朝は基本的には飯を食わない事も多いしなぁ」


 白米を口に入れながらそう言うがイザナミは首を横に振る。


 「いえいえ、置いてもらえている訳ですからこのくらいは。それに朝はしっかり食べた方が良いですよ」


 「(なんか…本当に母親みたいな事を言うなぁ)」


 しかし実際には自分なんぞが歯が立たない程の力を彼女は秘めているの。だが正確には今現在、イザナミは自身の本来兼ね備えている力を100分の1も使えないのだ。


 以前、彼女がこの現世へと赴いた際に説明してくれたが神がその力を振るってしまえば人間の成長が望めないとの事で特例でもない限りは神は現世に降り立つ事は許されない。しかし昨日に加江須はイザナミから新たな事実を聞かされたのだ。

 どうやら今回のイザナミの様に現世に降り立っている神は何人か居るらしいのだ。ただ神は地上に降りる事は禁止とされている。だから神々は任務を与えられてもいないのに地上に降り立つ際には人間として降り立っているのだ。

 人間が神に成る神話がいくつも存在するが、その逆に神が人間と成る事も可能らしいのだ。


 「(イザナミの居る神界とやらには便利な道具が色々とあるんだな)」


 食べ終わった食器を洗っている彼女の腕にはミサンガが巻かれており、そのミサンガには神力を極限まで封じ込める力が付与されているらしいのだ。

 彼女の付けているミサンガはイザナミの膨大な神力を封じ込め、今の彼女は転生戦士と同程度の強さしか発揮できないのだ。このように神の持つ力を最大限まで封じ込める事で地上に降りる事が許されるらしいのだ。


 「(イザナミの話では彼女以外にも知り合いの女神が同じ方法でこっそり地上に降りているらしいし…)」


 しかもどうやらその女神は地上に遊び目的で降りているらしいのだ。とんだ不良女神が居たもんだ。


 そんな事を漠然と考えていると家のチャイムが鳴った。


 「あれ、お客さんですかね?」


 イザナミが洗って吹き終わった食器を片して玄関の方に視線を向ける。

 

 「ああいいよ、俺が出るから」


 そう言って座り込んでいた体を浮かして玄関へと向かう加江須。

 と言うより、ここでイザナミに出迎えさせて変な誤解でもされたら困る。まあ彼女の能力でイザナミは遠縁の親戚とはなっているが。


 玄関まで足を運ぶと未だにチャイムが鳴らされ続けている。


 「(おいおい、いくらなんでも鳴らし過ぎだろ。まさか変な押し売りとかじゃねぇだろうな?)」


 もしもセールスの類ならすぐに追い返してやろうと考えながら扉を開くとそこには――


 「出て来たわね加江須! また神様が来たってどういう事!?」


 「そうだよカエちゃん! それに同じ屋根の下でもう一度過ごすなんて!!」


 扉を開けた瞬間、二人の少女がなだれ込むかのように玄関に上がり加江須に詰め寄って来た。

 

 「に、仁乃に黄美。まさかメールを読んですぐに来るとは…」


 イザナミの事をメールで送信した際に何か言われる覚悟はしていたのだが、誰一人として返信をしてこなかったので少し加江須も違和感は感じていたのだが、まさかメールを見てすぐに自宅まで押しかけて来るとは思わなかった。よく見ると二人の後ろには更に二人、氷蓮と愛理の姿も確認できた。


 「(俺の彼女たちは行動力が凄いな)」


 そんな事を呑気に考えていると仁乃が加江須の胸元を掴んで前後にガクガクと揺らして早速事情を聞き出そうとする。


 「何で一度帰ったはずの神様がまたあんたの家に来るのよ! ま、まさか以前同居した際に浮気でもしたんじゃ!!」


 「そんなぁ!! ひどいよカエちゃん!!」


 仁乃の浮気と言う単語に反応して黄美も一緒に加江須の体を激しく揺さぶって来た。


 「ち、違う! メールでも書いていただろ!! 家庭の事情から逃げてウチに来ただけだって!!」


 メールでちゃんとイザナミがこの家に居る理由も添えて書いておいたのだが納得できずに4人は彼の家に向かって直接話を聞こうと言う考えに至ったのだ。4人が同じ考えで動き、加江須の家の前で鉢合わせした時は少し驚きはしたが、逆に全員で問い詰めてやろうと考えて乗り込んだのだ。

 特に仁乃と黄美は本当に浮気したのではないかとかなり焦りながら真相を聞き出そうとする。それに対してまだ冷静さのある氷蓮と愛理はそれぞれ半暴走状態の二人を宥める。


 「たくっ、少し落ち着きやがれよ。加江須のヤツが浮気なんてする男かよ」


 「そうだよ黄美。一応メールでは事情も説明していた事だし、ここは落ち着いて」


 何とか騒いでいた仁乃と黄美を宥めた後、愛理は加江須の方に顔を向けるとにっこりと笑った。


 「まあでも…一応は加江須君の口から話を聞かせてくれる?」


 そう言う愛理の顔を見て加江須は一瞬だがぶるっと体が震えた。

 仁乃や黄美の様な目に見えた怒りは感じられないが、逆に背中に氷でも入れられたかのような寒気が走ったのだ。この時に加江須は氷蓮の操る氷の力以上の冷たさを愛理から感じ取っていた。


 そんな修羅場になりけているところへ更なる爆弾が歩いてやって来た。


 「あの~加江須さん。一体だれが来たんですか?」


 玄関から聴こえて来る複数人の喧騒に流石に気になってイザナミがやって来たのだ。

 

 「(あ…まだ整理の付いてない状態であんたが来たら…)」


 ここでイザナミの登場は益々場が混沌としそうだと思う加江須であるが時すでに遅し。そんな事を考えているがもう本人がこの場に居合わせてしまっているのだから。


 「貴女がイザナミさんですか? ちょっとお話聞かせてくれますか? 加江須君との事で色々とお聞きしたいんですよぉ」


 その中で一番最初にイザナミに声を掛けたのは意外にも愛理であった。

 しかし今の眼がまるで笑っていない愛理は凄まじい迫力であり、その迫力には加江須だけでなくイザナミも思わず涙目で震え上がってしまうのであった。

 いくら神力を封じているからとは言え、何の力もない一般人にも関わらず神を威圧するその精神は大したものであった。 


 こうして加江須の送信したメールから1時間余りで恋人たちは彼氏の家へと訪れ、そのまま4人は彼の自宅へと上がって行くのであった。



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