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女神さまの家出


 空きビルでの戦いは少し後味の悪い形で結末を迎えたのであった。

 主犯であるサーバントは加江須の手で無事に退治されたのであったのだが、その仲間である半ゲダツの方は加江須たちの知らぬところでいつの間にか殺害されていた。しかしその犯人が誰なのかはビルに落ちていたドクロの紙で理解できた。

 その後、加江須たちとディザイアたちはそのまま別れた。このまま返してもいいものか少し悩んだ加江須たちであったが、彼女の情報のお陰で仁乃と氷蓮を助ける事ができたのだ。結局はそのまま別れる事となったのだ。去り際にディザイアには願いを叶える際にはと釘を刺されたが。


 兎にも角にも目的である二人の救出は成功したので胸をなでおろす事ができた。


 もう夜遅くという事もあって氷蓮はともかく仁乃は家族から色々と説教が待っているだろう。別段彼女は夜遊びをしていたわけではないのだがゲダツの事を話す訳にもいかない。しかし仁乃は親に軽く怒られるだけなら大丈夫だからと気にしなくてもいいと言った。


 「はあ…疲れたなぁ…」


 加江須はもう夜遅くの道を歩きながら溜息を吐いていた。

 自分は一応親には用事で出かける事を話していたので帰っても咎められることはないだろう。そう考えると仁乃が少し不憫であった。


 「仁乃だってゲダツを倒すために戦っていたのに親に色々言われるのは少しかわいそうだよなぁ…」


 とは言え真実を話すわけにもいかないので歯痒い思いをしながら帰路に就く。

 道中では特に何事も起きず、無事に家まで辿り着くことが出来た。


 「ただいまぁ~…」


 玄関を空けながら家に居るであろう両親に帰宅を伝えると何やら家の中が騒がしかった。

 ふと玄関に並んでいる靴を見てみると自分や両親とは異なる靴が置いてあった。見た感じでは女性物の靴のようだが……。


 「……あれ?」


 ふとその靴を見ていると妙な感覚になった。

 こんな若い女性が履く靴なんて家にはない筈だ。母さんの趣味にもあっていない。しかしこの靴にはどこか見覚えがある加江須であった。


 「……あッ!」


 この靴をどこで見たのかはっきり思い出した加江須。

 そう、この靴は以前この家で見た覚えがあるのだ。そう、あれはどこぞの女神様が家に押しかけてきた際に履いていた靴だ。

 加江須は乱雑に自分の履いている靴を脱ぐとすぐに騒がしい居間の方へとダッシュで向かう。


 「おお、お帰り加江須」


 居間に入るとそこには楽し気に笑っている父と母、そして――加江須を見て苦笑いをしているイザナミが居たのだった。




 ◆◆◆




 「それで…これはどういう訳だ?」


 加江須は居間で両親と話していたイザナミを自分の部屋へと連れ込むと事情を尋ねた。まさか家に帰ると神様が居座っているとは思わなかった。

 加江須に部屋へと連れられたイザナミは自分から床に正座をし、申し訳なさそうな顔をしてチラチラと加江須の顔色を窺っていた。


 「す、すいません。夜分遅くの突然の訪問、我ながら迷惑をかけた事を自覚してはいるのです」


 そう言う彼女は瞳を潤ませてペコリと頭を下げた。

 

 「(はぁ…そんな顔されたら強く切り出せないじゃないか)」


 相変わらず神様とは思えない雰囲気のイザナミ。彼女とは数度対面しているが顔を合わせるたびに自分に謝っている気がする。

 未だに瞳をウルウルとさせているイザナミを見て少し疲れた様に溜息を零す加江須。


 「とりあえず頭を上げてくれるか? 確かに急にウチに来た事は驚きはしたが別に怒っている訳じゃないからさ。ただ理由位は教えてくれ」


 「は、はい。実はですね…」


 加江須に言われてようやく下げていた頭を上げるイザナミであったが、しかしそこからモジモジとし始めて言葉を紡ごうとしない。自分の指をツンツンとしながらモゴモゴとしている。

 目の前でそんな彼女を見ていると神様がモジモジするなよ、とでも言いたいところではある彼女の場合はそう言うセリフを言われればまた涙交じりに平謝りしそうなので我慢する。

 

 そんなもどかしい思いを我慢して待ち続けて約3分、ようやく彼女が先の言葉を口にし始めた。

 

 「じ…実は私、神界から逃げて来たんです」


 「に、逃げて来たぁ?」


 予想外の発言に思わず素っ頓狂な声で聞き返してしまう加江須。

 てっきり何か自分の伝えなければならない現世での出来事でも報告に来たのかと思えば、まさかの逃亡宣言が出たのだ。


 「に、逃げて来たって何があったんだよ? その…神界? とやらで問題でも発生したのか?」


 「いえ…それが…」


 もしかして神々の世界でも何か異常でも起きているのかと思った加江須であったが、彼女はどこかバツの悪そうな顔で更に細かく話し始める。


 「逃げた理由はその…恥ずかしい話ですがとても個人的な理由と言いますか…。で、でも我慢できなかったんです」


 「……何があったんだ? 個人的な理由と言うのも気になる言い方だが」


 加江須が事情を尋ねるとイザナミはぶあっと目元から涙を零して加江須に詰め寄って来た。

 

 「お見合いですよお見合い!! 私の両親がしつこく縁談を進めて来るんですよぉぉぉぉ!!!」


 両手をブンブンと上下に高速で振りながら騒ぎ立てるイザナミ。

 そんな号泣して訳を話す彼女に対し加江須は固まっていた。


 「ちょ…ちょっと待て。ごめん…少し整理させてくれ」


 加江須はそう言いながら額を指で押さえて必死に情報を纏めようとする。

 

 ………え~っと…つまり目の前の女神様は両親からお見合いをしつこく勧められ続け嫌気がさして逃げて来たって事か? ………いやいやいや、まとめてみたが分からん!? まずコイツ、そもそも親なんて存在が居たのか? 神様に親も子もない気が…それに神様同士で結婚なんてあるのか!?


 そんな事を考えている加江須であるが、彼は知らないだろうが神と人とが婚姻を行って子を儲ける〝神婚説話〟と呼ばれる神話もある。そう考えれば神同士の婚約もありえない事ではないのかもしれない。


 くだらないと言う意味で予想を超えた理由に少し頭痛を憶える加江須であるが、とりあえずもう少し話を聞いてみようと思い再び前を向いた。

 

 「えーっと…じゃああんたは望んでもない結婚に嫌気がさして逃げて来たと?」

 

 「そうです!! お父さんもお母さんも勝手すぎますよ!! 孫の顔が見たいだの、いつまでも独り身でいるつもりだの!! 私は好きでもない人と結婚なんて絶対にごめんです!!」


 目元に涙を浮かべて頬を膨らませるイザナミ。

 そんな騒ぎ立てている彼女の膨らんだ頬に両手を当てる加江須。


 「ふぇ? か、加江須さん? な、何を…」


 突然優しく両頬に手の平を添えられて赤面するイザナミ。


 そんな恥ずかしがっている彼女の柔らかな頬を加江須は無言で思いっきり左右に引っ張った。


 「いひぃ~っ!? は、はにをふるんでふか!?」


 「何をするってそれは俺のセリフだ!! なんでお前の家庭内事情に俺が巻き込まれにゃならんだ!! どんな理由でウチに来たかと思えば……見合いが嫌で逃げて来たってアホか!?」


 まるで餅のようににゅーんと伸びるイザナミの頬。

 

 「まっ、まってくらはい! 女の子にとって生涯のパートナー選びは重要なんれすよ!! 写真だけ見せられてもそのまま結婚を考えてお会いするなんて私には無理です!!」


 「いやだから何で俺の家に来るの!? 嫌なら嫌と親御さんに言えばいいだろ。わざわざ下界にまで降りて来る事か?」


 引っ張り続けていた頬から手を離してビシッと指を突き付ける加江須。

 そんな加江須の言葉に対して彼女は頬を擦りながら答える。


 「わ、私もまだ結婚は早いって言いましたよぉ。でも…でもそう言っても次のお見合い写真をすぐに持ってくるんです。お父さんもお母さんも私の将来を考えているからハッキリ言いづらくてぇ」


 そう言いながらクシャッと顔を歪めるイザナミ。


 それにしても雲の上の存在と思っていた神様間では下界でありがちな事も起きているとは冷静に考えると意外だった。確かに目の前の女性はいつも神様らしくないとは考えてはいたけれども……。


 そんな事を考えている間にもイザナミは自らの心情を吐露し続ける。


 「私だって選ぶ権利はあります。それなにの…それなのに…」


 とても神様が口にする悩みではないと思うのだが、自分の意思を尊重してくれない事に関しては少し気の毒に思えた。


 「分かった分かった。とりあえず事情はもう理解したよ。でも何で俺の家に来たんだ?」


 「そ…それは…」


 今までブツブツと不満を垂れ流していたイザナミであるが、ここでまたバツの悪そうな表情へと戻る。しかも加江須の事を上目遣いで見て来て、その捨てられた子犬の様な表情で理解した。


 「行く当てがなかったか…」


 「…はい」


 まさにその通りなので素直に頷くしか出来ない女神。

 神界、すなわちイザナミの居る世界ではどこに逃げようともすぐに見つかるだろう。そう思って下界まで彼女は足を延ばして逃げて来たのだ。かつて彼女はこの加江須の家で遠縁の親戚としてしばし置いてもらった事もあり、今回も申し訳なく思いながらも加江須の両親に催眠を掛けて親戚として見てもらっているのだ。


 「お、お願いします加江須さん。少しの間でいいのでこの家に置いていただけないでしょうか」


 そう言いながらイザナミはウルウルと瞳を濡らしながら加江須の脚にしがみついてきた。

 本当であれば今すぐ帰れ、とでも言いたいところなのだが……。


 「加江須さぁ~ん…」

 

 「う…そ、その顔ヤメロよ…」


 今ここで彼女を突き返すと何だか自分が悪いように思えて仕方がない。相手が不遜な態度でもとって入ればまだ容赦もしなくて済むが、こんな飼い主に捨てられそうな子犬の様な顔をしている女性を追い出すと言うのは流石に気が引けた。


 その結果、彼の口から出た返答は……。


 「す…少しの間なら泊めてやるよ」


 そんな勢いに押された情けの無い返答をするのであった。

 

 こうして転生戦士と女神の同居生活が始まるのであった。



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