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空きビルでの戦闘 九尾の圧倒的な殲滅力


 夜の空きビルの屋上では二つの力がグングンと上昇していた。

 加江須とサーバント、両者から放出されている力が風を巻き上げる。屋上のフェンスはまるで恐怖しているかのようにガタガタと激しく揺れる。

 二人が力を高めあいながら対面していると、サーバントが加江須の姿を見て小さく笑った。


 「しかし変身まで持っているとはなぁ。これじゃあどっちが化け物か分からないな」


 加江須とサーバントは両者とも力は上昇しているが、容姿が変貌しているのは加江須の方だけだ。その九尾の姿は確かに普通の人間とはかけ離れているだろう。だが加江須はそんな自分を馬鹿にするサーバントの言葉に対してこう返した。


 「化け物と言うのは否定しないさ。でもそれは容姿がじゃない……俺の大事なものを傷つけてくれた事に対する俺の怒りの心の方だ。てめぇを八つ裂きにしてやりてぇと人間離れした悍ましい考えが胸の内にこべりついて剥がれねぇ……」


 「ハッ、そりゃ怖いな。だがそんなお前の怒りの拳で繰り出した攻撃はもう俺の肉体にはあざすら残ってないがなぁ」


 サーバントの言う通り、変身前まで加江須は彼に対してかなりの攻撃をぶつけていたにもかかわらず瞬時に傷は再生されており、今の彼は無傷の状態だ。

 だがそんな現状に加江須は取り立てて焦りは見せない。それどころか彼は少し嬉しそうに笑った。


 「……何がおかしいんだよ。ああん?」


 自分の方が優位であると思っているサーバントだったが、不敵な笑みを浮かべる加江須に気に入らず不機嫌そうに顔を歪める。

 そんな彼に対して加江須はハッと笑い捨てて言ってやった。


 「悪い悪い嬉しくてなぁ。許せないてめぇを何度でも殴れると思うと都合のいいサンドバッグだと思えてなぁ」


 「調子に乗ってんなぁ。なら…これでも同じ事が言えんのかよ!!」


 サーバントが叫ぶと同時に彼の体からは黒い煙の塊の様な物が屋上の四方八方へと散って行き、そのモヤの様な塊はどんどん人の姿を型取って行き、そしてその煙の塊たちはサーバントと同じ姿に変身した。


 「これは…分身か? 再生能力以外にもこんな事も出来たのか」


 「ばーか、再生能力なんてゲダツの中には通常能力として保有しているタイプは大勢いるんだよ。俺にとっては再生なんてエネルギーも全く消費しない呼吸の様なもんだ」


 サーバントが舌を出して馬鹿にしていると、背後の方に現れていた分身の4体が加江須へと襲い掛かってくる。しかし加江須はその不意打ちを避け、逆に蹴りで全て撃退した。

 蹴り飛ばされた分身達は攻撃が当たった瞬間に元の煙へと戻るが、次の瞬間にはまた元のサーバントと同じ姿へと戻っていた。


 「無駄だぜ。コイツ等は強い攻撃を受ければモヤになるが、またすぐに再生を果たす。永遠に倒れる事のない分身達だ」


 この半ば不死身に近い分身こそがサーバントの持つ特殊能力である。この能力は過去にサーバントが喰らってやった転生戦士の能力を引き継いだものだ。

 

 「さて…さぁどうする久利加江須? この圧倒的な物量をさばききれるかな!!」


 サーバントが腕を振るうと加江須を中心に四方八方から分身達が襲い掛かってくる。

 圧倒的な兵力で押しつぶして終わらせようと考えていたサーバントであるが、彼は1つだけ読み違いをしていたのだ。


 サーバントの読み違えていた事、それは両者の隠していた力量差であった。


 「……遅いな」


 加江須がそうボソッと呟いたと同時であった。


 ――加江須の周りに居たサーバントの分身達が一斉にバラバラに切り裂かれたのだ。


 「………あ?」


 自分の視界に映る光景が理解できずにサーバントの口からは間抜けな声が漏れた。

 加江須の元へと分身達が群がって攻撃を繰り出そうとしていた所までは見えていた。だが分身が攻撃を繰り出す直前、突如として分身達が解体されたのだ。


 「な、何が起きた?」

 

 分身が突如としてバラバラとなった不可解な現象に思わず一歩あとずさりしてしまうサーバント。

 そんな彼に対して加江須は少し拍子抜けした様な顔をしながら何が起きたのかを説明した。


 「どうやら俺の尻尾の動きを捉えることが出来なかったみたいだな。何が起きたか分からないって顔をしているのがいい証拠だ」


 そう、分身達がバラバラとなったのは九尾に変身して生えた尻尾で切り裂いたからだ。しかしその尻尾の動きが余りの速度でサーバントは動きを捉えられなかったのだ。

 尻尾の1本をサーバントに突き付けて冷めた目を向ける加江須。


 「どうやら隠していた力の大きさに随分と差があったみたいだな。まさか尻尾の動きすら見切れないとは」


 「ぐっ…舐めやがって」


 自分に向かって突き出している尻尾の毛先がユラユラと動いている。あんな毛の塊に自分の分身がバラバラにされた事には驚いたが、しかし彼の分身は五体を切り裂かれてもすぐに再生する。

 加江須が倒した分身達はモヤとなってそれぞれ集合し、そしてまたサーバントと同じ容姿の分身体に戻った。

 

 「俺の分身は不死身だって言ったろ。お前がどれだけ9本の尻尾で切り裂こうが潰そうが意味ねぇぜ!!」


 そう言うと再び分身達は加江須へと一気に迫って行く。しかも今度は本体であるサーバント自身も加江須へと一気に向かって行く。

 先ほど同様に尻尾で分身を蹴散らそうと考える加江須であるが、彼が尻尾を分身達に当てるよりも早くサーバントが先手を打つ。


 「させるかよ! 分身達よ、その肉体を解体し元のモヤの状態へと戻れ!!」


 サーバントが分身達に命令を下すと分身は一斉に黒い煙の様な塊に戻り、さらにそのモヤは拡散して加江須の周囲を完全に闇で覆う。

 

 「(視界を殺してソレに乗じて…か。本当にセコイゲダツだな)」


 加江須は尻尾を思いっきり振り回し自分の周りのモヤを一瞬で散らした。しかし一瞬の間とは言えサーバントの姿を見失っており、モヤを散らしたときには彼の姿が見当たらなかった。


 「どこ見てるんだよ間抜け、こっちだぜ!!」


 頭上からサーバントの声が聴こえてきて上を向くと、そこには両掌をこちらへ向けて構えている彼の姿が在った。どうやら煙幕に紛れて上空へと移動していたようだ。

 上空から突き向けられていた手の平からどす黒いエネルギー砲の様な光が加江須目掛けて発射された。


 「……」


 上空から降り注いできた黒い光を加江須は無言で見つめ、そして加江須の体は光に飲み込まれてしまった。


 「ハッ、直撃だぜ!!」


 加江須に攻撃が当たった事を確信してサーバントはしてやったりと笑みを浮かべる。

 上空から再び屋上の地に着地したサーバントは自身の放った攻撃で煙に紛れている加江須を見つめる。しかし煙が晴れるとそこには無傷の加江須が立っていた。


 「なっ、無傷だと!?」


 よく見ると加江須の9つの内の4本の尻尾が傘の様に加江須の頭部を守っていた。どうやらサーバントの光線は尻尾で守っていたようだ。しかしサーバントは目を凝らすと防御に使った尻尾は特に火傷などの後もなく、ここからでもフサフサの尻尾の毛並みがよく分った。

 加江須は盾として使った尻尾を撫でながら哀れな者を見るかのような悲哀の目を向ける。

 

 「偉そうな事を吠えていてもこんなもんか…」


 加江須はあくまで独り言のつもりで呟いたつもりであったが、サーバントの耳にはバッチリと届いており彼は唇を噛んだ。


 「舐めんな!! この餓鬼がぁ!!」


 そう激昂してサーベントは再び大量の分身体を出現させる。しかも今度は先程の倍近くの数を出現させたのだ。そして怒りに任せた物量で押しつぶそうと分身達を動かそうとする。


 「行け分身共!! このクソ狐を――」


 サーベントが『このクソ狐をなぶり殺せ!』と言い切る前に加江須は既に動き出していた。


 彼はサーバントが分身に命令を出した瞬間には9つの尻尾を動かしており、9つの尻尾は鞭のようにしなって分身共の身体を切り裂いてゆく。しかも尻尾には炎を纏わせ切り裂かれた分身共はそのまま燃やされる。ここまでの作業を終えてもまだサーバントはセリフを言い切っておらず、加江須は分身を殲滅し終えると一気にサーバント目掛けて地面を蹴って眼前まで近づいた。


 ――ここまでの一連の流れを加江須が終えた後、ようやくサーバントは『――なぶり殺せ!』と言い終わっており、セリフを言い終わった直後にすでに分身が殲滅され更には目の前に加江須が迫っており表情が凍り――その一呼吸後に灼熱の痛みが体を貫いた。


 「がッ…ぶはッ! て…テメェ…うげ……」


 加江須は抜き手の要領でサーバントの心臓部を貫いていた。もしもこれが普通の人間、もしくは転生戦士ならば死に至っていたのだろうが相手はゲダツ。外見が人間同然でも彼はまだ生きており貫かれながらも両手に力を籠めて加江須の尻尾を掴む。そのまま引きちぎってやろうと力を籠めるがそれは叶わなかった。


 「触んじゃねぇよクズ野郎。てめぇの薄汚れた根性が染み出て俺の尻尾が汚れるじゃねぇか」


 サーバントが掴んでいる尻尾の数の数は両手にそれぞれ1本ずつ、その倍以上の数の残りの7本の尻尾が彼の腕を細切れにした。

 更に加江須はサーバントを貫いている腕から炎を一気に燃え上がらせた。


 「ボハッ!? ゴホゴホッ!!」


 加江須がサーバントの肉体に埋まっている腕を燃え上がらせると彼の全身から炎と煙が吐き出され、ソレに咥えて大量の血がコンクリートに飛び散った。

 

 「……」


 ずるりとサーバントの体から腕を引き抜き、眼下で膝をついてむせ返しているゲダツを冷酷な眼差しで見つめる。凄惨な状態の彼を見ても加江須は微塵も動揺はせず、むしろこの程度で許してなるものかと思っていた。だからこそ彼は追撃を加え止めを刺そうとはしない。


 「ぐ…こ、このやろぉ…」


 サーベントは弱々しくも未だ強い眼差しを向けており、切り落とした腕や血みどろの全身も徐々に再生して行っている。


 「本当にしぶとい奴だな。どれだけダメージを重ねてもすぐ新品になるとは」


 「はっ…言っただろう。俺は再生能力を保有しているタイプだと。それに引き換えお前は体力にも限りがある。いずれは俺が逆になぶってやるよ…!」


 ニヤリと笑うサーバントだが加江須は特に反応せず、ただ無言で彼の頭を鷲掴みにした。

 まだ回復を終えていないサーベントは無抵抗のまま頭部を掴まれ何のつもりかと問うと、加江須は今までで一番凶悪な笑みを浮かべて告げる。


 「言ったよな。俺の大切な者を傷つけたんだ。お前には無残に死んでもらうと」


 その直後、サーベントの頭部を掴んでいる加江須の手が怪しく光ったかと思うと強力な眠気に襲われ、そのまま彼の意識は闇の中へと沈んでいった。



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